瀬奈じゅん、作詞家兼女優を演じるミ
ュージカル『カーテンズ』の魅力を語

次々起こる殺人事件。しかし、新作ミュージカルの幕は何としても開けなくてはいけない! ――バックステージものとミステリーとがドッキングしたブロードウェイ・ミュージカル『カーテンズ』が、2022年2月~3月にかけて東京・大阪・愛知にて上演される。作詞・作曲を手がけたのは、『キャバレー』『シカゴ』を送り出したジョン・カンダー&フレッド・エッブ。城田優がミュージカル好きの警部補チョーフィー役で主演し演出も担当、作詞家転じて主演女優を務めることとなるジョージア役で瀬奈じゅんが共演する。瀬奈に作品への思いを聞いた。
――今回の出演の話を聞いたとき、どう思われましたか。
(城田)優くんが演出なんだ、と思いましたね。主演の方が演出も兼ねられている作品への出演は、松本白鸚さんが主演され、演出も手がけられた『ラ・マンチャの男』で一度経験しています。そのときも、演出家と芝居するという不思議な緊張感がありましたが、そのおもしろさを今回も楽しみたいです。
こうしてください、ああしてくださいと言ってくださったご本人と一緒に演技するわけですが、こちらは言われたことが残っているので、今のは大丈夫だったかなとか、指摘されたことがちゃんとできているかなと思ったりして。ご本人は、実際に演技されるときはそう言ったことは忘れていらっしゃると思うんですけれど。『ラ・マンチャの男』のときは、本番中はそういうことはなかったんですが、お稽古中は気になりましたね。ある意味、いい緊張感のもとに芝居することができました。
優くんとは、彼が『エリザベート』のトート役でデビューしたその日の相手役だったんです。ミュージカル界にスターが誕生した瞬間を目の当たりにしました。あの日、後光がさしてましたね。お稽古場でもすごく頑張っているなと思っていたんですが、「愛と死のロンド」で彼のトートに舞台上で初めて会った、あの姿は一生忘れないと思います。この世のものではないと思いました。何か違うんです、光り輝いていて。その割には、優くん、緊張して手が震えていて(笑)。私もエリザベート役として舞台に立つのはそのときが二回目で、まだまだ緊張していましたが、緊張しつつも、彼のトートに吸い込まれるように感じた、あの瞬間は一生忘れられないです。彼が演出した作品は観たことがありませんが、演出を受けるのが楽しみですね。
――役者としての城田さんはいかがですか。
すごく視野が広いんですよね。自分を表現する仕事だから、どうしても自分の歌を聴かせることとかに一生懸命になってしまう方が多い中、優くんは、全体がどう見えるかをすごく考えて、それによって自分の立ち居振る舞いを客観的に考えることができる、クレバーな方なんです。押し出しの強さという意味でいうと、もしかしたら弱いということになるのかもしれないけれども、作品全体の底上げをしようというすごく真摯な姿勢が私は大好きです。さらっとすごいことをやってのけるんです。そこが、悔しいけどかっこいいなと思って(笑)。
――今回の作品についてはいかがですか。
最後にいろいろなことが明らかになるおもしろさ、スカッと感がすごくあると思うので、それまでの人間模様をいかに見せていくかが難しいなと思っています。ネタバレのための伏線を張っておくべきなのか、まったく張らない方が楽しいのか、今の段階ではわからないなと。周りの皆さんとの兼ね合いもあると思うのですが、内面についても、少しでも匂わせた方がいいのか、まったく匂わせない方がいいのか……。観る方にもわかっていただいている方が、キャラクターの心情が見えるおもしろさもあるかもしれないし。
――今回、作詞家だけれども女優として舞台に立つことになるという役柄を演じられます。
歌って踊って、割とボリュームがある役なので、体力的にもつか……年齢的にももう最後かなと(笑)。頑張ります。一回(表舞台から)引っ込んだ人がまた出るって、すごく勇気がいることだと思うんですね。自分に置き換えて考えてみても。ちょっとお休みしますくらいだったら平気だけど、もう足を洗いましたという状態からまた出て行くのは、すごく勇気のいることだろうなと思います。
――ダンスを下手に踊らなくてはならないシーンもありますね。
ダンス、本気で無理ですよ(笑)。ホントに踊らせるの? という感じで、まずいです。子供の抱っこで腰が痛くて砕けそうになっているので、身体的にいけるかなという心配はありますが、頑張ります。
――「一回引っ込んだ人がまた表に出るって、すごく勇気がいることだと思う」との言葉に、瀬奈さんが舞台に立ち続ける上での思いのほどを感じました。
立ち続けることにも勇気がいるなと今思っています。ありがたいことにこうやってお仕事をいただけている間は舞台に立ち続けていようと思っていますが、私は、仕事だけじゃなくて、自分の私生活、家族も大切にしたいと思うので。両立していきたいし、両方とも全力でやりたい。それが女性でも叶う時代になったと思うし、そういう時代にしていきたい。それだけの覚悟をもって仕事をしていますね。
瀬奈じゅん(c)GEKKO
――今回の作品では楽しい劇中劇もありますね。
『ロビン・フッド』の劇中劇があります。私、実は三作品続けて女優の役を演じるんです。『ブロードウェイと銃弾』では大女優の役で、『検察側の証人』では元女優の役。ただ、女優として女優の役を演じるというのは恥ずかしいところもあって。ともすると、女優をディスっているみたいになるときがあり、ちょっと微妙な気持ちになったりするんですね。
『検察側の証人』は、“元女優だから騙せた”という役どころでしたけれども、『ブロードウェイと銃弾』では、大女優でわがままで、でも歳を食っているからちょっと老眼で……と、こういう人物像は自分で作ってはいるんですが、何だか女優というものを自分で小馬鹿にしているような、自分自身をディスっているような、そんな自虐的な感情になるときがあって。そこをおもしろおかしく笑っていただけることに、……すごくうれしいんだけど、笑われていいのかな、正解なのかな……と思うときがあったんですね。そこは難しいなと思いました。
