安部コウセイが語る、SPARTA LOCALS
× HINTOを全力で同時進行する理由

1998年に結成され、2009年に解散するも、2016年に再結成されたSPARTA LOCALS。メンバーは安部コウセイ、伊東真一、安部光広、中山昭仁。2010年に安部コウセイ、伊東を中心に結成したのがHINTO。現メンバーは、安部コウセイ、伊東、安部光広、菱谷昌弘。ドラムの中山と菱谷以外は、3人が同じメンバーである2バンド。

12月26日(日)、渋谷WWWXで初の2マンライブ『スパルタヒント』を開催。2バンドを同時進行させた事だけで驚いていたのに、何と対バンまでするという。その上、12月28日(火)には、もちろん初となるスプリットシングル「≠」を発表。情報を聴いただけでワクワクするが、どういう経緯で進んでいったかを、安部コウセイに聞いてみた。
自然に約2年に渡るコロナ禍での話にもなり、それを踏まえての今回の動きになるが、想像以上に壮絶な日々の話を聞く事になった。結果、乗り越えての今の状況になるわけで、それでこそSPARTA LOCALSでありHINTOである。彼らは、向こう見ずで火事場の糞力を発揮する野武士の様な強さが魅力だ。
このインタビューを読んで、年末の動きを楽しみにして頂きたいし、2022年以降のSPARTA LOCALSとHINTOも楽しみでならない。
――久しぶりのインタビューとなりますので、まずは去年今年をどう過ごされていたかから教えて頂けますか?
みなさんと同じくですよ。覚えているんですけど、横浜FADでSPARTA LOCALSとLOSTAGEで企画が組まれていて、やる直前に(コロナ禍が)ガーっときて。2020年の2月後半と記憶していますが、そこでどうするか?となって、でも、その時は何もわからなくて。ヤバい方向のケースならば、(開催するのは)リスキーだなと。結構話し合いましたね。僕としては仕事なのでやるつもりでしたし、音楽だけ出来ないのはおかしいと思っていましたが、家族がいるメンバーもいますから。最悪の状況も考えられましたしね。そこからが地獄の始まりですよ。
――本当にそうですよね……。その時に色々と考えられたんですね。
何ケースか想像しましたね。今年中(2020年中)に収まるのか、2、3年かかるのか、でも考えても仕方ないので。ちょうどHINTOの10周年記念で10ヶ月連続ライブも組んでいて、何とか2月のだけは出来たんですよね。その頃は国の体制もウヤムヤで、ライブやる/やらないの基準も整っていないし。もちろんやりたいけど、強行してもお客さんが来るかもわからなくて。ライブハウスからもクラスターが発生して、危険な場所と認知されてしまったし。ウチらの客層も家族がいて社会的責任がある層でもありますから。どういう風に赤字を最小限に抑えるかを考えていました。
――そういう中でコウセイさんもされていましたが、配信ライブという選択肢も出来ましたよね。
HINTOが四谷で6月に配信ライブを初チャレンジでやったんです。その時に僕が思ったのは、普通のライブハウスのレイアウトでカメラを入れる形でやっても全然おもしろくないだろうなと。やるならば、映像作品として成立させないといけない。その時もフロアにステージをレイアウトして、きちんとしたクオリティーでやりました。最初の頃はお客さんも応援心理が加味されていましたが、今は普通にwithコロナの状態なので、ちゃんとコンテンツとして観ている。でも映像作品として配信ライブをやり続けるのは、かなりのコストがかかってしまう。SPARTAも8月に羽田で(メンバー)縦並びのレイアウトでやりましたけど、とんでもないお金がかかりますから、定着していくのは難しいですよ。継続してやるには、相当の人が観てくれないと出来ません。だから、ライブハウスバンドには中々難しくて……。それにスポーツや格闘技って勝ち負けがはっきりありますけど、音楽はかなり抽象的なので、スポーツや格闘技と比べると、映像との嚙み合わせはそんなに良くないかなと。
――本来のライブが出来ない中で、その様に配信ライブの工夫もされていて、それ以外で言うと楽曲作りになると思われるのですが、曲作りはされておられましたか?
