moon dropインタビュー 大きな変化
や新たな発見とともに誕生した、1st
フルアルバム『この掌がまだ君を覚え
ている』を紐解く

愛だの恋だのラブソングだけを歌い続けるバンド・moon dropが1stフルアルバム『この掌がまだ君を覚えている』を2022年1月19日にリリースした。

シチュエーションが異なる全11篇のドラマチックなラブストーリーが詰め込まれた今作が完成するまで、そして初のワンマンライブを含むツアーに向けて、2021年の振り返りとともにたっぷりと語ってくれた。
──2021年はどんなことを考えながら過ごしていましたか?
浜口 飛雄也:いろいろな制限はありましたが、ライブの本数がめちゃくちゃ変わったわけでもなかったし、僕らは延期公演も少ないほうで……そういったところであまり窮屈な感じはなかったけど、やっぱり前よりもステージとお客さんの間に物理的な距離があって。ただ、個人的には、お客さんも、やっている僕ら側も、前よりももっと曲に真正面から向き合えた感じがすごくありましたね。だから歌を見つめ直せた期間になったかなと思います。
──前回の取材で、自分たちは曲を大事にしたいから、ライブでは無理に盛り上がる感じではなくて、落ち着いて聴いてくれてもいい、というお話をされていましたよね。実際にそこを見つめることができた1年だったと思うんですが、どんなことを思いましたか?
浜口:なんだろう……もっと自分勝手に歌いたいなと思いました(笑)。お客さんの反応に左右されるんじゃなくて、自分の反応でメンバーがドキドキしてくれたら嬉しいなって。
坂 知哉:飛雄也を見ていて、歌を大事にしていたのはすごく感じていたし、歌をもっと聴かせていこうという話をミーティングでもしていたので、ライブをする上での意識はだいぶ変わりましたね。ライブ後の反省会も、前よりはちょっと増えたのかなと思います。
清水 琢聖:なんていうか、コロナ禍に入る前よりも、ちゃんと演奏するようになった気がしますね(笑)。もともと僕らはメロディックバンドとやることが多くて、熱量を全面に押し出したライブで、結構ぐちゃぐちゃとなるシーンも多かったんですけど、曲を大事にしつつ、ちゃんと弾きつつ、みたいな。
浜口:確かに。俺、ギター弾いてなかったから(笑)。
清水:ずっと開放弾いとったからな(笑)。飛雄也も前は叫んでいたことが多かったけど、歌と向き合っていたし。なので、制限のある中で、どうお客さんに届けるか?っていうことをやっぱり考え続けていた1年だったと思います。
──今まで以上に曲と真正面から向き合うライブをすることで、お客さんの反応も少しずつ変わってきました?
清水:どうなんだろう、僕らのライブってフロアはそこまでぐちゃぐちゃにならないので、あまり変わらないのかなぁ。
──浜口さんとしては、お客さんがどういう反応をしているのかを探るというよりも、まずは自分が思うように歌うことを大切にされていました?
浜口:最初はそういう気持ちで歌っているんですけど、マスクをしていても表情はわかるんですよ。それでお客さんの顔を見ていると、涙が出そうになるときもあって。そこを治したいですね(笑)。
──「自分勝手に歌いたい」というのは、そういう意味なんですね。お客さんの表情にグっと来てしまって、引っ張られてしまうというか。
浜口:そういう意味では、(お客さんに曲が)ちゃんと伝わっているんだなっていうのは、こっちにも伝わってきていて。でも、そこはあまり気にしないでやりたいなっていう気持ちもあるので、自分勝手に歌ってます(笑)。
──なるほど。原さんとしても、2021年は歌を大事にというのを意識しながら活動していましたか?
原 一樹:そうですね。ライブ面でも、ドラムをどうすると歌が映えるのかというのを考えることが増えましたし、制作も結構長い期間していたんですけど、そっちのほうでも歌が映えるドラムというのを考えていました。
浜口 飛雄也(Vo/Gt)
──そのまま今回リリースされた1stフルアルバム『この掌がまだ君を覚えている』のお話に行こうと思うんですが、いつ頃から作り始めていたんですか?
原:4月ぐらいからですね。
──前回のインタビューのときに、アルバムを作るときは、まずは全体像をあまり考えずに浜口さんが曲の種を作って、坂さんが構築していくというお話をされていましたけど、今回もそこは同じく?
浜口:そうですね。アルバムとしての作り方はそこまで変わっていなかったですけど、曲の書き方はちょっと変わったところがあって。
──どんなところが変わりました?
