INTERVIEW / Black petrol ジャズと
ヒップホップを軸に、自由度の高い音
楽性で注目集めるBlack petrol。ひと
つのストーリーを紡ぐ1stアルバム『
MYTH』を紐解く

京都、大阪を拠点とするエクスペリメンタル・ヒップホップ・バンド、Black petrolが1stアルバム『MYTH』を12月1日(水)にリリースした。
Black petrolはジャズを軸とした自由度の高い生演奏に、キャラクターの異なる2人の個性的なMCのラップを組み合わせた演奏を特徴とした7人組。今年2月より3ヶ月連続でリリースしたシングルや、兵庫出身のラッパー・空音とのコラボ曲でも話題を呼んだ。
今回はそんなBlack petrolのギタリストにしてリーダー・takaosomaと、2人のMC・ONISAWA、SOMAOTAにインタビュー。メンバーそれぞれがソロや別プロジェクトでも活動するなど、その音楽性同様に自由かつ不定形なバンドの魅力に迫る。(編集部)
Interview & Text by Naoya Koike(https://twitter.com/naoyakoike)
Photo by Official
キャリア初期に出会った空音とのコラボ
――空音さんとのコラボ曲「STREET GIG feat.Black petrol」で皆さんを知った人も多いと思います。あの曲はどのような経緯で制作されたのでしょう?
SOMAOTA:僕はソロでも活動していて、空音くんとは界隈が近いんですよ。そんなこともあり、色々な流れで彼が音源を聴いてくれて、EPに参加してほしいと言ってくれて。
ONISAWA:僕は彼がライブを始めたての頃に小さな大阪のクラブで一緒になったりしたんですが、その頃に比べたら「空音少年、プロになったな……」という感じでした(笑)。声のコントロールとかも上手で、録り直しのときに「ちょっとモタってみます」「アクセントを違うところに置きます」って言ってたり。
takaosoma:曲は僕が作りました。最初は分かりやすい曲を作っていたのですが、らしくないと思い、新たにまた考えていたらベース・ラインが浮かんできて。「尖った曲になるかも」と少し不安でしたが、空音くんの「scrap and build」を聴いていたら「この人やっぱ上手いわ」と(笑)。最終的に信頼して提出できましたね。
――3拍子になって、1拍増やしてから4拍子に戻る構成もカッコよかったです。
takaosoma:サックスのDaiki Yasuharaの提案でした。ごまかしはしたくなかったので、ライブでも再現できるようにはしたかったんです。
――続いてバンドについての基本的なお話も聞かせてください。まず、バンド名の由来は?
SOMAOTA:それは俺も聞きたいな。
ONISAWA:確かに聞いたことなかった。
takaosoma:大学の時にジャズ研に入っていて、インスト・バンドでヒップホップをやろうと思っていたんですよ。その前にやっていたファンク・バンドが「Funk Food」という名前で、形容詞と名詞の組み合わせって可愛いぞって感じて。あと、“Black”は付けたくて、“Petrol”もなんとなくいいなと。
――有名なところでペトロールズというバンドもいますね。
takaosoma:後になって思い出しました(笑)。高校のときに好きで聴いていましたが、命名のときには意識していませんでしたね。昔の記憶に引っ張られたのかもしれません。ご本人たちとコンタクトを取れるのであれば、共演やコラボすることができたら嬉しいですね。
「お互いのミュージシャン・シップを認識し合えるときは何よりも嬉しい瞬間」
――ジャズ研時代はどのような音楽を演奏してたんですか。
takaosoma:主にコンテンポラリー・ジャズをやっていました。今の好きなギタリストはIsaiah Sharkeyとか、Eric Galesですが、当時はもっとプログレッシヴなDavid Fiuczynskiが好きでしたね。でもギタリストというよりは、挾間美帆さんなど作曲者の方が好きなんです。あとはSnarky PuppyやTHE FUNKY KNUCKLESもよく聴いていました。ヒップホップはあまりやっていませんでしたが、コンテンポラリー・ジャズとトラップの“ダークさ”に近いものがあるような気はしていました。
