段田安則と林遣都がアーサー・ミラー
の傑作『セールスマンの死』に親子役
で出演 二人の心境とは

アーサー・ミラーの代表作『セールスマンの死』が、英国の気鋭演出家ショーン・ホームズの演出で、4月からPARCO劇場ほかで上演される。敏腕セールスマンとして鳴らした過去と、思うようにならない現実の間でもがく主人公ウィリー・ローマンを演じるのは、段田安則。過去に縛られ、理想を押し付ける父を鬱陶しく感じながらも、いまだに自立できない二人の息子のうち、次男のハッピーを演じるのは林遣都。さて、近代演劇の金字塔に挑む二人の心境は?
ーーまずは、ご自身と『サラリーマンの死』との出会いと、今回のご出演の経緯についてお聞かせください。
段田:僕は20歳くらいの時に、京都で劇団民藝が上演する『セールスマンの死』を観ました。「これがあの名作か」と感慨深く観た記憶があります。今回その名作に出演することになったのは、うちの事務所の社長に「そろそろ『セールスマンの死』をやれる年齢になってきたから、やれば?」と言われて、「そうか、俺もそんな年なんだな。挑戦してみるか」と思ったからです。主人公のウィリー・ローマンは確か63歳くらいで、僕は今年65歳。様々な名優が演じてきた役だけに、自分にできるかな? という気持ちもありますが、まだセリフは何とか覚えられそうなので、ちょうど今が挑戦し時なのかなと思っています。
段田安則
林:僕は4年ほど前に、KAAT神奈川芸術劇場で長塚圭史さん演出の『セールスマンの死』を拝見しました。観終わった瞬間、「いつかこの作品をやってみたいな」という気持ちが芽生えたのを覚えています。だから今回お話をいただいた時は、本当に『セールスマンの死』が来た! と思ってびっくりしました。まさかこんなに早く実現するとは思っていませんでしたし、しかも段田さんとご一緒できるということで、まさに歓喜でしたね。間近で段田さんのウィリーを見られるなんて、こんな幸せなことはないです。
ーー林さんは、どの役に対して「いつかやってみたい」と思われたのですか?
林:長男のビフです。これは言わないつもりだったんですが、言っちゃいましたね(笑)。山内圭哉さんが演じるビフにすごく惹かれて、僕もこういうお芝居ができるようになりたいな、いつかやってみたいなと思いました。
段田:ビフはいい役だよね。僕も、長男のビフと次男のハッピーのどっちをやりたい? と聞かれたら、ビフって言うだろうな。でも、次男のハッピーも上手く書かれていて、面白いと思うよ。
林:はい。ハッピーをやると聞いた上で台本を読んだら、共感する部分がたくさんありました。僕の父は愛情深い働き者で、夢を持ち続けている熱い人なので、ウィリー・ローマンと重なるものを感じましたし、僕自身、次男坊なんです。兄とは2つ違いなんですが、この仕事を始めてから自分の仕事の話をしたことがなくて。家族の中で唯一、兄だけは、僕が出演する舞台を観に来たこともないんです。この作品こそ、ぜひ兄にも観てもらいたいなと思いました。
段田:今の話を聞いて、林くんはハッピーをやるべくしてやるんだなと感じましたね。実は、僕も次男坊。だから、長男のダメなところをちゃんと見ていたり、現実的な思考をするといったハッピーの次男らしい部分がよくわかる。女性にもモテるし、この家族の中で最後まで生き残れるのは、きっとハッピーじゃないかな。
林:次男はポジション取りが上手いというか、バランスをとりながら生きているようなところがありますよね。でも、この『セールスマンの死』では、ハッピーのそんなところが家族を余計に悪い方に向かわせているようにも感じていて。家族との向き合い方について、誰もが考えさせられる作品だけに、そういう部分までしっかりと演じていけたらなと思います。
(左から)林遣都、段田安則
ーー舞台『風博士』でも共演なさっている段田さんと林さん。お互いに対してはどんな印象をお持ちですか?
段田:林くんは、真面目な俳優さんという印象ですね。ハッピー役が林くんだと聞いて、また一緒に芝居ができると思って嬉しかったですし、役にもピッタリだなと感じています。
林:僕の中では、段田さんは、誰よりも日常の状態のまま舞台に出て行かれる方という印象が強く心に残っています。『風博士』の時に、楽屋でお茶でも飲んでるようなテンションで舞台に出て行かれて、また同じテンションで戻って来られる段田さんを見て、「段田さんの体になって、どんな感覚で舞台に立たれているのか体感してみたい」と思ったことを、よく覚えています。今回もご一緒できる期間を大切に過ごしたいです。
ーー今回ご自身の役を演じる上で、どういった点を大事にしたいと思われていますか?
