TOWA TEI

TOWA TEI

【TOWA TEI インタビュー】
劇伴として新しく作るものは
ミニマムで、再利用がマックス

聴いた時にちょっと“おや?”と
思うものがないとつらい

冒頭の“サウンドトラックっぽくない”の話の続きになるのですが、TEIさんの楽曲の中には“おや?”と思わせる独特の要素があり、それは以前の音源もそうでし、今作でも確認できるところでして。例えば1曲目の「ALPHA」はイントロが始まって素直に進んでいくのかと思いきや、ちょっとつんのめる感じがあったし、そういうところは他の曲にも多々ありますよね。

それはあんまり意識してないですね。逆に意識しているのは“大サビとかがなくて申し訳ないな”って(笑)。僕はファンクとかが好きだし、ミニマルミュージックも好きなので、そういうものを自分なりに、いかに1コードで展開もなく、なおかつ飽きさせないかということが大事で。“2分40秒の壁”とか呼んでますけど、そうなると引っかかるところが必要なんですよね。大抵の打ち込み音楽というか、4つ打ちと言われているものって引っかからずにそのまま流れちゃうのが普通なんで、聴いた時にちょっと“おや?”と思うものがないと僕はつらいかな?

そうですか。あと、これは「ALPHA」もそうですが、歌のメロディーと基本的なリズムが楽曲の進行に従って微妙にずれていく感覚もあって。聴いていて“この楽曲はどこに向かっていくんだろう?”みたいな感じが、いろんな楽曲にあると思うんです。

なるほどなぁ。自分で“面白いな”と思う時って、作業はパソコンベースでやっているんで、最初は1小節だけを繰り返したりしていて、もうちょっとできてくると“4小節くらいのバリエーションにしたほうがいいかな?”って1から5小節を繰り返したりして、それを貼りつけたり“ここは削って〜”とかやって曲になっていくことが多いんですね。だけど、そうした作業は先に進めば進むほど、すごく細かく地味な作業になっていくんで、例えば32小節で次のセクションになるところで、そのループを今度は32の半拍目とか、ちょっと違うところでループさせたり、それで修正していくと、“あれ? これは面白いかも!?”と思うことが結構あるんです。そうしたら今度はそれを貼りつけて繰り返したり…そういうことがありますね。ミニマルと言ってもまったく100パーセント同じものがずっと続くと、ありがちな劇伴とか音響効果みたいなものになっちゃうんで。

そうなんです! 同じループが続くだけじゃないので、“この先どんな展開になっていくんだろう?”と興味が湧いてくる。今回で言えば、「JOHNNY」「SEXY KASEY」「SENSE OF CRISIS」など、そうした楽曲がたくさんあって聴いていて超面白いんですよ。

それは良かった(笑)。自分も悪くはないと思っているんですけど、2、3行の言葉…「SEXY KASEY」だと“KASEYのセクシーな部分をイメージした曲”という抽象的な依頼で、“このシーンで〜”というふうに画を渡されたわけじゃないから、意外と“これを作ろう”と思って作っているものは少ないかもしれないですね。

本能的というか、“これは気持ちがいいな”と思ったところをそのまま落とし込むような感じなんですか?

というか、何となくできちゃったっていう(笑)。例えば、“ここをめがけて作っていたけど、それよりもこっちのほうがいいんじゃない?”ということもいっぱいあるんで。自分のことをピュアと言うのもおこがましいけど(笑)、音を作り出す時は音そのものにインスパイアされて作ることが多いんで、「SEXY KASEY」に関しては女優の“ああ”という吐息の一音から始まったと思いますが、そういう作り方をしていますね。逆に「SENSE OF CRISIS」は“ヤバい、負けちゃうかも…”というシーンに合うものも必要そうだと思って、それは自分の既存曲にはなさそうだから、危機感のあるものを作ろうと思って作ったんですね。もらったばかりの新しいアプリを視聴していて、そのプリセットで指一本でできるような平行移動で♪チャーチャー、チャーチャー〜とやって、そこから構築したんですけど、これは“SENSE”と“CRISIS”の二部構成だなと。で、“SENSE”の部分はそんなふうにおもちゃのシンセで作って、そこからバシッとビートが出てくるという。だから、自分なりにきっかけを見つけて進んでいくしかないというか。

