『妖精の問題』を京都でリクリエーシ
ョンする、市原佐都子(Q)にインタ
ビュー~「固定化された見方から、外
れようとする視点を受け取って欲しい
です」

『バッコスの信女 ─ ホルスタインの雌』(2019年)で「第64回岸田國士戯曲賞」を受賞し、2021年には[城崎国際アートセンター]の芸術監督に抜擢されるなど、今もっとも注目されるクリエイターの一人である「Q」の市原佐都子。2017年の初演以来、Qのレパートリーとして国内外で上演し続けている『妖精の問題』を、京都の劇場[ロームシアター京都]が企画する「レパートリーの創造」シリーズとしてリクリエーションする。
「レパートリーの創造」は、作品創造の一環として、レクチャーやワークショップなどを合わせて開催。劇場が作品の可能性を広げるアクションを積極的に起こすことで、クリエイターに刺激を与えながら、劇場のレパートリー作品を作り出すシリーズだ。今回もすでに、一般観客が戯曲を読んで感想を語り合う「おしゃべり会」や、他ジャンルのクリエイターへのインタビュー連載など、関連企画が多数行われている。数多くの外部からの刺激と、初演から5年の歳月を経て、どんな『妖精の問題』が生まれるのか? 作・演出の市原の声を、2021年12月に行われた会見と、単独取材のコメントを混ぜながら紹介する。
「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2018」で上演された『妖精の問題』。 Photo:Kai Maetani

市原は「レパートリーの創造」で、今年度は本作を、その後に新作の、計2本の作品を発表する予定。この企画については「とてもありがたいし、そのやり方に感銘を受けた」と話す。
「『私が今の段階で何に取り組むべきなのか』『芸術家としてどんな道を歩んでいくのか』という所から、話をしてくださってます。『おしゃべり会』も、(戯曲を)批判されるんじゃないかと、最初はちょっと恐れていたのですが、『自分はこう感じた』という感想や体験を参加者同士が話しあってて。同じ作品を読んだ人同士が、他の人の見方を知るのはすごく面白いことだし、私も気づいてないこの作品の価値が、どんどん発見されていくような感じがしました」
『妖精の問題』は、2016年に起こった「相模原障害者施設殺傷事件」をきっかけに生まれた作品。しかしこの事件を直接取り上げるのではなく、事件をきっかけに市原が改めて自覚した「生きづらさ」と「偏見」に真正面から向き合った、3本の一人芝居で構成されている。今回のリクリエーションでは、それぞれ2・3人が出演するスタイルに改変するという。
「『生産性のない人は死ぬべきだ』という犯人の言葉を、私が完全に否定しきれないと思ったんです。私の周りの世界も、そのように動いているように見えた。何も考えずに生きていると『こういう基準から外れてるから、不幸なんじゃないか』という風に人を見る方向に、どんどん行ってしまうという恐怖を感じました。なのでそっち側じゃない方向に……ユーモアの力だったりで、今の価値観を何とかズラせないか? と考えて、この作品を作り始めました。
もともとは(オリジナルキャストの)竹中香子さんと、一対一の人間関係で作ったもので、お互い非常に辛くて苦しい思いをして(笑)。でもそのぐらい『人間と関わる』ということを体験した、非常に特別な作品です。そんな一人の人と作った作品を、複数の人に開いていくことで、作品の持っている価値が再発見されて、どんどん拡張されていくんじゃないかと。また一人芝居だと、どうしても俳優の技量の方に注目が行きやすいんですけど、複数の人が演じることで、より物語としてとらえることができるかな? という期待もあります」
市原佐都子(Q)。