ただ、ここ最近、普通のテンションの役を演じていないので、そういう意味では今回、突飛ではない役どころがすごく楽しみです。元女優で作詞家で、表にも出てくるけれども、テンション的には普通の人なので、等身大で演じられるのが楽しみですね。
――昔の時代の女優さんには、「女優」を演じているみたいなところを感じたりもします。
以前、大女優の浅丘ルリ子さんと共演させていただいたことがあったんです(舞台『ニューヨークに行きたい!!』(2011))。そのとき村井國夫さんもいらしたのですが、村井さんに「あさこ、お前嫌なこといっぱいあるだろう」って言われたんですね。「それはありますね」と言ったら、「ルリ子さんには嫌なことが何一つないように見えるだろう。なんでかわかるか」と。「人間的に素晴らしい方だから」とお答えしたら、「周りが嫌な思いをさせないようにしてるんだ。それが女優だ」と言われて、納得しました。ご本人は「あたいね」とか「あたいさ」とかおっしゃって、すごくかわいらしいんですよ。「あさちゃん、目の下のクマは色気なのよ」とか、いろいろなことを教えていただいて。今の時代とはちょっと勝手が違うのかもしれないけれども、こういう域にまで達する女優さんってまあもう現れないんだろうなと思いましたね。すごくチャーミングでした。貴重な体験でしたね。
――楽曲の魅力についてはいかがですか。
劇中劇の音楽と、それ以外の部分での音楽とで毛色がまったく違っていて、そこがすごく魅力的だなと思います。ロマンティックかと思えば、ディズニーのアトラクションやショーを思わせるようなわくわくする曲があったり。若い世代から年配の方まで楽しんでいただけるミュージカルだなと思います。
――バックステージものであり、ミステリーであり……。
しかもコメディで、欲張りな作品ですよね。それだけに、ブレないようにしないと難しいなと思っています。バックステージものって、わかりすぎるからこその難しさがあると思っていて。誇張されすぎてしまうというか。でも、この作品の場合、バックステージものでありつつ、殺人という、まったくないとは言い切れないけれども普通はないハプニングが入っていて、いわゆるバックステージものとはかけ離れている。殺人が起きても幕を開けようって、すごいですよね。海外作品ならではのシニカルさって、日本にもってきて上演しようとなったときに難しいなと感じます。
宝塚時代、『Ernest in Love』(2005)という作品をやったときにもその難しさを感じましたね。作中、緊張のあまり「よいお天気で」と言葉が出てしまうおかしさというのがあったんですが、それは、作品の舞台であるイギリスではよいお天気の日がほとんどない、曇りが多いということが背景にある。それでも「よいお天気で」という挨拶をしてしまうというところがおかしいんですね。でも、それを私が日本で演じても、陽気な人だなで終わってしまいかねない。そういう難しさがありました。
――コロナ禍で改めて感じた舞台への思いとは?
決して、舞台に対して情熱がないわけじゃないんですが、「演劇の灯をともせ」みたいなことは私はまったく思わなかったですね。人の命より大切なものはない。だから、クローズして当然だなと思って自粛していました。
自粛期間が終わって、生でお届けできる、直にお客様の拍手をいただける、そんな、それまで当たり前だと思っていたことがこんなにも尊いものなのだと改めて実感しましたし、毎日毎日、今日が千秋楽になるかもしれないという思いで舞台に立つようになりました。それまでも、一回一回大切に、全力で取り組み演じてきたつもりでしたが、その思いがより深くなりましたし、今日足を運んでくださったお客様のためにという思いが一層強くなりました。
――そんな全力の思いで仕事と家庭を両立させる秘訣とは?
心が休まる瞬間は、家族と一緒にいる時間ですね。それがあるから、外で思いっきり自分と闘える。帰る場所ができて、守られている場所ができて、怖いものがなくなりました。だから、外では怖いものなしでいられる。ここで嫌われたっていい、ここでできなくて恥ずかしい思いをしたって、上達するためならかまわないと思えるようになった。なぜなら、私には愛する家族がいるから、何も怖くない。その代わり、私も家族を全力で守ろうと思いますし。
仕事も好きだからしたい。それに協力してくれる家族に感謝ですし、仕事場の方々にも感謝ですし、その感謝の気持ちを忘れずにいれば、両立していい時代だと私は思います。うちの主人がよく言うんですが、「イクメン」と言われるのが嫌だと。そう言われると、育児をしている妻を手伝っている優しい夫みたいだと。育児は一緒にするものであって、手伝うものじゃないというのが主人のポリシー、考え方なんです。「イクメン」っていい意味で言われているのはわかるし、ありがたいことなんだけど、引っかかると言っていますね。
――素晴らしいご夫君ですね。
それはね、自慢ですね。自分で言うのも何ですけど(笑)。お互いに好きなこと、自分がやりたい仕事ができるように、その上で子育てもできるように、二年前くらいから二人で働き方改革をしているんです。彼は踊りたいし、振付もしたいし、スタジオももちたい。私は舞台に立ちたいし、いろいろなことに挑戦したいし、子育てもしたい。そのためにどうするか。二人で相談しているんです。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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