女性版『Equal-イコール-』田村芽実
&めがね&稲葉賀恵インタビュー~「
存在を認めてほしい」という切実な願
いを ──

2014年に末満健一が書いた『Equal-イコール-』は、男性のふたり芝居だった。大阪の小劇場で上演された後、東京、ソウル、リーディング公演など繰り返し上演されている。今回初めて女性版に改編し、ミュージカルを中心に活躍する田村芽実とYouTuberのめがねによって2022年1月19日(水)~1月23日(日)に新宿シアタートップスで上演される。演出は、文学座の稲葉賀恵。3人の女性達は頭と心と体を突き合わせながら、この戯曲に向かっている。
18世紀末期のヨーロッパの田舎町を舞台に、「錬金術」を巡りふたりの女性が過ごした7日間とは…。稽古も中盤を迎えた3人に話を聞いた。

■俳優と演出家が、自由で対等な稽古場を
──演出の稲葉さんから見て、2人の印象は?
稲葉 両極端なんですけど、どっちも素直なんですよね。私、揺らぐ人……芝居をしていて嘘をつかないで揺らいじゃう人が好きなんですが、2人はしっくりこない時に素直に揺らぐんです。2人はダイレクトに相手に果敢に挑戦することを臆さないし、ちゃんと自分で考えてチョイスができる。だから一緒にチャレンジができるし、年齢の違いも感じずに対等に話せると感じさせてくれるので、素敵だなと思っています。
めがね 嬉しい。ありがとうございます!
稲葉 それぞれについて言うと、田村さんは感覚が鋭くて正直なんですよね。それって希有なことで、芝居で嘘をつく時は全力で嘘をつく。すごく良いことです。あと、瞬発力があるので、場をガラっと変える思い切りの良さがすごく信頼できる。「あ、この人だったらたぶんやってくれるな」って。
田村 えっ、嬉しい。
めがね 相方が褒められている。嬉しいな。
稲葉 めがねちゃんはすごくクレバー。頭で考えて解釈していく深度が深くて、「こういうふうに台本を読んだんだ!」と発見させてくれます。演出者の目線があるんだと思います。
田村 そうなの。2人演出家がいるみたい。
めがね そうなのかなぁ?
稲葉 きっと頭で考えていることに身体がまだ追いついていないことも自覚している。それは良いことですよ。自分がなにをすれば悩みが解決するかハッキリしているということだから。2人とも「自分はなにができていなくて、なにが釈然としていないか」を自覚している。そうそうできることではないです。
稲葉賀恵
めがね 賀恵さんってすごく話しやすいけど、実は初めて会った時はかなり緊張したんですよ。目力が強いし!
稲葉 目、こわいよね。よく言われる。
めがね 迫力がある(笑)。でも最初の頃に、私が舞台経験がなくてどうしたらいいのか悩んでいたら、賀恵さんが雑談のなかでぽろっと「俳優だけは信じられる」と言ったんですね。その時に「この人、すっごく信じられるな」と思った。しかもその日の夜に賀恵さんが「なんでも言っていいですからね」と声をかけてくれたんです。きっと私が遠慮しているのに気づいていたんでしょうね。すごくありがたくて、緊張している気持ちをLINEでお伝えしたら、翌日の稽古終わりにお話させてもらえる機会を設けてくれました。そこからは自分の意見や悩みを発信することを受け入れてもらえる場所だなと感じて稽古しています。
稲葉 よかったです!
めがね あの言葉にはとても救われました。本当に大好きです!
田村 私も賀恵さんのことが本当に好き。もし私が演出家なら、自分のことを「この小娘なんなんだ!」って思っちゃうくらい生意気だろうなと思うのだけど、賀恵さんは自分の考えや思いを自由に発言できる空気を作ってくださるので本当にありがたいです。
稲葉 たぶん俳優と演出家って、舞台の上にいる人と外側から見ている人というふうにセクションが違うだけな気がしているんですよね。作品が主体になるためには、お互いの職能をもとにそれぞれが意見を言い合える状態になれればと思っています。

