びわ湖ホールで上演する歌劇『竹取物
語』の魅力を、オペラ歌手 幸田浩子
に聞く

日本人であれば、ストーリーを知らない者はいない『竹取物語』。びわ湖ホール芸術監督沼尻竜典が作曲したこのオペラが、2015年以来7年ぶりにびわ湖ホールで上演される。
2015年度 沼尻竜典オペラセレクション『竹取物語』より   写真提供:びわ湖ホール
主役のかぐや姫を、2014年の初演から演じて来たのは、日本を代表するオペラ歌手 幸田浩子。稽古の合間に、作品の魅力などを幸田に聞いてみた。

『竹取物語』リハーサル風景  (c)H.isojima

―― 2年越しの歌劇『竹取物語』の上演が目前に迫って来ました。幸田さんはかぐや姫を2014年の初演から演じておられます。
本当は2020年にびわ湖ホールと新国立劇場で舞台版としての上演が決まっていましたが、コロナで中止となりました。結局、びわ湖ホールだけのセミ・ステージの上演とはなりますが、関係者の皆さまのおかげで本年上演がかない、本当に嬉しいです。
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール   写真提供:びわ湖ホール
―― 歌劇『竹取物語』のかぐや姫と言えば幸田浩子さんのイメージが焼き付いていますが、今回ダブルキャストで砂川涼子さんも演じられます。お二人とも日本を代表するオペラ歌手ですが、ずばり、この役は技術的に難しいのでしょうか。
どうなのでしょう。まず、沼尻さんから歌劇『竹取物語』の構想を伺い、ご依頼頂いた際、「何の役ですか? 竹の役ですか?」みたいな所から始まっています(笑)。作曲段階から沼尻マエストロに、こんなメロディはどうかと確認して頂きながら曲が出来て行った経緯があるので、私は客観的に見れないと言いますか…。制作に携わる皆さんと一緒に作って来たので、技術的な難しさより、愛おしいチャレンジだと思って役と向き合ってきました。今回初めて私以外の方がかぐや姫役をやられますが、この大好きな作品がもっと演奏されて、広く知られるためには必要な事だと思います。素晴らしいオペラ人である砂川涼子さんがどんなアプローチで演じられるか、本当に楽しみです。
初めての かぐや姫 に挑む、オペラ歌手 砂川涼子  (c)Yoshinobu Fukaya
―― 歌劇『竹取物語』同様に、コロナには振り回されましたね。幸田さんはコロナによる自粛期間中はどうされていましたか。
しばらくの間は、ただなすすべも無くボーッとしていました(笑)。全ての仕事がキャンセルになって、歌うことから離れていましたが、時間が経過していくうちに自然と歌っていましたね。決まった仕事に追われて歌うのではなく、好きな曲を歌いたいから歌う、その作品を自分の身体に入れたいから歌うと云った感覚が学生時代と同じで、私はずっとこうやって歌って来たんだなって思うと、自分には音楽があって良かったとただただ感謝ですね。『ラ・ボエーム』や『四つの最後の歌』といった大好きな曲と改めて向き合えて、とても貴重な経験でした。
初演から かぐや姫 を演じているオペラ歌手 幸田浩子
―― 自粛期間を経て、少しずつ制限付きではありますがコンサートも再開されていきます。
久しぶりにお客様の前で歌った時は、感動して涙が出ました。お客様も待っておられたようで、とても喜んで頂けましたし、やはり活きた音楽は必要なんだと再確認しました。
―― 自粛期間中には、無観客演奏の流れからだと思いますが、リモート演奏が流行りました。幸田さんは従来からCD制作にも積極的ですし、YouTubeでも歌唱映像がたくさん上がっています。歌唱映像の再生回数は増えたでしょうね。
そうですね、会場にお越し頂けない方に音楽を届けるためにはそういったモノは重要ですよね。これまでに11枚のCDを出していますが、その時々に必然のようにレコーディングをしたい作品と出会ってきました。
―― 最新のCD『このみち』は、通算2作目の日本の歌のCDですが、最後に歌劇『竹取物語』のアリアが2曲入っています。日本の童謡や唱歌と同じように、かぐや姫のアリアを歌って欲しいという幸田さんの思いを感じました。
ありがとうございます。仰っていただいた通りです。歌劇『竹取物語』の音楽は、どれも親しみやすいメロディで、ホールを出た後に口ずさんで貰いたいという沼尻さんの思いが反映されています。凄く素敵な曲なので、気軽に皆さまに歌っていただきたいと思い、オーケストラでは無くピアノ伴奏で録音しました。ピアノパートは無理を言って沼尻さんに弾いて頂きました!!そちらもぜひお聴き頂きたいです。

CDに入っている「かぐや姫のアリア」は沼尻さんのピアノ伴奏です!!  写真提供:日本コロムビア
―― 『竹取物語』のストーリーは、誰もが知っています。あらすじを説明しなくていいというのはオペラとしては強いですね。

