Takuya IDE「久々に有観客ライブがで
きて楽しかったです。“こちらが”あ
りがとうございました!」 フルスロ
ットルで駆け抜けた約2年振りの有観
客ワンマン

Takuya IDE One-Man Live『Godspeed!』

2021.12.1 渋谷WWW
12月1日、渋谷WWW。場内に足を踏み入れると、90年代〜00年代を彩ったJ-POPが流れていた。TRF、ケツメイシJUDY AND MARY……懐かしさに感慨に浸っていると、開演3分前、BGMが「TRAIN」に切り替わった。自然とフロアからクラップが起こり始める。曲の終盤では、この日のDJを務めるHIRORONが登場。ライブにしろ、楽曲制作にしろ、“本日の主役”の音楽活動において欠かせない存在としてお馴染みの彼に、温かな拍手が送られる。曲が終わり、暗転。雨音と物憂げなピアノの音色が響き渡る中、ステージの背面に掲げられたスクリーンには、窓ガラスに映った水滴が映っている。そして、満を辞してこの日の主役が姿を現し、バースを蹴る。欲にまみれて混沌とした世界にツバを吐きながら、自身の過去と現在地を提示し、自分が売るのはラップとライブだと、力強く宣言した。Takuya IDE、待望の有観客公演は、ライブタイトルでもある「Godspeed!」から幕を開けた。
Takuya IDE
昨年発表したアルバム『So Far So Good』を掲げたワンマンライブは、無観客での開催という形にはなってしまったものの、それ以降も自身の楽曲はもちろんのこと、俳優としても参加しているリズムゲーム『ブラックスター -Theater Starless-』への楽曲提供など、音楽活動に邁進しているTakuya IDE。今年に入ってから、同ゲームのライブでステージに立つことはあったのだが、自身のワンマンライブを有観客で行なうのは、実に約2年振りのこと。久々の晴れ舞台に、IDEは前半戦からとにかくフルスロットル。力強く、それでいて伸び伸びと言葉を捲し立てていく。
Takuya IDE
「HERO」では、緊迫感のあるシンフォニックなサウンドと強烈な重低音に乗せて、自身のアティテュードを改めて宣誓すると、シームレスに「ライブノチケットヲタテマツル」へ。「今日は声を出せないけど、タテマツってくれるよな!?」と、目の前のオーディエンスも、生中継されていたカメラの向こうにいるリスナーも焚きつける。続く「リアルアマチュア現場アクター」は、2バース目が原曲とは異なるリリックになっていたのだが、後のMCで「なんか出てきちゃった(笑)」と、フリースタイルだったことを明かしていたIDE。湧き上がってきた感情をきっちり吐き出すという彼のスタンスが、実によく現れた場面ともいえるだろう。
Takuya IDE
そんな熱いステージから一転、MCはかなり和やかな雰囲気。感染症対策のため、オーディエンスは声を出せず、直接コミュニケーションが取れないということもあって、ライブでどんな話が聞きたいのか事前にアンケートを取っていたそうで、「いつも曲作りはどう作っているのか」「作るのが大変だった曲」「朝起きたら楽器が弾けるようになっていたら、どの楽器がいいか」など、HIRORONと2人で楽しそうに話をするIDE。ちなみに、開演前の場内で流れていた“J-POP”についての話題も出たのだが、それらはすべてIDEと同期でデビュー(もしくは結成)した人達縛りで選曲したそうだ。IDEは2歳の頃にデビューしていて、現在は30歳。すでに四半世紀を超えるキャリアの持ち主だが、ここに至るまでには、我々には到底計り知れない様々な出来事であり、感情があるのだろう。事前アンケートの中には、「これまでやめたいと思ったことはあるか」という質問があったのだが、やや脱線トークを交えながらも、「そういうことを思ったりして、曲が生まれてくる」と、彼は答えていた。
Takuya IDE
実際、IDEのリリックには、人間が抱く様々な感情が克明に描かれている。また、滑舌がいいのもあって、ラップもかなり聴き取りやすく、様々なフローに刻み込まれたメッセージが強烈に伝わってくるのもポイントだ。「Black Sheep」や「DAY 1」といったハードなトラックでは、群れることなくすべての価値基準は己の意思で決めていくことを叩きつけ、メランコリックな「n」では、たった一側面で物事を判断してしまう世の風潮を切り取っていく。その言葉たちは、俳優としても、ラッパーとしても活動している彼だからこそ生み出せるものもあれば、今という時代を生きている人間であれば、何かしら思い当たる節があるものもある。その根底には、怒りや悲しみが入り混じった複雑な感情があり、そして、それらをどう向き合い、前に進んでいくかという自身の強い信念が綴られている。
