SHAKKAZOMBIEの
メジャー1st『HERO THE S.Z.』の、
ポップさとスリリングさを
同居させた構成力に完全脱帽

人気アニメにも用いられた
リリックの汎用性

その辺はM12「この手につかんだ真実」、M13「共に行こう」でも継続されていく。M12のリリックは間違いなくラブソングだろうが、エレキギターのアルペジオによるキャッチーだが繊細な音色が、リリック以上に雄弁に叙情を物語っているようだ。歌詞は前向きな内容だが、綺麗事だけを前面に出していないところがいいし、むしろ力強さを感じるところだ。

《一緒にいよう ずっとずっと/この手につかんだ真実/この君に見えるかい? オレ達の未来/二人の愛 この海より深い/君に映るかい? この夢の世界/視界ゼロでも必ず明解》(M12「この手につかんだ真実」)。

M13は本作中、最もサウンドが混沌とした楽曲と言っていいだろうか。基本はジャジーなピアノのループだが、そこにストリングスが絡んだり、ドラミングも変則的であったりと、ごちゃごちゃしている…というと語弊があるかもしれないけれど、決して綺麗なだけにまとまっていない。しかし、そのトラックをものともせず──という言い方が適切かどうか分からないが、2MCのラップがグイグイと畳みかけていく。ラップが楽曲の推進力を担っている。

《オレ達の行く手をはばむ何かがあるだろう/しかし 夢をあきらめる訳にはいかないよ/自分の力を信じよう 共に行こう》(M13「共に行こう」)。

まさにリリックを体現したような楽曲と言ってよかろう。繰り返すが、ポップだと言ってもそれは単に耳障りがいいというだけでなく、リリックを含めて、その楽曲で伝えるべきこと、訴えるべきことをSHAKKAZOMBIEならではの手法で形作っている。その意味で本作『HERO THE S.Z.』はヒップホップ的だし、大衆的だったと言っていいのではないかと思う。

収録曲のリリックの奥深さを、もう一点、最後に記しておきたい。歌詞に関してやはり要注目なのはM4「空を取り戻した日」だろう。アニメ『カウボーイビバップ』の地上波放送の最終回で使用されたということで、SHAKKAZOMBIEのファン以外にも知られるようになったようだ。

《薄れてゆく真実の輪郭 威嚇し合う不安と希望の戦いは互角/見抜けない東京の錯覚 だまされりゃ失格/この古びた羽根は昔みたく 言うこと聞くかまったく分からず屈託/でも宙を舞う夢は抱く その生き方は二択/Ah 空が気になり眠れない 眠るふりもできない/これ以上 本当の言葉 人まかせにはできない》《いつの日かあの時の空取り戻し 迷える者同士 輪になり夜通し/語り合い忘れられない うつむいた日々を笑い飛ばしたい/生まれて初めて見た鮮明な希望 それは強い心に秘められた野望/無限に広がる青い世界へ逃亡 今、本当の空へ飛ぼう》(M4「空を取り戻した日」)。

歌詞の意味するところ、その詳細は粒さには掴めないけれども、《本当の言葉 人まかせにはできない》や《今、本当の空へ飛ぼう》辺りは、メジャーデビューを果たしたばかりの頃にSHAKKAZOMBIEのヒップホップユニットとしてのスタンスにも思える。また、それ以上の汎用性も十二分に感じられる。文学的で、哲学的だ。SHAKKAZOMBIEのポテンシャルの高さが凝縮されていると同時に、こうした作品が生み出された1990年代後半の日本ヒップホップシーン──まだ確立されたかどうか定かではなかった時期のシーンが、かなりハイクオリティであったことも分かる。その意味でも、『HERO THE S.Z.』は後世に語り継がれていくべき、歴史的名盤と言っていいだろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『HERO THE S.Z.』1997年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.OMEN
    • 2.Z.O.M.B.I.E.
    • 3.THE RETURNZ
    • 4.空を取り戻した日
    • 5.明日のため
    • 6.NON PHIXION
    • 7.WHO'S THAT?
    • 8.虹
    • 9.MAGIC
    • 10.FACE YOUR HAND TOWARD THE SUN
    • 11.信号
    • 12.この手につかんだ真実
    • 13.共に行こう
    • 14.REMAINS
『HERO THE S.Z.』('97)/SHAKKAZOMBIE

OKMusic編集部

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