浜口:今までの曲は実体験がほとんどで、自分の身に起こったことをそのまま歌詞にしていたんですけど、今回は全11篇の短編ドラマを詰め込んだというか。曲を作るというよりは、物語を書いていくイメージで作っていて。なので、実体験ではなく、想像で書いた曲も多くなったんですけど、そこは自分的にすごく大きな変化だったし、すごくしっくりきていて。今後にも活かせそうだなと思いますね。
──そういった中で、本作はキーボーディストのSUNNYさんがプロデュース、かつ編曲もされていて。バンドサウンド+αの部分がかなり増えましたが、そういう部分をお願いしたかったところもあったんですか?
浜口:そうですね。基本的にはみんなで大方作って、SUNNYさんに投げるという感じだったんですけど、ストリングスとかを入れたいっていうのはずっと思っていたんですよ。ようやく自分が追っていたところに一歩近づけたし、SUNNYさんのアレンジがmoon dropの音楽にものすごくハマったから、SUNNYさんに絶対的な信頼もあって。すごく満足してます。
──坂さんはSUNNYさんと作業してみていかがでした?
坂:新しい発見があっておもしろかったですね。たとえば、このセクションは1小節だけ伸ばそうとか、そうするとCメロがもっと際立つとか。自分じゃ思いつかなかったアレンジを初めて聴いたときに、なるほどと思いましたし、すごく勉強になりました。
──坂さんは以前、シャッフルが得意だと思っていたら苦手だったというお話をされていましたけど、今作もシャッフルナンバーがありますよね。
坂:アルバムの中で一番シャッフル感が強いのは「Uとピュア」だと思うんですけど、そっちはうまくいったんですよ。でも、「ラストラブレター」はBPMが速くて難しかったですね。(BPM)200ぐらいでシャッフルだと、もうシャッフルなのかそうじゃないのか、どっちなんだろうって(笑)。いま練習してます。
──「ラストラブレター」はホーンが入っていたり、後ろで鳴っている鍵盤もかなりおもしろくて。
浜口:最初聴いたときにびっくりしました(笑)。こんな華やかな曲は作ったことがなかったので。ただ、最初に歌とギターだけで作っていたときも、バンドサウンドだけじゃ完成しない曲だろうなというのがすごくあったし、それがアレンジによって、想像以上にいい曲になりました。アルバムの中でも、みんなでスタジオに入って作っていたときから完成後の振り幅がすごく大きかった曲ですね。
──清水さんは、SUNNYさんと作業してみてどんなことを感じました?
清水:SUNNYさんが「そっちよりもこっちに行ったほうが気持ちいいかもね」ってフレーズを提案してくれたところもあったんですけど、「琢聖くんの好きなように弾いてくれちゃっていいよ」という感じでもあったので、勉強できたところもありつつ、結構自由に弾かせてもらえて。今回の制作はすごく楽しかったですね。
──基本的には自由に弾いていいよという感じだったんですね。
清水:そうですね。僕は丁寧に弾くのを禁じられていたというか……いや、禁じられていたわけでもないんですけど(笑)、僕がもともと丁寧に弾くタイプでもないんですよ。それをわかってくれて、もっと“ぽく”して欲しいというか。「もうちょっと“ぽく”いけるよね?」って(笑)。
──それは自分らしくということですか……?
清水:いや、僕らもいまいちよくわかってなかったんですよ(笑)。そのまま制作が終わったんですけど。
坂:それが何かはわからないけど、「いまのぽかったね!」っていうときのテイクは、確かに!って思うんですよね(笑)。
清水:「さっきのテイクのほうがうまかったけど、こっちのテイクのほうが“ぽい”から使っておくね!」とか(笑)。
浜口:琢聖節みたいなところやな。
──個性をすごく大事にしてくださるんですね。個人的に「この雪に紛れて」のギターが気持ちよかったし、弾いていて気持ちよさそうだなと思ったんですが。
清水:この曲のギターが一番難しかったかもしれないですね。今までにないコード感だったので、すごく苦戦したというか。歌詞の世界観だったり、転調の仕方だったり、どう色づけしていこうかなという感じでした。
清水 琢聖(Gt)
──原さんはいかがでした? SUNNYさんと作業をしてみて。
原:自分はドラムのフィルにあんまり引き出しがなくて。ワンパターンになっちゃったり、結構長期間考えないと出てこなかったりするんですけど、そういうのひとつとっても、SUNNYさんから出てくるものは、やっぱり全然違うなと思って。そういうところは一緒にやっていて勉強になりましたね。
──特にアドバイスでおもしろいなと思った曲というと?
