柿澤勇人&ウエンツ瑛士、初共演の『
ブラッド・ブラザーズ』で運命の双子
役に挑む

1983年のロンドン・ウエストエンド初演、世界中で上演を重ねてきたミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』。同じ日に生まれ、同じ日に死んだ双子の数奇な運命を描くこのミュージカルは、日本でも1991年以来たびたび上演されてきた。その作品がこのたび、柿澤勇人とウエンツ瑛士という魅惑のキャストで帰ってくる。演出を手がけるのは、日本初演版に出演経験のある吉田鋼太郎。双子を演じる二人が作品への思いを語り合った。
ーー出演が決まったときのお気持ちは?
柿澤:僕はこの作品を2009年に初めて観たんです。武田真治さんが出演されていたバージョンで、すごくおもしろくて、チケットを買い足して6回観ました。その後、2015年の松竹制作のバージョンも新橋演舞場で観ました。こういう役をやりたい、やりたいと言っていたら念願がかなって、しかも双子の相手がウエンツ瑛士さん。彼とは、『紳士のための愛と殺人の手引き』(2017年)で同じ役は演じていたんですが、ダブルキャストだったので同じ舞台で一緒に芝居するということはしていなくて。共演したいと思っていたので、非常に楽しみです。
ウエンツ:僕は当初、この作品を観たことがなくて。でも、柿澤くんはめちゃくちゃハマったという。そんなにチケットを買い足して観ることってあまり聞いたことがなくて、すごい作品だな、どんな作品なんだろうと思っていたら、今回のお話をいただいて。すごく好きだって言ってる人と、観たことない人が双子で、大丈夫かなって。逆に言うと僕は先入観も何もないので、台本を見たときに最初に自分の想像がくるという部分と、今まで何度も作品を観たことのある柿澤くんとのバランスもとれるかなと。ここでまっさらに、二人を中心に一から作っていけるという喜びがあるので。ステージ上で役同士として目を合わせられるというのが何より楽しみです。
柿澤:音楽はもちろんいいし、一幕は、大の大人がみんな子供を演じるんです。子供の芝居って、やる側は恥ずかしいだろうけどそういう恥とかすべて捨ててホントにガチで子供を演じるという芝居が、おもしろくてかわいくて楽しくて、一幕はゲラゲラ笑いながら観ていました。男だったら誰でも通るであろう青春も描いているんですよね。でも、二幕は一転して、親友でもあり双子でもある二人の運命が描かれる。作品の冒頭は、悲劇が起こるとか、双子が生き別れたまま育つと同じ日に死ぬとか、そういう運命には逆らえないみたいなロンドンの都市伝説を紹介するナレーターの話から始まるんですが、二幕は本当にずっとかわいそうでしょうがないというか……どこかで防げなかったのかなと思うくらいで。ミュージカルなんですが、歌で見せるというより芝居で見せるところの多い喜劇性と悲劇性が混じっている作品なので、個人的に非常にハマって。歌だけ歌っていればいいということではなくて、根底に芝居がないとおもしろくないというところにハマったんだと思います。
柿澤勇人
ウエンツ:出演することになった後、イギリスの地方公演を観る機会があって。前情報を何ももたずに観たんですが、不思議な感覚でした。周りの人はもうお話を知っていて、これだこれだという盛り上がりの中で観たので。でも、とにかくお客さんに愛されている作品なんだなということはすごくわかりました。僕は、難しいなとすごく思いましたね。お芝居だからできることがふんだんにある作品で、いろいろ飛び越えなきゃいけないものが含まれていて、かつそこに真実味がないと結末に向かえないというところで、非常に技術が必要で、また、ある種の勢いもいる。心だけじゃなくて、身体で見せる、その身体の使い方とかといったところで技術がふんだんに必要とされながらも、それを見せたらお客さんは引いてしまうという逆説的なところもあるのがおもしろいなと思いました。
柿澤:演出の(吉田)鋼太郎さんとちょっとだけ作品について話したんですが、鋼太郎さん自身、かつてサミーというミッキーの兄役をやっていたので、『ブラッド・ブラザーズ』はいい作品だ、本当によくできている作品だ、だからおもしろいミュージカルにしようねと言っていました。作品のことも熟知されているだろうし。シェイクスピアも含めどの翻訳劇にもあることなんですが、イギリス人ならではの解釈があって、なかなかそれは日本人にはわからないだろうという、そのあたりの按配、訳詞なんかも鋼太郎さんならではの作品になると思うので、すごく楽しみですね。
