松山ケンイチ、岡山天音、余 貴美子
が公演への意気込みを語る~『hana-
1970、コザが燃えた日-』会見レポー

2022年1~2月に東京、大阪、宮城にて上演される『hana-1970、コザが燃えた日-』(以下、『hana』)の記者会見が行われた。
本作は沖縄復帰直前の1970年、12月20日に実際に起きたコザ騒動を背景にひとつの血の繋がらない家族を描いた物語。復帰50周年を迎える、来年2022年の幕開けに今一度、沖縄を見つめ考えると共に、血は繋がらずとも、お互いを思うが故、ぶつかり合った家族に胸が熱くなる作品となっている。
演出は長年沖縄を見つめ、多くの問題に想いを寄せて来た栗山民也。そして脚本は栗山が絶大な信頼を寄せる畑澤聖悟が書き下ろした。出演者は松山ケンイチ、岡山天音、神尾 佑、櫻井章喜、金子岳憲、玲央バルトナー、上原千果、余 貴美子。会見にはイワイ家の長男ハルオ役の松山、ハルオの弟・アキオ役の岡山、そしてハルオとアキオの母親・おかあ役の余 貴美子が本番衣裳で登壇し、公演について思いを語った。
ーー松山さんと岡山さんは、稽古に入られる前に沖縄に取材に行かれたとおうかがいしています。印象に残っていることと、訪問の後のご自身の中の変化について教えてください。
松山:そうですね。コザ騒動自体、名前は知っていたんですけど、そこに行き着くまでの沖縄の人たちの感情だとか、想いみたいなものは、やっぱり分からないんですよね。知らなかったので、現地に行っていろんな方とお話しをさせていただきましたが、日本に対してすごく怒りがある。アメリカ人に対してもある。ハルオに関しては、自分自身にも怒りが向けられてるようなところがあるんですけど。そういうなんかこう、一方向ではないというか。色んな角度から踏みにじられていることをいろいろ話を聞いて、驚きました。今でも消化しきれない、自分のなかで消化しきれない何かがずっと、残ったまま稽古をしています。
松山ケンイチ  撮影:宮川舞子
岡山:僕はちょっと松山さんよりも遅れて沖縄は入らせてもらったんですけど。このモチーフになってるコザ騒動が実際あった場所、今の場所ですけど、歩いてみて。そこであの時代の渦中にいた方から、「ここでこういうことがあって」というお話を聞きながら、街を回ったのは非常に印象的でした。この舞台をやる上でその体験はものすごく大きいことなので、実感をそこで持てた気がして……。それは非常に印象に残ってますし。今も力になってる気はします。
松山:なんだか、ものすごいパワーがあったんだよね。会った人々に。
岡山:そうですね。それは感じました。
松山:それすごく圧倒されたよね。
岡山:はい。

岡山天音  撮影:宮川舞子

松山:もう何十年も前の話を、今起こったかのように話してくれる方とかもいて。だから今も、解決していない問題としてある、というか。何も変わってない部分があるからこそ、声をきちんと発してるんだと思うんですよね。そのパワーに僕らは圧倒されてたような気がします。
ーー舞台『hana』のメッセージのひとつでもある、今も続いている、変わっていないといったものもあると思いますが、その熱意からそういった辺り、感じられたのではないかと思うんですけども。余さんはこれまで沖縄に関する作品にも多くご出演されてますが、ご自身の沖縄への想いというのは、いかがでしょうか。
余:もう2人は偉いですよね。お稽古に入る前にちゃんと沖縄に行かれて。私は、沖縄は『うみ・そら・さんごのいいつたえ』という椎名誠さんの映画に参加した時、もう20年以上前なんですけど。そこで三線にハマって三線をお稽古したり、古酒(くーす)泡盛を毎晩飲むとか、買い溜めしたりとか。本当に沖縄に住みたいぐらいだったんです。私、家族が台湾人なので、沖縄だと台湾の方が東京よりも近いということもあって、食べるものとか、ヘチマとか、ゴーヤとかも毎日食卓にありましたし。香辛料の匂いとかも沖縄とそっくりで、自分の血の中に、生活の中に、沖縄の感じがある気がします。沖縄に行くとすごく居心地が良くて。だから沖縄に関わっていたいなっていう気持ちが強かったので、今回の作品に出演できてとても嬉しいです。
余 貴美子   撮影:宮川舞子
ーー稽古が始まり、最初に脚本を読んだ時から印象は変わっていきましたでしょうか?
