CHEMISTRY “歌一本”で現在地を更
新し続ける二人はどのように代表曲の
リメイクに向き合ったのか

CHEMISTRYが攻めている。2001年3月7日のデビューから20周年を迎えた彼らは現在、今年3本目となるアニバーサリーツアー『CHEMISTRY 20th anniversary Tour 第三章「This is CHEMISTRY」』をまわっている。そんな精力的な活動を展開しているなかで発表されたのが、代表曲のリメイクプロジェクトだ。10月27日に第1弾として配信された「PIECES OF A DREAM feat. mabanua」をはじめ、誰もが知る初期の代表曲「Point of No Return」「You Go Your Way」「君をさがしてた」「My Gift to You」を、気鋭の音楽集団・origami PRODUCTIONSによるリアレンジで順次リリースしていく。一世を風靡したオーディション番組『ASAYAN』で登場して以降、“歌一本”で現在地を更新し続ける彼らは、なぜ、そして、どんなふうに自らの代名詞とも言える楽曲たちと新しいかたちで向き合ったのか。話を聞いた。
――20周年イヤーはかなり精力的な活動を展開していますね。
川畑要:そうですね。本当にこの1年間は濃かったなという感じがしてます。
――コロナ禍のアニバーサリーになったことで、当初とは違うかたちで迎えることになったアニバーサリーイヤーかなと思うのですが。
川畑:もともと予定していたツアーも中止や延期になってしまって。今できることということを考えながらツアーを回ったり配信ライブを行ったりしていました。
――去年は1本しか有観客ライブを開催できなかった状況もありましたけど。いまお客さんを入れられるツアーをまわれるようになって思うことはありますか?
川畑:目の前にお客さんがいてくれるのは全然違いますよね。まだ声が出せない状況ではありますけど。あと、去年配信ライブをやって得たものも大きかったんです。やっぱり全員がライブに来られるわけではないので。こういう場所もずっとあり続けるのかもしれないっていう発見はありましたね。
CHEMISTRY/堂珍嘉邦
いま振り返ると、最初の10年は勢いだったと思うんです。でも、そこからの10年は常に自分と音楽の関係性を考えることがテーマだった。(堂珍)
――いま開催中の『CHEMISTRY 20th anniversary Tour 第三章「This is CHEMISTRY」』は、どんなムードでやれていますか?
堂珍嘉邦:今回は生バンドのアンサンブルでやっているんです。20年間歌い続けてきたことによって、僕らも音楽のゆらぎみたいなものを純粋に楽しめるようになっているんですよ。足し算とか引き算とか、いままでいろいろなアレンジで楽曲を再構築してきたけど、いまはシンプルに立ち返るっていうところがあって。それを体現できるツアーになっていると思います。
――シンプルに立ち返るというのは、具体的にどういうことですか?
堂珍:2000年のはじめの頃って、ストリングスがすごくドラマチックだったんですよね。それも音楽の作り方としては正解だったんですけど。いまは削ぎ落すことによって、たとえば、僕らの歌の聴こえ方、味わい方が日によって変わったりすると思うんです。
川畑:シーケンスとかコーラスがないのは大きいですよね。やっぱりシーケンスがあると、どうしても囚われちゃうんですよ。そういうものじゃなくて、バンドとのセッション、かけ合いのなかで歌うっていうのがいまの自分は楽しいので。そこを第三章のツアーではやれているような気がします。
――なるほど。改めてCHEMISTRYの20年間というのを、どんなふうに振り返りますか?
川畑:時代が本当に変わりましたよね。これからはもっと新しいかたちになっていくんだろうなと思いますけど。そういうなかで、ずっと歌について考え続けてきた20年だったのかなと思いますね。
――歌についての考え方に変化はありましたか?
川畑:あのとき、こういうことやりたいっていうのができるようになったのかなと思います。でも、“あのときの良さ、ちょっと失ってないかな”とも思うんです。歌って瞬間瞬間でしか残らないので。そこをいかに気にしないで楽しむか。それが最終的なゴールなのかなって思うんです。
――その考えに辿り着くまでには、相当の葛藤があったんじゃないですか?
川畑:ありました。試して、試して、試して。自分のなかで“これは違うな”ってやっていくしかないんですよ。そしたら、いつだったか忘れちゃったんですけど、自分の歌がこうなるんだから、これが俺の歌なんだって受け入れた瞬間にラクになったというか。今回のツアーでセッションをやっているのもそういうことなんですよね。自分の歌を試してるんです。楽しみながら、まだまだ高めようとしてる。自分の経験値を少しでも増やそう、みたいな感覚でやってますね。
――堂珍さんはどうでしょう?
