藤巻亮太、新旧の名曲から意外なレア
曲まで飛び出したスペシャルワンマン

藤巻亮太「SPECIAL LIVE 2022」 2022.1.22 オルタナティブシアター
何よりも大事にしているに違いない楽曲としての魅力はもちろん、普段とはまたちょっと違う見どころも楽しませた全16曲。レミオロメン時代の楽曲も含む、そのセットリストは、あらかじめファンから募ったリクエストを元に考えたものだったという。
藤巻亮太が1月22日、有楽町のオルタナティブシアターで開催した2022年のライブ初めとなるワンマンライブは、そんなふうに考えたセットリストを、久々となる3ピースで披露するという意味で、『SPECIAL LIVE 2022』と掲げたタイトル通り、まさにSPECIALなものとなった。
ライブはレミオロメン時代からのファンにとっては感慨深い「リズム」から、藤巻のシグネイチャーと言える伸びやかな歌声とハートウォーミングなメロディの魅力を印象づけながらスタート。そこから一転、藤巻のギターが不穏に鳴るロック・ナンバー「ハロー流星群」に繋げるという緩急のつけ方が心憎い。藤巻が音を軋ませるようにギター・ソロを披露してからの曲の後半では、ベースとドラムの音も暴れ出す。3人の熱演に応えるように1曲目からすでに立ち上がっていた観客が手を振り始めると、3人は「Sakura」になだれこむ。藤巻らしいハートウォーミングなポップ・ナンバーだが、リズムアレンジがダンサブルだから、リズムに合わせてハンドクラップしたりワイプしたり、観客のアクションもさらに大きなものに。
大胆に緩急をつけた序盤の3曲で、観客の気持ちをしっかり掴んだところで、「さすがに22日になると、おかしな感じになるけど」と笑いながら、新年の挨拶をした藤巻は続けて、「この曲が聴きたいというみなさんの思いにお応えしようと思いました」と、この日のライブの趣旨を改めて説明する。
「(リクエストは)バラードが多かったので、せっかく3ピースでやるんだから、バラードばかりじゃと思って、自分なりにやりたいという曲を織りまぜながらやっていきます」
セットリストの基になった今回のリクエストの結果は、ファンのみならず、藤巻にとっても、彼曰く「おもしろい」「感慨深い」ものになったようだ。「(ソロになってからの曲である)「ハロー流星群」は41位タイ。なんだよーと思いながらやってました(笑)」という率直な言葉をはじめ、この日、藤巻はリクエストの結果について、何度か感じたことを口にしたのだが、実は意外だったリクエストの結果と、それに対する観客の「意外!」「納得!」という反応を、藤巻自身、楽しんでいるように見えたことが興味深かった。そして、それが思ってもいなかった成果に繋がるのだから……いや、それについては藤巻の言葉とともに後述するとして、まずは順を追ってライブの模様をお伝えしていこう。
タイトル・コールに客席がどよめき、重心の低い演奏をじっくりと聴かせた「午後の低気圧」からのブロックでは、藤巻のタッピング奏法によるイントロのギター・リフが印象的なバラードの「愛を」、グランジィなロック・ナンバー「タクシードライバー」、そして珠玉のバラード「粉雪」と藤巻の曲が持つメランコリックな魅力をじっくりと味わわせたが、思いの外、早かった「粉雪」の披露にちょっと驚いていると、リクエストの56位タイという結果に再び客席がどよめいた。想像するにファンの心理としては、聴ける機会は多いから、それだったら他の曲をということなのかもしれないし、「みなさんが応援してくれてるのがわかりますね。「粉雪」じゃないんだ。冬だから歌ってみましたけど(笑)」と藤巻が言ったように、ファンの間では良い曲なら「粉雪」以外にもいっぱいあるということなのだと思う。
「リクエストに加え、最近やってないけど、やったら歓んでもらえるんじゃないかという曲も選曲してます。(曲の選び方が)違ってたら、うーん、誰かが謝ります(笑)」