段田:ウィリーが仕事から家に帰って来てから翌日の夜までの、たった24時間の話なんですが、その前には輝いていた時期がたくさんあったと思うんです。ブルックリンに家を買えるくらいセールスの仕事は順調で、子供たちも学校の人気者で。それが今では、ウィリーも息子たちも理想ばっかり見ていて、実際の生活はどうなっているの? という感じ。そういう「夢と現実のギャップ」の部分や、家族ゆえの愛憎の部分は、大事にしたいところですね。共感を覚える方がたくさんいらっしゃると思います。
林:ハッピーは、一見すると兄より器用で女たらしで、上手く生きているように見えるんですが、深い部分には次男ならではの悩みや、ずっと抱えてきた思いがあると思うんです。たとえば、ビフに対する劣等感であるとか。僕自身の経験とも照らし合わせて、そういうところまで想像しながら、ビフとの関係性を作っていけたらと思っています。父親との関係もすっかりこじれてはいるけれど、根底には父親が若い頃のカッコいい姿、自分たちに愛情を注いでくれた姿が、絶対に変わらないものとしてあるように感じます。僕自身にとっても父は特別な存在で、どんなにカッコいい俳優の先輩もやっぱり父には叶わない、父が誰よりもカッコいいという思いがあるので。そういう部分も胸において、向き合っていきたいです。
林遣都
段田:そうだね。実際、かつてセールスマンといえば華やかな仕事で、ウィリーも誇りを持ってやっていただろうし、彼にとっても家族は自慢の存在だったと思う。だからこそ「俺の自慢の息子たちは、こんなところで燻ってる人間じゃない」というような思いが強いんだろうね。現実もわかってはいるけれど、理想を夢見ていないと生きていけない父親なんだろうな。
ーー演出家のショーン・ホームズ氏や共演の皆さんに対する期待感はいかがですか?
段田:まだお会いしていないんですが、イギリス人のショーンさんがアメリカ演劇の名作をどんなふうに演出するのか、楽しみですね。過去ご一緒した海外の演出家はだいたい皆さん優しくて、「素晴らしいね。でもね、もっとこうした方がいいよ」みたいな言い方をされていたので、そういう言葉に乗せられて、上手いこといけたらいいなと思います。舞台で共演したことがあるのは、林くんと高橋(克実)くんだけで、ウィリーの奥さん役の鈴木保奈美さんにいたっては、若い頃に映像作品でご一緒して以来。みんなが集まった時にどういう雰囲気になるのか、というのも楽しみです。
林:僕は外国の方に舞台で演出を受けること自体が初めてなので、未知なことばかりです。そもそも稽古が大好きなので、ワクワクしています。周りの役者さんと一緒にお芝居を追求していく時間は本当に楽しいですし、時間が決まっているお陰で体調面も整えられるんです。ビフ役が、以前、映像作品で兄弟役をやらせてもらった尊敬する先輩・福士(誠治)さんというのも、すごく嬉しくて。そして、高橋克実さんと、やっと舞台で︎ご一緒できることも楽しみです。
ーーありがとうございます。最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
段田:僕はだいたいどんな作品に対しても「何とかなるだろう」と思う方なんですが、コロナの影響で久しぶりの舞台ということもあって、先日、予習として、ダスティン・ホフマンがウィリー・ローマンをやっているドラマのDVDを見たんです。これはヤバいと思いましたね(笑)。一発気合を入れないと、この歴代の名優がやってきた作品はできないなと。そんなわけで、思い切り気合いを入れて、このメンバーでお届けする『セールスマンの死』を素晴らしいものにしたいと思っています。ぜひご覧ください。
林:この作品に関わることに、震えるほどプレッシャーを感じているんですが、今、段田さんのお話を聞いて、余計に怖くなりました(笑)。ただ、震えるほどワクワクしてもいます。この出演者の方たちと『セールスマンの死』をやれるなんて、こんなに嬉しいことはありません。お客さんとして観たいくらいです。その一員としてお芝居ができる喜びを噛み締めながら、毎日大事に稽古をしていきたいと思います。ぜひ楽しみに観にいらしてください。
(左から)林遣都、段田安則

■段田安則
ヘアメイク:藤原羊二(UM)
スタイリング:中川原寛(CaNN)
■林遣都
ヘアメイク:主代美樹(GUILD MANAGEMENT)
スタイリング:菊池陽之介
取材・構成・文=岡崎 香  撮影=池上夢貢

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