緒方恵美インタビュー『Precious An
ime & Game Songs Festival』への想
い――

声優・歌手の緒方恵美主催のフェス・イベント『Precious Anime & Game Songs Festival』のクラウドファンディングが現在実施されている。どのような想いで企画を立ち上げたのかを改めて訊いた。そこにはいろいろな想いが詰まっていた。
――いまクラウドファンディングを実施中の、緒方さんが主催されるフェス・イベント『Precious Anime & Game Songs Festival』。サイトなどでは概要含めご挨拶はされていますが、改めてなぜこの企画をたちあげたのかをお聞きしたいです。
「コロナ禍で困窮する方々に、歌を、音楽を届けたい」――それが一番元の想いでした。それを強く思ったのが昨年の夏前後。非正規雇用の女性を中心に解雇の波がきていて、それまでないほど困窮している方が増え続けているというニュースが流れていた頃。光を届けるのがエンターテイメント。私たちに何かできることはないのだろうか? と。同時に音楽フェスが次々潰れていた時期で、実施を選んでバッシングを受けるアーティストや会社も多くて、このままライブイベントは潰れていくの? って思った。みんなが安心してやれるものを作りたいって思ったことと……正直言うと、東京オリンピックでいろいろ失望した部分があったこともあって。
――東京オリンピックですか。
競技ではなく、開会式・閉会式のことです。選手の皆さんは皆素晴らしかった。熱くなりましたし、感動をたくさんいただきました。ただ一方オリンピックって、スポーツの祭典だけど、開会式閉会式にその国の文化を象徴するようなものを紹介するっていう側面もあるじゃないですか。
――そうですね。
リオオリンピックの閉会式を見た時に感動したんです。だからというか……ごめんなさい、私はエンタメ屋なのでそちら視点になってしまうのですが、もしかしたら東京オリンピックが日本の文化発信に対しての転換点になるかもしれないって期待してしまっていたんです。常々この国の文化を取り巻く大きな問題――海外に発信しづらい状態を、もう少しなんとかならないのだろうかと、ずっと思ってきたから。
――外に発信できない、ですか。
プラットフォームがないんです。日本発で世界に届くものが。あと海外発行のクレジットカードを使っていただけない問題とか。ここでは省きますが、だから、日本の文化はガラパゴス状態になっていて、一部の個人や、一企業として直接外(世界)に戦いに出ている人以外はなかなか難しくて、ずっとみんなが苦労し続けてきた。偽物を本物と思われてしまっていたりということも多くて。でもリオのエンディングを見た時に、これなら、って。いい形で日本発のクリエイティヴーー音楽やダンス、アニメ・ゲーム・映像他たくさんのものが「これが本物だよ」「こんな素敵なものがいっぱい作れているんだよ」と世界中に発信されるんじゃないかって期待感を持っていました。でも――とても残念でした。直前にいろいろなトラブルが発生したことが大きいとは思います。元のアイディアがなぜか使われなかったことも。本番のステージでパフォーマンスされた方々のせいではもちろんなく、頑張ってくださいました。でも、もっと世界中に浸透している作品や音を使った、今の日本のできる最先端の演出を使った、世界中が驚き、喜んでもらえるものが元々用意されていたのに――という思いが、どうしても離れなくて。ファーストアクターだけではなく、日本のステージスタッフは世界一だと思うことも多く、そのみなさんが、今回は、急にステージ演出が変わったことで、その腕を存分にというふうに行かなかったという話も聞いたせいもあります。
撮影:大塚正明
――そうだったんですね。
一部の海外ユーザーの方が知っている「日本発の本物」を全世界に発信できるはずだった機会が、とても日本的な要因のもとに……というのがだいぶショックで。コロナ禍前、私は年に3-5回は海外に招致頂き、様々なアニメ・ゲーム系のイベントにでたりライブしたりしていたのですが、日本国内とはかなりの認識の違いがあったり、「偽物」を「本物」だと思われていたりする場面に遭遇することも多くて。それもあって期待しすぎてしまっていたせいもあります。一方、コロナ禍で去年から今年は海外での仕事はほぼ全滅でした。会えるはずの海外の皆さんを思っているうちに、皆さんはどうしているんだろう? と。コロナ禍の中、苦しんでいるのは世界中同じ。今困窮している、大変な人たちがたくさんいる。私たちの作品を、歌を愛してくれている人たちが――その人たちのために、今、この国からできることはなんだろう? と。
――切実な現実ですね……。
それで、今回の企画を考えました。まずは困窮した皆さんに元気を出して欲しい。広がった格差や差別に喘ぐ人たちにも届く、エネルギーあふれる音楽フェス。なるべく安心・安全な、今考えられるいろんな防衛策をとった、「生」で届ける歌を、音楽を。それにはどうするか――その先に答えがありました。簡単だ! めちゃめちゃいろんな格差や差別や(一部は)困窮とも戦ってきた、百戦錬磨な人たちがすぐ身近にいるじゃないか! って(笑)。
――えー!