第一部の『ブス』は漫才、第二部の『ゴキブリ』はミュージカル、第三部の『マングルト』はレクチャー形式。第二部のミュージカルでは、長年本作に音楽で関わってきた額田大志(東京塩麹/ヌトミック)が、引き続き音楽を担当するだけでなく、生演奏で出演。また舞台美術も、様々なジャンルを越境した活動を展開する、大阪の建築家グループ「dot architects」が担当と、いろいろな点で初演とは違う形式になる。
「第二部の音楽は、最初はジャズピアニストと竹中さんが即興的に作ったものを、額田さんがじょじょに楽譜に落として整えて、音楽的にも楽しめるものにしてくれました。今回はバンドを入れて、さらに演劇としても音楽としても、楽しめるように作曲し直してくれていますが、生演奏が第二部だけでなく、一部と三部とも関わりが持てる方法を、今考えている所です。
dot architectsさんとは、舞台と客席が分かれているのではなく、客席も舞台に参加しているような美術を考えています。私の今までの作品は、結構正面性のあるものが多かったんですけど、今回は正面性が崩れるようなものにしようと。初演はすごくシンプルな世界だったんですけど、いろんな要素が増えたので、新鮮で面白いなあと思っています」
また今回、市原が大きなテーマにしているのは「笑い」。そこで『笑いの哲学』という著書もある美学者で、日本女子大学教授の木村覚をドラマトゥルクに迎えた。時代によって「笑っていいもの」はどう変わったか、不謹慎と笑いのボーダーはどこにあるか?……実は差別や偏見とも密接な関係にある「笑い」について、木村とともに「この機会に考えたい」と市原は言う。
【ロームシアター京都】レパートリーの創造 市原佐都子/Q「妖精の問題 デラックス」トレーラー

「私はことさら『笑ってもらおう』という意図はなくて、書いているうちに『いつの間にか笑えるものになっている』ということが多かったんです。言葉選びのユニークさで、そういったことが起きているのもありますが、社会のルールと真面目に戦っても笑えないけど、『私にはこういう戦い方がある』という発想の転換によって、ルールから外れるやリ方自体が、もうユーモアをはらんでるということになるんじゃないか、と。
第一部は、この世界で“ブス”と呼ばれる人たちがマイノリティである世界に、どうあらがっていくかを描いてますが、その姿勢こそがユーモアであり、だから私の作品には、ユーモアがあるんだな……と、木村さんの本を読んだ時に感じました。それで今回は、意識的に『笑い』のフレームの中でやってみたいと思います。漫才の掛け合いは今稽古中ですが、なかなか難しいですね(笑)」
市原の舞台は、この『妖精の問題』も『バッコス……』にしても、フェミニズムを強く意識させるものが多い。そのルーツについて調べていた時に、市原が幼少期に『美少女戦士セーラームーン』が好きだった、という情報を見かけた。フェミニズムの観点から語られることも多い作品なので、もしかして何か関係があるのか? と思って聞いてみたら……。
「最新作の『Madama Butterfly』でも書いたんですが、セーラームーンは日本のアニメだけど、(主人公が)金髪で色が白くて、スタイルも西洋風。子どもの頃は、それに無邪気に憧れつつも『自分はこうなれないなあ』とも感じていて。子どもでしたから、ルッキズムという言葉までは到達していなかったんですけど、西洋的な見た目に対してのコンプレックスというのは、自然に植え付けられていたのではないかと思います。基本的に見た目を重要視されるというのは、男性よりも女性の方が多いでしょう。
私は“女性”という属性の人間だからこそ言葉にできる、言語化できることはあると思っているんです。特に私は身体的・生理的なことについて書くので、その時に自分の身体をベースに考えるから、女性というものが強くなるのでは。『バッコスの信女 ― ホルスタインの雌』の時は、男性の身体や視点から物語が書かれることが主流だから、女性の視点を意識して描くというというテーマもありました。もちろん性別はグラデーションですが、この作品では女性の視点から描くことを意識し、女性を主人公にして女性のキャストのみで創作しました」
市原佐都子(Q)。

そんな中でも『妖精の問題』は、ルッキズムの問題をいち早く取り入れたという点でも、市原の「女性目線」な作風の原点とも言える芝居。とはいえ、男女の粋を超えた価値観を持つ作品でもあるという。
「今読み返してみると、女性の視点の作品だとは思います。でも作中に描かれている、何か一つの物事の固定化された見方から外れようとする視点は、性別に関係なく、今回のリクリエーションでも、受け取っていただけたら嬉しいです」
初演の頃には「女性がそういうことを言うのはいただけない」という、今となっては完全に女性差別な感想も飛んできたという『妖精の問題』。確かに強烈な言葉や描写(特に第三部)が多い作品だが、そこにあるのは世間のタブーから力強く、しかしユーモアを持って外れようとする人たちの強い意志とも言えるもの。その姿は確かに男女に関係なく「私は世間からはみ出している」という生きづらさを感じる人たちには、非常に痛快に映るはずだ。
また本作は京都公演の後、2月20日(日)~23日(水・祝)に、アートプロジェクト「シアターコモンズ'22」のプログラムとして、東京で上演されることも発表された。詳細はシアターコモンズのサイトでご確認を。
市原佐都子(Q)。
取材・文=吉永美和子

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