絢香の
シンガーソングライターとしての
所信表明『First Message』に
時代を超えた普遍性を見る
スピリッツはパンクに近い!?
《何もかも正当化して 話すのは もうやめにしない?/誰もそう ひきつり笑い 悪者になりたくない》《遠い 未来の自分に 問いかけてみるよ これでいい?今の自分は》《いつか 夢の中で笑ってた 小さな天使よ/自分にウソをつくのは もうやめたんだ》(M2「Real voice」)。
《弱い心の中で叫んでる奴は/自分の無力さを知った自分だった》《胸に刻み込んだ 悲しい後悔を/かき消すように ただ笑っていた自分/見えない未来とか暗い過去/頭の中から全てを吐き出せばいい》《月が笑うよ sha la la…/目と目合わせれば sha la la…/誰も一人じゃないよ》(M3「Sha la la」)。
《この胸の中に隠れてる 不安のうず/目の前にある 自分の進むべき/道はどれか》《人に流されてた日々 そんな自分に「さよなら」》《偽りの中でウソの微笑み浮かべて 生きる人を/幼き自分と重ねて見て/ため息つく》《どんな色にも染まらない 「黒」になろうと誓った》(M5「I believe」)。
《行く先も見つからず/あてもなく歩いてた/青い青い空の中に浮かぶ/フワフワ風船のように/何をしていいのかも/わからない日々の中で/突然あらわれた music in my heart/singing a song/誰もいない 暗い部屋/小さな窓から差し込む光》《melody melody/辛い気持ち 優しい音色で/そっと奏でた曲 口ずさもう…》(M7「melody」)。
非恋愛ものと思われる歌詞を抜き出してみた。『First Message』は全15曲収録の大作なので、ことさら非恋愛歌詞ばかりというわけではないけれども、冒頭3曲がそれで、1stから3rdまでのシングルもそうだというのは特筆すべきことではあるだろう。ちなみに、この2006年の他のシングル曲はどうだったのか少し気になって調べてみると、KAT-TUN「Real Face」や修二と彰「青春アミーゴ」、TOKIO「宙船」など、所謂アイドル界隈でも非恋愛ものが目立つので、もしかするとシンクロニシティ的な何かがあった年なのか…とも思ったりもしたが、それにしてもシングルでそれを連発するのはかなり特徴的とは言える。J-POPでは異例と言ってもいいかもしれない。己と向き合い、弱さを払拭せんとする姿勢。また、そうしたスタンスをリスナーに訴えるような内容だ。筆者は尾崎豊「僕が僕であるために」やhide「ROCKET DIVE」「ever free」を連想した(共に故人だが他意はない)。タイプこそ異なるものの、ポップスではなく、ロックを感じるのだ。
メロディーやそのボーカリゼーションからすると、絢香の音楽性はコンテポラリR&B寄りのJ-POPと見ることも出来るだろうし、それが無難な線ではあろう。だが、こうしたリリックで見ると、同時期の音楽で言えば、2000年代前半の青春パンクにも似たスピリッツを感じる。デビュー前にはバンドをやっていたそうだが、どうもそれはパンクではないようだし、おそらくまったく関係はないのであろうが、こうした歌詞が生まれた背景を興味深く感じるところではある。あと、これらをM1~M3と続けたのは明らかな意図があってのことだろう。しかも、アルバムタイトルは『First Message』で、ラストに収録されたM15「message」はこんな風に綴られている。
《歌いたい あなたのために/歌いたい 聴いてる人達に/何かを感じたり 伝えられたら/それだけで私は幸せ》(M15「message」)。
街の雑踏と思しき音の中、彼女はアカペラでこれを歌っている。この上なく分かりやすく、ストレートな“メッセージ”である。デビュー盤でのアーティスト宣言と言ってよかろう。