無印良品の『CREATIVE IMAGINATION』
展鑑賞レポート 4コマで学ぶ郷土玩
具づくりの物語

無印良品 銀座 6Fにある『ATELIER MUJI GINZA Gallery1・2』にて、2021年12月17日(金)から2022年2月20日(日)まで、 無印良品と縁起物 福缶10周年企画『CREATIVE IMAGINATION』展が開催されている。
無印良品 銀座店の6階にある「ATELIER MUJI GINZA」
ハズレは無しで、福がある!
無印良品の「福缶プロジェクト」は、日本各地に脈々と息づく郷土玩具を、年始の福袋ならぬ “福缶” に入れて販売するというもの。各地のつくり手と親交を深めながら、魅力的な郷土玩具を世に広く紹介している。2011年(2012年の福缶)にスタートした同プロジェクトも、今年(2021年)で10周年。節目を迎え、これまで登場してきた郷土玩具やつくり手たちに改めてフォーカスし、その歩みを振り返るのが、この『CREATIVE IMAGINATION』展だ。
缶の中には郷土玩具1点と解説リーフレット、全国の無印良品で使えるギフトカード(福缶の販売価格と同額相当!)が入っている。
無印良品の福袋といえば毎年かなりの人気で、気合を入れて獲得に臨むという方も多いのではないだろうか。その人気ぶりは、もちろんこの福缶も例外ではない。店頭の混雑を回避するため、今年(2022年の福缶)はネットでの抽選販売形式が採られるほどだった。
仕事に追われる日常生活の中では、あまり存在を意識することの多くない “郷土玩具”。この記事では、展覧会初日の様子をレポートし、たくさんの人を惹きつける福缶、および日本各地の郷土玩具の魅力に迫る。
日本の縁起物サミット開催!
Gallery1展示風景
Gallery1では、これまで歴代の福缶に入ってきた郷土玩具はもちろん、無印良品が資料として収集してきた各地の郷土玩具が勢揃いしている。展示数はなんと約1000個! 圧巻である。
展示の左〜右が、日本の北〜南に対応している。これは左側の一角なので、並んでいるのは東北の郷土玩具たち。言われてみれば、こけしが多い。
日本全国からやってきた郷土玩具たちも、こうして一堂に会する機会に恵まれてさぞかしテンションが上がっていることだろう。じっと見ていると、彼らがさまざまな方言でしゃべる賑やかな声が聞こえてくるような気がする。
Gallery1とGallery2の間にある、ライブラリースペース。左手にはドリンクを楽しめるサロンも。
「福缶プロジェクト」はもともと東北の復興を支援したいという想いから始まっており、当初は東北エリアの郷土玩具14種のみのラインナップだったそう。そこから年々エリアが拡大し、現在では日本各地の約50種類にまで増えている。「何が出るかな?」といったワクワク感もひとしおである。
担当する株式会社良品計画・永田貴大氏によると「年々、数が増えるから写真が小さくなってしまうんですよね……」と悩ましげだった。
壁にはこれまでの福缶リーフレットの内容が引き伸ばして展示してあり、年を追うごとの変遷を辿ることができる。それぞれの郷土玩具の写真の隣には、素材となっている地域の産物や、発祥の由来などが紹介されていて面白い。子どもの健やかな成長や豊穣への祈りだったり、または自然や祖先への信仰だったり……。そこには様々な人の「幸せになりたい! なるぞ!」という素朴な願いが込められており、一年の始まりに手にする縁起物としてぴったりだ。
4コマという手がありましたか!
Gallery2展示風景
Gallery2では、ドーナツ型の展示台にぐるりと郷土玩具が並べられている。中央に配されているのは、ちょっと意外なことに、4コマ漫画だ!
Gallery2展示風景
つくり手の創作活動への想いや取り組みなどを鑑賞者にわかりやすく伝えるため、本展では4コマ漫画の手法を使って展示解説がされている。確かに、文字でズラーっと埋め尽くされたキャプションパネルを見るよりも、気楽にスッと入ってくるのが嬉しい。
左は宮城県仙台市の堤人形、右は山形県米沢市の笹野一刀彫の逸品だ。
例えば、写真右手の木彫りの鷹 “お鷹ぽっぽ” を作っている、山形県米沢市「笹野一刀彫 鷹山」の前にはこんな4コマが。
厳しい手仕事の道を自分の子に継がせるのは忍びないような、それでもやっぱり途絶えさせたくはないような。4コマ目の職人さんのどや顔がたまらない。
