あふれるほどの情熱がそこに~『フィ
スト・オブ・ノーススター〜北斗の拳
〜』稽古場レポート

本番まで1ヶ月ほどとなった、11月某日。都内で行われている『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』の稽古場に入り、およそ7時間にわたり稽古の模様を見学した。
その日の稽古には開始15分前くらいから俳優たちが集まって、発声練習を始めた。全身のストレッチも合わせて行い、その日のコンディションを確認していた。
その日の稽古には開始15分前くらいから俳優たちが集まって、発声練習を始めた。全身のストレッチも合わせて行い、その日のコンディションを確認していた。
新型コロナウイルスの感染予防対策もしっかりされていた。入室前の検温と消毒の実施はもちろん、外履きと内履きエリアは明確に分かれていたし、それぞれの出演者の席や食事するエリアにはビニールの仕切りが置かれ、稽古中は(どんなに激しく動く場面であっても)マスク着用のもと行われた。コロナ禍ですっかり見慣れてしまった光景だが、できる限りの感染予防対策のもと、稽古は行われている。ちなみに取材者も取材前に抗原検査で陰性を確認してからの入室だった。
稽古場でまず印象的だったのが、石丸さち子の演出だった。過去にも石丸演出の作品はいくつも見てきたのだが、稽古場を取材するのは今回が初めて。出演者が「信頼がおける、本当に愛が熱い方」(加藤和樹)、「石丸さんの大きな愛に包まれながら」(上田堪大)などと、石丸の存在を評しているのを聞いてきたので、楽しみにしていた。
稽古場に1時間、いや30分もいれば十分分かるが、石丸の演出はとにかく熱い。一度大まかに演出を最後までつけ終えて、細かく細かく芝居を仕上げていく段階に入っていたということもあろう。石丸は登場人物たちの気持ちや状況、そして自らの頭にある演出プランのすべてを、まるで実況中継するかのように、圧倒的な情報量で俳優たちに伝える。
演出 :石丸さち子
「私たちの日常の感覚でやっていても、この世界観は伝わらない!」
「いまは、人生で一番痛い傷を負っている瞬間だよ!想像して!」
「今一番表現したいのは、ラオウの象徴的なまでの強さ。それは宮尾(俊太郎)さんや福井(晶一)さんの一人の力だけでは表現できない。ラオウ本人が現れた時の大きな力をみんなで感じて表現してほしい!」
俳優に混じって表現してほしいポイントを自ら実演したこともあった。俳優たちはその一言一言を聞き漏らすまいと、集中している。メモをとる者はおらず、心と体に演出を刻んでいるのだろう。
一方で、演出が決して“一方通行”ではないということも面白いと思った。いろいろなタイプの演出家がいるとは思うが、石丸の場合、自身のビジョンも持ち合わせながらも、「やってみないと分からない」というスタンスのよう。実際に俳優たちに動いてもらって、つなげてみて、それが舞台として成立するかどうか。何かが違うと思ったら芝居を止める。そのポイントをクリアし、納得のいく形になるまで、粘り強く何度でもベストな形に整うまで、実験をする。
何しろ世界初演だ。今まさにここでクリエイションされているわけだ。俳優たちもシーンとシーンの合間などに、石丸のもとにやってきて意見を述べる。自分の動きの狙いを伝えて意見を求める俳優もいれば、自分の出ていないシーンを見ていて思ったことを伝える俳優もいた。それら一つひとつの意見に石丸は耳を傾け、議論していた。石丸が演出をしていることには変わりがないが、みんなで作品を作っているのだなと改めて感じた瞬間だった。
「みんなのおかげだ。ありがとう」。石丸からはそんな言葉も聞かれた。
さて、ここからはそれぞれのキャストの様子も(ネタバレにならない範囲で)、お伝えできればと思う。
