犬塚ヒカリ

犬塚ヒカリ

【犬塚ヒカリ インタビュー】
言葉に出さなくても
愛を感じられるシーンが
実は生活の中にいっぱいある

悲しいことがあった時、一緒に
“悲しいよね。大丈夫だよ”と言いたい

尖った印象の言葉が歌詞に出てきますし、アルバムのラストの「春屑」は特に印象的で。春を希望として描くのではなく、大切なものを奪い去る側面をクローズアップしていますよね。

4月生まれなので、自分の誕生月ってワクワクするはずなんですけど…例えば、せっかく仲良くなった子と4月になったらクラス替えで離れちゃったとか。運が悪いと思うような出来事も4月に多くて、春がくるとなるとモヤモヤしてしまうんです。誕生日が早いというのも一因なのかなと思いますね。学年の誰よりも早く年を取ってしまうのは、あまり嬉しくないんです(笑)。同い年の子が“まだ二十歳です”と言っている時期に、私は“もう21です”と言わなきゃいけないのが嫌だったり。春というのは世の中はキラキラしてポカポカして浮かれた感じなのに、“私だけなんでこんななんだろう?”という気持ちがずっとある季節なので、それを曲にしたら面白いんじゃないかと考えて作りました。たまの「さよなら人類」やボガンボスの「魚ごっこ」、あとはゆらゆら帝国の楽曲とか、ポップで明るいのに歌詞は暗かったりおかしかったりして、“何を言ってるんだろう?”と思わせる雰囲気がすごく好きなので、あの雰囲気で一曲作りたいとも思っていましたね。それと合致するイメージが、私の中で春という季節だったんです。

犬塚さんは今22歳ですよね? 出てきたアーティスト名がまったく世代とはかけ離れていると思うんですが、どのように知ったのですか?

母がバンドブーム世代でスピッツやBUCK-TICKが大好きなので、母から教えてもらって好きになった楽曲も多いですね。父も音楽が好きでして、シティーポップやジャズとか、渋い音楽を好むので、EGO-WRAPPIN'とかも父から教えてもらって好きになりました。父と母が好きな音楽のいいところを私が摘んでいます(笑)。

シティーポップからダークなゴシックまで、さまざまな音楽的エッセンスが犬塚さんの中にあるんですね。「Highway(nostalgic ver.)」はシングルの別バージョンという。

配信リリースの時点でこのバージョンはすでにあって、リリースする案もあったんですけど、ギターソロのところがちょっと強いっていうことで、最初にリリースする時は違うバージョンになったんです。「Highway」は現在進行形の大学生である私自身の経験を楽曲にしたもので、自由気ままで夢があるけど、将来にも不安がある。もしかしたら会えなくなるかもしれない友達と、毎日“今日が最後かな?”なんて考えずに遊ぶ、あの感じが青春だと思うんです。ギターソロのあるこのバージョンは、その頃を思い出している視点な気がしたので、アルバムに収録されているほうは、あちこちドライブして友達と夜中まで遊んだ、あの頃を思い出している“大人になった自分”という意味で、“nostalgic ver.”とつけました。

なるほど。《忘れられない記憶を残して行こう》と歌詞にありますが、曲作りというのは一曲一曲に気持ちを封じ込めていく作業でもあるんでしょうか?

日常の中でパッと“あっ、これ今忘れたくない、絶対”と思う瞬間があるんです。それってすごく大きなことをしている時じゃなくて、友達と夜中に“ちょっと話したいことあるからコンビニにきて”と言われて行って、カフェオレとかを飲みながら“どうしたの?”って話す、その瞬間だとか、犬と散歩していて夕日がきれいだった瞬間だとか。そういう特別なことじゃなくて、当たり前の生活の中での忘れたくない一瞬を切り抜いて楽曲にしたいと思っています。

お話をうかがいながら、清少納言の『枕草子』的というか、ちょっとした心の動きを情景とともに切り取って残していく、そんなタイプのアーティストなのかなと感じました。

確かににそういう国語で習った昔の詩や古典には影響を受けている気がします。「春はあけぼの やうやう白くなりゆく山際~」(『枕草子』冒頭)とかは言葉によって、同じ景色を観ていたわけじゃないのに同じものを想像するという…当時“それってすごいな”と思った記憶があるのを今思い出しました。

美しい日本語の歌詞を綴られているので、文学作品の影響も受けたのかなと。

思い当たる節がありますね。つらかった都立中の受験勉強の中で唯一の私の癒しが、国語の問題文として小説を読めることだったんですよ。読んで問題を解いたあと、“この小説、すごく面白い”と思うと、最後に書いてある作者の名前と作品名を調べて本を買って、勉強の合間に読むのが小学校5、6年生の時は楽しくて。中学に上がっても本を読むのがすごく好きで、仲の良かった国語の先生に“表現がきれいな本を教えてください”と頼んで教わって読むようになりましたし。幼い頃にそうやって本を読んでいたのは、今に影響していると思いますね。

特に好きな作家というと誰ですか?

