歌舞伎公演『いぶき、』新橋演舞場へ
! 児太郎の滝夜叉姫×蔦之助の光圀
、廣松のお富×九團次の与三郎~取材
会レポート

2022年1月21日(金)より23日(日)にかけて、新橋演舞場で開催される市川海老蔵企画公演​『いぶき、』。今年6月に京都南座で開催された第一回の好評を受け、はやくも第二回の公演が決まった。12月14日に取材会が行われ、中村児太郎、市川九團次、大谷廣松、中村芝のぶ、市川新蔵、市川新十郎、市川右若、市川蔦之助、市川升三郎、市川福太郎、市川福之助が出席した。演目は、『春調娘七種』、『与話情浮名横櫛 源氏店』、『忍夜恋曲者 将門』。チラシに顔写真がのる全員が集まった取材会の模様をレポートする。
■『いぶき、』とは
コロナ禍の中、市川海老蔵が、次世代の俳優たちにもさらなる活躍をしてほしいと企画した公演。『いぶき、』の意味を問われ、児太郎が説明した。
「若い芽が生えていく。そして、その続きがあるように。海老蔵のおにいさまたちが『いぶき、』と付けてくださいました。大輪となることを目指してがんばりなさい、というメッセージでもある、とてもすてきな名前だと思っています」
■中村児太郎
「海老蔵のおにいさんのおかげで、二回目を開催させていただくこととなりました。誠心誠意、命をかけて勤める所存です」
児太郎は、『忍夜恋曲者 将門』で滝夜叉姫を勤める。
「前回は『妹背山婦女庭訓』のお三輪をやらせていただきました。その際に、次は『将門』を勉強しておいたほうがいいだろうというお話になり、私自身やりたいと思っていた舞踊でしたので、これはチャンスだと思い、選ばせていただきました」
中村児太郎
滝夜叉姫は将門の娘だが、傾城の姿で花道のスッポンより現れる。
「花道の出から、切らしてはいけない感情がずっと続きます。その中で、拵えも拵えですし、小道具の扱いも大変難しいところが多くあります。蔦之助さんと僕2人の舞台。楽しめたらと思います。振付は、藤間勘祖先生にお願いしました。父・中村福助が中村歌右衛門のおじさま直伝で大事にしているお役です。しっかりと習い、歌右衛門家の芸をきちんと吸収したいです」
『阿古屋』や『金閣寺』雪姫など、若くして女方の大役を勤めてきた児太郎。しかし本公演には、別のプレッシャーがあったという。
「前回は、責任公演であることに大変なプレッシャーを感じました。諸先輩方は、このプレッシャーを25日間の座頭公演で感じておられるのだなと勉強させていただきました」
■市川九團次
海老蔵門下の九團次は、第2回の開催に喜びと感謝を述べる。
「歌舞伎の古典を勤めさせていただけることを、本当にうれしく思います。古典を大事に勤め、古典を大事に守っていきたいです。前回も、歌舞伎界に入って以来、一度だってやらせていただけるとは思いもしなかったほどの大役をいただきました」
市川九團次
今回も大役だ。世話物の名作『与話情浮名横櫛』「源氏店」で、与三郎を勤める。
「情報が解禁されるまで、信じられない思いでした。歌舞伎界の先輩方、大スターの方々が演じ、お客様にも人気の狂言です。そのことに怖さも感じますが、最大のチャンスだと思い、今回も精一杯勤めます。市川家と縁のある演目です。全体的な監修、指導を海老蔵丈にお願いし、大先輩である梅玉さんに役をご指導いただくこととなっています」
与三郎は、江戸の小間物問屋の養子で、跡取り。
「大店の坊ちゃんの雰囲気や、海老蔵丈の色気や哀愁が必要なお役ですが、私には苦手な部分でもあります。そこを、しっかりと……」
一度言葉を止めて、「しっかりと、と言って……やれるものでも、ないですよね?」と困り顔。一同が笑いに包まれる中、「色気とは何ぞやといったところから研究して勤めます」と結ぶ。児太郎が、記者に向け「答えになっていましたか!?」とフォローに入り、さらに笑いが起きていた。
前回公演では「脇の役で出るのと主役で出るのでは、本番に見る景色は全然違いました。一瞬孤独にもなり、主役の方はこんな思いで勤めてらっしゃるのだと知りました」と、ふり返っていた。
■大谷廣松
「皆で古典を勉強し、皆にその良さを伝えていけたら」