ケンシロウ役の大貫勇輔。メインキャストのほとんどがWキャストの中、シングルキャストとして挑む。その分、体調管理には十分気を使っているようで、時間が空けばストレッチや筋トレをしていたし、稽古中の水分補給としても水の他に特製ドリンクを飲んでいた。
この日の稽古で全貌を見たわけではないが、大貫が見せる身体表現は大きな見どころだと思う。製作発表でも披露した、ケンシロウの暴力への怒りと伝承者としての覚醒を歌ったナンバー『心の叫び』(M13)。その中で披露されるケンシロウのソロダンスは、まるで芸術作品を見ているよう。これからケンシロウとしての思いも深め、さらなる進化を遂げると思うが、本番でどのような完成形を見せてくれるのか、期待できる。
ケンシロウ:大貫勇輔
ユリア役の平原綾香とMay’ n。ユリアが歌うソロ曲『死兆星の下で』(M9)が印象深い。ケンシロウを想いながら歌う最期の歌。平原もMay’ nもそれぞれ個性がありながら、その伸びやかで情感のこもった歌声で涙を誘う。歌い終わりには、稽古場でも自然と拍手がわき起こった。
ユリア:平原綾香
ユリア:May’n
そして、シン役の植原卓也と上田堪大。『死兆星の下で』の後に展開する、ユリアとのシーンの芝居を見た。シーンにして1分足らず、たった数行のセリフだが、シンのユリアに対する想いが凝縮された大切な場面。互いの芝居を見合いながら、きっと気づいたこともあるのだろう。自身が出演していないシーンでは、二人で熱心に話し込む姿が見られた。
シン:植原卓也
シン:上田堪大
トキ役の加藤和樹と小野田龍之介。製作発表でも歌っていた『願いを託して』(M12)を聞いた。変わり果てた兄ラオウにかつての優しさを取り戻してほしいと願うトキと、ラオウとの戦いに破れ、残りわずかとなった自分の命をかけ愛する人の幸せを願うレイのナンバー。派手なパフォーマンスはなくとも、その歌声とたたずまい、マスク越しにでも見えるその表情を見るだけで、心が動かされた。
トキ:加藤和樹
トキ:小野田龍之介
レイとジュウザ役を兼ねる伊礼彼方と上原理生。この日の稽古では、ジュウザが女たちと戯れながら歌う『ヴィーナスの森』(M16)ほか、出番が多かった二人。レイとジュウザを演じるので何か混乱することもあるのだろうかと見ていたが、演じ分けは当然のようになされていた。その上、伊礼の役作りと上原の役作りが面白いくらいに違っていたので、Wキャストの醍醐味を垣間見た。
(左から)トウ・トヨ:白羽ゆり、レイ/ジュウザ:伊礼彼方、演出 :石丸さち子
レイ/ジュウザ:上原理生
リュウケン役の川口竜也。侵攻隊長として芝居をしているシーンを見たのだが、ケンシロウの北斗百裂神拳を受けたあとには、渾身の「あべしっ!」を見せてくれた。石丸のダメ出しにも「OK!」と軽やかに応える姿が印象的で、稽古の合間には528ページもある『北斗の拳 修羅の国篇』を読んでいた。何か役作りのヒントを探っていたのだろうか。
リュウケン他:川口竜也
そして、ラオウ役の福井晶一と宮尾俊太郎。福井は、その圧倒的な歌唱力で、ラオウの力強さを体現。一方の宮尾もその出立ちからもただならぬオーラを発していて、ラオウらしさを感じた。きっと福井も宮尾もそれぞれに全く違うラオウを見せてくれる気がしている。
ラオウ:福井晶一
ラオウ:宮尾俊太郎
リンやバット、トウ、マミヤほか、それぞれのキャラクターたちも必死に『北斗の拳』の世界で生き、戦っていた。開幕まであと少し。楽しみにしていたい。
(左から2列目)トウ・トヨ:白羽ゆり
マミヤ:松原凜子
取材・文=五月女菜穂   撮影=田中亜紀・五月女菜穂

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