「SENSE OF CRISIS」で言えば、聴き進めていくと雰囲気がだんだんと不穏になっていくようなところがとてもスリリングな印象でしたが、今お話を聞いた限りでは、TEIさんご自身もその楽曲がどんなふうになっていくかをはっきりと決めないままで作られているということは、リスナーも制作作業を追体験をしているといったところもありそうですね。

そうですね。僕はスケッチというか、下書きから始めないんです。音符ベースの人ってそれができちゃうじゃないですか。例えば、最終的には全部がシンセの音になるにしても、最初はピアノで作るとか。そういうプラットホームが僕にはないので。知識もないし、全部が行き当たりばったりというか、全てが習作であり、全てがぶっつけであるという。

初歩的なことを訊きたいんですが、TEIさんの楽曲制作は鍵盤に向かってコード進行を考えたり、ギターでひとつのフレーズを考えたり、そういう感じのスタイルではないんですね?

“そういう感じ”がどういう感じか分かってないんですけど(笑)、耳頼りですよね。さすがに30年間やっているんで、何となく分かってきているところはあるんですけれど、“この曲のキーは何だっけ?”というのは極力分からないようにしていますね。なので、手探りです。自分が作ったものくらいは弾けますし、作業はパソコンなんでテンポが遅かったら早くすればいいんで、そういう作り方ですね。だから、やっていることは16歳くらいの時と変わらないです。さすがにスキルはアップしていると思うんですけど。

結論づけるようで恐縮ですけど、だからこそ聴いててワクワクする音楽ができ上がるのかもしれません。

近年は特になんですけど、僕はポップスにまったくワクワクしないんです。10年以上前からクラブで流行っているEDMとか大嫌いだったから(笑)、そういうのがチャートを席巻し出した頃は“どうにでもなれ!”という感じだったんです。でも、最近は好きなものがより偏ってきたというか…若い頃はポップスにも好きなものはあったんですよ。ジャズ、ファンクをポップと呼ぶかどうかは別として、誰もに耳馴染みのいい音楽ではジャズやファンクを聴いているし、民族音楽とか第三世界の原住民の音をフィードバックしたレコードだったりとか、フランスの初期のエレクトロニクスだったりとか、そのまま素材になりそうなものを聴くようになりましたよね。シンセ音楽でもビート的なものが入っていてポップなかたちのサビがあって…というものを好んでいたけど、この間、ついに冨田 勲先生を聴いていたらすごく良くて。楽しかったです(笑)。

1970年代後半から1980年代前半にシンセ音楽がブームになった時、YMOと冨田 勲って対極にありましたよね?

うんうん。YMOはもちろんずっと好きだし…YMOとYMOの3人の音楽からファンク、ミニマル、ニューウェイブが好きになったので。今の世の中で作られている音楽は…特にこういうご時勢だからなのか、作る側としては“みんな、歌詞はどうしているの!?”というか、難しいと思うんですよ。もともと僕には歌詞のない曲も多かったんで、“ないならないでいいや”って思えちゃうけど、“コロナに勝つぞ!”みたいな歌詞も、“コロナに負けた…”という歌詞も聴きたくないだろうなって(笑)。…東日本大震災があった時、僕、しばらく音楽が聴けなくなってしまったんですよ。そこから戻ってこれたのは初期の電子音…ピーとかポーとか鳴っているような、それまでちゃんと聴いていなかった実験音楽やテープコラージュとか、ジョン・ケージ周辺の非音楽とされるようなところから音楽に戻れたんです。だから、ここ10年くらいの自分のより内省的な音楽趣味が反映されているのかもしれないですね。

そうですか。そのポップさというところで言うと、『SUPER CROOCKS』には「SUGAR」や「RADIO (EDIT)」といった歌の入ったものも収録されていますけど…

あっ、それは既存曲なんですよ。

ということは、それも監督からのオファーでしたか?

