12月に訪れたい関西アート展覧会『メ
トロポリタン美術館展』『「レゴ®︎
ブロック」で作った世界遺産展』『ミ
ラーボーラー展』など5選をピックア
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2021年もいよいよあと1ヶ月。読者の皆さんは今年、アートをたくさん観ることができただろうか。来年も様々な美術展が開催されることが決まっているが、年内にもまだまだ見逃せない美術展がある。西洋美術史における巨匠の作品が一堂に会する超目玉の美術展や、まもなくファイナルを迎えるレゴ®︎ブロックで作った世界遺産展、アニメや漫画ファン垂涎ものの展示など、SPICE編集部が選りすぐった5つの展覧会をご紹介しよう。
メトロポリタン美術館正面入口 (c)Floto+Warner for The Metropolitan Museum of Art
1.『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』/大阪市立美術館
なんといっても見逃したくないのは、大阪市立美術館で開催中の『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』。アメリカ・ニューヨークのメトロポリタン美術館は1870年に創立された。創立当初、作品は1点も存在しなかったが、個人コレクターからの寄贈など、関係者の努力によりコレクションを形成、現在では、先史時代から現代まで5000年以上にわたる世界各地の考古遺物・美術品150万点余りを有し、「世界3大美術館」の1つとなっている。
本展では、メトロポリタン美術館を構成する17部門のうち、ヨーロッパ絵画部門に属する約2,500点の所蔵品から選りすぐりの65点の名画が(しかもそのうち46点は日本初公開!)が展示されている。カラヴァッジョ、フェルメール、ラファエロ、ドガ、ゴッホ、ルノワール、モネといった、日本人にも馴染みの深い巨匠たちの作品が一堂に会する本当に貴重な機会。
なぜこのような素晴らしい機会が訪れたのか。それは、現在メトロポリタン美術館にて、ヨーロッパ絵画部門の常設展ギャラリーがある同館の2階部分で「スカイライト・プロジェクト」という照明の改修工事が進められているから。電灯が普及する前の19世紀末まで、絵画は自然光のもとで描かれ、鑑賞されてきたという史実に基づき、天窓からの自然光を照明に活用することで、より快適で自然な鑑賞環境を整えようというもの。この工事がなければ、日本でこれらの作品を一挙に鑑賞することは難しかったのだ。どの作品も美術史上見逃せないものばかり。ぜひじっくり鑑賞してほしい。
本展は3つの章で構成されている。第1章は「信仰とルネサンス」。イタリアのフィレンツェで15世紀初頭に花開き、16世紀にかけてヨーロッパ各地で隆盛したルネサンスは、神と信仰を中心とした中世の世界観に対し、古代ギリシア・ローマの人間中心の文化を理想とみなし、その「再生(ルネサンス)」を目指した芸術運動。キリストや聖母が立体的に人間らしく描かれているのが特徴だ。イタリアと北方のルネサンスを代表する画家たちの名画17点が展示されている。
フラ・アンジェリコ (本名 グイド・ディ・ピエトロ)「キリストの磔刑」 1420-23年頃 Maitland F. Griggs Collection, Bequest of Maitland F. Griggs, 1943 / 43.98.5
初期ルネサンスを代表する画家、フラ・アンジェリコ(本名 グイド・ディ・ピエトロ)の「キリストの磔刑」は、日本初公開。背景が金地で埋め尽くされており、十字架を取り囲む人々が手前から奥に向かって楕円形に配置され、空間の奥行きが表現されている。そのほか、ラファエロ・サンツィオ(サンティ)の「ゲッセマネの祈り」やルカス・クラーナハ(父)の「パリスの審判」、ティツィアーノ・ヴェチェッリオの「ヴィーナスとアドニス」など、いずれも日本初公開の作品が並ぶ。ちなみに初日に赴いた筆者は、エル・グレコの「羊飼いの礼拝」の大きさとダイナミックな筆致、生命力に衝撃を受けた。写真や画集ではなく、自分の目で観て、作品の大きさや画家の筆使いを感じることが、美術鑑賞においては非常に大切だと思う。
カラヴァッジョ(本名 ミケラジェロ・メリージ)「音楽家たち」 1597年 Rogers Fund, 1952 / 52.81