松山:そうですね。台本を読んだ時点で、びっくりしたことばかりだったので。先ほども言いましたが、日本人に対しての怒りだとか、日本と沖縄のギャップというんですか。その感じが台本にすごくきちんと表現されているので。本当にそれにびっくりしたんです。なので、僕がびっくりした感じたものをそのまま、できるだけ混ぜ物なしに、お客さんに届けられるようにしたいですね。
岡山:やっぱり実際にあった出来事が核にある作品なので。最初に読んだ時は、その歴史の中でのこういうイメージだったり、沖縄の耳慣れないいろんなエピソードが入ってたりして。実際に起きて今も続いてる、沖縄だったり日本の実情というものを、伝える作品にもなってると思うんです。演じてみて、あと皆さんのお芝居を観てると、その出来事だったりを語るキャラクターの感情もその言葉の裏には流れてて。きちんと人の声でそういった出来事の説明だったり、固有名詞っていうものが発せられていくと、最初に思ってたよりも人間の生き様が描かれた作品なんだなというのを身を以て改めて感じました。時代も場所も全然違いますけど、根本の根本は、現代、今東京で生きてる僕ともちろん同じ人間なんだなっていうのも感じました。
余:私は稽古を進めていく中で、最初は本を頭の中だけで読んだだけではとても理解できませんでした。相手がいて、きちんと話をし、読み解いていくと「こういうことだったのか」と実感が湧いてきて。その時代のことも喋っていくうちに、沖縄の言葉も口からこうやって出していくうちに実感しました。時代の熱い感じとかも、やはり頭の中だけでは分からないなと思いました。
ーー作品は家族や沖縄の歴史の物語として色んなテーマを含んでると思いますが、お稽古で向き合って何か影響受けたことはありますか? 家族も大きなテーマのひとつですが。
松山:いろんな悲しみだったり、怒りだったりとかということを話してきましたけど。その反対側にある部分というのは必ずあると思うんです。それが家族とのやりとりの中で、表現できるのかなと思っていて。おかあとハルオのやりとりのテンポ感だったりとかが、稽古していて昔からこんな風に接してきてたんだろうなぁ、一緒に過ごしてきたんだろうなぁっていうのが、実感できるような、おかあだったりするんですよね。そういうとこに、僕はすごく暖かさだとか、幸福感みたいな、救われる感じっていうのをすごく自分自身が感じていて。なのでもっともっと、稽古中試していろいろやって新しいものができたらいいなぁという風に思っています。
松山ケンイチ   撮影:宮川舞子
ーー余さんはその辺りいかがでしょうか。演出の栗山さんから何かありましたか? 会話劇ということについてはどうでしょうか。
余:栗山さんがおっしゃったのは、今回は特に言葉の力を信じろと。言葉だけで人を殺すこともできる。だからその時代を(60年代後半から70年代辺り)表現するには今考えること。対話をして、人と関わっていくことでしかこの時代を表現できない。だけど今はそれをみんな止めてしまった。怠けてるんじゃないかっていつもおっしゃるんです。確かに舞台上だけではなくて、本当にこうやって日々「ああ、確かにそうだな」と思います。会話して戦う、対話しないと、前に進めないので、だからこそ、この作品に今出会って良かったなと思いますね。
ーー岡山さんは今回の役を演じるにあたり、意識していること、大切にしてることはありますか? また、松山さんと余さんとのやりとりはいかがですか。
岡山:僕は映像の仕事と比べて、圧倒的に舞台は経験値が少ないのですが、その映像の仕事で学んできたことをどうすればこの舞台の表現に転用できるのかと考えています。ですが……何から何までやっぱり違うので。今も模索中ですね。とても広い劇場でやらせていただくことも自分にとっては初挑戦なので、果てしない冒険に今出てる最中という感じです。松山さんと余さんとのやりとりは……僕が出てない場面とかでお客さんと同じ目線で観させてもらったりするんですが、本当にお二人とも生き生きとされていて。先ほど松山さんが話されていた二人の親子のやりとりもそうですけど、すごいチャーミングなおかあとハルオがそこにいるんです。そのチャーミングさをなんとか盗めないかって、目を凝らしています。ついお客さんみたいな気持ちになってしまいますね、お二人の芝居を観てると。本当に楽しいです。
岡山天音   撮影:宮川舞子
ーー2021年も残りわずかとなりましたが、今年を漢字1文字で表すとなんでしょうか。そして2022年はどんな年にしたいですか?
