『MERRY ROCK PARADE 2021』開催に向
けて、主催の間瀬光太郎氏がコロナ禍
での苦闘と展望を語る【インタビュー
連載・エンタメの未来を訊く!】

12月18日、19日にポートメッセなごや1~3号館にて『MERRY ROCK PARADE 2021』が開催される。2014年にスタートし名古屋の冬のロックの祭典として根付いてきたこのフェスは、コロナ禍においても昨年に続いて2年連続の開催が実現。ライブ・エンタテインメントに厳しい逆風が吹く中でも、冬フェスの灯を消さない役割を果たしてきた。

フェスを主催するサンデーフォークプロモーション・間瀬光太郎氏への取材を行った。今回の『MERRY ROCK PARADE』について、そして同じく主催し東海エリアを代表する夏フェスとして根付いてきた『TREASURE05X』について、その裏側を語ってもらった。
――このインタビューを行っているのが『MERRY ROCK PARADE 2021』の開催約1ヶ月前ですが、まずは現時点でどんな準備を進めているかを教えていただけますでしょうか?
今は幸いにして世の中の感染状況が落ち着いているということもあって、思っていたよりもスムーズにいろんなことが進みそうだと考えています。もちろん感染状況にはよるんですけれど、現状では来場者数も去年より多くできそうですし、去年は観覧位置も全て指定していたんですが、もう少し自由度を増やせるような形で開催できそうです。ダイブやモッシュが難しいというのはやむを得ないですけれど、基本的には、本来フェスティバルが持っている自由度や楽しさを可能な範囲で戻していきたいと考えています。
――今年後半はライブ・エンタテインメントを巡る状況も少し良化したように思いますが、当事者としてここ数ヶ月の変化はどう見てらっしゃいますか。
特に10月頃からツアーが一気に増えてきた感じはありますね。アーティストが動き出しているのは肌で感じますし、僕らもコンサートが本業なので日々忙しくやらせてもらっているのは大変嬉しい限りです。ただ、コンサートの数が戻ってきているのに、お客さんがまだちょっと追いついてきていないところがある。時間差があるのはやむを得ないと思うんですが、コンサートを安全に続けていくことで、また遊びに来ても大丈夫なんだということを示して、お客さんが安心して戻ってきてもらえる場所を用意するのが一番大事なことだと思っています。
――昨年を振り返ったお話もお伺いさせてください。2020年の『TREASURE05X』は開催延期、『MERRY ROCK PARADE 2020』は制限された状況で開催されましたが、それぞれに関してどういうことを考えていましたか?
最初はここまでコロナ禍が長引くと思っていませんでした。2020年の夏のTREASURE05Xに関しては、コロナの正体が見えてなかったこともあって、「無理してやってもしょうがないか」というような気持ちで、早めに延期を判断したというところがあります。その後悔は今でもありますね。もう少しじっくり考えてもよかったんじゃないかとは思っています。アーティストも、スタッフも、ステージに立つ機会が本当に失われてしまったし、もし今回フェスの開催を諦めてしまったら次にやれるのかという不安が自分の中でも出てきた。秋頃には、2020年の冬はどうにかして開催しなければダメだという覚悟をしていました。その時点で冬の感染状況がどうなるかはわからなかったし、結果としては悪い方向になっていたんですけれど、会場からも、県や市からも、やらせてもらえる方向で話を進めさせてもらえました。となれば、当然いろんな意見があるのは理解しているんですが、僕らがこの先も音楽業界でやっていく以上、この場をちゃんと成立させることが絶対に必要だと考えました。夏に『RUSH BALL 2020』が無事開催されたのも力になりましたね。当日を迎えるまで辛いことばっかりでしたけど、絶対やると決めていたんで、他の冬フェスが無くなったという話を聞きながらも、強い心を持って「頑張ってやりきるぞ」と思いながら、なんとかやりきったという形でした。
――去年の『MERRY ROCK PARADE』では通常とは違う形での開催をせざるを得なかったと思うんですが、具体的にはどういうことを考えていましたか?
