「ザ・ブロードウェイ・ストーリー」
VOL.19 『紳士は金髪がお好き』のマ
リリン・モンローと振付師について

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story

VOL.19 『紳士は金髪がお好き』のマリリン・モンローと振付師について
文=中島薫(音楽評論家) text by Kaoru Nakajima

 先月(2022年1月)の番外編でも紹介した、不朽の名作を上映するテアトル・クラシックスの企画「愛しのミュージカル映画たち」(2022年2月25日より全国順次上映/上映作品は下記参照)。その中の一作「紳士は金髪がお好き」(1953年)は、マリリン・モンロー(1926~62年)の主演作でおなじみだが、実は1949年にブロードウェイでヒットしたミュージカルの映画化だった(続演740回)。今回は、この作品にスポットを当て見どころを紹介しよう。

キャロル・チャニングの類い稀なる個性
『紳士は~』ブロードウェイ初演(1949年)の舞台より、ローレライ役のキャロル・チャニング
 原作は、1925年に女性作家アニタ・ルースが発表した同名小説。パリ行きの豪華客船を舞台に、NYの人気ショウガールで、ダイヤと富豪の殿方に目がないローレライと、マッチョ系スポーツマンを好む親友ドロシーの恋の駆け引きを描く、ミュージカル・コメディーの典型のような娯楽作だ。1949年のブロードウェイ初演でローレライを快演し、賞賛を浴びたのがキャロル・チャニング(1921~2019年)。その後1964年には『ハロー・ドーリー!』でヒロインを演じ、特異な個性を存分に発揮してブロードウェイを代表する大スターとなった。
アニタ・ルースの原作本表紙。コミカルなイラストが秀逸だ。
 私は1995年に、『ドーリー!』の再演で生チャニングに接する機会に恵まれたが、「特異な個性」という表現も甘かった。目をギョロつかせ、野太いオッサン声を張り上げながらステージをちょこまかと移動する姿は、女優というより天然記念物の珍獣を観察する趣きだったのだ。ただし観客は、彼女の一挙手一投足にドッカンドッカンの大爆笑。さらにアドリブ百出の奔放な芸風に見せながら、意外や毎日判で押したように同じパフォーマンスを繰り返していたというから驚きだ。『紳士は~』でチャニングが歌った、〈バイ・バイ・ベイビー〉と〈ダイヤは女性の最良の友〉は、彼女の十八番になったばかりか、スタンダードとしても親しまれている。
初演のオリジナル・キャストCD(輸入盤)
■モンローの魅力炸裂の映画版
 作曲はジューリィ・スタイン(1905~94年)。後に『ジプシー』(1959年)と、今年(2022年)の3月から58年振りにブロードウェイで再演される、『ファニー・ガール』(1964年)の2大傑作で名高い才人で、往年のブロードウェイ調の華やかな楽曲を得意とした。作詞は、ハリウッドで活躍したレオ・ロビン(1900~84年)が手掛け、上記のナンバー以外にも〈イッツ・ハイ・タイム〉や〈ホームシック・ブルース〉など佳曲が揃う。ちなみに本作、脚本に手を加え、1974年に『ローレライ』のタイトルでリバイバル。チャニングが再び主役を務めた。
タイトルを改めた再演版『ローレライ』(1974年)のポスター
 さてモンロー主演の映画版だが、何と舞台のナンバーで使われたのは、映画冒頭で歌われる〈リトル・ロックから来た少女〉、そして〈バイ・バイ~〉と〈ダイヤは~〉の3曲だけ。他のソングライターが新曲を2曲書き下ろすも、ミュージカル・ナンバーは計5曲のみという淋しい結果となった。しかし、それを補って余りあるのがモンローの存在だ。コケティッシュかつ天真爛漫、セクシーに歌い踊ってもおっとりと品が良く、コメディエンヌの才能も抜群。男性だけでなく女性ファンが多かったのも納得だ。そしてこの映画版で、彼女と同様に特筆すべきが、振付を担当したジャック・コール(1911~74年)だろう。今やアメリカでも過小評価されている振付師なのだが、「シアター・ダンスの父」と謳われた鬼才だった。
映画版の予告編より、〈リトル・ロックから来た女の子〉を歌うモンローとジェーン・ラッセル
■民族舞踊とジャズ・ダンスのコンビネーション
 コールの作品で踊った経験を持つダンサーがラリー・フーラー。後に振付師に転じ、『エビータ』(1978年初演)などに関わった彼は、コールの功績をこう語る。
「いわゆるジャズ・ダンスを、ブロードウェイやナイト・クラブのショウで大きくフィーチャーした先駆者だった。また、20代の頃から東インドや南アメリカの民族舞踊に啓発されたジャックは、その異国情緒豊かなスタイルとジャズ・ダンスを融合させ、独創的で洗練された振付を創造した。今では珍しくもないけれど、1940年代のアメリカでは非常に斬新だったんだ。ジェローム・ロビンス(『ウエスト・サイド・ストーリー』)やボブ・フォッシー(『シカゴ』)はもちろん、ジャックの影響を受けなかった後進の振付師は皆無だろうね。ただ残念なのは、彼らのようにブロードウェイでの代表作に恵まれなかった」
 一方ハリウッドでは、リタ・ヘイワース主演のミュージカル映画「今宵よ永遠に」(1945年)など、数多くの作品に貢献したコール(時折自ら出演した)。とりわけ「モンローの専属振付師」の評価も高く、「ショウほど素敵な商売はない」(1954年)や「恋をしましょう」(1960年)などのモンロー出演ナンバーで腕を振るったが、やはり代表作は『紳士は~』だ。
映画「今宵よ永遠に」(1945年)で、リタ・ヘイワース(左)と踊るジャック・コール
■コールが采配を振るったダンス・ナンバー
 劇中では、ハイライトとなる〈ダイヤは~〉がさすがに圧巻。マドンナを始め、多くのパフォーマーがオマージュを捧げた事でも知られる一曲だ。目を射るような真紅のセットで、黒燕尾の男性ダンサーたちを従え、ピンクのドレスをまとって歌い踊るモンローは神々しいオーラを放っている。しなやかな身のこなしも美しく、共に踊る群舞の振付も小気味良い。このダンサーの中には、後に映画版『ウエスト・サイド~』(1961年)のベルナルド役で脚光を浴びるジョージ・チャキリス(トップの写真参照)と、同作品のブロードウェイ初演(1957年)でトニーを演じた、ラリー・カートが参加しているのも今となっては貴重だ。
 前述のフーラーによれば、「ジャックは振付のみならず、セットと衣裳のデザインから、カメラワークやカット割りに至るまで自らアイデアを提供し、細かく指示をしていた」との事。この映画の監督は、「赤い河」(1948年)など男性的な作風で鳴らした名匠ハワード・ホークスだが、ミュージカル・ナンバーに関しては全てコールが演出していた事が分かる。
ラッセルのナンバー〈ここに恋したい人はいる?〉の一場面
 モンローの相棒を演じたのがジェーン・ラッセル(1921~2011年)。グラマラスな姿態と姉御肌の個性で人気を博した女優で、後年ブロードウェイで、スティーヴン・ソンドハイムのミュージカル『カンパニー』(1970年初演)に出演したほど歌も上手かった。本作では、彼女が船内のプールで、筋骨隆々の海パン男たちと展開する〈ここに恋したい人はいる?〉がユニーク。前述のように民族舞踏に長じたコールは、半裸男性の逞しいダンスを好んで取り入れた。このナンバーも同系統で、正直暑苦しいものの異彩を放っている事は確か。一見の価値ありだ。

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