第2章「絶対主義と啓蒙主義の時代」では、絶対主義体制がヨーロッパ各国で強化された17世紀から、啓蒙思想が隆盛した18世紀にかけての美術を、各国の巨匠たちの名画30点で紹介している。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール 「女占い師」 おそらく1630年代 Rogers Fund, 1960 / 60.30
本展のメインビジュアルにも使用されている、カラヴァッジョ(本名 ミケランジェロ・メリージ)の「音楽家たち」や、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「女占い師」、ヨハネス・フェルメールの「信仰の寓意」など、見どころたっぷりの名画ばかり。時間をかけてゆっくり観たいところだ。
ヨハネス・フェルメール「信仰の寓意」 1670-72年頃 The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931/ 32.100.18
「信仰の寓意」は彼の晩年に描かれた寓意画(ぐういが)。胸に手をあて天を仰ぐ女性は「信仰」の擬人像。胸に手を当てる仕草は心のなかの信仰を示し、地球儀を踏む動作はカトリック教会による世界の支配を示唆するものと解釈される。プロテスタントを公認宗教としたオランダ共和国では、カトリック教徒は公の場での礼拝を禁じられていたが、「隠れ教会」と呼ばれる家の中の教会でミサや集会を行うことは容認されていた。オランダ庶民の日常生活を好んで描いたフェルメール。自身の改宗や世相も卓越した技術で描き出したのだろう。
19世紀はヨーロッパ全土に近代化の波が押し寄せた激動の時代。第3章「革命と人々のための芸術」では、市民社会の発展を背景にして、絵画に数々の革新をもたらした19世紀の画家の名画18点が展示されている。
エドガー・ドガ 「踊り子たち、ピンクと緑」 1890年頃 H. O. Havemeyer Collection, Bequest of Mrs. H. O. Havemeyer, 1929 / 29.100.42
印象派の画家、エドガー・ドガは踊り子を好んで描いた。「踊り子たち、ピンクと緑」は、物陰から覗き見るような視点から、舞台裏で衣装を整える踊り子たちの姿を描いている。最初は劇場の客席から描いていたが、通い詰めるうちに公認となり、舞台裏で描けるようになったとの逸話も。彼の眼差しと踊り子たちの空気感を感じてみてほしい。
クロード・モネ 「睡蓮」 1916-19年 Gift of Louise Reinhardt Smith, 1983 / 1983.532
日本でも非常に人気の高い印象派の画家、クロード・モネ。ジヴェルニーの自宅の庭にある睡蓮の池を約30年にわたり描き続けたことはよく知られているが、今回日本初公開の「睡蓮」は、1915年頃から制作された「大装飾画」と呼ばれる大画面作品の1つ。白内障に侵されていたモネが見た、遠近感のない不思議な光景が描かれている。この作品は、近くで、少し離れて、角度を変えてと様々な見方をしてみてほしい。モネが追いかけた光の変化と同じように、視点によって多様な表情を見せてくれるはずだ。
『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』は、大阪市立美術館にて2022年1月16日(日)まで開催中。15世紀の初期ルネサンスから19世紀のポスト印象派まで、西洋絵画の500年の歴史を感じる傑作に出会える、千載一遇の大チャンス。会期中にぜひとも訪れよう。
2.『PIECE OF PEACE 『レゴ®︎ブロック』で作った世界遺産展 PART-4 FINAL』/心斎橋PARCO
(c)PIECE OF PEACE LEGO,the LEGO logo and Minifigure are trademarks of the LEGO Group.(c)2021 The LEGO Group.
続いてご紹介するのは、心斎橋PARCOで12月12日(日)まで開催中の『PIECE OF PEACE 『レゴ®︎ブロック』で作った世界遺産展 PART-4 FINAL』。本展は、世界遺産をレゴブロックで再現した展覧会で、2003年よりスタート。18年間にわたり日本全国の都市を巡回、2013年からはワールドツアーも開催し、のべ約370万人が来場した。そんな本プロジェクトが、2021年12月ついにファイナルを迎える。
(c)PIECE OF PEACE LEGO,the LEGO logo and Minifigure are trademarks of the LEGO Group.(c)2021 The LEGO Group.
