香取慎吾やVaundyら豪華ゲストと意表
を突く演出 WONK2年ぶりの『WONK'S
Playhouse』レポート

WONK’ S Playhouse 2021.12.16 TOKYO DOME CITY HALL
WONKがホストとなり、バンドやメンバー個々で関わったアーティストを招くオムニバス・ライブ『WONK’ S Playhouse』が2年ぶり、キャパとしては過去最大のTOKYO DOME CITY HALLで開催された。目下、ストリーミング配信中なのでセットリストや演出のネタバレを避けたい人は視聴後に読んでもらえたらと思う。
広いステージには楽器と同じぐらいソファやキャビネット、グリーンが存在感を放ち、段差がある構造がどう使われるのか興味津々。場内の明かりがつけられたまま、ストリングスとギター、ホーンのメンバーが上段でスタンバイ。そこに「ここはWONKのメンバーが制作のために住むシェアハウス」というナレーションが流れ、なんとメンバーはパジャマ姿で登場。起床したばかりという設定、というか芝居仕立てなのか!と、まず驚く。芝居とはいえ、バンドの日常を見るようでユーモア満点。まだ身体が起きてないけど、と言いながらネオソウル・フレーバーの「Mirror」を演奏し、続いてオーガニックなバージョンの「Orange Mug」をサックスとトランペットを交えた編成で届ける。
まだ眠そうな荒田洸(Dr)と井上幹(Ba)にコーヒーを淹れる長塚健斗(Vo)。3人で今年1年を振り返っている間に、江﨑文武(Key)がスーツに着替え、ソロ1stシングル曲で繊細なピアノ・インスト「薄光」を弾き始める。ごくごく小音量のストリングスとの相性も見事だ。曲が終わると“ピンポーン”。ほんとに家の設定なのかと笑ってしまう。すると「家を買う feat. YeYe」で江﨑がコラボしたYeYeが、京都から観光で東京に来たと、大きな鞄を持って入場。同ナンバーをYeYeの柔らかくも芯のある歌声と、穏やかで可憐さのある江﨑の伴奏で隅々まで行き渡らせる。歌い終わると鞄を置いたまま出かけて行ったYeYe。なるほど、こうやってまさにゲストとして共演者が登場するのだなと理解する。
他の3人も着替えて再登場すると「誰か来てたの?」「呼べよ!」と小芝居が続いていることを理解。続いてはボッサテイストでだんだん昼に向かうイメージの「Make It All Mine」。長塚のスタンダードジャズシンガーのようなエンターテイナーぶりが、観客が居ないはずの設定をいい意味で壊す。曲間に荒田がバットを素振りしたり、生活感(!?)溢れる演出がなされながら、「新曲を作ったから初めて聴くと思うけど手伝って」と、強引な展開から、シンガーソングライター的な側面も持つ荒田の新曲をメンバーがサポート。特にドラムを買って出た長塚がマレットでシンバルをほんの少しだけ叩く場面は、名曲に笑いを添えていた。
続いてのゲストはドクターでもあるアン・サリー。仕事を終えて彼女も東京観光に来たという設定で、〈親子のための歌〉をテーマに荒田と共作した「おかえりの唄 feat.アン・サリー」を披露。グッとお腹に響く彼女のアルトボイスの毅然とした美しさに荒田の誠実な声が寄り添う。アジアのニュアンスのあるエレクトロニックなアレンジを昇華するWONKの底に流れるジャズを見た。1曲で終わるのが残念な好コラボが続く。ゲストの意外なキャラクターが伺えるのもこの小芝居ならでは。まさかアン・サリーが「みんなのことはお母さんみたいな気分で見てて」と、愛情たっぷりでユーモラスな側面を見せてくれた。
表面上はゆったりした時間が流れるステージ。メンバーが何やら「すごいピアニストを見た」という話題から、みんなで動画をチェックしようというていで、グランドピアノの場所以外は暗転。そこに角野隼斗が現れ、ラグタイムやクラシックのピアノソロなど様々なジャンルをミックスした超絶技巧を披露。この日一番の大きな拍手が起こったのも当然か。動画を観ていたという設定はなかったことになり(笑)、バンドと共演。江﨑とは東京大学大学院に在籍していたという共通点を持ち、角野のラジオ番組に出演したことも。角野を加えたWONKのナンバー「Signal」は前半の白眉と言っていい出来。アルバム『EYES』のSF的な世界観を2台のピアノ、井上のアップライトベースをボウイングすることで生まれる重量感、さらにストリングスのスケール感、荒田の緩急のついたビートメイクで、映画のように拡張しきって見せたのだ。レベルが違いすぎるが思わず「楽器やりたい!」と心の中で声が出た。
余韻に浸る会場に再びチャイムが鳴り、荒田がアルバム・プロデュースを手掛けるkiki vivi lilyがお宅訪問。井上が音楽を手掛け、角野がピアノ演奏、kiki vivi lilyが歌唱を担当した「Birth of Memes」を生共演。ヒップホップやR&Bなど彼女のソロとは一味違う音楽性を味わえたのも興味深い。ここまでのYeYe、アン・サリー、kiki vivi lilyの透明感と凛としたニュアンスには繋がるものを感じられ、必ずしもソウル系シンガーではないことがWONKのメンバーそれぞれのワークスの幅を感じる。