なんとも愛嬌のある漫画を通じて、つくり手の人となりや温度感まで感じられる。どの漫画もめちゃめちゃほっこりするので、ぜひ一つひとつに足を止めて眺めてみてほしい。そしてストーリーを知る前と後では、作品自体を鑑賞する視線もより深いものへと変わっているはずだ。
個人的には右端の子がタイプです。
こちらは、家族全員でこけし製作を行なっているという、福島県いわき市の「木地処さとう」のこけしたち。分業ではなく、それぞれが削り出しから筆入れまでを担当して作り上げるので、作品ごとに表情や佇まいが全く違う。しかもつくり手曰く、こけしは作者の手を離れたあと、持ち主によって顔つきが変わっていくのだという。
無印良品 銀座店の1階にあったデジタルサイネージでも、この4コマ漫画が存在感を放つ。情報発信ツールとして、4コマ漫画のポテンシャルは高い!
4コマ漫画は、「(こけしは)まったく不思議な “生き物” なのです」と締めくくられている。よく見ると、こちらに向かってウインクしているこけしが可愛い。なるほど……。早速こけしを購入して連れて帰りたくなってしまった。
こういう細かい表示のセンスが、無印っぽい。鑑賞は北まわり・南まわりどちらからでも。
背景を知って、もっと好きになる
Gallery2展示風景
Gallery2の壁沿いに並んでいるのは、郷土玩具の製作道具や資料、関連作品たちだ。何気なく展示された品々の背後には、歴史的にも人情的にも奥行きあるストーリーが存在している。
壁のパネルのアップ。昔は全国の郷土玩具(土俗玩具)の大番付が存在していたそう。
所狭しと並べられた展示品たち
壁のディスプレイでは、笹野一刀彫の職人が実際に木材から鷹を彫り出す映像を見ることができる。囲炉裏の前であぐらをかいて、斧のような独特の刃物を自在に操る様子に見惚れてしまう。ちなみに手前にあるふわふわの塊は、同じく一刀彫で作られた造花。こちらは冬に生花の代わりとして作られるようになったのだそう。山形の厳しい冬と、春への想いを感じさせてくれる品ではないだろうか。
福島県会津若松市「工房千想」のこらんしょ人形。
こちらはカラフルな十二支の人形……と思いきや、しれっと猫が混ざっていて笑ってしまう。三つ指をつくポーズには「こらんしょ(どうぞおいでください)」と福を歓迎する意味が込められているという。この土人形がつくられている福島県の中湯川地区は、すでに廃村となっているエリアだ。“まるで仙人のよう”というつくり手は、山中の空き家に移り住んで製作しているのだそう。人形の華やかな色彩からは想像できないような、しんとした静けさの中で生み出されている作品なのだ。
キャプションが手書きなのも可愛い。
この見るからに古い人形の型は、歴史の中で摩耗が進み、もう上下でぴったりと重ね合わせることができない。型にはめることができない間の部分は、現在のつくり手が想像で補完しているのだそうだ。
郷土玩具は、人々の生活に近いところでゆるく受け継がれてきたもの。そのため、災害や戦争で大きな打撃を受け、継承が一時的に途絶えてしまうことだってある。けれど、その魅力を後世に伝えたいと願う誰かの手によって復活したり、新たな時代性を獲得して生まれ変わったりして、郷土玩具たちは強かに歴史を渡っていく。大上段に構えた「文化」「芸能」というより、民衆の想いや祈りに起源したシンプルなモノだからこそ、このしなやかさが生まれるのだとしみじみ思った。
何をつくってるか、わかりますか?
製作途中の品を乾燥させるための、“わらぼっち”と呼ばれる土台にも目を引かれる。工房にはこれがいくつも並べられて、「まるで花が咲いてるみたい」なのだそうだ。これまで想像したことのなかった光景が目に浮かんで、会津若松市との距離がちょっと縮んだような気がする。
ユラユラ首を振る、福島県会津若松市「民芸処 番匠」のキュートな赤べこでした。体の水玉模様が何を表しているかは、4コマを見てのお楽しみ。
ものづくりに触れて、心豊かに
世界旗艦店らしい、堂々たる佇まいの無印良品 銀座店
無印良品と縁起物 福缶10周年企画『CREATIVE IMAGINATION』展は、無印良品 銀座 6Fにある『ATELIER MUJI GINZA Gallery1・2』にて、2022年2月20日(日)まで開催中。心がポッと温まり、日本全国を巡りたくなるような愛すべき展覧会だ。ぜひお見逃しなく。

文・写真=小杉美香

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