山田裕貴が寺山修司の未上演作に体当
たりで挑む 音楽劇『海王星』フォト
コール&囲み取材レポート

2021年12月6日(月)、山田裕貴主演の音楽劇『海王星』が東京・PARCO劇場にて開幕した。
本作は歌人・劇作家の寺山修司が、劇団「天井棧敷」結成以前の1963年に書いた未上演の音楽劇。出港しない船上ホテルを舞台に、父と息子が父の婚約者を巡って怪しくも美しい悲恋物語が描かれる。この度、待望の初上演となる本作に挑むのは山田裕貴、松雪泰子ユースケ・サンタマリアらをはじめとする豪華キャストたち。さらに演出を眞鍋卓嗣、音楽・音楽監督を志磨遼平(ドレスコーズ)が務めることでも注目を集めている。
12月6日(月)初日公演を前に、同劇場にてフォトコールと囲み取材が行われた。豪華キャストとクリエイター陣が贈る寺山修司の幻の音楽劇『海王星』の世界を、写真と共にお届けする。
【あらすじ】
舞台は、戦艦の船底にある「北海岸ホテル」。
嵐で船出を先延ばしにされた怪しげな人々が集まり、かりそめのパーティーに興じている。
主人公・猛夫は一人落ち込んでいる。父、彌平の乗る船が嵐で難破し死んでしまったのだ。悲しむ猛夫のもとに、父と再婚し、義母となるはずだった魔子が現れる。
彌平の思い出を語り合う内に惹かれ合う猛夫と魔子、しかし、死んだはずの彌平が、生還したことにより、悲恋へと舵を切る。恋仇となった仲の良い親子、さらに猛夫を慕う那美と悪魔的少女そばかすの存在が、3人の恋慕を悲劇的に加速させる。そして、魔子の心は揺れるまま、彌平との結婚式を迎える。物語は、この5人を軸に、ブルースを唄う老婆や昆虫採集の少女たちなど寺山修司的な登場人物が現れ、様々な心情を唄い踊り、物哀しい祝祭劇を彩っていく。

まず、フォトコールでは物語の冒頭と劇中のシーンが抜粋して披露された。
舞台上には海を連想させるブルーの幕が下りている。波の音と共に暗転すると、中尾ミエ演じる老婆が現れ、舞台中央でしっとりとしたブルースを歌い上げる。彼女の味わい深い歌声は、哀愁を漂わせながらも力強く、これから始まる甘く哀しい恋物語へと誘ってくれる。
音楽劇『海王星』舞台写真
本作を大いに盛り上げ彩ってくれるのが、志磨遼平率いるドレスコーズによるバンド生演奏だ。舞台の上部で行われるバンド演奏に合わせ、船上ホテルの乗客たちが激しく歌い踊る姿からは狂気を感じる。ギターをかき鳴らす音、ド派手な照明、まるでロックバンドのライブ会場にいるような狂気的な熱気が溢れていた。
音楽劇『海王星』舞台写真
場面変わって、猛夫(山田裕貴)と魔子(松雪泰子)の逢瀬のシーンへ。
死んだと思っていた猛夫の父・彌平が生きているという事実を知った、猛夫と魔子。二人は出会って間もないが既に愛し合っている。しかし、魔子は彌平の婚約者。事実を受け止めきれない彼らは、詩的な言葉で互いへの愛を伝え合う。熱く見つめ合いながら歌うデュエットナンバー「紙の月」からは、大人な魔子と若い猛夫という構図が見え隠れし、二人の関係性の危うさまでもが空気となって伝わってくる。猛夫を演じる山田は、瞳、言葉、愛、どれもがまっすぐ。魔子に対する愛を全力で体現し、甘く切ない歌声を劇場に響かせた。一方の松雪は、艷やかで甘え上手、かつしたたかな魔子を実に魅惑的に演じていた。
音楽劇『海王星』舞台写真

音楽劇『海王星』舞台写真

ユースケ・サンタマリアは飄々として憎めない男、彌平を好演。息子の猛夫とは対象的な性格に見えるが、二人の会話のやり取りからは仲の良い親子関係が感じられる。しかし、皮肉にも彌平と猛夫は同じ一人の女性を愛してしまった。いざ結婚パーティーを開こうとする彌平に対し、猛夫を慕う那美(伊原六花)と悪魔的少女そばかす(清水くるみ)は猛夫と魔子の関係を暴露。登場人物たちのそれぞれの愛が、船上ホテルを舞台に複雑に絡み合っていく。
音楽劇『海王星』舞台写真