■真逆な2人が演じるから面白い
めがね
──出演者のおふたりは、お互いの印象は?
めがね 賀恵さんも言うように、めいめい(田村)はすっごく場の空気を変えてくれる。私はすぐに緊張しちゃうから「あ~ヤバイどうしよう。距離感を間違えたかな」とか「これぐらい生意気なことなら言ってもいいかな?」とかいろいろ考えているんだけど…
田村 え、緊張してたの?
めがね してるよ! だから稽古の初日にめいめいが稽古場に入ってきた時のインパクトはすごかったの。ちょっと張りつめていた場の空気をパッと変えて、「ここって楽しい現場ですからね!」という雰囲気にした。その瞬間から私は「あ、この現場は言っていいんだな、やっていいんだな」と安心した。あと、この間の稽古で賀恵さんがめいめいに「こういうふうに言って。そうしたらめがねちゃんがこう動いて…」という演出をしたんです。でも私は心が動かなかったから、ドキドキしつつもあえてちょっとふざけながら「いや、今のめいめいの言葉やったら動かれへんわ」と言ったら、めいめいはすぐに「やんな。わかった、ごめん!」ってノリを合わせながら返してくれて、すぐに次のシーンの時にトライしようという姿が見えたんです。めいめいのおかげで「芝居をよくするためにはもっとこう来てよ」と言える関係でいられる。そしてそう言い合える空気を賀恵さんが作ってくれている。
田村 そっかぁ。私がリラックスできるのは、めがねちゃんが私のお姉ちゃんにそっくりだからかも。
めがね えー!
田村 顔とかしゃべり方じゃなくて、頭脳派なところや、関係性が似てる。すごく居心地が良いし、ずっと一緒に喋っていられる。たまに、うんうんと聞きながらも無視している時もあるんですけど。
めがね え、そうだったんだ!?
稲葉 してる、してる。
田村 それぐらい心地いいんです。私の方がひとつ年上なのに、甘えさせてもらってる。でも、自分とは対極な人なんですよね。だから『Equal-イコール-』という作品をめがねちゃんと一緒にやることがしっくりくるんですよ。プロデューサーさんが、似たもの同士でやらないことに意味がある。というようなお話をなさっていて、今ならその意味がよくわかります。真逆だから良い。稽古をしていると「私達がやる意味ってこういうところにあるんだな」と肌で感じます。
田村芽実
──この配役での面白さは?
稲葉 すごく面白かったのは、プロデューサーが「配役は最初の読み合わせの印象で決めたらいいよ」と言ってくださったこと。実際に初めて2人のやりとりする声を聞いた時に「絶対にこの配役だ」という組み合わせがわかった。
田村 ハマりましたよね!
めがね ね、読んでて「こっちだな」と思った。
稲葉 両極端な2人がこの作品を演じる面白さも感じたなぁ。
めがね 本当に真反対だよね。だからめいめいのことが羨ましいけど嫉妬はしないし、尊敬しているし、好き。似ているところなんて身長と髪の長さと足の長さくらいじゃないかな。腕は私の方が長いよ。
田村 なにそれ(笑)。
稲葉 まったく似てないけどどちらも素直で陰キャでよく喋るかな。ちゃんとコミュニケーションとりたいんだなと。
田村 お喋りですよね!自分よりお喋りな人って初めてかも。それがすごく心地良いから、ずっとめがねちゃんが喋ってるのを見ていたくなっちゃう。
めがね 永遠に喋ってるよね(笑)。
──もともと男性のふたり芝居ですが、女性版にしてみていかがですか?
稲葉 最初は「私にできるかな?」と思っていました。今となってはまったく違和感がないですね。ただ作品の印象は変わっていて、たとえばテオは医者という設定ですが、18世紀末に女性が医者であることはほぼなかったと言えるほどハードルが高い。だからこそテオは、この時代に女性で医者になるほど強い使命感がある人間だととらえています。きっと面白くなりますよ。
──舞台美術・衣装・小道具などもこだわられていますね。
田村 衣装と小道具は18世紀ヨーロッパを感じるんですが、美術セットはかなり変則的なんですよ。設定は普通の屋根裏部屋なのに、いびつな傾斜があったりする。劇場に入ったらどんな感覚になるんだろうな。
めがね すごく不思議な感じだろうけど、きっと美しいよ。