ウエンツ:どの演出家さんもそうなんですが、その人に合った言葉、その人に足りないもの、違う角度からの視線、そういうものをいつも与えてくださると思います。ただ、それに期待しすぎず、自分で自分を演出して、その上で、新しい視点を与えてもらおう、そこに向かってしっかり準備をしなくちゃいけないなと、とても身の引き締まる思いです。
柿澤:鋼太郎さんはけっこう臨機応変で。『アテネのタイモン』なんかは出る人数もすごく多かったし、稽古もすごいスピードで進んでいって。たくさんの人がいるときは、厳しい言葉を自分の劇団の俳優たちに対して言うんですよ、蜷川幸雄さんみたいに。でも、腑に落ちないところは一緒に考えてくれる。だからそのときは、蜷川さんと鋼太郎さんのハイブリッドな感じの演出だったんです。でも、『スルース~探偵~』のときは二人芝居だったので、蜷川さんみたいに稽古初日から全部台本覚えていってという詰め込んだ稽古の感じではなく、本読みも何回もやりましたし、何回もセリフを直して、「カッキー、言いにくいところあったらすぐ言って」とおっしゃってくれたり。僕はなかなかそういう稽古場がなかったので、有意義に感じました。今回はどうでしょうね。ミュージカル作品で鋼太郎さんがどういう演出をするのかまだわからないですし、稽古初日からいきなり立とうって言うかもしれないし、本読みをするかもしれないし……そこはついていくしかないです。ウエンツさんも言ったように、僕らは自分で、ここはこうしたいとか、こうあるべきだよなとか、子供のしゃべり方とか歌い方とかも研究した上で鋼太郎さんについていくという感じですね。
ウエンツ:歌うシーンの演出が楽しみですね。初めてミュージカルの演出をされるということは、歌うシーンの演出が初ってことですから。セリフのようにもちろん歌わなきゃいけないし、でも、とはいえ、お客さんを巻き込むということを考えると、全部相手に向かって歌うということではなくて、前を向いて歌わなきゃいけないシーンもあるだろうし、どう演出されるのかなって、単純に興味があります。
ーー今回、二卵性双生児という役どころですが、お二人とも十月生まれという以外に共通点などあったら教えてください。
柿澤:僕が今着ているトレーナーは、さっきウエンツさんから誕生日プレゼントでいただいたんです。僕も何か用意しようかなと思ったんですけど、何ももってこなくて。どっちだろう、そういうのやらないタイプかなと思ったんですけど、今日そこにズレが生じました(笑)。
ウエンツ:KENZOの服をあげたんですけど、僕が今着ている服もKENZOなんです。だからつながりはKENZOです(笑)。全然デザインは違いますが同じブランドを着ようと思って。僕たちさみしがり屋というところは似てるんじゃないでしょうか。そこを、強がるか強がらないかというところで大きな差は出てますけど。
柿澤:強がるよね?
ウエンツ:僕は強がりますが、彼は強がらない。
ミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』
ーーお互いの役者としての印象はいかがですか。
柿澤:僕は、非常に器用だなと思っていました。劇団四季のミュージカルに子役のときから出ていたし、もともとのベーシックなスキルという意味では、歌も歌えるし、踊りは見たことないですけど踊れるだろうなと思いますし、加えてロンドンにも勉強しに行って、帰ってきて初めて出たのが、『スルース~探偵~』を書いたピーター・シェーファーの『わたしの耳』という作品で、それがすごくよくて。僕も前に出演したことのある『メリリー・ウィー・ロール・アロング』では、チャーリーという役を演じていて、それもよかった。僕には絶対にできないということを軽々できちゃうんですよ、芝居で。『わたしの耳』ではちょっと冴えない男の役で、モテたい、デートしたいんだけど結局なかなかうまくいかないと思っている、それをさらりと演じちゃう。僕だったらそういう風に演じられない、演じてみたいけどできないって思ったんです。『メリリー・ウィー・ロール・アロング』に関しても、ウエンツさんのチャーリーを観たら、自分だと絶対こういう風にはできないって、何かわかるんです。そこに真実があるから、彼を見ちゃう、動きを追っちゃうんですよ。非常に魅力的でしたね。
