藤田将範・森彩香に聞く~音楽座ミュ
ージカル旗揚げ35周年『JUST CLIMAX
』から見えたのは…

1987年に旗揚げし、『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』『とってもゴースト』『マドモアゼル・モーツァルト』『リトルプリンス(星の王子さま)』などを上演した前期、ワンクッションあり『ラブ・レター』『7dolls』『SUNDAY(サンデイ)』などを手掛けてきた後期と、生演奏にこだわり、一貫したテーマでオリジナルミュージカルをつくり続けてきた音楽座ミュージカル。創立35周年となる2022年にお届けするのは、『JUST CLIMAX(ジャストクライマックス)』(2022年2月12日・13日 東京・草月ホール、他)。音楽座ミュージカルの財産である14作品たちからシーンを選りすぐり、人生という迷路の中で出会い頭に起こる予想外の出来事と、そこに生きる人間たちの姿をつづっていく。一人の女性がその世界を旅していくのだが、それは客席から観ている「あなた」かもしれない。出演する藤田将範、森彩香に聞いた。

――藤田さんは音楽座ミュージカルとどのように出会われたのですか?
藤田 私は北海道出身で、高校生のころ、音楽座ミュージカルの公演がテレビで放映されたのを録画して、ビデオが擦り切れるまで見ていました。ミュージカル俳優を目指していたのでオーディションの案内を取り寄せたんですけど、そのときに解散を知りショックを受け、劇団四季に入りました。
――高校生のころだったら『シャボン玉〜』『モーツァルト』あたりですね。
藤田 そうですね。劇団四季在籍中は『メトロに乗って』(2000年初演)のころで、音楽座ミュージカルがプロデュース公演として活動を再開していたんです。私の世代は意外と劇団にも音楽座ミュージカルに入りたかったメンバーが多く、みんな見続けていましたし、熱く語りあっていましたよ。そして私は音楽座ミュージカルとして再結成した2004年に入団することができました。
藤田将範
――初志貫徹されたわけですね。森さんはどんな出会いですか?
森 私は大阪の大学でミュージカルコースに在籍していましたが、音楽座ミュージカルのことはまったく知りませんでした。『シャボン玉〜』を関西で公演するということで、音楽座ミュージカルの方が宣伝のためにお二人来て、学生と劇中のナンバーを使ってシーンをつくるというワークショップをやったんですよ。それを披露してフィードバックをもらったときに、その人たちに怒られたんです。「今やったものは本気なの? あなたたちの人生それでいいの?」と。なぜ宣伝に来た人たちに怒られるんだろうというムードになって、私の期は音楽座ミュージカルが嫌いでした(笑)。卒業時には劇団四季さんも受けたのですが、怒られた記憶が気になって音楽座ミュージカルにも履歴書を出しました。なぜ怒られたのか知りたいと書いて。音楽座ミュージカルが何を一番大切にしているのかチーフプロデューサーに質問すると「人それぞれ違っていいと思う」と言われ、すごく素敵だな、私もここで生きていきたいと思って大ファンになりました。
森彩香 (c)️Tomoko Hidaki
藤田 私もその場に立ち会っていて、想像しているよりも大変なカンパニーだよと決断を迫る役割をしてました。でも誰が営業に行ったんだろ? 僕はそんな厳しいことは言いませんけど、でもそのおかげで森という逸材が入ったのならよかったですね。
森 はははは。
――今、感じている音楽座ミュージカル作品の魅力を教えていただけますか?