と、そんな中、長塚のスマホのアラームが鳴り、最近、ギターを習っていて先生が来る時間だという。その先生が冨田ラボという、意表を突く立ち位置で、ギターを抱えて登場した冨田は「課題曲はkiki vivi lilyの「Copenhagen」だ」といい、長塚に「しっかり見ときな」と、ファンキーなギターカッティングを聴かせる。生でこの曲をこの組み合わせで聴くことのできる贅沢よ……。もう1曲は、長塚が冨田ラボ作品にボーカルで参加した「Let it Ride」をWONKの演奏で聴くという、“センス親子勝負”にして、綿々と受け継がれてきたAORやソウル、ジャズのDNAがステージで邂逅している事実に静かに感動した。それにしてもコンポーザー、アレンジャー、プロデューサーの大先輩はなかなかに熱いギタリストでもあった。そしてここまでのゲストは全員、東京観光に行くという筋書きでステージを後にしたのだった。
一度暗転し、シーンは夜に。制作のためのシェアハウスらしく「新曲の締切が迫っている」という状況で、いち早くメンバー曰く「Orange Mug」に似てないか?という新曲が披露された。ピアノリフとベースリフ押しの、淡々とグルーヴを重ねていくタイプのナンバーだ。初披露のあとは緩く年末の予定などを話し、キャビネットにあった濁り酒が本物だったことに驚いたり、メンバーのGoogleカレンダーに江﨑の紅白出場が共有されていることを話したり。そこへ姿を消していた長塚が派手なシルバーのスーツで登場。3人に「コハダ感!」「ヒカリモノ!」と突っ込まれつつ、本人はパーティをしたい旨を伝え、これまでなきものとされていた観客に向かって、ようやく「パーティしたいですよね!?」と問いかけ拍手喝采。「ビートが欲しいの!ピアノ!カモン・ベース!」とメンバーの腰を上げさせカラフルなライティングで一気にムードが変わる「Gather Round」へ。
続いては、姫路で活動しつつ世界とボーダーレスに繋がるラッパー/アーティストのShurkn pap。江﨑やMALIYAなどで構成されたIsland State Musicとのコラボ曲「Haddaway」をまず披露し、エフェクトのかかったメロディアスなラップはドラマチックなR&Bと好相性を見せる。続く「Where is the Love」もIsland State Musicとのコラボ曲で、長塚も歌う場面も。
クールに決めたShurkn papとは対象的に、それまで座っていた観客を一気に踊らせたのがVaundyだった。江﨑がピアノで楽曲に参加している縁もあるが、あらゆるジャンルを食い尽くして、しかもロックスター的に振る舞うVaundyが確かなWONKの演奏の上で自由に暴れる姿はもはや自分のステージ。さりげなく歌い出したが、その声量と表現力に持っていかれる「しわあわせ」、荒田がロックなドラムを叩いていることもレアだ。「花占い」では「聴こえてねえぞ!」とさらなるクラップを要求。跳ねるようにステージを後にした。今回の台風の目は間違いなくVaundyだったんじゃないだろうか。
さて、ここで本編は終了したはずだが、まだ発表されていないゲストが「ここ最近、WONKをまったく新しいリスナーに出会わせているあの人なのでは?」という予想を立てていた人も少なくなかったはず。暗転したままのステージに、しばらくするとサスペンスフルなストリングスカルテットの演奏が始まり、ステージ上には真っ赤なライティングに浮かび上がる長身の男。その人が香取慎吾とわかったときの拍手と声にならないどよめきはさすがにスターだ。こんなにアブストラクトなR&Bだったか?と驚く挑戦的な「Anonymous」を歌う香取。さらに赤いレザースーツの長塚も歌う「Metropolis」と、ある意味、WONKの最もエッジーなプレイが堪能できたのは香取のナンバーだった。最初は少し緊張しているように見えた彼も、「Metropolis」ではメンバーのところに移動したり、持ち前のダンスパフォーマンス力で魅了すると、「WONK、愛してまーす!」と一言述べながら、ステージを後に。さすがのプレイヤビリティを見せたWONKもサポートメンバーもそのままステージを去った。
力技とも言える共演や突然のサプライズに大いに湧き、アンコールを求める拍手に応えて、サポートメンバーとともに現れたWONKの面々。素に戻った印象で、支えてくれたサポメンを紹介し、さらに荒田は苦しいことや悲しいことも多かった今年を振り返る。現実的に今はなきHSUのことにも触れ、「人間いつ何があるかわからない。いつできなくなるかもわからないじゃん。だからこそ、その時その時を大事にしてこの先もっともっといい曲を作っていけたらいいなと思う」と語り、この日の空間を作り上げたスタッフにも感謝の意を伝えた。長塚も「楽しくしていこう、僕らで。「Playhouse」の最後と言えばはこの曲。心の中で歌ってください」と、イベント名のインスピレーションでもあるセロニアス・モンク生誕100周年記念アルバム『MONK’ S Playhouse』収録の「Cyberspace Love」で2時間半を締めくくった。
エクスペリメンタル・ソウルバンドとしてのWONKの要素を因数分解していくと、多岐にわたる音楽ジャンルが顔を出すと同時に、4人の音楽家としての総合力、その源流である人間味にたどり着く。ぜひ、肩の力を抜いて一度体験してほしい音楽世界だ。

取材・文=石角友香 撮影=木原隆裕

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