余:私はね、“三”という漢字の数字ですね。今も3人ですけど、2人も3人でも心強いんですけど。三というのは三角形がありますよね、その面になる。支えて形になる数字なんですね。だから今年は本当に支え合っていたというか、三角形がいっぱい集まると立体にもなっていって、どんな形にもなるんですけど。本当にそういうことが必要だなあと思った一年でしたね。来年は今もお稽古中もずっとマスクをしてるので深呼吸がしたいです。息がもうおばあなので、なんだか本当に息が苦しくて。会話するもの苦しいので、マスクを外して深呼吸したいです。
松山:なんだかその漢字、すごく好きですね。初めて知りました。そっか、三ってそうなんだって。僕も“三”にします。
岡山:僕も“三”にします。
松山:うん、もうすごく、好きだったよね、今の話。
岡山:良かった。はあ〜……と思って。
松山:うん。すごかった。
余:さすがおかあでしょ。
松山:さすがおかあ。
(左から)余 貴美子、松山ケンイチ、岡山天音   撮影:宮川舞子
ーー皆さん“三”ということですが、松山さん、岡山さんは来年はどんな年にしたいですか?
松山:こういう時期でもありますから、とにかく無事に、千秋楽を迎えるっていうことが一番の課題になってくるんじゃないかなって思います。ですので健康面でも気をつけて。その上で、きちんとしたパフォーマンスをして、最後までできたらなっていうのが、まず来年一発目の豊富です。
岡山:今まさに松山さんがおっしゃってくれたこともそうなんですけど。ここ数年、このご時世もあって家で一人でできることを推し進める時間が多かったんです。本を読むとか。インプットも何から何まで一人で向き合う時間が多かったので、来年はもう少し色んな人と交流したりできたらいいなと思います。
ーー最後になりますが、舞台『hana』の見どころはなんですか? そしてファンの方へのメッセージをお願いします。
余:参加者全員の剥き出しな会話。丁々発止の会話をワクワクしながら、お楽しみいただけると思いますので、どうか劇場へ足をお運びください。
余 貴美子  撮影:宮川舞子
岡山:この作品はモチーフになってるのは沖縄で実際あったコザ騒動だったり、ですけど。そういう史実に触れたことがなかったり、今沖縄に住んでいらっしゃらない現代を生きる人たちにぜひ観て欲しいです。今の人たちが知らなかったり、どこかに置いてきてしまった人間の美しさみたいなものが、ふんだんに描かれた作品だと思います。新年から濃い、沖縄に生きる人々のエネルギーを浴びにいらしてください。
松山:一言で伝えられるような作品ではないと思いますが……。作品の登場人物は、血が繋がってはいない疑似家族みたいなところに、アシバーという遊び人、ヤクザというか、そういうような人がいたり。教師や生活のために密貿易やってる人、米兵。デモを熱心にやってる人たちがいたりとか。出てくる人物がものすごく多様性のあるキャラクターたちなんです。今は多様性を認めようという動きがありますが、その多様性って当時から普通にあったと思うんです。だけど、もしかしたら何かをなかったことにすることで、多様性を見出そうとしているのかもしれないなと……。なかったことにするっていうことではなくて、やっぱり向き合っていくっていうことが、多様性なんじゃないかなって、稽古を通して僕は感じました。なのでこの作品は、今にも通じる部分があると思いますので、ぜひ観ていただきたいなと思います。
(左から)余 貴美子、松山ケンイチ、岡山天音    撮影:宮川舞子

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