OSK日本歌劇団創立100周年連載『OSK
Star Keisho』スタート、第1回は「
唯一無二の男役」元トップスターの桐
生麻耶が登場

1922年に誕生し、2022年に創立100周年を迎えるOSK日本歌劇団(以下、OSK)。この大きな節目を記念し2月から始まる『レビュー春のおどり』では、テーマとして「伝統のバトンを次なる時代へと繋ぐ」が掲げられている。これにちなみSPICEではスター達に質問の「バトン」を用意してもらい、次のスターへと繋ぐリレー形式のインタビュー連載企画『OSK Star Keisho』をスタートすることに。質問だけでなく、トップスターの楊琳、娘役トップスターの舞美りら、千咲えみを中心に中堅から若手の劇団員、そして特別専科の桐生麻耶、朝香櫻子と、総勢52名のメンバーの中から、SPICEが深堀したいスターたちにどのような伝統を継承してきたのか、次の世代に伝えたいことを聞いてく。記念すべき第1回は、元トップスターで現在は特別専科の桐生麻耶! 2003年に解散の危機に直面したOSKだが、今ではその時代を知る稀有な存在となった桐生。激動の時代を含め、OSKとの歩みを語ってもらった。
桐生麻耶 (c)松竹
――桐生さんは日本歌劇学校に1995年に入学されて、2年後に初舞台を踏まれました。OSK入団のため栃木から大阪に来られたとのことですが、新人時代はどんな気持ちで過ごしていらっしゃいましたか?
元々大阪に行きたいと思っていました。イメージだけなのですが、大阪の気質がすごく好きだったので、進学は大阪体育大学を志望していました。でも、遠すぎると言われて東京都の体育大学に進学。そこでOSKのことを知り、結局は大阪に行くことになったのですが、それも運命だったのだろうなと思います。歌劇やレビューのことは何も知らずに入ったので「今までやっていないのだから当たり前」というような感覚で、辛いと思うこともありませんでした。
――初舞台は近鉄劇場だそうですね。
はい。すごく綺麗でかわいい衣装を着させてもらったのですが、ピンクのパフスリーブが全然似合いませんでした……(笑)。当時はデビューしてすぐに男役をさせてもらえるということはありませんでした。ですが、私に関してはあまりにも娘役が合わなかったので、ありがたいことに最初から男役をさせていただきました。
――そして入団7年目、2003年に当時親会社だった近畿日本鉄道の支援打ち切りが決定し、OSK解散の危機が訪れました。劇団員の皆さんはOSK存続のため街頭で署名活動もされましたが、どういう日々でしたか?
署名集めはしましたが、私はその時点ではOSKを辞めると決めていました。でも、OSKに残ると決めていらした方たちのエネルギーはすごかったですね、大貴誠(だいき・まこと)さんを筆頭に、「OSKを残す」というエネルギーが。最終的に私も考え直してOSKに残る決断をしたのですが、たくさんの方々が署名をしてくださって、本当にありがたかったです。
桐生麻耶 (c)松竹
――大貴さんはなんとおっしゃっていたのでしょうか。
「とにかくOSKという名前をなくしてはいけない」と。「ゼロから始めるのはとてつもなく大変なこと。OSKは残すべき価値がある劇団だから、何としてでも残さなければ」というようなことをおっしゃっていて、常に周りの上級生とはちょっと違うことを考えていらっしゃいました。あの時、大貴さんが立ち上がってくださらなかったら……、大貴さんが第一歩を指し示してくれなかったら……と今でも思いますね。(解散の危機を乗り越えて)2004年に大阪松竹座で『レビュー春のおどり』を上演することができて、そこからOSKは大きく変わっていきました。本当に激動の時期だったと思います。当時、大阪松竹座の舞台に生まれて初めて立って、あんな大きい緞帳も、あんな高い天井も、広いステージも見たことがなかったですね。幕が開いたときに感動して泣いたことを覚えています。
――2007年には52年ぶりに京都・南座、2013年には73年ぶりに東京にて公演が行われるなど、OSK100年の史実に残る出来事が続きました。
もう、「支えてくださる方々がいるから」という言葉しか見つからないですね。松竹さんも、それまで踏ん張って残してきてくださったOGの方も、何より応援して待っていてくださるお客様がいなければ厳しかったですし、今の会社(ネクストウェア)が手を差し伸べてくれなかったら続いていなかったかもしれません。OSKは決して安泰な劇団ではありませんが、それでも歌劇が好きで、OSKが好きで入ってきてくれた後輩たちもそうですし、何一つ自分ひとりではできないことでした。
桐生麻耶 (c)松竹
――桐生さんは2018年にトップスターに就任されました。その時、何か意識に違いは生まれましたか?
私の発言が劇団代表の意見になってしまうので、そこは気をつけなければという思いはありましたが、基本的に舞台に立つ心構えなどは、ほぼほぼ変わりませんでしたね。
――桐生さんは舞台に立たれるときに、何を大切にされていますか?