世界35カ国の世界遺産65作品と地球がレゴ®︎ブロックで表現される様子は圧巻。非常に細密で、レゴ®︎ブロックのパーツを巧みに使った立体展示はいつまでも眺めていたくなる。何はともあれ百聞は一見にしかずだ。
(c)PIECE OF PEACE LEGO,the LEGO logo and Minifigure are trademarks of the LEGO Group.(c)2021 The LEGO Group.
展示は1会場ではなく、心斎橋PACRO内と大丸心斎橋店本館9階、大丸梅田店3階、13階を使ったサテライト展示で行われる。心斎橋PARCOではB1階、6階、9階、13階、14階に作品が展示される。
(c)PIECE OF PEACE LEGO,the LEGO logo and Minifigure are trademarks of the LEGO Group.(c)2021 The LEGO Group.
また、建築家アントニオ・ガウディの没後100年となる、2026年に完成が予定されているサグラダ・ファミリアを、以前展示したものよりも拡張して展示。心斎橋PARCOにて初公開される。
(c)PIECE OF PEACE LEGO,the LEGO logo and Minifigure are trademarks of the LEGO Group.(c)2021 The LEGO Group.
さらに大丸心斎橋店本館9Fでは、現行の「首里城レゴ®︎ブロック世界遺産モデル」(正殿のみ)をリメイクし、2019年に火災の被害を受けた御庭周辺建物(南殿、北殿、奉神殿、御庭)を追加で再現。
(c)PIECE OF PEACE LEGO,the LEGO logo and Minifigure are trademarks of the LEGO Group.(c)2021 The LEGO Group.
おもちゃのブロックと言えども、完成度とクオリティの高さには驚くはず。友人やカップル、家族連れで訪れても楽しい展覧会だ。コロナで海外に行くことが容易ではない今の状況だからこそ、世界遺産の偉大さを感じつつ、世界旅行気分も味わえるおすすめの展覧会となっている。
3.『ミラーボーラー星の旅 PLANET OF MIRRORBOWLER by ELEMENTS』/心斎橋PARCO
『ミラーボーラー星の旅 PLANET OF MIRRORBOWLER』
『『レゴ®︎ブロック』で作った世界遺産展』終了後、12月19日(日)から2022年2月13日(日)まで、同じく心斎橋PARCO14階のイベントホールにて開催されるのは、『ミラーボーラー星の旅 PLANET OF MIRRORBOWLER by ELEMENTS』だ。
本展は、インスタレーションアート集団「ミラーボーラー/MirrorBowler」による、初の屋内での大規模個展。グラフィックデザイナー、写真家、照明技師、鋼材アーティスト、流木アーティスト、装花アーティスト、オリガミアーティスト、工芸家など、多種多様な分野で活躍中のメンバーから構成される。これまで野外イベントやファッションショー、CDジャケットなど、幅広い表現の場で光と反射を駆使して斬新な空間作品を手掛けてきた。
「BURNING MAN(アメリカ)」過去の作品より
今回の展覧会では、「二度と同じ瞬間は見られないような、誰にとっても同じものには見えないような、固有名詞をもたない、どこにも存在しないものを創る」というテーマで、5つの巨大アート作品が登場する。その内容は「Inner Voice内なる心の奥に在るもの」「文明の繁栄に相対する祈り」「大地に生えずとも息吹く」「無限に続く宝石の千変万化」「Light The Light 彼方に光あり」。一体どんな作品が完成するのだろう。
また、作品には目の前の「光と影」だけでなく、照明によって綴られるストーリー、親交の深い個性的な音楽家やDJたちによる宇宙をイメージさせる音、作品をイメージして調合した香りの演出、さらに、各作品のアーティストたちが相互に仕掛ける隠れアイテムもあるとのこと。 作品の内側から見える外の世界にもよく目を凝らしてみてほしい。
