ジュディ・ガーランド生誕100年記念
。久々に上映される代表作に、その神
髄を知る~「ザ・ブロードウェイ・ス
トーリー」番外編

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story

番外編 ジュディ・ガーランド生誕100年記念。久々に上映される代表作に、その神髄を知る
文=中島薫(音楽評論家) text by Kaoru Nakajima

 今年2022年は、20世紀を代表するエンタテイナー、ジュディ・ガーランド(1922~69年)の生誕100年。最晩年の凄絶な姿を描いた「ジュディ 虹の彼方に」で(2019年)で、彼女に興味を持たれた方も多いだろう。おりしも、ガーランドのキャリアを語る上で欠かせない「若草の頃」と「イースター・パレード」が、不朽の名作を特集するテアトル・クラシックスの企画「愛しのミュージカル映画たち」の一環として、2022年2月25日(金)から全国で順次に上映される(下記情報参照)。若き日の彼女の魅力が横溢するこの2作。早速見どころを紹介しよう。

■ノスタルジックなファミリー・ミュージカル
「若草の頃」(1944年)アメリカ公開時のポスター Photo Courtesy of Scott Brogan

 まずは「若草の頃」(1944年)から。1939年に「オズの魔法使」の少女ドロシー役で大ブレイク以来、「青春一座」(1939年)や「美人劇場」(1941年)など立て続けに主演作を放ったガーランド。トップ・アイドルとして人気を極めた彼女が、大人の女性の美しさを披露する。舞台は、20世紀初頭の万国博を控えたセントルイス。そこで幸せに暮らすスミス一家の物語だ。大事件が起こるわけでもなく、家庭内の些細な出来事をスケッチ的に淡々と綴る、何とものんびりとした作品なのだが、アメリカでの公開は第二次世界大戦中。劇中で謳われる家族の絆と故郷への愛が、戦争で荒んだ国民の心を癒した事は言うまでもない。
 楽曲は、実際に万国博開催を記念して作曲され、映画の原題にもなった〈セントルイスで逢いましょう〉を始め、当時の流行歌が懐古的な雰囲気を盛り上げる。だが、やはり白眉となるのがガーランドのナンバーだ。この映画で、彼女のために書かれた新曲は3曲。作詞作曲は、1941年にブロードウェイでヒットした学園ミュージカル『ベスト・フット・フォワード』で注目を浴びた、新進のヒュー・マーティン&ラルフ・ブレインが手掛けた。

■究極の十八番〈トロリー・ソング〉に心躍る
 それが〈ザ・ボーイ・ネクスト・ドア〉、〈トロリー・ソング〉、〈ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス〉。いずれもガーランドの得意曲となったナンバーだが、中でもコンサートで終生歌い続けた〈トロリー・ソング〉が抜群だ。トロリー・カー(路面電車)で出会う、男性への憧れを歌うラブソングで、歌詞が「ガタンゴトンガタンとトロリーは行く。ディンディンディンとベルは鳴る。ジンジンジンと私のハートはときめく……」。擬音を巧みに取り入れているものの、平板な歌詞であります。ところがこれをガーランドが表情も豊かに歌い上げると、恋の高揚感が生き生きと伝わる演唱へと昇華するのだ。彼女に和す、乗客たちの軽快かつカラフルなコーラスも出色。撮影時21歳のガーランドは光り輝いている。
〈トロリー・ソング〉を歌うガーランド Photo Courtesy of Scott Brogan

 また、隣家に住む男性への届かぬ想いを歌う〈ザ・ボーイ~〉や、今やクリスマス・シーズンのスタンダード曲〈ハヴ・ユアセルフ~〉などのバラードも素晴らしい。特に、妹を演じたマーガレット・オブライエンに聴かせる後者の、情感溢れるボーカルが見事。「親しき友が再び集えるその日まで、皆で力を合わせましょう」という歌詞が、戦争で離ればなれになった家族や恋人たちの涙を誘った。監督は、この映画をきっかけに1945年にガーランドと結婚したヴィンセント・ミネリ(彼らの娘がライザ・ミネリ)。NYはラジオシティ・ミュージック・ホールの装置や衣装デザインを担当した彼は美的感覚に優れ、本作でも20世紀初頭の建造物やコスチュームを色彩も鮮やかに再現し、正攻法の演出も相まって高い評価を得た。なおこの映画、1989年に舞台化。ブロードウェイのガーシュウィン劇場で上演されている。
名子役マーガレット・オブライエンと Photo Courtesy of Scott Brogan