そう語る廣松は、『源氏店』でお富を勤める。
「かねてより『いぶき、』で、おじの中村雀右衛門に何か習いたいという思いがありました。お富は、祖父(四世中村雀右衛門)とおじが大事にしているお役です。(役が決まった時は)おじに報告し、『教えてください』とお願いしたところ、快く受けてくださいました」
大谷廣松
「祖父が残してくれた古い台本や書きなぐったノートが出てきたのですが、解読できず……。おじも『パパの字は読めないから』と話しており、解読には至らないのですが……」
苦笑いをみせつつ、雀右衛門とのやりとりを楽し気に明かす廣松。相手役は、本興行でも同じ舞台に立つことが多い九團次だ。
「お富与三郎は、どちらが惚れたか惚れられたか。先輩方の『源氏店』を拝見しても、どちらが惚れているのだろうと、人それぞれに見える作品です。今回は、九團次さんに全力で惚れてもらおうかなと思っております。全力で勤めます!」
廣松の宣言に、九團次は「あなたも惚れてね」と愛嬌たっぷりに返していた。第一回では「花道から出て、お客様の前に僕しかいない、すべてのお客様の目を集めるという緊張感を知りました。先輩方はこの緊張感の中で1年を通して勤めておられるということ。また、習ったことをするだけでも大変で、その中で自分を出していくことの難しさを学びました」と真摯に語る。
■中村芝のぶ
「お客様の前で勉強させていただけますこと、本当にありがたく思っております。共演してくださる2人がとても若いので、若さに負けないよう頑張りたいと思います」
芝のぶは、本公演のオリジナリティに言及し、感謝を述べる。
「我々弟子は、普段の興行でこれほど大きな役を勤めることはありません。勉強会でやらせていただく場合も、お弟子さん同士でやるのが一般的。前回は『妹背山婦女庭訓』の橘姫を、本興行でも役をお勤めの坊ちゃん方と一緒にやらせていただきました。ありがたかったです」
中村芝のぶ
今回は序幕を飾る舞踊『春調娘七種』で、静御前を勤める。春の七草をもった静御前が、曽我兄弟と登場する縁起の良い作品だ。
「今回は部屋子の福太郎さん、福之助さん、若いおふたりとの共演です。ひっぱっていけるといいなと思っています」
■市川新蔵
『源氏店』で泉屋の多左衛門を勤めるのは、新蔵。思い出深い演目だと語る。
「亡き師匠、(十二世市川)團十郎のもとへ入門しました頃に、師匠が与三郎を勤めておりました。懐かしく、思い出深い狂言です」
市川新蔵
『いぶき、』と一般的な勉強会では、“若手が大役に挑戦する”企画でありつつも、異なる印象を受けた様子。
「僕ら国立劇場研修生出身者の勉強会は、国立劇場小劇場で行うことが多いのですが、『いぶき、』第一回公演は京都南座。顔見世興行をする、格の高い劇場です。そのような舞台で皆が、1ランクも2ランクも上の役を勤めました。緊張感は実にすさまじいものでした。今回は(さらに大きな)新橋演舞場です」
そして、「私は前期高齢者ですが、若い方々の足をひっぱることのないように、これを肝に銘じて勤めます」と冗談をまじえつつ、気合を感じさせるコメントをした。
■市川新十郎
『源氏店』蝙蝠安を勤めるのは、新十郎。
「『源氏店』では、江戸の世界の空気を感じていただけるお芝居にできればと思います」
市川新十郎
前回は、坂東玉三郎の稽古が勉強になったという。
「とても深い、密な稽古をしていただきました。『乗合船恵方万歳』では一人で舞台の真ん中に立って踊ることに、とても緊張しました。同時に、気持ち良い、うれしい、楽しい経験をさせていただきました。今回は世話物。いかに自然にできるかを目指して勤めます」
■市川右若
右若が勤めるのは、下女のおよし。
「このお役は、歌舞伎界の諸先輩方がお勤めになっている役。先輩に教わり、それを受け継いでいきたいと思っております」
市川右若
前回は『乗合船恵方万歳』の白酒売の他、『妹背山婦女庭訓』の官女のシンをやった。
「連なる官女も初めて出演する子が多く、ひっぱっていかなくてはと。責任を持つことの大切さを学びました。前回はとても緊張いたしました。舞台稽古でも、海老蔵さんが『緊張しすぎの人が多い』とおっしゃっていました。そのような課題を作る機会をいただき、再び挑戦する機会をもいただけたことに、改めて感謝申し上げます」