そんなジョークを交えながら、「ちょっとアゲていこうかな」と予告した後半戦は、生で聴いてみたいというリクエストに応え、2007年にリリースしてから1回もライブでやっていないという「パラダイム」、ステージを左右に動きながら、うねるような音色でギターをかき鳴らした「雨上がり」、2020年に『ウルトラマン クロニクル ZERO&GEED』のオープニング主題歌として書き下ろした「Heroes」というパワーポップ・ナンバーをたたみかけるように繋げると、力強い歌声を響かせ、手拍子で応える観客とともに大きな熱気を作り上げていった。観客の盛り上がりに満足したのか、「もうここで終わっていいんじゃないかな(笑)」と藤巻は軽口を叩いたが、クライマックスはここからだ。
セトリを自分で作ると、やりやすい曲ばかり選んでしまい、マネージャーから「こういう曲も入れてみては」と指摘されると明かした藤巻が、続けて語ったのは、自分の殻から出ることの大切さだった。
「そうやって忘れかけていた曲の魅力に改めて気づき、大事に歌いつづけたいと思うんだけど、今日、それをさらに思いました。リクエストの1票に込められた思いが伝わってきて、ていねいに届けたいと思うと同時に、自分の殻から出ないと、発見も、発展もないと思いました!」
前述した成果とは、これのこと。ファンの思いに応えようという企画が新たな気づきに繋がったのだからおもしろい。
「ここからトップ3を!」
藤巻が声を上げ、3位からカウントダウンで演奏したのが、トラッド・フォーキーなギターリフが耳に残るロックバラードの「指先」、タフなロックナンバーの「オオカミ青年」といったソロになってからの2曲と、レミオロメン時代のポップなロックンロール・ナンバーの「モラトリアム」。
観客が歓びをこの日一番の手拍子で表現した「モラトリアム」の1位は、レミオロメンの活動休止後もファンが離れず、藤巻の楽曲を聴きつづけていることを想像させたが、「久々にやった。ソロになってから初めてかも!? これからはラインナップに入れていきます!」と藤巻は宣言。さらにファンを歓ばせると、「10年ぶりに演奏しても新しい発見があったし、曲に込めた熱量を感じることができました。リクエストのおかげです。ありがとうございます!」と再び、この日の成果を口にした。しかし、ファンの思いに応えることがテーマだとは言え、過去の楽曲を振り返ることだけが、この日の目的ではない。
本編最後に新曲の「永遠に告ぐ」を披露したのは、2022年のライブ初めに新たなスタートを印象づけたいと考えたからこそ。
「コロナ禍という1人の力では抗えない大きな流れの中で、音楽に果たせる役割があるなら命をかけて、いい曲を作っていきたいと思います」という思いの下、作り上げた「永遠に告ぐ」は、スポークンワードを思わせる、言葉を詰め込んだ早口の歌が鮮烈な印象を残すロックンロール・ナンバー。筆者はちょっとボブ・ディランも思い出した。
藤巻は「誰もが近くの人を大事にしながら、自分が大事にされていると信じて生きられれば、また違う景色が見える。そんなふうに生きていきたい」と曲に込めた思いを語ったが、限りある命の尊さと、その命を精一杯燃やし尽くすように生きたいという闘志を歌いながら、同時にその思いがシンガー・ソングライターとしての彼の矜持でもあることは、<僕のすべては君と共にある>という歌詞のパンチラインからも明らかだった。「永遠に告ぐ」という挑戦的なタイトルもいい。
そして、ここから何かが新たに始まる予感を余韻として味わっている観客に、アンコールとして、マンドリンが軽やかに鳴る「まほろば」と、レミオロメン時代からの人気曲「3月9日」の2曲をプレゼントして、1時間半を超えるライブは終演を迎えた。
この日、応えられなかったリクエスト曲は、3月9日に日本青年館ホールで開催する『Back to the Music!!! 2022』で演奏すると藤巻は予告したが、そのライブでは彼のルーツとも言える楽曲のカバーも披露するという。そう言えば、この日、開演前の会場では北アイルランド出身のシンガー・ヴァン・モリソンの曲が流れていたっけ。3月9日はヴァン・モリソンのカバーもやるのかしら? 意外な曲も聴けそうな気がして、今からわくわくしている。

取材・文=山口智男 撮影=風間大洋

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