藤田 私は今、企業への研修事業をメインで担当しているものですから、創作へは制作側として関わることが多いんです。『JUST CLIMAX』で久々に出演したとき、改めて作品のナンバーを歌うと、心の中のモヤモヤしたものが消えて、ものすごい浄化されたんですよ。『リトルプリンス(星の王子さま)』に「水は心にいいものかもしれない」というセリフがあるんですけど、まさにそんな感じです。サウナで整う感じに似ています。これは音楽座ミュージカル独特のものですね。
森 確かに! 整いますねー。
藤田 身体も気持ちもものすごく集中して、全身全霊を求められるんですよ。だけど本気で向き合ったら、演じることによって報われていくというか。
森 私は音楽座ミュージカルの作品を作品だと思ったことがなくて、生きていることそのものだと思っています。常に自分たちの10歩くらい前に立っていてくれて、希望を与えてくれる。自分たちが知らないものを見つけたい、感じてみたいということに対して先導してくれている感じがあります。
――余計なお世話ですが、藤田さんは役者を目指していたのに、研修担当でいいんですか? 部署移動は一般企業では普通のことではありますが。
藤田 私は自分から希望したんです。音楽座ミュージカルの作品は、先代のころから満席になってもなかなかペイしないような贅沢なつくり方をしている。だからこそ継続していくためには経済的な基盤をカンパニーとしてつくることが必要です。そのときに私たちは外部へのワークショップをずっとやっていて、それをしっかり事業化してやっていこうということになりました。おかげさまでその研修がものすごくヒットしたんです。
『JUST CLIMAX(ジャストクライマックス)』
――お話しは伺っています。ここでは言いませんが、研修先に名だたる日本の企業がずらっと並んでいて驚きました。
藤田 ありがとうございます。この研修は私を中心に、これから音楽座ミュージカルを背負っていく若手を養成する場として機能させようと思っていたんですけど、とんでもありませんでした。研修は第一線で活動する俳優しかやれないことがわかりまして、森も主戦力として研修をやっています。多くのメンバーが公演と稽古と研修とを両方しながら同時進行でやっていますから、私自身も他部署という感覚はまったくありません。むしろ研修も舞台に立つのと同じ感覚です。
森 そう思います。実はミュージカル俳優になったのに、なぜよそ様の研修をしなければならないのかと最初は嫌でした。でも違うんです。トレーナーとして研修をやった後の方が舞台でも稽古でも自在になれる。俳優だけをやっているときは、ついつい自分の役をどうしたら成立させられるかを考えがちになるんですけど、研修ではこの場がどうやったら成立するか、相手の方の成長過程にどう伴走したらいいかなどを考える時間がすごく増えたんですね。でもそれこそ舞台でやるべきことそのもの。今は研修をやらせてもらっていることにすごく感謝しています。
『JUST CLIMAX(ジャストクライマックス)』
『JUST CLIMAX(ジャストクライマックス)』
――自家発電によって制作費を生むことも大事ですよね。
藤田 コロナで公演ができなくなったとき、私たちはこの商品があったので、これをどうオンライン化するかを研究しました。だからクラウドファンディングなどにも頼らず、自分たちの足で立って公演を続けていくことがなんとかできたんです。この先も状況は見えませんが、私たちはこれからも自立してやっていきたいと思っています。
――せっかくなので伺いますが、東宝さんで音楽座ミュージカルの作品を上演する機会が出てきました。素晴らしい取り組みだと思いますが、皆さんはどう思っていらっしゃるんですか?
藤田 音楽座ミュージカルのオリジナルミュージカルを、海外作品をずっとやられている東宝さんが選んでやってくださることはすごく光栄です。もちろん出演される方も演出も違うので、私たちとは違うものになりますが、皆さんが作品を愛して、一生懸命、丁寧につくってくださっているのを感じています。
森 私は単純にうれしかったです。
藤田 僕らはふだん客観的に自分たちの作品を見られないので、自分たちが何を伝えたくてやっているのかを振り返るきっかけにもなりますよね。
森 作品というものは、いかようにもできる面白さがあることを改めて感じました。私たちがつくるときに、また新たな刺激になりそうです。
――他所で上演されることは、音楽座ミュージカルの名作から、日本の演劇界の名作になるという意味でもあり、いい企画だと思います。そうやって普遍性を得ていくことは、作品もうれしいと思うんです。それでは『JUST CLIMAX』について伺います。どのような経緯でつくられた作品ですか? 