Takuya IDE
HIRORON
かなり語気が強いところもあるのだが、それだけでなく、何かに向かって突き進む中で疲れた心をそっと包み込む「ドクター」のような、優しさを感じさせるものも。「LOVE HOPE」では、朝焼けとも夕焼けとも取れる美しい空がスクリーンに映し出される中、ホーリーなサウンドを受けて、すべての命に祈りを捧げるようなラップを繰り広げていた。なかでも圧巻だったのは、アカペラで届けられた「Super Star」から繋げた「特別な星」。ほろ苦い現実が目の前に横たわっていながらも、それでも自分には温かな居場所があること、そして、あの頃に抱いた夢は何も変わっていないと、メロウなサウンドながらも、前のめりに言葉を放つドラマティックな一幕となった。また、ワンマンライブ直前に発表された最新曲「Outer Heaven」も披露。サウンドこそダーティーな雰囲気はあれど、現世を楽しもうというポジティブなテーマが掲げられていて、徹頭徹尾、彼のリリックは今を懸命に生きようとしているからこそ生まれてくるものなのだと思う。
Takuya IDE
後半になって勢いを落とすどころか、さらに増していくIDEのステージング。「コンプレックス」では、HIRORONがサンプラーを叩いて生み出したビートの上で、二足の草鞋を履く自身に向けられる視線や言葉を捻じ伏せるように、アグレッシブに言葉を畳み掛ければ、「YOU-TRICK」では、“ゆとり世代”と揶揄される同世代の仲間たちに檄を飛ばすと、そこにHIRORONもスクラッチで加勢。そこからアッパーなEDMサウンドが高揚を煽る「Lucky Day」へとなだれ込み、「声は出せなくても全力でやってくれれば伝わるから!」と、オーディエンスのテンションを最高潮にまで高めると、「久々に有観客ライブができて楽しかったです。“こちらが”ありがとうございました!」と、時間を共にしてくれたことに感謝を告げ、「Gift」で本編を締め括った。
Takuya IDE
アンコールは「MUSYOZOKU」から。「いや〜、どうもどうも〜」と、過剰なまでに平身低頭でステージに戻ってきたIDE。「歳とともに増えていくのが、シワと腰痛、旦那の悪口と、あとは税金」と、ユニークながらも、気持ちいいぐらいに風刺を効かせたリリックと、キャッチーなフックでフロアを沸かせた。そして「またライブがあったら、現場に来ていただいてもいいですし、お家で見ていただいてもいいということで、この曲を」と「ホームステイ」に繋げる。「久々にこういうことやってみる?」と促すと、オーディエンスは左右に大きく手を振り、場内は温かな空気に包まれた。そんな幸福な光景だったからこそ、続く「Silent」に綴られた“思いは自分の言葉で形にしなければいけない”という切実なメッセージが強く響く形になっていたと思う。
Takuya IDE
「久々にライブに来て、(音の)振動とか、(リリックが)直接伝わってくる感じが楽しめたんじゃないかなと思います。またよかったら会いに来てください。でも、せっかくライブに来たんだから、マジメにしていてもしょうがないので、最後は調子に乗って帰ってください!」と、「調子Ride On」のハッピーな余韻を残してライブは終了。「しつこい感じになっちゃうんだけど」と、この日、オーディエンスに何度も感謝の気持ちを伝えていたIDEだったが、その感謝であり、久々に有観客でワンマンライブができたという喜びは、ステージの去り際に見せた満面の笑みが十二分に物語っていた。
HIRORON、Takuya IDE
この日のライブの模様は今夜・12月8日までアーカイブ配信されているので、詳しくは彼のホームページやSNSをチェックしていただきたい。また、この日は生中継だけでなく、DVD収録も行なわれており(カメラの台数はなんと11台!)、現在DVDの予約を受け付けている。そして、久々の有観客ライブという大きな刺激を持って、ここからも彼は愚直に楽曲制作を続けていく。Takuya IDEが次なる一手を繰り出すその日を楽しみに待ちたい。

文=山口哲生 撮影=阿部稔哉

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