「万博記念公園イルミナイト万博」過去の作品より
様々なアーティストとのコラボも合わさり、ひとつになった空間で、あらゆる感覚を研ぎ澄まし、今まで体験したことのないミラーボーラーワールドに没入しよう。五感が刺激される時間になること間違いなし。また、会期中はミラーボーラのアーティストによるワークショップやグッズ販売も行われる。
4.『石田スイ展[東京喰種 ▶ JACKJEANNE]』/大丸梅田店13階特設会場
『石田スイ展[東京喰種 ▶ JACKJEANNE]』
大丸梅田13階特設会場で12月4日(土)から12月27日(月)まで開催されているのは、『石田スイ展[東京喰種 ▶ JACKJEANNE]』。全世界シリーズ累計発行部数4,700万部を超える漫画『東京喰種トーキョーグール』シリーズを生み出した漫画家、石田スイ。
本展は「石田スイの世界を追体験、~ゼロから作品が生まれるまで~」をテーマに、初期作品のアナログ原稿や、石田スイが原作、キャラクターデザイン、シナリオを手がける少年歌劇シミュレーション『ジャックジャンヌ』の貴重な設定資料などの貴重な資料を公開する。
イントロダクションとなる「はじまりの部屋」では、イラスト約710点と、「unravel(n-buna from ヨルシカ Remix)/TK from凛として時雨」の楽曲を使用、17台のモニターで構成した豪華コラボのビデオコラージュを展示。楽曲は、TK(凛として時雨)が書き下ろしたTVアニメ『東京喰種トーキョーグール』のOPテーマ「unravel」を新たにヨルシカのn-buna(ナブナ)がリミックスした。
「『東京喰種トーキョーグール』エリア」では、多数のイラストやグラフィック、空間演出で『東京喰種』の世界へ誘う。「『ジャックジャンヌ』エリア」では、初期企画書原稿、各分野のクリエイターたちと作品を作り上げていくまでの過程を知ることができる。公式図録やグッズも販売されるので、ファンは必見だ。
5.『「アニメージュとジブリ展」一冊の雑誌からジブリは始まった』/阪急うめだ本店 9階 阪急うめだギャラリー、阪急うめだホール
『「アニメージュとジブリ展」一冊の雑誌からジブリは始まった』 (c)1984 Studio Ghibli・H
阪急うめだ本店9階の阪急うめだギャラリー、阪急うめだホールで12月9日(木)〜2022年1月10日(月・祝)まで開催されるのは、『「アニメージュとジブリ展」一冊の雑誌からジブリは始まった』。
東京会場エントランス
スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫が編集に参加した、1978年創刊の本格的商業アニメ雑誌アニメージュをもとに、『機動戦士ガンダム』(1979)を軸とした爆発的なアニメブームから『風の谷のナウシカ』(1984)の成功、スタジオジブリ誕生と『天空の城ラピュタ』(1986)までの道のりを振り返り、紹介するもの。
『風の谷のナウシカ』セル画と色指定 (c)1984 Studio Ghibli・H
「風の谷のナウシカ」のセル画や押井守監督作品「天使のたまご」の貴重な資料、初期ガンプラによる「機動戦士ガンダム」の名シーンを立体で表現したジオラマなど、200点以上が展示される。また「風の谷のナウシカ」デザインの大判ハンカチーフやアニメージュで連載されていた漫画版「風の谷のナウシカ」のテトのぬいぐるみなどのオリジナルグッズの販売を行う。ジブリファンは見逃せない。
このほかにも、国際国立美術館では、師弟関係にあった彫刻家のヨーゼフ・ボイス(1921-86)と画家のブリンキー・パレルモ(1943-77)の仕事を紹介する『ボイス+パレルモ』展が2022年1月16日(日)まで開催中。来年はヨハネス・フェルメールの「窓辺で手紙を読む女」が修復後初来日するなど、フェルメール旋風が巻き起こりそうな予感。今から開催が待ち遠しいアート展覧会の数々が今後も控えている。来年も、関西おすすめアート展覧会情報コラムでお会いしよう。良いお年を!
文=ERI KUBOTA

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