ウエンツ:僕今すごくほめられてました。ありがとうございます(笑)。僕はもともともっている、危うさとか、色気とか、それも全部技術に裏打ちされたものだと思うのですけど、それをもっている人にすごく憧れがあって、素敵だなと思うんです。柿澤くんがその上で違うのは、それをかわいさとかチャーミングさとかで覆える役者さんだと思うんですよ。色気がある人はいても、それをチャーミングさで隠せる人ってなかなか見たことがない。だからそれはすごく彼の強みだと思います。それと、さっきも言いましたけど、さみしいってことを言えるある種の強さ、それを剥き出しにできる強さがあるなというのはすごくうらやましいなと思う。僕はさみしいと思っても自分で表現できない人間ですから、うらやましいということも彼に一度も表明したことはなくて。そんなこと口が裂けても言いたくないっていつも思っているんで。今、取材だから言いましたけど(笑)。
柿澤:(笑)。
ウエンツ:人間性だけじゃなく、これまで培ってきた、お芝居が好きという一番根本の気持ちと真正面からぶつかる、それを年数が経っても続けられる人ってなかなかいないと思います。今回、柿澤くんだけじゃなく、他の方たちとも、ステージの上で役者として目が合う瞬間を今から心待ちにしています。
ーー役柄についてはいかがですか。
柿澤:この作品は子供時代、7歳とか8歳とかのところから始まります。ちょうど僕の甥がそのくらいの年齢で、近くに住んでいて、一緒に公園に行って遊んだりサッカーをしたりゲームをしたりしているんですけれど、その回数をもっと増やして、その動きや目線、しぐさを研究して真似たいなと。
ウエンツ:いいねえ。
ウエンツ瑛士
柿澤:もちろん、イギリスと日本の子供で違うかもしれないんですけど、でも、運がいいことに、そこにヒントはあるかなと思います。子供をやっている振りになっちゃうと多分すごくつまらない芝居になると思うんですよね。そこは鋼太郎さんが全部見抜いてくれると思うんですけど。あとは、芝居をしたときに役者同士の間で生まれるものを楽しむという感じで。「演技する」みたいなことはしなくてもいいんじゃないかなと。リンダ役の木南晴夏ちゃんもすごく魅力的なリンダになるだろうし。だから、僕もそこに一緒にいられたらいいなと思うし、そこが多分一番楽しいところだろうと思うので。悲劇的な役どころではありますが、狂気的にやろうとか、すごい芝居をやってやろうとか、そういうことは一切ないですね。
ウエンツ:役に関して言えば、大人時代を先に作るのか、子供時代を先に作るのか、台本をちゃんと読んだときにそこだけ決めようと思っています。結末から作っていく、こういう人になっているということはその芽は子供時代にあった、そういう作り方なのか、こういう子供だったからこういう大人になっていったのか、出来事やセリフを見て考えたいなと。幼少期から始まって、役柄の年齢の幅がここまである作品は初めてなので。この前に出演した『メリリー・ウィー・ロール・アロング』も、年数が流れるものではあったんですが。キーとなるセリフやポイントがあったとして、もちろん、そこがキーであるという風には見せないけれど、そこから逆算するか、どうするか、これから考えようと思っています。
ーー作品の魅力についてお願いします。
ウエンツ:今回のキャストと演出家、そして物語から言って、毎公演毎公演、ステージ上で起こる化学変化がすごくあると思うんです。役柄は決まっていても、役柄として感じることに柔軟に動いていくということが往々にして起こるステージになると思うので、その瞬間を見逃さずに、ぜひ、劇場に来て欲しいなと思います。非常に観る甲斐のある芝居になると思います。
柿澤:こんなに笑えて泣けてという要素があるミュージカルはなかなかない気がします。「泣かせる」という言葉はあまり口にしたくはないんですが、僕とウエンツさんが演じる双子の止められなかった運命、悲劇の展開については、「泣かせる」という言葉でしか表現できない、その自信があります。音楽に関して言えば、いわゆるグランド・ミュージカル的な感じではなく、芝居から入る、芝居上そのとき思っていることや感じていることから歌に入っていく。それはもちろんミュージカルの基本なんですけれど、鋼太郎さん演出なので、きっと本当にしゃべっているように、語っているように見せるミュージカルになると思うので。ご覧になっていただければ、心の浄化、発散になると思います。劇場でお待ちしています。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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