藤田 昨年の8月に稽古場である芹ヶ谷スタジオで上演したのですが、コロナがなければ『泣かないで』を上演する予定でした。でも公演がしばらく打てない状況になったときに、お客様に音楽座ミュージカルを届けたい、自分たちも作品をやりたいと思うのですが、一方で作品を仕込むにはリスクが高いじゃないですか。稽古はメンバーが集まらなければいけないし、緊急事態宣言で公演が中止になるとそれこそ経済的なダメージが大きくなってしまいます。その中でできることを考えたときに、ウチの作品のクライマックスシーンを選び出して物語をつくれないかというアイデアが出たんです。最初は司会進行を置いて、ガラコンサート風にやるつもりでしたが、自分たちで新しいものを生み出さない限り今の時代に公演をやる意味がないよねということで、解説を置かずに、物語をつなぐ女性を設定して、その女性が迷路の中で音楽座ミュージカルのクライマックスシーンに出会っていくという構成にしたんです。
『JUST CLIMAX(ジャストクライマックス)』
森 でも稽古に入る前に、「大丈夫?」という雰囲気にはなりました。
藤田 司会が出てこないでシーンをポンポンつないでも何が伝わるんだろうということです。ところが一回通して上演したときに、司会や解説が入らない方が私たちが本当に作品を通して伝えたかったメッセージが伝わると気づいたんです。じゃあこのコンセプトのもと、どうやったら作品として成立するかを深めていったわけです。
森 最初はみんなで自分が愛しているシーンを出し合おうということでピックアップしたんです。そうしたら似たり寄ったりのシーンばかりになって、自分たちが好きな傾向みたいなものが出てきてしまいました。でもこんなに似ているんだというところから、音楽座の作品は並べてみたらつながっているんだという発見もありました。今もそのシーンをどう並べたら女性が旅する中で心の波をつくれるかを試行錯誤しています。
藤田 2月公演までにこの演目を入れます、この曲を歌いますという印刷物をつくろうと思ったんですけど、決まらない(笑)。でも人生という迷路の中で主人公の女性がクライマックスに出会うという稽古場で生まれてきたコンセプトを通して、旗揚げ作品である『シャボン玉〜』の中に音楽座ミュージカルでやってきたいろいろなものが詰まっていたんだということも発見できました。
森 私たちはみんな同じように心を動かし、同じように魅了されて、影響を受けてるんだということがよくわかりましたね。
藤田 どこを切っても音楽座ミュージカルは同じこと伝えているんですよね。そしてクライマックスを生きている人間たちが物語を紡いでいる。傍観者はいない、誰もが当事者で必死になっている人間たちのドラマだということが改めてわかってきました。
――8月の芹ヶ谷スタジオ公演でのお客様の感想はどうでしたか。
藤田 ドラマの筋立てがあるわけではないので、皆さんご自身の人生を重ねやすい作品かもしれません。説明されていない余白の部分に自分の人生を重ね合わせて、旅するようにドラマを見ていただく方も多いようです。あまりにも自分に突きつけられて、呼吸困難になって見ていられなくなったという方がいらっしゃいました。その方は「自分はドラマを見てストーリーに感動していたのではなく、まさにクライマックスの瞬間に行われている生々しい人間の心のありように感動していたんだと気づきました」とおっしゃってくださったんです。
――初めて観た方でも思い入れは持てるものですか?
藤田 そうですね。自分の知らない作品、わからない作品の連続ですからね。それが今の心が動くのはストーリーではないんだということとつながるんですね。新たな発見をしてくださっているお客様が多いようです。
――逆に役者さんは一つの物語を紡いでいくのとは違う難しさはありませんか?
森 あります。『リトルプリンス』の王子から『シャボン玉〜』の佳代といったふうに、いろいろな役を渡り歩く感じなんです。でもやってみると、それこそどの作品も同じテーマなんだと気づきます。今この瞬間がいいのか悪いのかを考える前に、目の前のことに懸命に生きてることに気がつかせてもらいました。
藤田 難しいのはやっぱり『JUST CLIMAX』なので、出てきた俳優はちゃんとクライマックス、本物でいなければいけないんですよ。準備体操が一切できない。でもよくよく考えると舞台はクライマックスシーンの連続なんですよね。前代表が日常は舞台であり、私は女優なんだとおっしゃっていました。経営者であり、音楽座ミュージカルの代表で、演出や脚本を担当していた方です。だから我々が「俳優だから」「俳優なのに」みたいなことを言うと、なぜあなたたちだけが特別だと思うの?と。「誰もが俳優なのだから」とは、よく言われましたね。
『JUST CLIMAX(ジャストクライマックス)』
取材・文:いまいこういち

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