堂珍:最初の10年と後半の10年では景色が変わるスピードが違ったなと思います。音楽シーンも変わりましたし。そういう状況のなかで、20年間、歌一本でやれているっていうのは誇っていいんじゃないですかね。自分たちじゃなかったら同じことはできないと思うんですよ。
――たしかに他にいないですよね、CHEMISTRYみたいな存在というのは。
堂珍:オーディションで出会って続いてるっていうことがなかなかないですからね。同じ釜の飯を食って、地元からっていうものでもないですし。いま振り返ると、最初の10年は勢いだったと思うんです。でも、そこからの10年は常に自分と音楽の関係性を考えることがテーマだったというか。“歌って何か?”って考えたときに、たとえば、卑弥呼とかの縄文時代だったら、僕らはシャーマンですからね(笑)。
――ええ(笑)。
堂珍:“特別なことだ”っていう気持ちも半分ありつつ、すごくナチュラルにとらえるようにもなっていて。人として当たり前にやっている。そういう気持ちが同居させながら、30代後半から40代にかけては、とにかく“歌一本でみんなが一喜一憂してくれるっていうことは、すごいことだな”っていうことを改めて思うようになったんです。だからこそ1個1個の密度をあげて、大事にしていこうっていうふうに変わってきましたよね。そんななかで、ケミストリーとして、これからも歌一本っていうのを大切にしたいっていうことで、今回のリメイク企画が持ち上がってきたわけです。
――なるほど。このタイミングでリメイク企画をやろうというのは、いまのふたりのモードとしては自然な流れだったんですね。
川畑:いまここで新曲っていう考えにはいかなかったですね。ありがたい話、ヒットソングと言われるものがあるので。それをリメイクしたサウンドで僕らが新たに歌って届けるのがいいのかなって。(プロデューサーの)松尾(潔)さんを筆頭にいろいろ考えてやってくださいました。
CHEMISTRY/川畑要
すべての人に届くわけはないし、すべての人に好かれようとも思ってない。でも、楽曲をリリースするならたくさんの人に聴いてもらいたというのは素直な気持ちです。(川畑)
――今回、リアレンジをorigami PRODUCTIONS所属のメンバーを起用しているのがポイントですよね。結果的にカラーが統一されたところもあって。
堂珍:そうですね。いわゆる“新進気鋭”とか言われる方たちですよね。いまのミュージックシーンのなかで真ん中というか。
――星野源Official髭男dismあいみょんの楽曲を手がけるようなヒットメイカー集団です。
堂珍:そういう名だたる方々が自分たちの曲を模様替えしてくれるのはすごくおもしろいなと思いました。僕らもいろんなバリエーションで歌えるのが楽しいんですよ。ずっとトマトを食べるにしても、生のトマトばっかりより、時に煮たトマトのほうがいいし(笑)。そこに自分たちの20年分の積み重ねを入れるというか、大げさに言うと、新しい命を吹き込む気持ちで歌入れはしてました。
――実際にリメイクの制作は、どういう流れで進んでいくんですか?
川畑:今回の企画って、僕のなかでは松尾さんの遊び心だと思っているんですよ。松尾さんが、“この曲にはこの方がいいな”って選んでくださったんですね。そこであがってくるものに対して、僕はいかに楽しめるかっていうことを考えてたんです。逆に作家さんたちのほうは緊張したと思いますね。ヒットしたものを自分色にリメイクするわけだから。
――実際に、そんなふうにおっしゃる作家さんもいたんですか?
川畑:「PIECES OF A DREAM feat.mabanua」(10月27日配信)をプロデュースしてくださったmabanuaさんは、“すごく(反応が)気になる”っておっしゃってました(笑)。それはそうだよな、と思いますよね。
――特にあがってきたトラックを聴いて、“こうきたか”と思われた曲はありますか?
