(左から)北条宗時役の片岡愛之助、源頼朝役の大泉洋、北条時政役の坂東彌十郎 (C)NHK

(左から)北条宗時役の片岡愛之助、源頼朝役の大泉洋、北条時政役の坂東彌十郎 (C)NHK

【大河ドラマコラム】「鎌倉殿の13人
」第5回「兄との約束」初めての合戦
シーンが伝えた「戦の過酷さ」

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。2月6日に放送された第5回「兄との約束」では、源頼朝(大泉洋)が主人公・北条義時(小栗旬)ら、反平家派の坂東武者たちを率いて挙兵。ついに源平合戦が幕を開けた。
 第5回にして初めて本格的な合戦が繰り広げられたが、その様相は「華やかな歴史絵巻」という、筆者が抱いていた源平合戦のイメージとは異なり、実際の戦場に居合わせたかのような生々しいものだった。
 その生々しさはまず開始直後、堤信遠(吉見一豊)を討ち取るくだりに表れていた。北条氏一党の襲撃を受けた堤は、義時の父・時政(坂東彌十郎)や義時に何度も斬りつけられ、血しぶきをあげながら苦しんだ末、割って入った義時の兄・宗時(片岡愛之助)にとどめを刺される。その後、時政が堤の首を挙げ、頼朝の前で首実検へ…という展開。
 いずれも、映像の彩度を落としたり、ピントをぼかしたりと、直接的な描写は巧みに避けながらも、近年の大河ドラマにはない生々しい表現となっていた。「ここまでやるのか」とやや驚いたが、初陣で戦の現実を目の当たりにしておびえる義時の表情とも相まって、この場面からは「戦の過酷さ」を伝えようとする作り手の意志が感じられた。
 その「過酷さ」をまた違った角度から表現していたのが、この回のラストで描かれた宗時の死だ。
 堤や山木兼隆(木原勝利)を討ち取り、初戦に勝利した頼朝勢だが、石橋山の戦いで大庭景親(國村隼)の軍勢に大敗。落ち延びる途中、挙兵を主導してきた宗時が、伊東祐親(浅野和之)の放った刺客・善児(梶原善)に襲われ、命を落とす。
 「無鉄砲だが真っすぐな熱血漢」という宗時は、言ってみれば典型的なヒーロータイプ。作品によっては、主人公であってもおかしくないキャラクターだ。ところが本作では、そんな宗時が第5回で死去。しかも、武士らしく戦で華々しく討ち死にするのかと思えば、たった1人の刺客に隙をつかれ、背後からの一突きで、というあっけない最期は衝撃的だった。
 ここから分かるのは、「どんな勇敢な武士でも、隙を見せれば死ぬ」という戦場の現実だ。宗時の死は、大庭軍に敗れた頼朝が「北条の館に置いてきた観音様の本尊を取ってこい」と命じたことがきっかけ。これに志願した宗時は、慎重な義時から「館のあたりは、伊東の兵でいっぱいかもしれません」と忠告を受けながらも、「危なかったら、すぐに引き返す」と聞き流して出かけ、仲間と離れた隙を狙われた。
 堤を討ち取る場面の生々しさと、「隙を見せれば死ぬ」ことを示した宗時の死。まさに「戦の過酷さ」を見せつけた回となった。
 これに加えて、本作では、すでに肉親同士が命を奪い合う“骨肉の争い”が何度か繰り返されていることも思い出しておきたい。第1回で娘・八重(新垣結衣)の幼い息子・千鶴丸(つまり孫)の殺害を指示した祐親の非情さは際立っているが、その祐親に嫡男の座を追われた工藤祐経(坪倉由幸)も、第2回で祐親の暗殺を試みて失敗している。
 この回でも、石橋山での敗戦後、時政が「頼朝の首持って行きゃあ、何とかなるんじゃねえのかな」と、娘婿の頼朝を犠牲にして大庭に投降する話を一度は義時に持ち掛けている。
 「戦の過酷さ」と、肉親でも油断できない緊張感。これにより、今までどことなくほのぼのとしていたムードが、ぐっと引き締まった。そしてそれは、前回のコラムで書いた「現代語を多用したせりふ」とはまた違った意味で、現代を生きる私たちには理解しづらい当時の武士たちが生きていた世界を、臨場感とともに伝えてくれるものでもあった。
 そんな世界に生きる義時は、源平合戦を戦い抜き、権力闘争を勝ち残り、いずれは鎌倉幕府の頂点に上り詰めることになる。だが、「戦の過酷さ」をこれほどシビアに描いた本作が、その過程を当たり前のサクセスストーリーに仕上げるはずはない。きっと今までにない物語を見せてくれるはず。そんな新たな期待も芽生えた第5回だった。
(井上健一)

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