■『自分の存在を認めてほしい』という願い
田村芽実
──稽古期間が半分ほど過ぎました。現段階での課題や目標は?
田村 課題はありまくりだよね。
めがね だね。私はもっとめいめいにきちんと声をかけたい。めいめいの台詞が心に響いてウゥッとなることがあるんですが、私もそれ以上に伝えられるようになりたい。
田村 私は…何が課題かがまだ洗い出せてないほど、大量に課題があるんですよね。いつもは自分の目標を立ててそこに向かっていくんですが、こんなに目標が立てられないことはなかなかないです。
稲葉 大丈夫だよ。本当に大丈夫。
めがね うん、めいめいは大丈夫だよ!
田村 自分では課題が山積みなんですけどね。賀恵さんは「絶対、大丈夫だから」といつも言って、高いところへ連れていってくれる。もっともっと高いところへ連れていってもらうためには、やっぱり自分から出せるものがないといけない。もう、この作品のためだけに命をかけて生きる暮らし方をしないといけない。
稲葉 僧侶じゃん(笑)。
田村 僧侶になった気持ちにならなきゃできないなと! いつも公演のたびに「死にそうになるくらいやらないと、私は舞台の神様に地獄に落とされちゃう」って思っちゃうんですよ。それは精神的にしんどいから、逃れるために稽古後にスマホをイジったりしちゃうんですけど、本当はそうしている時間も作品のために当てなきゃと思う。ご飯を作る間も、お風呂に入る間も、何をしている時間も『Equal-イコール-』のことしか考えないようにしなきゃと思っています。
めがね 田村芽実、これから風呂にも入らず、クサくなります?
田村 いや、お風呂は入るから!
稲葉 (笑)
田村 やっぱり、私はこの作品にすごく思い入れがあるんです。上演を観た時に衝撃を受けて、ストレートプレイも本格的に志そうと思ったきっかけの作品でもあるから。
めがね そうなの!? 
田村 そう。本当に好きな作品だし、どんな人が観ても衝撃だと思う。しかも今回、男性版だった戯曲が女性版に生まれかわることによってまったく違った魅力が生まれています。たとえば、男性だとできるけれど女性にはちょっと難しいというようなことを成立させるために、緻密に作りあげていっています。すごい作品になりそうで、私自身も本当に楽しみなんです。
めがね そっか…。ごめん。
田村 なんで謝るの!?
稲葉 思い入れがある作品であることは知っていたけど。そこまで力強く言われると、ちょっと頑張らなきゃな(笑)。でも、2人なら大丈夫だよ。
めがね
めがね 難しい作品だけれど、良い作品になると思う。というのも賀恵さんに「この作品は『自分の存在を認めて欲しい』という話なんです」と言われた瞬間に「できるぞ」と自信がうまれたんです。私はコロナ禍で仕事もプライベートも辛いことが続いて、人と接するってなんだろうと考えていました。だから「誰かに認められたい」「私がここにいることを証明してほしい」という対人の話はすごく刺さるし、「自分のことを見つけてほしい」と思っている人には観てほしいです。
田村 すごくわかる。私も観劇した時に刺さったから。
稲葉 めいめいは「課題が洗い出せないほどたくさんある」と言ったけど、今、この戯曲についてきちんと考えているから大丈夫だよ。最終的には出演者の2人がその場で起きたことをその瞬間にとらえていくことが大事だから。それができるようになるために、今は頭を使って脚本を読み込んで、「この作品に描かれていることはどういうことか」を想像しているところ。それを積み重ねて、目の前に集中していればいい状態になれればもうこっちのもん。不安はあっても臆せず飛び込んでいく2人の挑戦はきっとお客さんに伝わるから、そこを観て欲しいです。

取材:河野桃子
撮影:交泰

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