絢香の
シンガーソングライターとしての
所信表明『First Message』に
時代を超えた普遍性を見る

時代に流されないメロディーとサウンド

『First Message』収録曲のメロディーとサウンドについても記そう。まずはメロディー。歌は親しみやすいものばかりである。個人的に好感を持ったのは、ボーカリゼーションを変に誇示していないところ。M1「Start to 0 (Love) 」のCメロではアドリブっぽい歌唱も聴けるし、M6「Stay with me」の間奏前やM11「1・2・3・4 」のアウトロでスキャットも披露しているが、目立ったのはそのくらいで、歌い方においては比較的プレーンと言えばプレーンだ。そうは言っても、単にメロディーを辿っているのではないことは言うまでもない。M10「時を戻して」での迫力あるサビや、M13「ライラライ」での洋楽風に歌い方には、やはり非凡なものを感じざるを得ない。デビュー時から完成度が高かったことは、しっかりと記録(レコード)されている。本作の音楽性をザックリ“コンテポラリR&B寄りのJ-POP”と前述したけれども、1990年代後半からコンテポラリR&Bがシーンを席巻し続けていることはもはや説明不要だろう。あれはあれでエモーショナルだし、確かなスキル、テクニックがないと歌えないものであることは承知しているけれども、かと言って、それがシーンの大半になってしまうのも違うとは思う。絢香が登場した2000年代半ばまでは──ちょっと大袈裟に言うと──男女問わず、毎月コンテポラリR&Bのシンガーがデビューしていたような印象すらあった。個人的にはやや食傷気味ではあったが、そんなコンテポラリR&B隆盛の中で、丁寧にメロディーを歌う絢香の出現は多くのリスナーにとっても鮮烈に感じられたのではないか──今となってはそんな風にも感じたところだ。

 歌のメロディーは親しみやすいと書いた。サウンドも同様で、親しみやすい…というと語弊があるかもしれないけれど、変にこねくり回してないように思う。ファンクあり、ジャズあり。ロックもあるし、ピアノやストリングスを配したバラードもある。ジャンル的には比較的バラエティに富んではいるが、それぞれに悪い意味で突飛なものがないように思う。かと言って、平板かと言うとそれも違う。体温が感じられる音作りが成されている。そんな印象を受けた。アルバム後半、M10「時を戻して」からM15「message」が、それが分かりやすい。ホーンセクションの入ったソウル系ナンバーM10。ハードロックに近い雰囲気も感じられるM11「1・2・3・4」。ポップのロックチューンM12「Story」。オーガニックな空気感もありつつ、どことなく幻想的なM13「ライラライ」。言わずと知れたM14「三日月」はストリングス&ピアノでしっとりと奏でられ、M15は前述の通り、アカペラである。似たようなタイプが連続せず、しかも、それらは楽曲を構成する個々の音、そのキャラクターによって成立している。ベーシックはバンドサウンドで、そこにブラスや鍵盤、ストリングスをあしらっている。各々のプレイはあくまでも歌に寄り添い、過度な派手さはないものの、間奏やアウトロではしっかりと個性的な演奏を聴かせる。そういうタイプが多い。バンドの醍醐味と言えよう(M15を除く)。『First Message』を聴いて、いい意味で時代性を感じなかったのだが、その秘訣はこのバンドサウンドにあるのかもしれない。逆に言えば、普遍的なアルバムと言っていいのではないだろうか。

TEXT:帆苅智之

アルバム『First Message』2006年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Start to 0 (Love)
    • 2.Real voice
    • 3.Sha la la
    • 4.ブルーデイズ
    • 5.I believe
    • 6.Stay with me
    • 7.melody
    • 8.君のパワーと大人のフリ
    • 9.永遠の物語
    • 10.時を戻して
    • 11.1・2・3・4
    • 12.Story
    • 13.ライラライ
    • 14.三日月
    • 15.message

OKMusic編集部

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