L’Arc〜en〜CielのHYDEが、
バンドとは異なるスタンスで
自らのアーティスト性を掘り下げた
ソロ作『ROENTGEN』
ソロ作品ならではの取り組み
まず、バンドとの差異を探ってみよう。当たり前のことだが(というか、こう言ってしまうとほとんど馬鹿みたいだが)、バンドではないのでバンドサウンドが鳴りを潜めている。L’Arc〜en〜Cielがどんなバンドであるのかを一口に語るのはなかなか難しい。繊細なものもあれば、ドライブ感の強いタイプ、ダイナミックに迫るナンバーと、多種多彩だ。その辺はファンならずとも知るところではないかと思う。ただ、ひとつ言えるのは、いずれにしても、ギター、ベース、ドラム、そしてボーカルという4つの音が楽曲のベーシックにある。早い時期から、シンセや鍵盤を始め、ストリングス、ホーンセクション、打ち込みも楽曲に応じて柔軟に取り込んでいるバンドではあったと記憶しているが、全般においてバンドサウンドから大きく逸脱するようなものはなかったと思う。あったとしてもそれほど多くはないはずだ。まぁ、ロックバンドなのだからそれも当たり前だろう。
それでは、その一方、HYDEソロ作品である『ROENTGEN』は…というと──バンドサウンドを避けているという言い方は語弊があるかもしれないが、そのきらいを少し感じたところである。注目したのは、M3「EVERGREEN」、M4「OASIS」、M5「A DROP OF COLOUR」、M8「ANGEL'S TALE」。そこにM10「SECRET LETTERS」を加えていいかもしれない。どれも十分に(という言い方も変かもしれないけど)バンドアレンジが可能である印象を抱いた。それは歌メロにL’Arc〜en〜Cielに通じるものがあると感じたからかもしれない。その耳慣れみたいなものだろうか。ちなみにM3が1stシングルで、M8が2ndシングル、M5は映画のイメージソングになったというから、どれも汎用性は高いと言えるだろう。それ故に“このメロディーならこんなサウンドが合うのでは…?”といった、極めて個人的な脊髄反射のようなものとも言えるかもしれない。だが、いい意味でその耳慣れ、脊髄反射を裏切るサウンドメイキングを施している。
M3は、アコギと歌から始まり、そこにストリングス(この弦楽はプログラミングかもしれない)が施されていくという構成。サックスもピアノも聴こえる。エレキギターもベースもドラムは使っているが、俗に言うバンドサウンド的な印象はない。バンドではそのサウンドにストリングスやブラスをあしらっているとすれば、こちらはその逆で、ストリングスとブラスが主役といった面持ちだ。M4はギターが前面に出ていて、しかもそれがスライド奏法的な音色であって、さらにはオルガンなども重なり、ブルースを感じさせるナンバー。米国ロックの匂いがする。しかしながら、リズムは(たぶん)打ち込み。少なくともこの時期のHYDEがコテコテのブルースをやるイメージはなかったが、その辺は流石にソロ作品と言うべきか、興味深いアレンジだ。
前述した収録曲は“バンドアレンジが可能”と書いたが、M5は可能も何も、十分にバンドサウンドではある。ビートも強めだし(たぶん生ドラム)、ベースも大分派手に聴こえる。ただ、所謂Jロック的なそれとは明らかに趣が異なる。おそらくジャズに近い。トランペットも印象的に鳴っている。アーバンな雰囲気だ。アダルト・コンテンポラリー、AORと言ってもいいかもしれない。M8は、そもそもクリスマスソングをイメージして作られたものだというが、これもまた所謂Jポップ、Jロック的ではないと言ったらいいか、如何にもCMに起用されそうな煌びやかな雰囲気はほぼ感じられない。ギターのアンサンブルが淡々と連なる様子は北欧民謡のようであって、そこに穏やかなストリングスが乗っていく。コーラスの重ね方は讃美歌っぽい。一瞬、フィードバックノイズも派手なエレキギターが入る箇所があり、シューゲイザーやオルタナティブに展開するのかと思いきや、そうはならない。そんなところで余計にバンドらしさを感じなかったのかもしれないけれど、派手さはほとんどなく、終始、綺麗めの音色で彩られているのは確かだろう。M10の構造もM5に近く、ギター、ベース、ドラムが配されて、ベーシックはバンドものではあるものの、そこにマンドリン、アコーディオンを加えることで、HYDEがそれまで我々に見せてきた従来のサウンドを想起させない作りにはなっているとは思う。