■市川蔦之助
『いぶき、』に、初めて参加する蔦之助。『将門』で、大宅太郎光圀役を勤める。
「声をかけていただき、まず嬉しかったです。しかも光圀役です。まさかという気持ちで、半信半疑でした。新橋演舞場でこのようなお役を勤めさせていただくことがあるなんて、歌舞伎界ではこういったことが現実に起こるのだなと、嬉しく思いました」
市川蔦之助
喜びを語るとともに、『いぶき、』の意義に言及する。
「我々にとって大切な勉強の場であると同時に、新しい世代、いわゆる“Z世代”に向けても大切な公演になるのではないでしょうか。門閥外の人間が、このような大役をやらせていただけるのだというメッセージになり、これから歌舞伎役者を目指す若い方の希望となる公演だと感じます」
子どものころから、宗家藤間流を勉強させていただいた蔦之助。振付の藤間勘祖には「ご縁もあり、昔からお世話になっています」と答える。
「『将門』の滝夜叉姫​は、児太郎さんのお家の皆様が、代々大切に勤めてこられたお役です。その児太郎さんが初役をされる公演で、相手役をやらせていただきます。恐縮な限りですが、たくさんのことを勉強し、しっかりと勤めたいです。勘祖先生に細かくご指導いただき、台詞や役については、中村梅玉さんにご指導いただけることになっています」
■市川升三郎
「芸歴23年ですが、門閥外の人間です。このような取材は初めてで、いま大変緊張しております!」
飾らない挨拶で場を和ませた升三郎は、『源氏店』で番頭の藤八を勤める。観客の笑顔を誘う役どころだ。
市川升三郎
「藤八は、通常ならばベテランの方がやるお役です。私はいま40代で、藤八役を勤める歌舞伎役者としては若手。お客様に違和感を与えないよう勤めたいです。クオリティを突き詰め、お客様に『新橋演舞場に見合う会だった』と思っていただける公演になれば」
■市川福太郎
海老蔵門下の福太郎は、『春調娘七種』で曽我十郎を勤める。
「十郎は『寿曽我対面』などで、子役の頃から憧れていたお役です。数々の先輩方が勤めた十郎を、とても大事に勤めていければと思います」
市川福太郎
「前回は、先輩方に多くの助言をいただき、ただただ一生懸命勤めることしかできませんでした。今回は弟とともに、曽我の兄弟を勤めさせていただき、芝のぶさんと一緒に出させていただきます。こんなにありがたいことはありません。足をひっぱらないように。ただ、その不安がお客様にも、弟にも伝わらないよう、気をはって勤めてまいります」
■市川福之助
同じく海老蔵門下の福之助は、今回が初参加となる。
「出演が決まった時は、びっくりしました。不安もありましたが、嬉しい気持ちが一番大きかったです。稽古や本番の中で日々成長できればと思います。先輩方の足をひっぱらないよう、精一杯勤めさせていただきます」
市川福之助
『春調娘七種』を曽我五郎役で踊る。
「小さい頃から憧れていたお役です。先輩がたの胸をお借りするつもりで一所懸命勤めさせていただきます。この舞台を設けてくださった若旦那(海老蔵)や関係者の方々への、感謝の気持ちでいっぱいです」
■新橋演舞場で、3日間5公演
前回の公演を、「はじまってしまったら、あっという間だった」と、児太郎は振り返る。
「今回は、3日間5回公演です。25日間の本興行と異なり、3日間にすべてのエネルギーを費やし、お芝居に挑める喜びがあります。第一回で終わらず、第二回をさせていただけることが、やはり非常にうれしいです。これを三回目につなげるには、結果を出さなくてはいけません。前回よりも出演者は多いです。3演目ありますので、分業制でそれぞれがんばれたらいいですね。いずれもクオリティが高いものになるよう、本番に向けお稽古をしていきたいです。第三回があるかどうかは、今回の結果次第です」
第二回となる『いぶき、』は、新橋演舞場で1月21日(金)から23日(日)までの公演。

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