川畑:いちばんグルーヴィーだと思ったのは「PIECES OF A DREAM」ですね。もちろん全部好きですけど。ライブが見えたというか。転調がキメっぽいビートになってて、“あ、自分はこういうのが好きだったな”って思いました。体が自然に動くんですよね。
――先日、松尾さんがラジオで、「PIECES OF A DREAM」はブギーっぽい楽曲になったというような表現をされてました。
川畑:やっぱり松尾さんの遊び心がしっかりと楽曲に注ぎ込まれている感じがしますね。
堂珍:mabanuaさんって見た目がファンキーじゃないですか。でも、すごく愛嬌のある方でおっとりされているところもあるんです。それが楽器を弾くと、ミュージシャンの顔になるんですよ。いろいろな楽器も弾かれるし。すごくリスペクトもできるから楽しくやれましたね。
――いままでのアレンジと歌うときのスタンスは違いましたか?
堂珍:どの曲もそうなんですけど、すごくフレッシュな気持ちで歌えました。ちょっと言い方がふさわしくないかもしれないんですけど、錆びをとった感じがしたというか。清々しい、瑞々しい感じがすごくしたんです。それで自分は、これならリメイクもありだなって思えたんです。
――いま話に出た「PIECES OF A DREAM」とか、11月10日にリリースされる第2弾の「Point of No Return feat. 関口シンゴ」は、ビートが強めで、削ぎ落としたアレンジなのが印象的でした。
川畑:そうですね。「Point of No Return」はもともと疾走感がある感じなんですけど、また今回のリアレンジでアプローチが変わってるんですよ。すごくワクワクしました。こういうアレンジになっていくなかで、松尾さんが現場でいちばん気にしていたのが、“どう歌うか”っていうところですよね。とにかく、あんまり気負わず、構えず。難しいんですけど、考えすぎると、変なものになってしまうんです。だから、“まず歌わせてください”って言って。いままでのメロディだと合わないなと思ったら、“じゃあ、メロディを崩そうか”とか、そういうところもいくつかあって。それ以外は基本オリジナルで歌っていきながら、できるだけシンプルにとらえて歌うようにしてましたね。
――堂珍さんは、今回のリアレンジで印象的だった曲はありましたか?
堂珍:「君をさがしてた feat. Michael KanekoHiro-a-key」(12月1日配信)のトロピカルな感じはおもしろかったです。
川畑:あれはメロディも変わってるからね。
堂珍:あとは「You Go Your Way feat. Shingo Suzuki」かな。オリジナルってイントロがゴージャスじゃないですか。ブラックミュージックの匂いがあるソウルな音色を使ってますけど、今回の「You Go Your Way」は淡々としているんですよ。
――ピアノの伴奏がメインですよね。
堂珍:そう。気負ってない。作り込んでない感じがいいなって思いました。“あ、そうきたんだ”って。
川畑:オリジナルの「You Go Your Way」は若い恋愛の叫びなんですよ。若いなりに、エモく、熱量を高めに歌ってるんですけど。今回ってそれを思い出して歌ってるような熱量になっているんです。それも、あのトラックがそういうふうにさせたのかなと思います。もちろん力強さもあるんですけど、当時とはまったく違うものになりましたね。
CHEMISTRY/堂珍嘉邦
――今回、各アレンジャーからボーカルディレクションみたいなものはあったんですか?
川畑:ほとんどなかったです。言いにくかったのかなと思います(笑)。もともと聴いてくださっていたので。僕も最初そこが気になってたんです。それぞれの作家さんに“どう思われました?”ってディスカッションしながら作ってはいったんですけど。たぶん、これはもうある程度いただいたトラックに対して、自分で世界観をバシバシ作っていったほうがいいなって思いながら歌ってましたね。
――さっき少し話に出た「君をさがしてた」は斬新ですよね。
堂珍:これが一発目のレコーディングだったんですよ。
川畑:この曲に関しては、メロディを変えて歌うことになるとは想像もしてなかったっていうのが、率直な気持ちでしたね。作家さんが、“このバージョンにはこっちのほうがいいんじゃないか”って言ってくれて歌ったらしっくりきたんです。これこそリメイクだなと思いました。他の曲がどうなっていくかわからない段階っていうのもあって、作家さんが思った気持ちをかたちにして、僕らが歌うことに対して、“あ、これはおもしろいな”と思えた楽曲ですね。
堂珍:デモに入っていたKanekoさんの仮歌がエアリーな歌い方をされてたんですよ。それを自分の声に変換するのが大変だったりしたんです。そこに寄せることもできるけど、それって聴いてくれる人が喜ぶのかな? とか、自分がやる意味があるのかな? っていうのがあって。それがいちばん最初にぶつかった難しい問題ではあったんですけど、最初に直面してよかったなって思いました。
――それが今後の指針になっていったんですね。
堂珍:そう。仮歌のいいところは取り入れつつ、そもそもライブ慣れしている曲でもあるので。小節を短めにカットして、ブレイクを入れて、再開をしてとか。そういう決めごとがこの曲のひとつの見せ場でもあるから。そういった部分をいろいろやりながら選んでいきましょうっていう感じでしたね。
――12月8日に配信リリースされる「My Gift to You feat. Kan Sano, Hiro-a-key」は、5曲中いちばん原曲に忠実だなと思いました。今風の音色にブラッシュアップされていて。
川畑:ね。だからすごく歌いやすかったのかな。
堂珍:たぶん作家さんはすごく悩まれたと思うんですよね。だからこそ原曲のまま、音色を変える感じで仕上げてきたのは、“なるほど”と思いました。2001年版と変わったことで、2021年版として、ちゃんと積み重ねてきたものを表現できたらいいのかなっていう感じで歌いましたね。
――長く歌い続けてきたことで、自分のなかで歌詞の解釈が昔とは変わったりする部分もあったりしますか?