――その一方でSOMAOTAさんとONISAWAさんはサイファーで出会ったと聞きました。お互いの第一印象はいかがでした?
SOMAOTA:もともとONISAWAくんはバトルで有名だったので、「YouTubeで見てた人が来た!」とか「ラップ上手いな」という感じでした(笑)。ちゃんとラップをやり始めたばかりの18歳の頃でしたね。尊敬もありましたが、同時に威厳も感じていて。
ONISAWA:僕も「ラップ上手いな」と思ってましたよ。「どれくらいやってるの?」と聞いて驚いた覚えがあります。今の子はやっぱり上手いなと。
SOMAOTA:目線がおじさんじゃないですか(笑)。
――(笑)。バンド活動はバトルやソロとは違いますが、そこに戸惑いなどは?
SOMAOTA:takaoからTwitterのDMで「何人か連れてきてください」と誘われたんですよ。そこでカッコよくて、かつバンド・サウンドでヒップホップをやることに興味がありそうな人を連れて行ったんです。その時は4人でしたが、最終的に僕とONISAWAくんのふたりが加入することになりました。ONISAWAくんなら生音のヒップホップを楽しんでくれるだろうと思って連れて行ったのが結果的によかったですね
ONISAWA:SOMAも“音楽を聴いてる人”で、単純にラップが好きな人とは違うなと感じてました。
SOMAOTA:あと最初はリハーサルのときに僕らふたりで話しがちでしたよね(笑)。
takaosoma:何とか両者を会話に入れようと必死でしたね。ラッパーとコミュニケーション取るのって難しいんですよ。サビのことを「フック」と言うのも知らなかったですし。今は「ヴァース」と「フック」で統一してますけど。
ONISAWA:リズムの認識もズレがありましたね。「ノレてないっちゃノレてないけど、ラップとしては問題ない」みたいな概念を共有する時間も必要でしたし。
――なるほど。そして今年に入ってから「TABU」、「astral pumpkin」、「God Breath」と3カ月連続のリリースもありましたが、こちらについては振り返っていかがですか。
SOMAOTA:2ndまではラップとオケが分離してしまうことについて、度々考えることがあったのですが、この3作品からしっかりオケを聴いてラップできるようになったと自分としては思います。音楽的にもまとまっているし、前に比べると理想に近づけたかなと。個人的に英語ではなく日本語重視のラップにシフトしたので、聴きやすくもなったのか反応も多くなりました。
ONISAWA:同じようなことは感じています。特に「astral pumpkin」はオケを聴いた時からいい曲だなと思ってましたね。
takaosoma:「TABU」は現行のUKジャズなどのファンキーな部分を入れたいなと思って作りました。でも、海外の音楽をバンド・サウンドで色々な日本のアーティストが取り入れているのを見て、自分たちがアジア人であることの特色を掴む方法も同時に考えていたんです。だから、楽器隊が本物かどうか、ではなく“オリジナリティがあるかないか”を意識して、それを日本のヒップホップのリリシズムと一緒に表現することに比重を置きました。簡単に言えば、細かい説明抜きで好きにそれぞれ弾いてもらったんです(笑)。
takaosoma:「God Breath」は客演のNeVGrNくんの歌が映える様に工夫しました。終盤はトリッキーなコード進行になっているのですが、それでも全然歌える彼のスキルにはアガりましたね。空音君のときも同様でしたが、お互いのミュージシャン・シップを認識し合えるときは何よりも嬉しい瞬間です。
「架空の人物たちによる、ひとつのストーリー」をコンセプトにした1stアルバム『MYTH』
――そして満を持しての1stアルバム『MYTH』がリリースされました。コンセプトなどはありましたか? 個人的にはすすり泣く声や《おまえはここにいろ》という言葉など、全体的に感情を揺さぶられる“エモさ”を感じたのですが。
SOMAOTA:聴き手を楽しくさせたり、悲しくさせたり、と感情をかき乱すことができるのが“ラップの上手さ”だと思っているんです。そのために言葉のデリバリーにもこだわりました。だから少し重い作品とも言えるかもしれません。
