[Alexandros]川上洋平、『ゴーン・ガ
ール』のロザムンド・パイクが悪徳後
見人を演じる『パーフェクト・ケア』
について語る【映画連載:ポップコー
ン、バター多めで PART2】

大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は、『ゴーン・ガール』で多くの賞を席巻したロザムンド・パイクが高齢者の資産を搾り取る悪徳後見人を演じる新感覚クライムサスペンス『パーフェクト・ケア』について語ります。
『パーフェクト・ケア』
おもしろかったですね。2021年、僕としてはおもしろい映画はたくさんあったんですけど「これだ!」っていうのは特になかったんです。でもこの『パーフェクト・ケア』はかなり良かったです。『ゴーン・ガール』のベン・アフレックの奥さん役の怪演ぶりでロザムンド・パイクを知った人も多いと思うんですけど、その魅力を終始発揮してて、非常に楽しませてもらいました。彼女なくしては成り立たない映画だと思います。

『パーフェクト・ケア』より

■老人を陥れるっていうことに対し、「最悪な主人公だな」って嫌悪感を抱きました
ロザムンド・パイクが演じるのは法定後見人のマーラっていう役で、合法的に高齢者からどんどん資産を奪うんですけど、「そんなことができるんだ?」っていう後見人のシステムにまずびっくりしました。高齢化社会に忍び寄る悪徳ビジネスだと思ったし、風刺がすごく効いていて。カモになりそうなお金持ちの老人を見つけたら、医者と結託して偽の診断書を書いて裁判所に行って、「高齢者で自分では判断ができない」とかなんとか言って、当人の意志関係なく後見人になってしまう。それで無理やり老人ホームに入れて、その資産をいただくっていう。でも、お金持ちで身寄りがないジェニファーっていうおばあちゃんを標的にしてしまったところ、そのおばあちゃんのバックにはローマンっていうロシアンマフィアがいて。そのマフィアにマーラがどう立ち向かうという話ですね。
とにかくマーラが老人を陥れるっていうことに対し、「最悪な主人公だな」って嫌悪感を抱きましたね。でも映画の宣伝コピーには「100%共感不能!なのに爽快!」って書いてあって。それって、マーラには共感できないけど、何があっても屈しないし、めちゃくちゃしぶといから、途中から応援し始める人もいるのかなって。でも僕は最後まで全く共感できなかった。終始、「こんなひどいことをしてるんだから痛めつけられればいいのに」って思いながら観たんですよね。だからこの映画を観た人に、マーラに対して爽快さを感じて、「頑張れ」って思った人がいるのかめちゃくちゃ聞きたいです。
『パーフェクト・ケア』より
■爽快さを感じる人も多いのかなってすごく気になりました
マーラが男性優位の社会と戦っているような描写も多いから、男性が観るか女性が観るかでも違うと思うんですよね。ロザムンド・パイクも「脚本を読んで、マーラは私がスクリーンで観たいと思ってた女性そのものだと思った。マーラはこれまで男性にばかり許されてきた残忍で野心的なことが許されるキャラで、これこそ私が演じるべきだと思った」ってコメントしてて。例えば、マーラがジェニファーの弁護士と法廷で対峙するシーンで、弁護士がマーラと結託しているジェニファーの主治医が女性だと知らずに、「HE」って言うんですね。医者=男性っていう決めつけをしてるわけなんですけど。でも主治医は女性なので、マーラは「SHE」って言い直させるんだけど、弁護士はまた「HE」って言い間違えるんです。そういう風に、男性優位の社会に対しての風刺が込められてるシーンがちょくちょく出てくる。俺はそういういわゆるマチズモ的な思想を持ってないつもりだったんだけど、「ああ、なんかすごく言われてるなあ……」っていう気分になってきて。ただ、マーラは老人を陥れるようなひどいことをやってるんで、「こんなヤツにこんなこと言われても……」っていう微妙な感情になっていったんですよね。そういう気分にならずに爽快さを感じる人も多いのかなっていうのがすごく気になりました。
高齢化社会っていうこともあって、「老害」って言葉が頻繁に使われたりしてますけど、俺はおじいちゃんとおばあちゃんがすごく好きなんですよね。自分の祖父母は全員亡くなってしまっていて、もう両親も良い歳で孫がいるおじいちゃんおばあちゃんになってますけど。それもあって「老人は排除していこう」みたいな社会になるのはすごく嫌で、「大事にしていこうよ」って思ってるんですよね。

『パーフェクト・ケア』より

■マーラの「ただじゃ死なねえ」みたいなところは『ゴーン・ガール』の役にも重なる
改めてロザムンド・パイクって、若々しさもあり、貫禄もあり、色気もあるんだけど、力強さも兼ね備えている。もちろん実力もすごくあって。すごく良いバランスの人だなと思いました。今を生きる女性像っていうか。マーラの「ただじゃ死なねえ」みたいなところは『ゴーン・ガール』の役にも重なりますよね。
マーラは貧しい家庭の出身で、「アメリカではフェアなことしてても大金は手に入れられない」って思ってるから後見人ビジネスをやってるわけなんですけど。でもさすがにそのやり方はダメなんじゃないか?っていう。こんな俺でも良心はあったんだなって思いました(笑)。やっぱり俺、おじいちゃんおばあちゃんが貶められる映画は絶対無理なんだと思います。「動物が殺される映画は無理」とか、「恋人が死ぬ映画は無理」とか、人それぞれあるじゃないですか。俺、恋人が死ぬ映画とかは大丈夫なんですけど、おじいちゃんおばあちゃんが苦しめられるのはきついです。だからマーラはもう最悪の敵です(笑)。
『パーフェクト・ケア』より
■ジェニファーとマーラの対決も見どころ
ローマン役のピーター・ディンクレイジが良い演技してましたね。ローマンは最後、良い身の振り方するなと思って、「こういう終わり方は悪くないな」とは思ったんだけど、その後の展開がより良かったですね。そのローマンとマーラの対決だけでなく、おばあちゃん役のジェニファーとマーラの対決も見どころですよね。ジェニファーを演じたダイアン・ウィーストがまた素晴らしくて。超ベテランでたくさんの映画に出ていて、アカデミー賞も2回取ってますけど、俺が初めて観たのは『ハンナとその姉妹』でした。やっぱり今回も良かったですね。
『パーフェクト・ケア』より
■大筋はすごくシンプルなんだけど、振り回されるような展開がいろいろある
ブラックコメディ要素もクライムサスペンス要素もアクション要素もあって、一概にこのジャンルって言えないのでいろんな人にハマる映画なんじゃないかと思います。ちょっと前に公開された『Mr.ノーバディ』もクライムサスペンス要素もアクション要素もコメディ要素もあるような映画だったけど、結構好きでした。期待以上って感じではなかったんですけど。両作ともひとつ斬新なアイディアがあれば、ここまで楽しめきれるんだなって。大筋はすごくシンプルなんだけど、振り回されるような展開はいろいろとあって、でも映画としてすごいまとまりがある。『パーフェクト・ケア』はとても良かったですね。僕の映画の評価的には『パーフェクト・ケア』というだけあってパーフェクトでした(笑)。

取材・文=小松香里

※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています!

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