堂珍:うーん……たとえば、「My Gift to You」で言うと、《大人になり 夢にはぐれて 戸惑う僕の前に 君が立っていた》っていう歌詞があって。20代前半の自分は君の側なんですよ。でもいまは大人のほうなんですよね。
――夢を追いかけている側だったのが、いまは大人になって夢を追いかけている人に語りかけている側になっているというか。
堂珍:っていうのは、毎回感じながら歌ってますね。「You Go Your Way」とかもそうなんですけど、ずっと歌い続けることで、お客さんと自分の関係性が時には入れ替わったりするんですよね。
CHEMISTRY/川畑要
――改めて今回のリメイク企画がどんなふうにリスナーに届けばいいと考えていますか?
川畑:もしかしたらいまは、「PIECES OF A DREAM」の《ハンパな夢》のサビしか知らないとか、「Point of No Return」だったら、《夏草》しか知らないとか。楽曲の全体像を知らない若い人もいると思うんですよ。そういう人たちにこのバージョンが届いてほしいです。すごくいまっぽいかたちになったので。
――20周年を経たいま、もっともっと大勢の人に自分たちの歌を届けたいという想いが強くなっていそうですね。
川畑:そこはすごく強いです。音楽をやっている以上それがないといけないと思うんですよ。すべての人に届くわけはないし、すべての人に好かれようとも思ってないんです。でも、楽曲をリリースするんだったら、たくさんの人に聴いてもらいたいっていうのは素直な気持ちですね。
――ええ、そこは今回のリメイクですごく感じました。守りに入ってないですよね。若い世代とタッグを組んで、この時代にまた新しい歌を届けようっていうやり方を選んだ時点で。
堂珍:そういう意味で言うと、今回うれしかったのは、「PIECES OF A DREAM」を出した時点で、ちょっと辛口のファンの方からファンレターをいただいたんですよ。それを読んだときに、“すごくフレッシュでいい”と書いてあって。わかりやすく言うと、そこに攻めの姿勢を感じとられたんだと思うんです。そこで“だよね”って確認できたというか。ずっと聴いてくださってる方たちにも、僕らの新しい幅を見せられたし、新しい伝え方もできたのかなと思っています。
――この先の10年に向けては、どんなふうに活動していきたいと思いますか?
川畑:僕はやっぱりライブですかね。ずっとライブをやり続けるべきなのかなっていうのは思います。
――今日の川畑さんの発言は最初からずっとそこが一貫しているような気がします。
川畑:ブレてないですよね(笑)。CHEMISTRYってボーカリストになりたくて、オーディションを受けて、ボーカルデュオになったわけじゃないですか。だからこそ歌っていなきゃいけないと思うんですよ。20年やって、その場所がライブでありたいっていう頭になってきてるんです。
――堂珍さんはどうでしょうか?
堂珍:やっぱり音楽とか歌とかって、みんなの感情の集合体だから、そういうものをしっかり表現し続けたいなっていうのはありますね。でも、10年後ってなると……。
川畑:もう52歳になりますからね。自分の人生を考えますよね。
――残り時間のなかで何をやっていくかという思考にもなりますよね。
堂珍:時間の使い方も限られてくるわけだからね。豊かに過ごしたいなと思います。たくさんの人に音楽を伝えていくっていうことをいろいろなバランスのなかでやっていきたい。そういうのが上手くまわれるように、爪は磨いておきますよっていう感じですかね。
取材・文=秦理絵 撮影=菊池貴裕

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