takaosoma:気持ちを揺さぶるのは個人的に実体験しかないと思うんですよ。本や映画で泣いたり笑ったり喜んだり、感情移入できるのは自分と共通の経験があったりするからだと考えていて、それは作る側のプロセスも同じなんです。感動させられる作品は自分が感動しないと作れない。“聴いててカッコいいから”でも作る音楽はカッコよくはなりますが、それをリリックに押し込むと自分が本当に思っていることでないと難しい。なので、“自分がお金持ちだ”とか“強い人間だ”というボースティングをラップすることは効果的ではないなと。
『MYTH』は架空の人物たちによる、ひとつのストーリーになっていますが、ふたりがラップしている内容は彼ら自身を投影させたものです。さらに楽器陣も自分の感情を曲に移入しているので、やはり“重い”んですね(笑)。思い出したくない過去でさえリリックや音楽にして浄化しています。だから聴いて辛い想いを持ったりすることもあると思うのですが、そういう作品が僕の生活範囲の音楽になかったんですよ。これを受け取って、どう思うかを友人同士で話してほしいなと思います。
――いい意味で1stアルバムらしからぬ作品ですね(笑)。
takaosoma:そうかもしれません(笑)。
ONISAWA:アルバムは“架空の人物の人生”がコンセプトになっているんですけど、そこには僕のなかのヒップホップ観やラップの歌唱法についての考え方も投影されています。個人的にラップの宝石って、発語する時の切迫感だと思うんですよ。僕が好きな初期のNORIKIYOさんや、小林勝行さん、海外だとVinnie Paz(JEDI MIND TRICKS)、Kendrick Lamarだったり、彼らには発語に痛みの感覚がある気がしていて。それがリズムに凝縮、結晶化されるときに、必死さというか、切迫感が生まれる。そのメロディに表せない部分がラップの重要な部分で、それが届くとライブで泣いてしまったりするのかなと。
それを生むためには、自身が苦しむことが必要。それが特にゲットーなどで生まれたわけではない、自分のラップ人生で悩んできたことでした。そういう場所に身を置いてない人のラップは“重い”ものではないですし、虚構で「人を殺した」とラップしても切迫感は出ない。だから自らそういう方向に行く人もいますが、それ以外にどうしたらいいのかと考えていた時に『MYTH』の制作が始まって。
そこで僕の体験ではないのですが、身近な人の体験や聞いた話をコラージュして、そこに自分の気持ちを乗せていったんです。自分の痛みではないけど、誰かの痛みをフィクションとして語ることでリアルに行きついた感覚があります。とても僕にはフィットしましたね。
――あとは「May 15th」もそんな“重い想い”が乗ったリリックが印象に残りました。
takaosoma:この曲は前半部を僕が作って、中間以降はみんなのアイデアで自然にでき上がりました。
SOMAOTA:キーボードの石尾(紘樹)くんがドビュッシー「月の光」を聴いていて、それをオマージュしたフレーズ上にテンポ2倍のビートが乗ったらおもしろいんじゃないかと。それをスタジオでセッションしていたら、コロナ禍で《Stay home, Stay alone》というスローガンがよく使われていたこともあって、《Stay alone》というラインが僕から生まれたんです。そこにtakaosomaが最後のメロディ(ヴァンプ的な部分)を足して完成しました。
takaosoma:タイトルも特に何かの日にちとかではないよね、確か。
SOMAOTA:僕が付けたんですけど、本当に何にもない日なんです。日記を書いている設定なので、日にちを曲名にしました。
takaosoma:間のピアノとラップの部分は声に集中すると思うので、リリックの内容的にもアルバム中では一番しんどくなるとも思うんです。劇半音楽的なニュアンスが強いともいえますね。
――大変興味深いです。またエモくない部分、テクニック的な面でいうとトリッキーな拍子の曲も印象に残りました。「Regrettion」は5/8拍子で、2.5拍でスネアが入って2でもリズムが取れる構造になっていますね。
takaosoma:この曲はベース・たけひろが初めて作った曲なんですが、最初のリズム・パターンがパッとしなかったんですよ。僕は“ただの変拍子は変”と思っているタイプなのですが、彼はこれがベストだと判断したのだと思います。そうしたらドラムのアルミン(空閑歩夢)くんが4/4拍子にも取れるビートを用意してきて、天才かと(笑)。