そうですね。皆さまご存知の「かぐや姫のお話」が見事に再現されています。曲はもちろん素敵ですが、上演台本として魅力的にまとめられた沼尻さんは、本当に凄い方です。團伊玖磨さんの『夕鶴』と同じように、和モノのオペラを代表する作品としてもっと上演されると良いですね。オペラは初めてという方や、子どもさんには特にお勧めです。この作品からオペラの世界に入れば、きっとオペラのことを好きになり、リピーターになって頂けると思います。
―― モーツァルトのオペラで言うダ・ポンテやメタスタージオの役割のように、上演台本は重要です。歌劇『竹取物語』ですが、2014年の初演は演奏会形式として上演され、2015年には舞台版のオペラとして生まれ変わりました。そして今回セミステージとしての上演となりますが、全く違ったモノになるのでしょうか。
2020年には、オペラとして上演する予定だったのですが、今回コロナによる制約からセミ・ステージでの上演に変更になりました。演奏会形式と言えば、オーケストラはステージ上にあり、歌手はその前で指揮者の横に譜面台を並べて歌うスタイルです。今回もオーケストラは舞台上ですが、オーケストラの前にアクティング・エリアがあり、そこで歌手は衣装を着て、簡単な演技や動きをしながら歌います。合唱はオーケストラの後ろに配置。ワーグナーのオペラでもお馴染み、びわ湖ホールが得意とする照明や映像の演出もあるそうなので、本格的なオペラと言っても差し支えないモノに仕上がるのではと、私達も楽しみにしています。
2015年度 沼尻竜典オペラセレクション『竹取物語』より   写真提供:びわ湖ホール
―― 幸田さんはCDでも日本の唱歌やJポップスなんかも歌われていますし、歌劇『竹取物語』のかぐや姫はイメージ通りなのですが、意外にも『夕鶴』はやられていないそうですね。
皆さん意外と言われますが、そうなんです。邦人作曲家のオペラへの出演は、これまで5本くらいですね。顔立ちが“和”な感じなので、そう思われるのかもしれません(笑)。
『竹取物語』リハーサル風景  (c)H.isojima
―― イタリアへの留学や、ウィーン・フォルクスオーパーでのご活躍からも、帰国された後、モーツァルトやリヒャルト・シュトラウス、イタリア物全般でご活躍なのは、もちろん存じ上げております。この先、やってみたい役などはありますか。
引退する時はプッチーニの『ラ・ボエーム』とだけは決めています。大好きなオペラですが、実はまだやったことがありません。
―― えー、ミミやられたこと無かったでしたっけ。『夕鶴』よりそっちの方が意外です。
これまで『魔笛』夜の女王、パミーナ、『ばらの騎士』ゾフィ、『こうもり』アデーレ、『リゴレット』ジルダなど、色々とやらせて頂きました。新しい挑戦としては、つい先日『こうもり』のロザリンデを演じて、とても楽しかったです。さらに『ナクソス島のアリアドネ』のツェルビネッタを今やったら、きっとまた違ったアプローチができるかしら…と、自粛期間中は、そんな事を考えて、楽譜を取り出して歌ってみたりしましたが、やはり『ラ・ボエーム』は特別な作品です。いつかミミを演じられる日までがんばります(笑)。
もちろん歌劇『竹取物語』かぐや姫も、これらの作品に並ぶほどの特別な作品です。今回も大切に努めたいと思います。素晴らしい共演者の皆さまと美しいびわ湖ホールで、万全な感染対策を施して、皆さまのお越しをお待ちしています。
皆さまのお越しをお待ちしています!  (c)H.isojima
―― 幸田さん、ありがとうございました。

この歌劇『竹取物語』には、親しみやすい “昭和歌謡” のような音楽も入っているが、ラスト、かぐや姫から贈られた「不死の薬」を、帝が月にいちばん近い山で焼いて、月に返そう!と歌ったのを受けて、全員で「不死の薬を焼く山を、我らはふじの山(富士の山)と呼ぼう!」と大合唱になる場面は、感動する事間違いなし。
『竹取物語』リハーサル風景  (c)H.isojima

月よりの使者 八木寿子、帝 松森治、媼 森季子、合唱メンバー 船越亜弥 (2021年度日本音楽コンクール声楽部門優勝)左より   (c)H.isojima
もちろん調性音楽で、美しいメロディが多く、誰もが耳に馴染む曲となっている。中には、ドリフターズやクレイジーキャッツを彷彿させる音楽もあって、ついニヤッとしてしまうシーンも。かぐや姫に対する5人の求婚者の一人、大伴御行役のバリトン晴雅彦が歌うアリアは、沼尻自身が晴を想定して書いた音楽だそうで、晴は確かな技術に裏打ちされた軽妙な持ち味で、客席を大いに笑わせてくれる。

幸田浩子と共に、初演からずっとこの作品に出演してる晴雅彦は次のように語る。
「私は光栄なことに、初演から国内公演はずっと同じ役を演じさせて頂いておりますが、毎回ベストを尽くして演じております。初演は演奏会形式でしたが、前回は舞台形式で、今回はセミステージ形式と、新たな演出の中で新たに役を作り上げて行く過程を楽しんでいます。また、共演の方々と作り上げていく事で毎回新たな発見が有り、日々視野が広がり、役柄に深みが増していれば嬉しく思います。かぐや姫は、地球上の人間ではなく月の女性として、神秘的で汚れ無き姫という感じが、幸田さん、砂川さんお二人の美声と気品から、見事に表現されています」
初演から大友御行を演じるオペラ歌手 晴正彦  (c)H.isojima

2015年にびわ湖ホールで上演された歌劇『竹取物語』はチケットも即完売。大変話題となり「第13回三菱UFJ信託音楽賞奨励賞」受賞へと繋がった。
待ちに待った再演は、幸田浩子と砂川涼子という日本を代表する二人のオペラ歌手が かぐや姫 を演じる豪華版。そしてオーケストラ演奏は前回同様、日本センチュリー交響楽団。沼尻竜典が6年にわたり首席客演指揮者を務めた旧知の間柄だ。
あなたはどちらの かぐや姫 を選ぶのだろうか。
取材・文=磯島浩彰

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