僕は作れなかったです。何を歌ったらいいのかわからなくなっちゃって。自分の地盤を表明するのが歌詞だと想うんですが、その地盤がむちゃくちゃになっていましたから。心の置き場も月替わりで変わるので、気分が変わるし、常識も世の中の状況も変わりますしね。(自分たちの)ある程度のしっかりした地盤がある中でのカウンターだと思っているので。誰に届けるのか、何のためにとか、考える時間にはなったと想います。考えざるをえなかったですし、音楽を辞めようかなとも想ったし。それでも辞めなかったのは音楽が好きだし、楽しいしという初歩的なシンプルな答えに行きつきました。
――そこまで考えられたというのは、やはり2020年という年はコウセイさんたちにとって凄い年だったという事ですよね。
僕らは経済的にも直撃してキツかったですけど、その都度真剣に考えられたのは貴重な時間で、今後の財産にもなると思っていて。音楽を辞める事まで考えたからこそ、音楽をやるからには良いものをやりたいですから。
SPARTA LOCALS
――そんな中でSPARTAとHINTOの対バンが決まったり、スプリットシングル発表が決まったりしたのは、どういう流れだったのでしょうか?
まず対バンというのはSPARTAを再結成する前から妄想としてありました。HINTOと対バンしたら一番おもしろいとはと考えていましたし、もしもSPARTA再結成して対バンしたら、狂っていておもしろいなと。そこから再結成が膨らんでいったのは事実で、草案ですよね。いつかやりたいなとはずっと思っていたし、実は去年やろうと思っていましたし。
――SPARTA再結成というのは5年前ですから、その頃から妄想草案があって、今、実現しているというのは、むちゃくちゃワクワクします。
そもそもワクワクしたくて、音楽をやっているし、「何をやっているんだろうコイツら?!」と思われたい。そんな中で12月26日に対バンをやろうと決まって、そしたらスタッフから「そろそろ音源も作りましょう!」と尻叩かれて。そこでパッと閃いて、やるとしたら、スプリットシングルを出すのがおもしろいんじゃないかと。まぁ、そのせいでスケジュールが異常に大変になったんですけど。
それぞれアーティスト写真も撮ったんですけど、スケジュール的に1日で2バンドとも集まらないといけなかったし、撮るからには特色と違いを明確に出さないといけない。ひとつは昼、ひとつは夜に撮影とかね。撮影もレコーディングも山梨でやったんですけど、昼撮影の写真は晴れてくれないと(構想が)潰れちゃうんです。中途半端に曇っていたりしても駄目ですから。そういうコントロール出来ないリスクがありましたね。レコーディングのリズム録りに関しては、HINTOを午前中にやって、ドラムセットを変えずに、SPARTAを午後にやらないといけなかった。かなりスピーディーで嫌だったんですよ(笑)。嫌だけど、まぁ、そうなるだろうなとは思っていました。それに今回が成功すれば絶対おもしろくなるだろうと思っていましたし。おもしろい事をやりたいというモチベーションだけで、最後までずっとやっている感じでした。
――勝手な話なんですけど、コウセイさんたちは時間が無い中でのチャレンジが本当に似合うと思うんです。絶対に素晴らしく乗り越えるのがわかっていますし、実際、今回も素晴らしい音源が出来ていますから。
それは結果論でしかなくて、むちゃくちゃリスキーだなと想っています。煮詰まらなかったから良かったですけど、偶然に賭ける綱渡りみたいな工程だなと。ゆとりがある方がいいと思いますよ。レコーディングひとつ取っても、途中で滞っていたらと思うとゾッとしますから。結果良かったというだけで、気が気じゃなかったですよ。でも、全てにおいて僕らは選べる立場じゃないので。目の前にある条件の中で知恵を絞ってですね。それは2020年(のコロナ禍)で鍛えられた発想の筋肉が使えました。どんな状況でも、どういうパフォーマンスが出来るのかというクセがついたので。文句を言っていてもしょうがないですもんね。
