戦いはさらに熱く!~ミュージカル『
新テニスの王子様』The Second Stag
e ゲネプロレポート

2022年1月28日(金)KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉にて、ミュージカル『新テニスの王子様』The Second Stageの幕が開いた。2020年12月の The First Stage に続く“新テニミュ”第2弾、予測不可能な未知の領域にグングンと歩みを進め続けるカンパニーの熱き躍動をプレイバック!

※以下、ネタバレがございます。ご注意ください。

冒頭、越前南次郎の第一声にいきなり胸が高まった。そこに居るのはアニメで南次郎を演じ続けている松山鷹志! テニスキッズたちを長きに渡り見守ってくれている“サムライ南次郎”の語りから物語が開けていく、粋な演出だ。
オープニングナンバーは中学選抜メンバーが勢揃い。目前に控えしU-17(アンダーセブンティーン)選抜メンバーに怯まず挑んでいく血気盛んな思いを放出する姿が頼もしい。そこから一転、コーチの黒部(村上幸平)と柘植(進藤 学)が大人の色気とカッコ良さを備えた“イケメン”ナンバーでご挨拶。さらにヘヴィーなサウンドが鳴り響き、U-17(アンダーセブンティーン)選抜1軍上位メンバー=Genius10が中学生たちを阻む強大な壁として存在をアピール。そこから観客の胸の内を代弁するかのように、この先の展開に心躍らせる入江奏多(相葉裕樹)のソロナンバーへ。包容力のある伸びやかな相葉の歌声で観客の集中を舞台上にグーっと惹きつけ、再び始まる中学選抜メンバーvsU-17(アンダーセブンティーン)選抜メンバーの“死闘”へと皆を誘っていく。
 (c)許斐 剛/集英社・新テニミュ製作委員会
試合開始。ROUND1は跡部景吾(高橋怜也)・仁王雅治(蔵田尚樹)vs越知月光(楚南 慧)・毛利寿三郎(丸山龍星)。越智の技「精神の暗殺者(メンタルのアサシン)」で追い詰められ狼狽する跡部と、自身のイリュージョンで手塚となったことで身体を酷使しながらも底なしの精神力を得て巻き返していく仁王が共鳴する、執念のゲームだ。跡部役の高橋、仁王役の蔵田、共に心情を歌い上げるソロナンバーは力強く、イリュージョンのステージをまたひとつ上げた仁王と、「俺はキングだ」とプライドと魂を再燃させる跡部が試合の中で心を通わせ成長する姿が心を打つ。
規格外のパワー勝負、ROUND2の石田銀vsデューク渡邊(大久保圭介)に続きROUND3のコートに立ったのは、丸井ブン太(川本光貴)・木手永四郎(長塚拓海)vs君島育斗(樫澤優太)・遠野篤京(輝馬)。“コート上の交渉人”君島と“コート上の処刑人”遠野、そして“殺し屋”木手と陽キャの丸井という取り合わせ要素盛りだくさんの対戦。青学(せいがく)6代目・乾を演じ、今作から新テニミュに参戦した輝馬がクセになるトリッキーな魅力で遠野の存在を刻みつけたのも印象的。いくつものどんでん返しの果ての勝敗に、それぞれのテニスにかける思いの強さがほとばしっていた。
 (c)許斐 剛/集英社・新テニミュ製作委員会
ROUND4、遠山金太郎(平松來馬)vs鬼 十次郎(岡本悠紀)は中盤の大きな山場。1幕と2幕を跨ぎ、愚直なまでに仲間の才能育成に邁進してきた鬼と、ただただ無邪気にテニスで高みを目指す金太郎。ともに抱く無垢なテニスへの情熱が共鳴し融合していく多幸感溢れるゲームだ。まばゆい光の中、笑顔でひとつのテニスボールを打ち合う“師弟”戦。まさに球のように跳ね回る遠山役の平松の豊かな表情と身体能力、そしてThe First Stageから舞台上でも舞台外でもカンパニーを支える存在として俳優力を発揮してきた鬼役の岡本の歌声が生む化学反応! テニプリの根幹、「テニスって楽しい!」なオーラが劇場中に満ちた瞬間だった。
 (c)許斐 剛/集英社・新テニミュ製作委員会