■ショウビズのレジェンド、アステアとの共演作

「イースター・パレード」(1948年)のガーランドとフレッド・アステア Photo Courtesy of Scott Brogan

 そしてガーランドが、エンタテイナーの真価を存分に発揮した作品が「イースター・パレード」(1948年)だ。共演は不世出の天才ダンサー、フレッド・アステア。実は、「踊る海賊」(1948年)などで共演したジーン・ケリーが出演予定だったが、怪我のため降板。急遽アステアの登場と相成った。ストーリーは、長年のダンス・パートナーにコンビ解消を告げられたアステアが新人ガーランドを発掘、名コンビとなるまでのバック・ステージ物で、ヴォードヴィルが一世を風靡した20世紀初めのNYが舞台だ。軽妙洒脱なアステアと熱演型のガーランド。水と油と思いきや相性は非常に良く、2人のソング&ダンスは何度観ても飽きないほど楽しい。加えて全編を彩るのが、〈ホワイト・クリスマス〉を生み出したアーヴィング・バーリン作詞作曲による名曲の数々(下記連載一覧参照)。一級品のミュージカル映画に仕上がった。
コミカルな〈2人の名士〉のシーン Photo Courtesy of Scott Brogan
 ガーランドとアステアのデュエットでは、彼らがルンペン姿で歌い踊る〈2人の名士〉が最も有名だろう。古着を身に付けてもエレガントなアステアが流石だが、他にも充実したナンバーが揃う。ガーランドが伸び伸びと〈アイ・ラヴ・ア・ピアノ〉を歌いアステアと軽く踊った後、〈ラグタイム・ヴァイオリン〉や〈アラバマ行きの夜汽車が発つ〉などを、メドレーで賑やかに展開する〈ヴォードヴィル・モンタージュ〉も圧巻。とりわけ〈アラバマ行き~〉で、名人アステアと互角に踊るガーランドの才能に舌を巻く。
〈アラバマ行きの夜汽車が発つ〉を歌い踊る。 Photo Courtesy of Scott Brogan
■超絶技巧のタップ・ダンスに感嘆

 ガーランドのソロでは、バーリンが彼女のために書き下した〈ベター・ラック・ネクスト・タイム〉が良い。これは映画後半で、コンビ仲がしっくり行かなくなったガーランドが、「次は上手く行くなんて、私にはあり得ない」と嘆く歌。真摯な歌唱が胸に迫る。
 この映画を再見して、改めて堪能したのがタップ・ダンスだ。映画巻頭で、アステアがおもちゃのドラムを縦横無尽に駆使しながらタップを踏む〈ドラム・クレイジー〉と、ダンサーたちを絡めて鮮やかに踊りまくる〈ステッピン・アウト・ウィズ・マイ・ベイビー〉、さらにアステアの前パートナーに扮した「タップの女王」アン・ミラーが、くるくるスピンしながら神業的タップ・テクニックで圧倒する〈シェイキン・ザ・ブルース・アウェイ〉は見逃せない。
アン・ミラー(左端)は、「踊る大紐育」(1949年)など出演作多し。 Photo Courtesy of Scott Brogan
 振付はブロードウェイ出身で、ハリウッドでも「ショウほど素敵な商売はない」(1954年)など、多くの作品に貢献したロバート・オルトン。群舞のさばき方が上手く、きびきびとテンポの良い振付が秀逸だ。監督のチャールズ・ウォルターズは、同様にブロードウェイのダンサー&振付師で名を上げた人で、出演者のカラーを生かした演出で手堅くまとめている。
劇中曲をもれなく収録したサントラCDもお勧めだ(輸入盤)。
 今回は、ここに紹介したガーランド主演作2本の他に、「巴里のアメリカ人」(1951年)、「紳士は金髪がお好き」(1953年)、「上流社会」(1956年)、本格的再上映は実に久し振りの「ビクター/ビクトリア」(1982年)を上映。いずれも、稀代のパフォーマーたちの名演を満喫出来る秀作揃い。映画館の大画面で楽しんで頂ければ幸いだ。

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