芸能界は本当に稀に見る男性社会でした。最近少しずつ意識は変わってきましたけど、長年そうだったこの業界の中で生き抜いてきている女性というのは、みんないろんなことを超えてるんです。ある年齢以上で、今でも第一線で活動してらっしゃる女性シンガーたち、中でも私が「この人はハンサムウーマン!」と思うような女性たちは本当に生命力に溢れていて。その人たちのパワーをお伝えできたらって思ったんですね。
――確かに今回のフェスではangelaのkatsuさん以外皆さん女性ですね。
はい、歌はもちろんですけど、生きざま的なものと言いますか。それを合わせて届けたい。ミュージックフェアとかミュージックステーションみたいに、MCをたてて「コロナの前後で、どういう風に思っていますか?」みたいなことを聞いてみる。ご本人の言葉で、ご自身の壁を、どう乗り越えてきたかを。もちろん時間の制約はあるので、その一部にはなると思いますが。
――なるほど。
それプラス、アニソンの力。アニソン・ゲーソンはみんなが元気になる歌しかない。その言葉と、魂からの前向きな歌が集まる大人のフェス。それが届けられたらどんなにすごいだろうって。でも私は一個人。企業みたいな力はありません。だから恐る恐るみんなに相談してみたのですが、皆さんほとんど即答でやりたいって言ってくれたんです。
撮影:大塚正明
――内容的なものもお伺いしたいと思っていました。今回はMCとして、緒方さんと内田彩さんが入っていますが、今お話いただいたようなトークが歌の間にある想定なんですね。
はい。今回、歌っていただくのは(ほぼ)専業アニソンシンガーの皆さんなので、逆にMCは、歌も歌っている声優アーティストにお願いしたいと思いました。私と一緒にやってくれる、30代くらいの……と考えたらいるじゃないか内田彩! と!(笑)彼女と私はAbemaTVで1年間、ゲストをお迎えするトークバラエティのMCを一緒にやってきたのですが、本当に絶妙な「居方」をしてくれる人で。もちろん彼女の歌を聴きたかったのもありますが、ぜひ一緒に聞く立場として盛り上げてもらいたいと思ってお願いしました。今回のメンバーはみんな「つよつよ」なので、緩和剤としてもいて欲しくて。
――はい、確かにつよつよです(笑)。
ね?(笑) でも本当に強くて、ハンサムウーマンなメンバーなんです。まずangelaのatsukoちゃん、石川智晶ちゃん、川村ゆみちゃん、高橋洋子ちゃんは飲み友達なんですが……もちろんそれだけじゃないですよ?(笑) 元々の在り方自体をリスペクトしていてご飯を食べるようになった方々ばかりなのですが、みんな本当に考え方がハンサムで、熱くて。だからとても楽しいんですね。仕事のあり方も本人も好き。とてもパワフル。だからご飯を食べに行きたくなるという堂々巡り(笑)。でもだからこそ力を貸して欲しかった。堀江美都子さんは大先輩。しばらくお目にかかれていなかったんですが、この企画を思いついたあたりで拝見した番組のトークに改めて感動して。もう大ベテランでいらっしゃるのに、この年齢のシンガーの中では圧倒的にニュートラルで、頭の回転が速くて、いろんなことを分かってらっしゃる方だと思いました。感動しすぎて、ダメ元でお声がけをしました。中川翔子ちゃんは、NHKの廊下でスカウトして(笑)。
――そんな具体的な場所で(笑)。
私が今レギュラー出演している「ラジオマンジャック」と、彼女がやっている「アニソンアカデミー」が斜め向かいのスタジオで、しかも生放送の前後の番組で。他にどなたに声をかけたら……と逡巡していたら、バッタリであった。しょこたんとは何度もお仕事しているんですけど、流石になあと思いつつ、やっぱり聞いてみたくてスカウトしたら「やりますよ!」って即答いただいて。マネージャーさんもそこにいたのでちょうどよくて(笑)。Liaちゃんは同じくNHKで、私がアニソンの番組やっていたときに来てくれていたのですが、ゲームも歌っているシンガーをあと誰か……と考えた時に、もう、ウワッと浮かんじゃって。『Angel Beats!』って作品でも一緒だったんですが、頭のいい人だし、歌もとてもうまい。あと、彼女はいま香港に住んでいるので、だからこそ海外にも希求する方だと思ったのもあります。「出ます。香港と東京での行き来が封鎖されていなければ!」と(笑)。大変だと思いましたが、努力はしたい。彼女のような人にもらえる力は大きいと思いました。
――本物の凄さや良さっていうものは伝えたいですよね。
はい。彼女たちに個々について思っていることは、クラウドファンディング・プロジェクトページの「レポート」欄に、ブログのように毎日書き綴っているので、プロジェクトページを参照していただけると、愛の深さが伝わると思います(笑)。でもこれだけは。本物は凄い。芸歴20年~30年で、いまだに歌一本で生きている女性って、やっぱり強い。凄いんです。
――それで言ったら緒方さんもそうですよ。
ありがとうございます(笑)。私はなんとか生かしてもらっているだけなんですけれどね。
――お話を伺って、本当に思いが詰まってるフェスだと思いました。改めて、今回の記事を読んでいる読者であったり、ファンの方に、メッセージをいただければと思います。
「コロナ禍で困窮している方々に歌を、音楽を届けたい」。その想いで立ち上げたプロジェクトです。音楽は力。アニソン・ゲーソンは魂。そのパワーを知っていてくださっている人たちならご存じと思いますが、いろいろな人を立ち上がらせ、前を向いてもらう祈りがそこにはあります。困窮している方には一部分を。歌と共にあった景色(作品)を思い出し、立ち上がる力にしてほしい。そしていつか私たちのライブにまた来たいと思ってくださったら、嬉しい。同じ映像をお届けする世界各国の方には、やはり作品を想い、また日本に来たいとかもっと見たいという気持ちになっていただいて、未来に繋がる絆にできたら。そしてサポート……パートナーとして支えてくださった方には、この全貌を観て、聴いて、いただいて、一緒に感じた達成感と共に、さらに元気に、前向きに、頑張ってゆく「光」を受け取っていただきたい――そんなふうに思っています。成功することができたら、たくさんの方々にエネルギーをお届けできる。そういうフェスになると確信していますし、そうなれるよう、皆さんの思いを背負って、しっかり作っていきます。元気をお届けするプロジェクト。ぜひご支援いただけたらと思います。
インタビュー:加東岳史 撮影:大塚正明

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