そうそう。どこで使われているのか覚えてないですけど、結構使われていて。あと、僕が選んだんじゃないんですけど、CDには歌モノがあったほうがいいんじゃないかということで、「BROCANTE」は今までCDになったことがないからマスタリングして、ボーナストラックという感じで収録しました。僕としてはアナログだけ出ればいいと思って作っていたんですけど、それだと売上的に困るんで(笑)。まぁ、アニメーション内では32曲も音楽を使っているうちから歌モノは2曲しか入れないことになっていたんですけど、“CDを作るならもう2曲入れましょう”となったというか。

今回のCDにはそうした歌モノが入っていることもありますし、それ以外にもポップな要素はあると思っていて。TEIさんの音楽は十分ポップだとは思いますが。

まぁ、アンダーグラウンドになりたいと思えば誰でもなれるんで。やっぱりね、暗いものばかり作っているのはつまらないんですよ。もともと根暗なんで放っておくとそういうものが多くなっちゃうんですけど(苦笑)、僕はDeee-Liteでプロになれたし、その前にDJになったことも大きくて、そこでひとつの最大公約数として“踊れる”という曲を書けることを習得したから、“どんなDJがいても、どのクラブでも一番盛り上がるような曲を作りたい”という、すごく大きなベクトルが根本にあったんです。

強引にまとめるようで恐縮ですけど、TEIさんの楽曲のポップさやメロディーのキャッチーさというのは、もともと持っているものが出ているのかなと思ったのですが。

なるほど。先にタイアップがあるとか、“○○○○のプロデュースをしてほしい”とか、“アレンジしてくれ”や“曲を書いてくれ”とか、CDが売れていた時代にはそういう話も多かったので、一生懸命にやったりしてましたけど…僕、軽井沢に住むようになったのは35歳の時なんですね。そのちょっと前くらいから別に東京から離れてもいいし、“自分は特殊音楽家でいいや”と思っていたんですよ。いかに不器用でずっといられるかという選択をした…大きな選択だったと思いますね。だから、その時のままなんですよ。キャッチーになろうとする人もいるじゃないですか。戦略的にもそうだし、マーケティング的にもそうだし、“今はこういうのが流行っているから、こういうふうにすればキャッチーに聴こえるだろう”とか考えて曲を作ったり。でも、僕はどっちかと言うと、いつも逆を向かってるから…強いて心当たりを考えると楽曲の根源は鼻歌ですね。

かなりナチュラルなところからメロディーは出ているんですね?

うん。♪ババンババンバンバン〜ですね。って、これは人の曲ですけど(笑)。コロナ禍で旅行が極端に減りましたが、歩いていける距離にいくつか温泉あるんで、ほぼ毎日のように行って、人がいなかったら鼻歌が出るのを待ったりして。いいのが浮かんだら忘れないように急いで帰って、パソコン立ち上げて…っていう。そこじゃないですかね? 自分にとってキャッチーなものって、自分の気分が良い時じゃないと出てこないから。なので、自分の気分が良くなるように、温泉に浸かったり、水風呂は入ったり、そういうことを日々やっているわけなんです。

取材:帆苅智之

アルバム『SUPER CROOKS (SOUNDTRACK FROM THE NETFLIX SERIES)』2021年11月27日発売 BETTER DAYS/日本コロムビア
    • 【CD盤】
    • COCB-54340
    • ¥3,300(税込)
    • 【LP盤】
    • COJA-9443
    • ¥4,180(税込)
TOWA TEI プロフィール

テイ・トウワ:1990年に Deee-Lite のメンバーとして、アルバム『World Clique』で全米デビュー。現在、10枚のソロアルバム、3枚の Sweet Robots Against the Machine 名義、METAFIVE のファースト・アルバム等がある。その他に、2013年9月から現在に到るまで、東京・青山にある INTERSECT BY LEXUS -TOKYO の店内音楽監修。NHK ドキュメンタリー番組「草間彌生 わが永遠の魂」の音楽を担当。18年、YMO結成40周年アルバム「ノイエ・タンツ」企画監修デザインなど。19年、細野晴臣氏50周年記念ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』及び21年『SAYONARA AMERICA』のキービジュアルを五木田智央氏と担当。高橋幸宏氏ベストアルバム『GRAND ESPOIR』のアートディレクションも共に担当した。Netflix制作アニメ「Super Crooks」劇伴を担当し、このアニメのサウンド・トラック盤『SUPER CROOKS (SOUND TRACK FROM THE NETFLIX SERIES)』が21年11月にリリース。21年は10枚目の『LP』海外リリースに続き『EP』で締め括る。22年はtofubeatsリミックス集『REFLECTION REMIXES』にてアルバムリードトラック「REFLECTION (feat. 中村佳穂) [TOWA TEI REMIX]」を担当。23年9月には初の全編インストソロアルバム『ZOUNDTRACKS』と前作『LP』続編の『TOUCH』を2枚同時発売。TOWA TEI オフィシャルHP

OKMusic編集部

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