音楽劇『海王星』舞台写真

フォトコールが終わって間もなく、舞台上で囲み取材が行われた。山田裕貴、松雪泰子、ユースケ・サンタマリア、音楽・音楽監督の志磨遼平(ドレスコーズ)、演出の眞鍋卓嗣ら5名が姿を見せた。
本作がPARCO劇場初進出となる演出の眞鍋は「いよいよ来たかという感じです。未上演の作品を出演者の方々、スタッフの方々と本当に丁寧かつ大胆に積み上げていったものになります。それをお客様にどう観ていただけるか本当に楽しみです。フォトコールのとき、自分自身鳥肌が立ってゾクゾクしました」と、初上演となる本作への想いを語った。
本読みの段階では3幕もので4時間もかかった戯曲を、より観客に届けやすくするために2幕構成に凝縮したという本公演。主演の猛夫を務める山田は「感情の奥の奥、隅の隅まで伝えるには相当な技量と集中力と精神力が必要だなと思っています」とし、続けて「僕は若輩者で未熟者で、なかなか力不足を感じている日々です。けれどこの舞台に立つみなさんがやりきって楽しく生きられたら、お客様にも楽しんでもらえるんじゃないかなと思うので、今日の初日も頑張りたいと思います」と熱く意気込む。
山田裕貴
彌平と猛夫の二人から愛される魔子を演じる松雪は「眞鍋さんは本当に繊細に演出なさる方ですので、我々はそこに順じてとにかく丁寧に作り上げていったという印象です。私のバディである猛夫さん演じる山田裕貴くんと最後まで愛を表現していくのが大きな役割ですので、とにかく繊細に緊張感を切らさず集中していきたいと思っております。今までご覧になった寺山修司さんの作品とはまた違った印象を受け取っていただける豊かな作品になれるよう、我々一同これから頑張りたいと思います」と笑顔を見せた。
山田演じる猛夫の父・彌平役のユースケ・サンタマリアは「僕はお客さんを置いてけぼりにする舞台も、お客さんに媚びてわかりやすい舞台もあんまり好きじゃないんですよ。今回の『海王星』はその中間でもない、もっと違う次元の今まであまり見たことのないような感覚になる作品。思ったよりもすごく良いものができたと思います」と手応えを感じている様子。さらに「眞鍋さんが本当に真摯かつ優しくてねえ。何をやっても許してくれる。僕たちに寄り添ってくれるような、見事な演出術なんです。そのことが、僕たちがこういう舞台を作ることができたひとつの要因だと思う」と眞鍋の演出を絶賛。するとその隣で山田が「本当にそうです!」と激しく首を縦に振りうなずく場面も。
(左から)ユースケ・サンタマリア、山田裕貴、松雪泰子 
本作の全楽曲の作曲を手掛け、劇中ではドレスコーズとして生演奏する志磨遼平は、寺山修司の戯曲から名付けた「毛皮のマリーズ」というバンドを結成していた程の寺山修司ファン。志磨は「演劇の世界は普段僕がいるロックンロールの世界とは全然違う世界なので、何を見ても、何を聞いても全部刺激的です。キャストのみなさんに当て書きするようなつもりで曲を書いて、それをご本人に歌っていただけるというのがまずすごく光栄」と述べた。寺山修司作品とのコラボについては「恐れ多いですけれど、作詞・寺山修司、作曲・志磨遼平という共作みたいなことができるなんて、考えたこともなかった夢のようなこと。とても張り切って作りました」と喜びを滲ませた。
最初に台本を読んだときの自身の役(猛夫)の感想を問われた山田は「こういう人物だということを、(台本を)読んだだけで決めてはいけない気がして。なので、稽古場で確かめていく作業がすごく多かった気がしています。お話としてはシンプルですが、感情の奥の奥や隅から隅までを伝えるにはどうしたらいいのかをすごく考えながらやってきました。それらを一個も逃さず集中力を切らさず演じなければいけないと思っているので、感情がフラットな位置でいられるような楽なシーンがないんですよ。何かに苦しんでいて、何かが弊害になっていてという人物なので、苦しいですよ……(笑)」と思わず本音をポロリ。「でもそれがやりがいでもありますし、もしかしたら日々進化していく舞台になるのではないかと思います」と最後は座長らしく締めくくった。
上演時間は休憩20分を含み約2時間55分。東京公演は2021年12月30日(木)までPARCO劇場にて上演後、大阪、富山、宮城、青森、名古屋と全国を巡り、2022年1月27日(木)まで上演予定だ。
(左から)志磨遼平、ユースケ・サンタマリア、山田裕貴、松雪泰子、眞鍋卓嗣
取材・文・写真=松村蘭(らんねえ)

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