原:「Uとピュア」は、自分的にもハットを場面場面で変えたかったんです。1番と2番で同じものにしたくなかったんですけど、2Bの三連のフレーズをSUNNYさんが出してきてくれて。それは自分では思いつかなかったのですごいなと思いました。
──確かにこの曲のドラム、キックにしろ、スネアにしろ、細かいフレーズがおもしろいですね。
原:そこはかなり意識して作っていました。
──先ほど、物語を書くように曲を作ったというお話をされていましたけど、「doubt girl」は他の曲とテンションが違うといいますか。すごく下衆い質問をすると、これは実話なのかな……と思ってしまう歌詞ではありますよね。
浜口:あはははは(笑)。そうですね。バンドマンならではの悩みみたいなものを代弁して歌ってやるぜ!っていう曲です(笑)。
──全バンドマンが深く頷くであろう曲(笑)。
清水:俺、そんなことないけどな(笑)。
浜口:違った?(笑)
──ただ、バンドマンの物語が描かれてはいますけど、「仕事と私」とか「友達と私」みたいな天秤にかけられてしまうところに通じるというか。
浜口:そうですね。この曲、最初はバンドサウンドだけでやっちゃう感じで作っていたんですけど、SUNNYさんのアレンジがすごくよかったので、いまの形にしてますね。物語を作った曲ももちろんあるんですけど、実体験を書きたいときは書いていたので、そういう曲もアルバムの中にはありますね。
──アルバムの中でいいスパイスになっているなと思いました。そこから続く「君と夜風」は、バンドのみで編曲されていますけども、この曲もすごくいいですね。切ないし、儚いし、〈君が泣いた夜に初めて 心の中まで分かったような気がした〉という歌詞にもグっときました。
浜口:ありがとうございます。この曲は、今までのmoon dropの曲をそのまま連れてきたイメージというか。前回出したアルバムのシークレットトラックのバンドバージョンみたいな感じで、歌詞も一緒という。
坂:『拝啓 悲劇のヒロイン』を出したときには、レコーディングし終わっていたんですよ。でも、そこに入れず、今回レコーディングもアレンジもし直した曲ですね。
──作り直したかったところというと?
坂:バンドアレンジ自体はそこまで変わっていないんですけど、琢聖のギターはほぼ全部変わったよね?
清水:いや、ところどころかな。みんながワガママに付き合ってくれました(笑)。
──なぜまた録り直したかったんですか?
清水:イントロのフレーズを変えたかったっていうのが一番大きかったですね。前のやつを改めて聴いてみたら、あんまりかっこよくないなと思って(笑)。
──いまならもっといいものが弾けると。「ゆれる」もバンドメンバーのみで編曲していて。
浜口:この曲はすごくすっとできました。ひとりでお酒を飲みながら、ポロポロ歌っていて。生活感とかもすごく出ている感じなんですけど。
──確かに。ひとりになったときに感じる寂しさや孤独な気持ちに寄り添ってくれる感じもあって。
浜口:飲みに行った帰りに、頭がふわふわしているときとかに聴いてもらいたいですね。帰り道とかにひとりで聴いて、孤独になってほしいです(笑)。
──(笑)。なぜまた孤独にさせたいんです?
浜口:僕がラブソングを好きなのって、言い方は悪いんですけど、傷の舐め合いみたいな感じというか……浸りたいっていう気持ちが結構強くて。僕はそうやってラブソングを聴いていたから、同じように聴いてもらいたいなって。特にこの曲は浸ってほしいなっていう気持ちが強いです。
坂 知哉(Ba/Cho)
──アルバムに収録されている11篇の物語は、それぞれシチュエーションがかなり異なりますけど、浜口さんとしては、物語を書くにあたって不幸せなもののほうが書きやすかったりします?