去年に関しては、何かを制限するということばかりを考えて段取りしていました。本来のフェスは自由に楽しんでもらう場なんですが、どちらかと言えば逆のお願いをすることが多くて。心苦しさもあったんですけど、ただ、僕は自分のイベントに来てくれるお客さん達のことを信頼しているので。制約は多いけれど「でもそういう状況下でもやるんだよ」ということを伝えれば、フェスの趣旨を汲み取ってくれて、助けてくれると思っていました。
――今年に関してはどうでしょう? フェスの設計については、去年とどう違いますか。
今年は少し自由を取り戻していきたいと思っています。当然お願いしなきゃいけないことはあるんですけれど、それでも去年よりは明るい方向に向かっていることがイベントの運営からも感じてもらえるようなものにしたいと思っています。ステージにしても、コロナ前の例年は3ステージでやらせてもらっているんですけれど、会場での人の動きを減らすこと、経費を少なく抑えることもあり、去年は2ステージにせざるを得なかった。新しいアーティストが出演するようなステージを設けることができなかったことはとても残念だったんですけれど、今年はそういうステージもちゃんと成立させたいと思っています。
――まずはステージ数が増えたということが大きい。
去年はどのフェスも『MERRY ROCK PARADE』と同様にステージ数を絞ったこともあって、動員力のあるアーティストしか出られない状況だったと思います。やむを得ないことではあるんですが、これから頑張っていくニューカマーにとっては、この1年半くらい大きなステージに立つことがなかった。ライブを見せていかなきゃいけなかったアーティストがそのタイミングを失ってしまった。いつになればそういうステージに立てるんだろうという、辛い時期が続いていたと思います。だからこそ、今年はなんとかその場を作るぞと思っていました。それで、客席の作り方も工夫して、なんとか3つステージを組める見込みになりました。その趣旨はお客さんもアーティストもみんな理解してくれると思うので、そういう形でステージを構成できるのは一番大きいと思っています。
■『TREASURE05X』も『MERRY ROCK PARADE』も人気があるからといって繋がりのないアーティストをブッキングしようという発想はあまりない
――今年9月3日〜5日には『TREASURE05X』が開催されました。直前の8月29日に同じ東海エリアで開催された『NAMIMONOGATARI』が大きな問題になったこともあり、なかなか厳しい時期の開催だったと思うんですが、振り返っていかがでしたか。
去年の『TREASURE05X 2020』は開催できなかったので、今年の夏に関しては、コロナ禍でも無理のないスタイルをとりたいと思って、会場も変えて、アーティスト数も減らし、飲食もなく、極力リスクを下げる形で日本ガイシホールでの開催を選択しました。無難に終わっていく予定だったんですが、やはり直前に『NAMIMONOGATARI』の問題があったのは大きかったですね。その影響はとても大きかったです。世間一般の人だけでなく、フェスというものを知っている人からしても不安を覚えてしまうような、衝撃的な事件だったので。世の中的にああいう大きな事件が起きてしまうと、フェスに行くということ自体が、他人の目、家族の目も気になることになってしまう。それは本当に辛かったです。加えて、『TREASURE05X』の初日の参加者の中に、当日に陽性判定を受けた方がいらっしゃったことが判明しました。徹底してリスクを減らしたはずだったんですが、気が抜けないと思いました。それでも来てくれるお客さんもいましたし、アーティストも「やってくれてありがとう」と言ってくれたので、本当に大変でしたけれど、今となっては無事にやれてよかったと思います。
――「やってよかった」とおっしゃいましたが、開催を受けてのポジティブな面としては、どういうものがありましたか。
これはあくまで個人的な感覚ですが、僕としては誰のほうを見て仕事をするんだということを考えていたんです。コロナで自粛ということになっても、状況が緩和されて将来的に平常に戻った時には当然再びコンサートやイベントをやっていくわけで。僕としてはそこに存在するアーティストやスタッフ・アルバイトやお客さんなど、この後も関わっていく人たちのことを第一に考えたい。コンサートの現場で生計を立てている人も多くいるわけですし、それを楽しみに日々の仕事や学校を頑張っているお客さんもいるわけです。今年に関しては、その場がちゃんと約束通りに行えたということが全てですね。
――『TREASURE05X』は15年以上積み重ねてきた歴史のあるフェスで、1ヶ月にわたるライブハウス公演とファイナルとしての蒲郡ラグーナビーチでの公演が行われるというユニークな形ですが、これはどのように始まったものなんでしょうか?
