東山光明、大沢健、池田有希子が語る
、ミュージカル『BLUE RAIN』の世界
とは

日本でも『SMOKE』がスマッシュヒットした韓国の気鋭の作家コンビ、チュ・ジョンファ(作演出)&ホ・スヒョン(音楽)が2018年に制作し、日本では2020年7月に荻田浩一演出で初演されたミュージカル『BLUE RAIN』が、キャストも新たに再演される。ドストエフスキーの名作『カラマーゾフの兄弟』をベースに舞台を1990年後半のアメリカ西部に移し変え、強欲な富豪・ジョンの殺害事件の真相をたどっていくミステリー仕立てのストーリー。殺害された大富豪ジョンを主とするルキペール家の次男であり、事件の真相を追う弁護士ルークを演じる東山光明、犯人と目される長男テオに扮する大沢健、一家の家政婦であるエマ役の池田有希子の3人に話を聞いた。
ーー『BLUE RAIN』はとても綺麗な曲が多いですよね。
東山:確かに。歌、めちゃくちゃ良いですよね。僕も今回の再演の稽古が始まり、久しぶりにこの作品に向き合った時に、テーマ曲の『BLUE RAIN』を聴いて、泣きそうになりました。これこれ! って。
大沢:初めて聴いた時、初めて聴くのにかつて聴いたことがあるような気がした。それくらい旋律が“濃い”。この『BLUE RAIN』の世界にぐっと引き入れる力のある音楽ばかりですよね。
池田:『BLUE RAIN』は、この夏にみっちゃん(東山)と私も出演していた『SMOKE』と同じく、チュ・ジョンファさんとホ・スヒョンさんの夫婦コンビが作った作品です。この作者コンビは、旋律の美しさはもちろんのこと、音楽と言葉がぴったり寄り添っていて、感情を乗せやすいんです。そして訳詞の荻田さんの言葉も、音楽性がありますので、歌っててもびっくりするほど気持ちが乗ります。
ーーその中で、皆さんが演じるのが、ルークとテオとエマ。それぞれの役柄について、どんな役か教えてください。
東山:僕の演じるルークは、ルキペール家の次男です。父のジョンが専制君主みたいな人で、ルークは幼い頃に父から虐待を受けていて、その反動で「絶対のし上がるぞ」というエネルギーを持ってNYに旅立ち、弁護士として名をあげてルキペール家に帰ってくる。そこから事件に巻き込まれ、その事件を解決しようと奔走する役柄です。
東山光明  撮影=染谷洸太
大沢:僕はその兄、テオを演じます。同じく父ジョンの虐待を受け、テオの方は反抗して家を出て行ってしまった。親の愛情に飢えて育ってきた人間特有の、もの悲しいオーラが出たらいいなと思い、そういうところを大事に作っていきたいと思っています。その瞬間は明るく笑っていても、あとに残る悲しさみたいなものを丁寧に作りたいです。テオという役は僕にとってはちょっと珍しいタイプの役です。でも自分と離れているからこそ、飛べることもある。今回はそういう挑戦をさせてもらっています。
池田:私はルキペール家に長く勤めている家政婦のエマです。住み込みの召使いですね。テオとルークのことは幼いころから見ていて、ふたりが大変な子ども時代を過ごしているのはもちろんわかっているし、自分自身もジョンの暴力の被害者でもある。でもやっぱり暴君の下で育たなければいけない子どもに救いを与えてあげたい、自分が暴力の傘になってあげたいと思うんだけれど……そこまでの力がないという、悩ましい役です。
ーー初演は2020年7月、まだコロナ禍での演劇というものが手探りな状況の中でした。東山さんと池田さんは初演にも出ていらっしゃいましたが、振り返ってどんな公演でしたか。
東山:僕らもあの劇場の光景は忘れられない。不安の中で幕を開けたけれど、受け入れてもらえた、またここからやっていいんだなという実感をもらいました。
池田:お客さまもみんなが我がことのように応援してくれていましたよね。今では当たり前になっていますが、客席でのおしゃべりも禁止されて、それをでも本当にお客さまがその規制を守ってくださって。聞くところによると、開演前の客席があまりに静かで、舞台裏の発声の声が客席に届いてしまっていたとか(笑)。でもあの一種独特な高揚感、一体感は絶対に忘れられません。
大沢:僕はこの初演はいつだったのか聞いて、昨年の7月だと言われてで「え、よく完走できたね、」と思いました。本当にすごいことだったと思う。
東山:毎公演、これが最後かもしれないと思いながら千秋楽までやりきりました。本当に本番の直前までマスクをしたままの稽古で、というのは今は当たり前になっていますが、僕にとっての初めての経験は『BLUE RAIN』だったな。
ーー東山さんと池田さんは『BLUE RAIN』初演に、今年の『SMOKE』と共演が続いていますね。お互い俳優としてどう見ていますか。
東山:僕がゆっこさん(池田)を語るのもおかしいのですが、本当に毎回、毎公演違うんです。同じセリフを口にしていても、ゆっこさんはいつも新鮮。「こう投げたらこう帰ってくるだろうな」と予測しちゃうじゃないですか。でもゆっこさんは思ったとおりに返ってくることが、まずない。僕が投げたものを、受けるゆっこさんが自分の中でちゃんと消化して返してくださるから毎回違うんですよね。それがすごい。僕の場合、音で覚えてしまうところがあって、それを変えたいなと自分でも思っているのですが、ゆっこさんは、そして大沢さんもですが、演劇の道を貫いていらっしゃる方は、“相手の芝居を受けて、自分が出す”。おふたりを見ていると、自分も感情をもっともっと動かしていきたいなと思うんです。
池田:私は稽古場で、みっちゃんの歌を耳をダンボにしていつも聞いています。今日、タイミングの確認で、音取り風に歌ったじゃない。ああいう、さらっと歌う時の音の正確さもすごいよね。一方で力を入れて歌う時との、レンジの見事さ。とにかく勉強になるし、私もこんなに歌えたらいいなと思う。
池田有希子  撮影=染谷洸太
東山:(照れて)……もっと頑張ります!