ずっと好きなのは重松 清さんです。ただ明るかったり、ただやさしかったりするだけじゃなくて、悲しみを知っている人が明るく前向きに生きようとする、そういう表現が重松さんの本には多く出てくるので。生きづらさを抱えている主人公に自分を重ね合わせて読めるという意味で大好きです。

アルバム『Halo』を聴き手にどんなふうに届けたいですか?

私はどちらかと言うと“大丈夫だよ、前向きなよ!”と明るく励ますというよりは、悲しいことがあった時一緒に“悲しいよね。大丈夫だよ”と言いたいと思うタイプなんです。私も自分がつらい時にそういうふうに言ってほしいし。なので、そういう安心とか慰めとかになれば嬉しいです。あとは、“内省する”というのは私の中ですごく重要なテーマで。やっぱり成長するには、そしていつまでも人にやさしく自分の心も体も健康的で生きていくには、反省したり“自分はどういう人間なのか?”という分析をしたりする時間は必要だと思っていて。そういう気づきになる楽曲だったり、安心や慰めというかたちでの励ましになったりする楽曲として、みなさんに届けられたら…なんて思っています。

2月11日からは中島美嘉さんのアコースティックライヴツアー『Mika Nakashima Premium Live Tour 2022』にオープニングアクトとして参加されますが、その意気込みを聞かせてください。

美嘉さんは“カッコ良い女性になりたい”という自分の一番の理想に近い存在で。見た目もクールでカッコ良いですし、明るく励まして“頑張れ!”というよりは、一緒に悲しみを分かち合ってくれる楽曲を歌う美嘉さんに、すごく惹かれるものと尊敬する気持ちがあります。なので、お話をいただいた時は“絶対にやりたい!”と思いました。そのような大きなライヴに出させていただくのも初めてだし、もちろん緊張もしているんですけども、絶対に得るものがあると確信していて。楽しみにしています!

美嘉さんとはもう会われたのですか?

1度だけ、ほんの少しですけどお会いできて感動しちゃいました。ライヴを観させていただいたんですが、ステージに立った時の存在感、歌声の伝わり方が、もうすごすぎて! ライヴを観て以降ずっと美嘉さんのことを考えています(笑)。

とっても素敵な方ですよね。4月には犬塚さんのワンマンライヴも開催予定。どんなステージにしたいですか?

コロナ禍の中、ファンの方々と直接交流する機会があまりないので、聴いてくださっている方たちの顔を直接見たい、ファンの方たちと交流したいという気持ちが何よりも一番強いですね。

CDリリースという夢を叶えたあとの、アーティストとしての理想の将来像は?

とにかくクリエイティブであり続けたいというのが一番ですね。あとは、長く続けたいというのも音楽を始めた時からの目標です。高校生の頃は可愛いらしさがあったほうが人に注目してもらえるから“いいなぁ”と思って、卑屈になりそうな時期もあったんですけど、音楽関係の方に“犬塚は息が長いタイプだよね”と言っていただいた、そのひと言が救いになりました。

媚びないカッコ良さが魅力的なので、同性に憧れられるような存在になっていかれるのではないでしょうか?

ありがとうございます。異性に好かれるのも嬉しいんですけども、同性に好かれるのは何よりの自信にもなりますし、女性にとって“こういう女性もいるから私も自信を持とう”と思えるような存在になれたらいいなと思っています。

取材:大前多恵

アルバム『Halo』2022年2月9日発売 Brand-New Music
    • BNHI-0001
    • ¥2,500(税込)

ライヴ情報

『犬塚ヒカリ ワンマンライブ「Lost and Found 」』
4/09(土) 東京・下北沢ラグーナ

犬塚ヒカリ プロフィール

イヌヅカヒカリ:1999年4月8日生まれ、東京都出身。2015年に作詞作曲を始め、シンガーソングライターとして本格的に音楽活動を開始。18年11月よりデモCDをライヴ会場限定にてリリース。19年4月からは今までのオリジナル曲100曲ほど封印し、新しい方向へチャレンジ。現在、各種SNSにて歌唱動画の配信や、ライヴ活動を精力的に行なう。21年より全国AM8局で放送されているラジオ番組『吉田照美の新羅万SHOW』にてアシスタントを務める。犬塚ヒカリ オフィシャルTwitter

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