SILENT SIRENの足跡は
邦楽シーンの成熟の証し。
1stアルバム『サイサイ』に
成長の萌芽を垣間見る
パンクのDIY精神を感じるサウンド
M1「ランジェリー」から活きが良い。イントロでの頭打ちのドラムからして溌剌としていて、景気のいい音楽が始まること間違いなし、といったオープニングである。やっぱり面白いのはその後のメンバーによるカウント=“3、2、1、GO!”。SILENT SIRENのファンやリアルタイムで聴いていたリスナーには違和感はなかろうが、古くからパンクロックを聴いていた身にとっては、あの疾走感に吉田 菫の可愛らしい声というのはギャップがある。だが、これも“変”でも“妙”でもなく、やはり興味深く感じる。今さらながら…だが、こういうパンクがあっても全然いいのだ。そのいい意味での声のギャップは随所に感じるところで、個人的にはM3「キミハテンキ」にそれが最もよく出ていると思う。Aメロ後半《もう段々 down down》、Bメロでの《Yeah! Yeah!》、サビでの《やり切ればいいじゃん》、そしてアウトロ近くの《もっと もっと もっと》。その辺が何とも“らしい”。そもそも彼女のヴォーカリゼーションは、少なくとも音源を聴く限り、圧しの強さや迫力で勝負するタイプではないと思う。(これもまた個人的な印象ではあるが)少女っぽい寄る辺なさがあると言ったらいいだろうか。ポジティブな内容の歌詞を歌うと、どこか健気さを感じさせる声のようにも感じる。その彼女のヴォーカルが他のメンバーの声で後押しされているというか、一致結束して何かに立ち向かっている感じがして、とても良いのだ。“ロックには何か大きなものに勝てるんじゃないかと思わせる何かがある”と某ロックアーティストが言っていた。SILENT SIRENを聴いてそれを思い出した。
バンド結成のきっかけが10-FEETの「RIVER」だけあって、本作に収録された楽曲はやはりパンク色が強い。楽曲のタイプがそうだというよりも、演奏にはパンクのDIY精神を感じるところである。ぶっちゃけて言えば、演奏がとてもうまいという代物ではない。そのアンサンブルに何か突出したものがあるかと言えばそんな感じもないけれども、個々のプレイは実直な印象ではあって、好感が持てるものだ。それでいて、いわゆるパンクのM1、ラウド系の匂いのするM4「チラナイハナ」、バラードM5「セピア」、如何にも2000年代ギターロックな感じのM6「サイレン」と、バラエティーに富んだナンバーにトライしている。…と書くと、ほとんど特徴のない凡百のパンクバンドのように感じられるかもしれないが、そこははっきりと否定しておく。その実直な演奏の中に、のちにつながる萌芽をしっかりと確認できるのである。
それもまたM3「キミハテンキ」である。総体としてはポップパンクチューンといった印象ではあるのだが、ちょこちょことダンスミュージックの要素が感じられる。シンセのループが特に耳に残るし、ドラムは4つ打ちとなる箇所もあり、ベースは時おり高音に昇っていくことでグルーブを創り出している。ラストのM7「All Right 〜“今”を懸ける〜」でも若干それを感じるところではある。キーボードのリピート、ベースラインのうねりもさることながら、ハイハットで16ビートを刻むドラムスに疾走感がある。ビートが若干食い気味な気もするし、楽曲全体が前のめりになっていく様子がいい。それらを即ちファンキーと言ってしまうのは流石に乱暴だろうが、そこにはSILENT SIRENならではアンサンブルがあることは間違いない。