ーー東山さんと大沢さんは今回が初共演とのことですが、大沢さんと池田さんは20年ぶりの共演だとか。
池田:そう、20年前に『LITTLE VOICE』(2002年)という作品で共演済みです! 今回はそれ以来の共演。
大沢:そんなに久しぶりな気はしないけれど、よく考えたら『LITTLE VOICE』ぶりなんだね。今回、テオが12年ぶりにルキペール家に帰ると、最初に出迎えてくれるのがエマなんです。その設定と被ります(笑)。
池田:そうなの(笑)。わあ、現実と同じだ! と。でも健ちゃんは、20年前から“お芝居めちゃうまマン”なので、ずっと頼りにしています。今回も、新しいテオが健ちゃんだと聞いて「絶対大丈夫」と思いました。
大沢:ミュージカルはまだ数作目なので、歌で迷惑をかけないようにしないと……。
池田:いやいや、歌が上手くてびっくりしました。
東山:本当に、声も素敵ですし。
大沢:光栄です。こんな大変な役、ミュージカルを専門にやっていらっしゃる方に話がいくべきところを、こうやって挑戦できるというのはなかなかないところ。チャンスを大事に噛みしめてやっていきたいです。
(左から)大沢健、東山光明  撮影=染谷洸太
池田:本当に素敵だから、ずるずると“ミュージカルの世界”に引きずり込みたい!
大沢:たまに家に帰って不思議な気分になるんですよ、「なんで僕、歌を歌っているのだろう……」と。
東山・池田:(笑)。
ーー最後に、この『BLUE RAIN』の好きなところ、素敵なところを教えてください。
大沢:僕はなんだかんだ言って、テーマソングが歌われるシーンが好きだな。クラブで『BLUE RAIN』を歌うヘイドンを見て、テオは「自分はもう必要とされていないのかも」と思ってしまう。あの時のふたりがなんか、いい。若々しくて、なんとも言えない切なさがあって。メロディの性質と、ふたりの悲しい生い立ちと、テオのマイナス思考というか……拗ねている感じが、なんともぐっときます。ストレートプレイだと、これをすべて表現するのに10ページくらい必要になりそうですが、ミュージカルだと歌で全部表現できる。歌の力だなと思うし、好きなシーンです。
東山:テオとヘイドンは、大人のピュアな恋という感じがいいですよね。今回ヘイドンが、初演の水夏希さんから彩乃かなみさんになったこともあり、テオとヘイドンのシーンの演出も少し変わっているんですよね。前回ダンスをしていたところがお芝居になっていたりもして。ビニールのシート越しに手を触れあったり、口づけを交わすのを僕は後ろから見ているのですが、もう、鳥肌が立つ。ふたりの切なさが、めちゃくちゃ素敵です。
池田:わかる! 私は、テオとルークの兄弟が、すごく対立しあうんだけれど、ちゃんと愛し合っているのが伝わるのが好きです。すれ違って、会話はとんでもない方向に行ってしまったりするけれど、そういうことって実生活でもありますよね。兄弟愛があるのに……仲が悪いわけじゃないのに……と思いながら私はふたりを見ていて、切ないです。家族であればこそ、ギクシャクすることはありますし、そういうすれ違いも含め、いい兄弟。あと、客観的に見ていて、描かれる男性が色々なタイプがいて、面白い。ちょっと不器用で粗野なところもあるけれど、実はすごくロマンチックなテオ、頑張っている優等生、秀才タイプのルーク。もうひとり、庇護欲をそそるサイラスという男の子も出てきます。それぞれ違うタイプで、少女漫画的にキュンときますよ!
撮影を担当してくださった染谷洸太さんとともに! (左から)染谷洸太、東山光明、池田有希子、大沢健
取材・文=平野祥恵

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