浜口:そこはあまり気にしたことがないんですよ。ただ、自分の気分で書いてしまうので、時期によって偏ってしまうところはあるかもしれないです。今までのアルバムを聴くと、このアルバムの自分は残念やなぁ……みたいな。
──残念?(笑)
浜口:残念というか(笑)、不幸せな気分が続いていたんやろうなっていう。作っているときはあまり気にしていないんですけど、後々聴き返したときに、それでまたいろんなことを思い出すっていう。でも、それはそれでまあいいか、みたいな。
──なるほど。悲しい気持ちでいるときに、自分を励ます感じで明るい曲を作るのではなく、悲しい気持ちのときは、悲しい気持ちをそのまま書く。
浜口:そうですね。そこはそのまま曲に出ます。
──そういう意味ではめちゃくちゃ生々しいですね。
浜口:そこは曲だけじゃなくて、ライブでも出ちゃうんですよね。なので、新しい曲が送られてきたときとか、ライブのときとか、メンバーはいろいろ勘ぐってると思います。
清水:めっちゃ勘ぐりますね(笑)。
──(笑)。何かあったのかなという。そういうときってどうするんです?
清水:いや、特には何もしないです(笑)。もう好きにしてくれっていう。
浜口:僕からも何も言わないので(笑)。
──原さんは、ライブのときに歌っている浜口さんを後ろから見ていて、あがっているときと落ちているときって、結構差を感じたりします?
原:どうだろう……なんか、落ちているときというか、何かあったのかな?っていうのはすぐにわかりますね。
坂:僕としてはヘコんでいる日が好きなんですよ。より正直というか。毎回違うことをやってくれるほうが、こっちもやっていて楽しいし、そういうバンドが僕は好きなので。
清水:でも、言ってもライブ中にずんと沈んでいるわけではないですけどね。落ちているときは、それがそのまま出ちゃうんですけど、本当に何もないときはアホみたいなMCしてるときもあるし。
一同:あははははは!(爆笑)
清水:「お腹空きましたね〜」とか。何そのMC!?みたいな。
──めちゃくちゃ本能的にしゃべってますね(笑)。
浜口:ヘコんでいるときも、気分がいいときも、どっちにしろ反省してますね(笑)。落ち込むのと、恥ずかしくなっちゃうのと、なんか気持ち悪いなっていうのと(笑)、いろんなものが混じって、家に帰ってお風呂の中で考えたりしてます。
原 一樹(Dr)
──自分の中での改善点があると。2月からは本作のリリースツアー『あの街ラブストーリー』を予定されていますけども、2022年はどんな1年にしたいですか?
浜口:僕は変わらずにいい曲をどんどん書いていきたいというのが一番ですね。あとは4人で伸び伸びとライブができたらいいなと思っています。
清水:いま決まっている一番大きなことでいうと、初めてワンマンライブを東名阪でやるので、それが楽しみでもあり、このツアーでそこに向けてどう磨き上げていくのかというところだったり。そこは楽しみですし、もっと“ぽい”ギタリストになりたいです(笑)。
──自分を確立させるということですね。実際にワンマンになると、またやりやすくなりそうな感じがしますね、これだけの曲があると。
清水:まだやったことないからわからないところもあるんですけど、セットリストの組み方とかもたぶん変わってくると思うので。でも、やれる曲は増えるので、最近やれていない昔の曲もやりたいですね。ワンマンには、昔から聴いてくれている人だったり、最近来てくれるようになった人だったり、いろんな人が来てくれると思うので、いろんなmoon dropを見せつけたいです。
坂:今回のツアーで行く場所は、今まで何回かライブしている場所も多いので、変わらずにいいライブを4人でしたいっていうのはあります。あと、このツアーでもっとたくさんの人にmoon dropが届けばいいなと思っていますね。
──ワンマンは楽しみだったりします?
坂:めっちゃ正直に言うと、僕は不安のほうがデカいです。対バンがいないのも寂しいし、ワンマンってどういう感じでやるんだろうって。結構不安じゃない?
清水:うん。
坂:もちろん楽しみはあるんだけど、同じぐらい不安もあります。やっぱりやったことないんで。
原:僕も不安ですね。まず、このツアーが結構不安で。最近、同期をちょこちょこ使っているんですけど、僕が操作しているので、ちゃんと使いこなせるかっていう不安はちょっとあって。このツアーでちゃんと使いこなせるように頑張ります。
──浜口さんは、ワンマンはどうです?
浜口:僕はすごく楽しみです。たぶん、メンバーの中で僕が一番何も考えていないので(笑)。でも、すごくいいアルバムができて、すごく大好きな曲がいっぱい増えたから、それをライブで早く聴いてほしいという思いがすごく強いです。そういう意味では、ワンマンもそうだけど、ツアーの全ヶ所すべて楽しみですね。どこまで行けるかなってワクワクしてます。

取材・文=山口哲生

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