空間を把握することです。目に見えないものを捉えることができるのが劇場の強みだと。舞台と客席とでエリアは別れてはいますが、同じ空間を使っているので、自分たちがその空間を掌握できたら、みんなから「ここに来てよかった」というエネルギーが生まれるのではないかと思います。なので、全体を包み込むということを常に気にしています。あと、空気感も大きいです。空気は見えないからこそ感じることができると思いますし、それを感じるためにお客様も劇場に足を運んでくださっているのかもしれない。その二つは常に意識しています。
桐生麻耶 (c)松竹
――OSKは華やかな群舞や、スピード感がありながらもエレガンスなダンスに定評がありますが、OSKをまだ観たことがない方にどのようにPRをされますか。
大阪で生まれた劇団なので、大阪らしさもあると思います。「お笑い」まではいきませんが、レビューの中にコミカルな場面もあるので、そういったことも楽しんでいただけると思います。また、すごく便利になった今の時代においてアナログといえばアナログですけれども、失われてしまった熱も残っていると思います。一つのショーをお見せするために並々ならぬ情熱を注いでいるので、必ず元気になって帰ってもらえるはずです。劇団員もエネルギッシュでひたむきです。ものすごく真っ直ぐで、観に来てくださった方に良いものをお見せしたいと真摯に芸事に向き合っています。みんなが自分のためだけにやっていたら、もう残っていないはずです。私も研究生の頃から応援してくださっている方がいるのですが、その方の存在がなければもう辞めていたと思います。応援してくださる方が恥ずかしくない舞台をしたい。そのためだったら頑張れるという思いは常にあります。
桐生麻耶 (c)松竹
――先ほどアナログというキーワードもありましたが、OSKのテーマソング「桜咲く国」と共に演じられる「桜パラソル」では、桜色のパラソルを手動で開け閉めして、満開の桜を表現されています。客席から観るとタイミングなど合わせるのが難しそうだなと思うのですが、立ち位置が変わるとまた、傘を開けたり閉じたりするタイミングも変わるのではないですか?
変わります。高世麻央さんがトップスターでセンターの時は、高世さんは先にパラソルを閉める側だったので、その隣にいた私は先にパラソルを開く側でした。なので、次に私がセンターに行くことになったときは、高世さんの閉める側ではなく、そのまま開く側でやらせてもらいました。「この6年、7年、そっちでやっているから」と言って。だから、みんな傘を開け閉めするタイミングが変わりました。でもこれはトップスターの権限です(笑)。
――「桜パラソル」は研修生のころから習うのでしょうか?
今の子たちはそうだと思いますが、近鉄のときはなかなか持たせてもらえませんでした。それだけに、初めてパラソルを持たせてもらえた時はすごく嬉しくて、家の傘でものすごく練習しました。「桜パラソル」は大阪松竹座の伝統でもあるので、ぜひ今度の『レビュー春のおどり』で、大阪松竹座というOSKの聖地で観てもらいたいですね。
――「桜パラソル」には何度観ても、また観たくなる魅力がありますね。
楽しいですよね。あの瞬間はお客様も童心に返っているような感じがします。「春が来ましたね!」という気持ちになりますね。
桐生麻耶 (c)松竹
――2月には生まれ故郷の大阪松竹座にて、3月には東京・新橋演舞場にて開催される『OSK日本歌劇団創立100周年記念公演「レビュー春のおどり」』ですが、第一部の演出が、上方舞山村流六世宗家山村友五郎さん、日本舞踊尾上流四代家元 尾上菊之丞さん、日本舞踊宗家藤間流八世宗家藤間勘十郎さんのお三方です。勘十郎さんは今回、初めて演出をされるということですので、旧知の友五郎さんと菊之丞さんについてお聞きしたいと思います。桐生さんからご覧になって、お二方はどんな演出家ですか?
2018年にトップスターに就任し、そのお披露目公演『春爛漫桐生祝祭(はるらんまんきりゅうのまつり)』で友五郎先生の日舞を踊らせていただきました。その次の公演が菊之丞先生の演出で、お二方もアプローチの方法は異なりますが、最終的にある核の部分の厳しさは一緒かなと思います。先生方もエネルギッシュです、本当に。友五郎先生は2004年の大阪松竹座『レビュー春のおどり』から支えてくださっているので、すべてを知られています(笑)。お稽古場でも「もっと大きく。それだけ体が大きいのだから、ちゃんと体を使って見せることを覚えなあかん」とアドバイスをいただきました。
――第二部が、宝塚歌劇団のご出身で、多くの歌劇やミュージカル、コンサートなどの脚本・演出を手掛けていらっしゃる荻田浩一さんによるレビュー「INFINITY」です。
荻田先生が構築される世界もものすごく難しくて。海のように深い作品なので、ドラマチックでもありますよね。先生のお稽古を観るのは楽しいのですが、いざ自分がやるとなると難解です。荻田先生は場面と場面の間を繋げる作り方もすごくお好きだと思います。
桐生麻耶 (c)松竹
――では今後、OSKを150年、200年と繋ぐためにも後世に何を伝えていきたいですか?
芸術を愛する心はこれから先も必要ではないかと思います。なくても生きていけるけれども、あると潤いますよね。
――こちらで最後のご質問です。この連載では質問という形で、次にご登場くださる方にバトンを繋いでいきます。第2回のインタビューは楊さんです。楊さんにどんなことをお聞きになりたいですか?
そうですね。「100周年記念の年にセンターに立つ景色はどう見えますか?」です。
――では、桐生さんからのご質問、第2回の楊さんにお聞きします。ありがとうございました。
取材・文=Iwamoto.K

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