『TREASURE05X』は2004年に1回目を立ち上げているんですけれど、もともとはサンデーフォークプロモーションという幅広いアーティストを担当させていただいているという会社の特性もあって東海エリアでいろんなアーティストを担当させてもらっているので、初期の頃はポップスのアーティストをブッキングしたり、ヒップホップのイベントを入れてみたり、いろんなタイプのアーティストが活きるイベントをやらせてもらいたいと思ってライブハウス公演を加えていました。その考え方は今もずっと変わらず持っています。野外公演に関しては2008年に豊田スタジアムでファイナルを行った年までを第1期とするならば、2010年に蒲郡ラグーナビーチをファイナルにしてからの第2期で大きくいろいろ変わってきたんです。
自分の中でも第1期と第2期ではだいぶ考え方が変わってきたなと思います。東海エリアでやっているというのは当然変わらないことですが、第1期の頃は良くも悪くも出演者の動員力にフェスの動員が影響されるような内容だった。そうじゃないものにしたいと思い始めたのが2010年以降で、そこからは、イベントとして誰が出るかは一旦置いといたとしても『TREASURE05X』に行こうかなと思ってくれる人が増えた気がします。アーティストを発表せずにチケットを売ったことはないんですが、もし仮にそうしたとしてもある程度は買ってくれるだろうという感覚がありました。ブッキングの安定感を感じてもらっているというのもありますし、ラグーナビーチのロケーションが素晴らしく、そこを気に入っていただけているというのもあったと思います。
――毎年行こうと思うお客さんが増えてきた。
安定してそういう形になってきたとは思います。昔は東京の大きなイベントと比べて悩んでいたこともあったんですけれど、他は考えず、自分たちは自分たちのブッキングをやって、それを求めてくれる人たちのために自信を持ってやることにしました。アーティストにしても、毎年がらっと出演者が変わっていくというよりは、安定感があって、そこに出演する意味合いを語ってくれるアーティストと一緒にやっていきたいと思っています。人気があるからといって無理やり繋がりのないアーティストをブッキングしようという発想はあまりありません。『TREASURE05X』も『MERRY ROCK PARADE』もあんまりメンツが変わらないという印象を持たれている方が多いんですけれど、そういう考えがあるんです。それだけ信頼してる仲間がいて、ちゃんと新しく加わってくれるニューカマーもいて、『TREASURE05X』という名前で想像し得る内容を安定して届けたいと思っています。
■電子チケットをいろんな人に触ってもらえて慣れてもらえたというのは大きい
――『MERRY ROCK PARADE』は2014年のスタートですが、位置づけとしてはどんなことを考えていましたか?
