Karin.が向き合い続けた"孤独"との訣
別を告げた、初のツアー"solitude t
ime to end"

Karin. 1st tour "solitude time to end" 2021.11.20 LIQUIDROOM
最初のSEは雨の音だった。
そして、Karin.自身の独白が流れる。訥々と語られる言葉もきっと雨に濡れているんだろう。個人的には「過去の自分に声をかけたくなった」という一節が印象に残った。
まずステージに登場したのは、彼女とベース、ドラムの3人。キーボードの前に座ったKarin.は<ねぇ聞いて>と歌い始めた。「過去の自分に声をかけたくなった」という彼女は、<傷ついた過去は消せない>と自分に言い聞かせるように歌い、そして<音楽に嫌われている>と少し心細そうに歌う。
もちろん、それでも歌は続く。<ねぇ聞いて>と2番を歌い始めると、ドラムとベースがその歌を後押しするように寄り添ってくる。彼女の言葉とメロディとピアノだけだった1番の歌に比べると、心細い感じが薄れたように感じるのは気のせいか。あるいは、<どんな悲しみも愛して歌に出来るようになった>と2番で歌ったように、1曲のなかでも当時の心境をあらためて体験し直していきながら歌の表情も変わっていってるということなのかもしれない。
ギターとキーボードが加わってサポート・バンドがフルメンバーになった「泣き空」で彼女はステージ中央に出てきてアコースティック・ギターを弾きながら歌い、「シネマ」ではそれをエレキギターに持ち替えて歌った。その3曲の流れは、少女時代にピアノ教室に通っていた彼女が中学で出会った美術の先生の影響でバンドに興味を持ち、ギターを弾き始めたという音楽的な個人史の最初期をビデオの早回しで見ているような気もしたけれど、「シネマ」を終えるとステージの照明は夕景になる。それは、「シネマ」を収録しているアルバム『solitude ability』を制作していた当時でさえ、次の日が晴れるのか雨なのか、まだなんともわからないない夕方の空模様に似て、まだ彼女の心の行方が定まっていなかったことを暗示していたのかもしれない。
再びKarin.のナレーションが流れた後、その次のパートはバンド・サウンドで一気に駆け抜けていった。5曲目「瞳に映る」では、彼女の相棒はギターでもピアノでもなく、ハンド・マイクだ。あの軽やかで印象的なイントロはリズム・セクションのほうを見ながら聴いて、舞台の下手で歌い始めると、サビからステージ中央に戻って、客席に真っ直ぐ向かって歌う。だから、<私は大人だと思った>というキーになるフレーズが一際耳に残る。自分の音楽を受け取る客を見ないで、自分の靴=シューズばかり見つめて演奏している連中をイギリスではシューゲイザーと呼んだわけだが、彼女の繊細な精神は連中ほど柔ではないのだろう。あるいは、自分の音楽の受け取り手と真っ直ぐ向き合いたいという思いが彼らよりもはるかに強いということなんだろう。
10代の間ずっと綴ってきた孤独というテーマにひと区切りつけ、「誰かがいる」という次のテーマに向かって最初に作った曲「曖昧なままでもいいよ」まで駆け抜けると、そこで初めてのMC。「はじめまして」という挨拶から彼女は始めて、「自分の曲を聴いてくれたりMVの再生回数を増やしてくれたりする人が本当に実在するんだということをなかなか実感できなかったけれど、こうしてたくさんの人がライブに集まってくれているのを目の当たりにして本当に嬉しい」と話した。「はじめまして」の気持ちはおそらくは客席を埋めたファンも同じだったはずで、だから彼女がそんな話をしたことでお互いが抱え合っていた緊張はほぐれて、そこからは控えめに、あくまでも控えめにではあるけれど、曲に合わせてファンも体を揺らすようになっていった。
ステージ後半は、「初めて作った曲です」と紹介して歌い始めた「あたしの嫌いな唄」から孤独というテーマについて書いてきた一つの自分が終わったなと感じたという「過去と未来の間」まで、例えば「名場面ばかりを編集して味わう映画のダイジェスト版」を見るように、デビュー以降の彼女の心の軌跡を追体験していく展開。「青春脱衣所」のブリッジ部分で照明が夕景になったシーン、そしてその次の「命の使い方」の後半で夜明けの薄明から浮かび上がる光のように照明の青い色が滲んでいくシーンはいかにも象徴的で、ツアー・タイトルの“solitude time to end“、つまり彼女がずっと抱えてきた孤独の時間が終わる頃に立ち会っているようなステージだった。つまり、彼女が孤独な夜を超えて新しい朝を迎え、次の一歩を踏み出していくドキュメントを目撃したようなものだ。
アンコールは、溌剌としてデビュー曲「愛を叫んでみた」を披露した後、最新リリース『二人なら - ep』から最新曲2曲を演奏。それはまさしく彼女の音楽的な新しい一歩であって、だから最後の曲「二人なら」のクライマックスでゆっくりと満ちてきて彼女を照らした照明の光はもちろん夕暮れ色ではなかった。
それでも、彼女はMCで「私は永遠に大人になんかなれない」と言った。「大人になんかならない!」と叫ぶロッカーはどこにもいるけれど、「大人になんかなれない」と覚悟した上で、「何回も何回も同じことを歌うんだろうと思う」と話した彼女の、立ち止まることを知らないイノセンスの行方をまた確認しに出かけることになるんだろう。
そんな予感が心の真ん中を確かによぎった一夜だった。

取材・文=兼田達矢 撮影=木村篤史

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