ONISAWA:確かに単なる5/8だったら乗れなかったと思いますが、アルミンのビートのおかげで“何か指かけるところがあるぞ”みたいな感じで(笑)。SOMAOTAは変拍子にきっちりアプローチしてくる気がしましたし、僕は割とオーソドックスにラップしていきました。
SOMAOTA:とはいえ、アルバムの最後にくる大事な曲ですから難しかったですね。僕はリリックを書いてから曲に当てハメていくタイプなので、ばっと言いたいことを書き出してからフリースタイルでハメていきました。正直、自分でもどんな譜割りかわかっていないところもありつつ、最後までいった感じなんですよ。だから音楽的ではない部分もあると思いますが、録った数テイクの中から絞るときに、ONISAWA君が「これが1番感動する」と言ってくれて。あまり難しく考えずにこれでいこうと。
Black petrol
多様なメンバーの活動が生んだ、不思議な繋がり
――なるほど、これがどうリスナーに届くのかに期待しています。さて、皆さんはSMTK『Super Magic 東名京阪ーんっ!ツアー2021』の京都・CLUB METRO公演にも参加されていましたが、彼らとはどのような関係が?
takaosoma:石若駿さんのライブは神戸のFlat Fiveなどによく観に行っていたんですが、特に接点はなく急にメールがきたんですよ。SMTKに客演していたRoss Moodyと対バンして、その流れもあったのか、以前京都のCLUB METROで働いていて、今は表参道・WALL & WALLのブッキングを担当している方が対バンに誘ってくれたんです。
たくさんの偶然が重なったのですが、結果的に僕たちそれぞれが挑戦してきた結果だなと思っています。ひとつのライブハウスをホームとして活動していたら、こういう不思議な繋がりは生まれなかったと思うんですよ。クラブに出たり、美術館に遊びに行ったり、そんなメンバーたちが自由に動いてきた結果が今なのかなと。
――今後コラボレーションしたいアーティストなどはいますか。
takaosoma:Daichi Yamamotoくんは憧れですね。彼の2ndアルバム『WHITECUBE』の1曲目「Greetings」で僕もギターを弾きましたが、実際の共演には至っていないので一緒にやりたいです。
ONISAWA:あとDos Monosとも対バンしたいですね。
SOMAOTA:ハウスやテクノは独特なシーンを形成していると思うので、個人的にはそういった界隈のパーティに出れたらおもしろいんじゃないかなとは思っています。
――では最後に、今後の活動についても教えてください。
takaosoma:クリスマスに開催される空音くんの『FRIENDS GIG』で年内は最後にして、年始までゆっくりして、来年は切迫感のある『MITH』の空気をライブで再現できたらと思っています。夏にコロナ禍が落ち着いていれば、いいライブをいい場所でやれたらと計画しているので、オファーを待っています(笑)。
【リリース情報】

Black petrol 『MYTH』

Release Date:2021.12.01 (Wed.)
Tracklist:
01. Journey to end of the night
02. TABU
03. Akross feat.Ume
04. over spilt milk
05. God Breath feat.NeVGrN
06. astral pumpkin
07. May 15th
08. Odd vessel
09. foot of a soul bridge
10. Regrettion
【イベント情報】

『FRIENDS GIG』

日時:2021年12月25日(土) OPEN 16:30 / START 17:30
会場:大阪・なんばHatch
料金:¥5,000 (1D代別途)
出演:
空音

[Guest]

Black petrol
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・チケット
一般発売:12月11日(土)〜
■ Black petrol オフィシャル・サイト(https://blackpetrolmanage.wixsite.com/home)

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