さらに進んでROUND5は亜久津 仁(益永拓弥)・真田弦一郎(吉田共朗)vs種ヶ島修二(秋沢健太朗)・大曲竜次(畠山 遼)。和太鼓や尺八の音色が彩る“巌流島の戦い”は、大曲の「二刀流」に始まり、今のままの自分ではダメだと己の成長を渇求する亜久津と真田の体当たりのプレーに、種ヶ島の「無」の技が襲いかかる。この試合は秋沢演じる種ヶ島のソロナンバーが場をヌルヌルと支配していく様、そのピンと張りつめていく空気の変容の感触も忘れられない。
ラストはROUND6。徳川カズヤ(小野健斗)vs平等院鳳凰(佐々木 崇)のシングルス。U-17(アンダーセブンティーン)に根付く因縁にケリをつける試合でもあり、代表No.1を奪取すべく代表2軍で過酷な練習を重ねてきた徳川と彼を支える入江・鬼vs平等院という図式だ。理屈抜きにただただ勝つことだけを求めて戦う二人の姿は圧倒的。さて、新たな境地「阿修羅の神道」に踏み入った徳川と圧倒的且つ非常なプレーの平等院がたどり着く先は──。
中学生vs高校生、最初はやはり馴染みのある中学生側からその戦いを見ていたが、高校生たちのバックボーン、彼らの歩むテニス人生が少しずつ紐解かれることで徐々に見える景色が変わり、どちらにも深い愛情が湧いてくるように。U-17(アンダーセブンティーン)選抜メンバーのハイパワーの前にさらされることで初めて中学選抜メンバーたちの“中学生らしさ”を見出したり、彼らを取り巻く大人たちと目線を重ねることで作品全体を新たな心持ちで楽しめるのは、とても贅沢な経験だ。さらに新キャラクター、越前リョーマ(今牧輝琉)の“兄”・越前リョーガ(井澤勇貴)の出現により、リョーマ自身の物語にも新たな道筋が生まれている。生意気キャラのリョーマがリョーガには自然に心を開き文字通り寄り添っている様もいい。井澤演じるリョーガはどこか南次郎に通じる飄々とした愛情と器の大きさが備わり、今後のストーリーの一角を担っていくであろう頼もしさが。今牧は今作が3度目のリョーマ。一歩ステージに出た瞬間から確実にリョーマとして存在し、「全国」から「世界」へと目指す先がさらに大きくなった少年の未知の可能性を纏う様子は、俳優としての“今”のリアリティも重なってくるように思えた。
 (c)許斐 剛/集英社・新テニミュ製作委員会
全体的には前作同様「ネットさえあればそれでいい」というくらいに余計なモノが排除されたシンプル・イズ・ベストなステージ。選手同士が真剣に打ち合いを重ねていく負荷だけでも試合のハードさは伝わる。そこにテニスのフォームから派生させた振りを基本としたダンス、心情と状況がダイレクトに読み取れる歌詞とシリーズへのリスペクトやオマージュも豊富なサウンドで構成されたナンバー、そして絶妙に散りばめられた遊び心と「ここぞ」という場所での大胆な演劇的変換が、スポーツが持つ熱さと共に、観る者の心をグワッと乗せたエンターテインメントとして燃え上がる。テニミュマイスター・上島雪夫ならではのセンスが冴え渡ったある種ミニマムな演出だからこそ、あれだけ濃いキャラクターたちがステージ上にひしめき合っても個々がしっかりと際立ち輝くのだろう。
ラスト、一歩先を走るU-17(アンダーセブンティーン)の堂々力強いパフォーマンス〜コーチの合流〜挑戦者として果敢に未来を見つめる中学生たちも加わっての展開は昂揚感にあふれ、彼らの歌声に包まれる喜びを存分に味わうことができた。常に革新的でありながらも長年愛され続けてきた“テニミュの作法によるテニミュ”という揺るぎない世界であること。ミュージカル『新テニスの王子様』にはその精神が確実に宿っている。「テニミュってやっぱり楽しいな」──今回もまた行き着くところはこの言葉。そしておそらくこれから先もこの気持ちを何度でも繰り返すのだろう。「テニミュって楽しい。早くこの先が観たい!」と。
取材・文=横澤由香

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