僕らとしては、そもそもフェスティバルをやって儲けたいというのはあまりないんです。当然会社なので利益を出す必要はありますが、どちらかというと、そういうイベントがあることによってアーティストが東海エリアで認知してもらえる機会を増やしたい。もちろんそのことでアーティストのワンマンの動員が増えてくれれば僕らの利益にもなることですし、そういうイベントの場を通して、関係を持つ新しいアーティストが増えたらいいなと思っています。なので、夏フェスをずっとやってきて、冬にもそういうことがやれそうなタイミングがあったので挑戦してみたいなと思ったというのがまず大きなきっかけです。屋内、屋外という違いもありますね。夏の『TREASURE05X』は客席も激しいんですけれど、冬は音楽的にももう少し幅を広くして、多少なりとも色を変えていきたいと思って。時期もクリスマス前後にあたるので、年末ではないお祭りムードができるタイミングはここしかないと思って始めました。あと僕としてはそもそも大阪の『RADIO CRAZY』を観に行かせてもらったときにすごく素敵なイベントだと思って、こんなイベントを名古屋でもやりたいなと思ったんですよ。今でも『RADIO CRAZY』はすごく尊敬しているイベントですし、時間があれば観させてもらうんですけど、いつかこんなイベントにしたいと思いながらやってきました。
――アーティスト側から観ると、関西エリアで『RADIO CRAZY』があり、関東エリアで『COUNTDOWN JAPAN』があり、そして東海エリアで『MERRY ROCK PARADE』があるということで、年末のロックフェスの基盤ができたようなイメージがあります。
結果としてそうなったということだと思います。まだまだ肩を並べられるほどのものではないですが、アーティストの動きからとしても、お客さんの考え方にしても、ある程度そう定着してきたという風に感じてます。
――こうして、2019年までの10数年間をかけてフェスティバルというものが一過性のお祭りではなく、継続的なカルチャーとして根付いてきたわけですよね。そういうことも、最初に仰った「戻していきたい」という思いの内実になっているのではないかと思います。そのあたりはどうでしょうか。
僕はもともと若い頃からフェスティバルに行っていたわけではないんですけれど、お客さんにとっては、毎年フェスに行くというのが習慣になってきたと思うんです。9月の最初の週末は『TREASURE05X』に行き、年末には『MERRY ROCK PARADE』に行く。そういう感覚を持ってくれていたお客さんにとってはそれが一度途切れてしまったことによって、その間に別の趣味を見つけてしまったり、ライブに行く熱量が下がったり、コンサートや音楽から離れていってしまう人がいるんじゃないかと思いました。それは僕らとしてはとても不安だし、寂しい話で。なので、1年はしょうがないとしても、2年ないというのは致命的なんじゃないかと思い、その習慣が残っているうちに場を戻していきたいと思っています。そういう意味では、『MERRY ROCK PARADE』は去年も今年も途切れずにやれた。それは本当に運がよかったと思います。こういう文化がちゃんと途切れずにいてくれたら嬉しいなと思いますね。
――コロナ禍でのフェスやライブの運営を経て、そこで得たもの、この先に活かせる進化というのもありますでしょうか。
それはすごくありますね。いくつか思い当たるところはありますけれど、ひとつは電子チケットが浸透してきて、このタイミングで電子チケットをいろんな人に触ってもらえて慣れてもらえたというのは大きいです。『MERRY ROCK PARADE』はコロナ禍前からすべて電子チケットになっているんですが、電子チケットは転売問題の対策にもなりますし、公式チケットトレードも行うことができる。いろいろと管理しやすいんですね。入場に関しても、今は大体のコンサートは分散して入場するようになってきている。それも電子チケットだから券面に時間を表示できる。お客さんもわざわざ入場待ちで並ばなくていい。そういうことはよかったなと思っていますし、これからも使っていきたいと思っています。運営面で言うと、これまでフェスは無駄に並ぶシチュエーションが多かったと思うんです。そのことにもなかなか打開策がなかったんですが、去年の『MERRY ROCK PARADE』から物販の整理券のシステムを導入しました。時間が来れば呼び出されるシステムなので、その間にご飯を食べていてもライブを観ていてもいい。コロナで密を避けるという必要がなくても、そもそも物販のために何時間も並ぶのは無駄だとしか思えない。そういうトライができたのはよかったんじゃないかと思います。
――わかりました。お話をお伺いして、特にコロナ禍で世に出るチャンスを失っていた若いアーティストにとっては非常に厳しい時期だったと思うので、今回の『MERRY ROCK PARADE』でステージ数が増えたことによって、その飛躍のカギを握る場になるというのはフェスの文化の未来にとってもとても大きなことだと感じました。
そうですね。限られたアーティストになってしまうんですが、やっとそういうことができました。一歩前進かなと思っていますね。なので、今回はニューカマーにも注目してもらえればと思います。
取材・文=柴那典
※この取材は11月18日に行われました。

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