SPARTAに関しては、とんでもなく過去一で追い込まれました。スプリットシングルの話も今年の10月とかに出た話ですし、その時点でSPARTAは曲が出来ていない状況でしたから。むちゃくちゃなんですよ。おもしろい事って、そうだと思うんですけど、現実的にやれるかやれないか考えるとつまらなくなるんです。「再結成おもしろいんじゃん!」と思って、ネガティブなとこは一切観なくて、「本当にやれるの?!」は後から考えたら良いと思っていて。おもしろい事を一番上に置いて、後は力技でやっていったら、楽しい日々を送れると思っているんで。
――にしても、今年の10月の時点でSPARTAの曲が1曲も無くて、なのに12月26日にはスプリットシングル先行発売というのは凄すぎませんか……。
壮絶ですよ……。レコーディング終わった瞬間に、僕「勝った!!」と言ったんですよ。意味わからないんですけど、何かそういう事なんですよ。両バンドの違いを明確に出せるのかというのはプレッシャーでしたけど、成功しないと駄目だと思っていましたから。結構なチャレンジだったので、スケジュールもコンセプトも含めて全て終わって、思わず口を衝いて出たんだと想います。
HINTO
――地獄で壮絶で過酷だとは思うんですけど、だからこそ、やはり素晴らしい音源が出来るわけで。ふんわりしたものって絶対出来ないじゃないですか。
ふんわりとさせたいんですけど(笑)。でも、やり方がわからないんですよね。刺激のある事が好きなんで。イチかバチかが好きなんで。バンド選んでる時点で、そういう事が好きなんで。SPARTA再結成をかっこいいと思うのは、経済的・社会的に底辺なんで、ちゃんとリアリティーを持ってやれるんだろうなと思えるからで。未だにマイノリティーな我々が説得力を持っているのかなと。20年前と状態が変わってないのは複雑な気分になりましたけど。
――そのマイノリティーな精神を持ったままで、コウセイさんたちがマジョリティーになったら最強にかっこいいと思っているんです。
マジョリティーになりたいですね。心から、そう思う。別にマイノリティーでいたいわけではないですからね。だけど、現時点での僕たちの音楽から血の香りがするのは事実で。
――血の香りがする中で、SPARTA「旧TOKYO」での「おかえりなさい」やHINTO「ニジイロウィークエンド」の「始まりそうな」と最後に希望の言葉が歌われているのも好きでした。
まだ売れるんじゃないかと思っていますから。馬鹿みたいな話ですけど。そう想えるのは嬉しくて。「これ売れるよね!」と(ギターの)伊東に言える感覚を心の底から持っていて、それを信じていて、幸せですよ。曲が自分の救いで、自分を全肯定してくれる。
――当たり前ですけど、わかりやすい励ましの応援ソングではなくて、なのに結果、勝手ながら受け手の僕らも救われて全肯定されているのが素敵だなって想うんです。
そうですね、僕しか救おうと思っていないですから。他の人を救おうと思ってなくて、誰かを元気にしたりとか思わないし、そういうもので励まされた事もないので。元気ない時に「元気出せよ!」というメッセージはウザくて。バッドエンドの映画でも励まされた事ある。「励まされました」と言われたら嬉しいですけど、だから頑張ろうというのが目的でも無いので。
――今日お話を聴いていて、改めて、向こう見ずで火事場の糞力な、野武士みたいなコウセイさんがかっこよくて大好きだなと想いました。
向こう見ずで火事場の糞力ですか?! スタッフ含めて、みんな血だらけですよ! 野武士も望んでないですよ!!
――(笑)。とにかく今は12月26日の対バンが楽しみです!
体力っすよね。体力がどうなのかな? でも楽しいじゃないですか! あっ、同じ日にナンバーガールのライブがあるので、それは持ってねぇな、最悪だなと(笑)。そのストレス以外は楽しいんじゃないですか。どう考えてもおもしろい日になるんで。ある種、実験でもありますし。ドラマー以外全部同じメンバーのバンドを、同じ日に同じ場所で観る経験はなかなかないですから。

取材・文=鈴木淳史

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