【フジファブリック インタビュー】
聴いてくれる人たちの気持ちが
高鳴るものにしたかった
「音の庭」は今の子供たちにとって、
いい意味でトラウマになってほしい
歌詞の中のふたりはもう別れているんじゃないですか?
山内
そうなんですよ。別れているんです。実は恋愛をモチーフにしながら、自分なりの死生観や人と人が出会うことについて書きたいと思って。だから、性別も関係ないと思ったし、永遠の別れなのか、またいつか会える別れなのか、そこもどちらでもいいという気持ちで書きました。人と出会うことによって、自分も変化していくし、世の中も変化していく。でも、変わらないものをもらえる存在みたいなことを書きたかったんです。
疾走感が何かを期待させながら切なさも感じられるのは、そういうテーマがあるからなのですね。
山内
原作の物語はある種のハッピーエンドを迎えるんです。でも、どこか自分はその先を見ちゃうというか。もちろん希望的な見え方もあるんですけど、その逆も考えたりして。
なるほど。確かにそうですよね。
山内
それはさて置きですけど、物語の先のことも歌えたらとちょっと思いました。
今のお話を聞いて曲がより聴き応えあるものになりました。さて、もう一方の「音の庭」はNHK『みんなのうた』に提供した曲ですが、作詞作曲を担当した山内さんは子供の頃から『みんなのうた』をよく観ていたそうですね。
山内
子供の頃から大好きでした。釘づけになっていましたよ。未だにメロディーを含め、音楽に対しての手触りが残っているのは『みんなのうた』で聴いた曲なんですよ。だから、フジファブリックの曲が『みんなのうた』で流れるって決まった時はすごく嬉しかったです。
「音の庭」もそうだと思うのですが、『みんなのうた』は明るい曲もありますけど、悲しいとか、寂しいとか、そういう印象の曲も多いですよね。
山内
そうですね。そっちのほうが自分としては好みだし、3人ともなんとなくそういう曲で考えていたんです。例えば、昔に『みんなのうた』で流れていた大貫妙子さんの「メトロポリタン美術館」とか、尾藤イサオさんが歌った「赤鬼と青鬼のタンゴ」とか、マイナー調ですし、「メトロポリタン美術館」はそんなにマイナー調ではないんですけど、映像が怖い! 可愛いんですけど、ちょっと不気味というか。そういう自分たちが80年代から90代の初めくらいまでよく観ていた頃の空気感を表現できたらと思って作りました。
個人的には子供の頃に『みんなのうた』で聴いた悲しい曲が、今の自分の音楽の好みを作ったと思っていて。
山内
あぁ、それ、ちょっと分かります。僕は『みんなのうた』のあと、バンドのたまを聴くようになったんです。たまも『みんなのうた』の延長線上にあった気がするし、ちょっと怖いような、暗いような。『みんなのうた』ではなかったですけど、《チコタン死んだ》みたいな相当ショッキングな歌詞の合唱曲「チコタン~ぼくのおよめさん~」が70年代にはあったんですよ。その時代の世相を映していたんですけど、僕らの世代もそういう暗い曲のほうが印象に残っていて。好みにも反映されているし、フジファブリックにもそういう曲は結構ありますし(笑)。暗いというか、ちょっとおどろおどろしかったり、プレログレっぽかったりね。確かに音楽の好みは『みんなのうた』で作ってもらえたんじゃないかと思いますね。
金澤さんと加藤さんは『みんなのうた』にはどんな思い出がありますか?
加藤
地元の水族館にラッコがいて、水森亜土さんの「いたずラッコ」という曲がずっと流れていたんですけど、それは『みんなのうた』で聴いていたからすごく憶えています。
金澤
世代は一緒なので思い出す曲はだいたい同じなんですけど、当時の曲っていい意味のトラウマがあるじゃないですか。そういう部分も自分たちの曲で出せたらいいなと話しながら作っていました。
山内
「音の庭」もいい意味でトラウマになってほしいですね(笑)。
金澤
「音の庭」が『みんなのうた』で流れる時の影絵がいいんですよ。
山内
お会いしてはいないんですけど、影絵を制作された方も僕らと同世代ぐらいだと思うんです。だから、同じような想いで制作していただけたんじゃないかな? 笑っているような、泣いているような、観る角度や観る心境によって、影絵の登場人物の観え方が変わってくるところが素晴らしいと思います。
“音の庭”というタイトルは歌詞に出てくるオノマトペのことを言っているようにも思えるし、基本編成以外の音も使ったアレンジのことを言っているようにも思えるのですが、普段のバンドサウンドとは違うアレンジも聴きどころですね。
山内
いろんな音がたくさん煌びやかに鳴っていることも含め、子供の頃に僕らが感じていた音楽の高揚感を、今のお子さんたちにも伝えたいと思いました。いつもの作り方とそんなに違っているわけではないんですけど、色とりどりにしたかったのはありますね。ダイちゃんのストリングスアレンジも素晴らしいと思います。
金澤
それ以外にも、いろいろな音を散りばめていますね。おもちゃ箱みたいにできたらいいなと思いました。
加藤
ベースはセミアコースティックを使って温かみのある音にしました。
さて、今年のフジファブリックはコロナ禍が未だに続いている中でもかなり精力的に活動を続けてきましたが、これからどんな活動をしていこうと考えているのでしょうか?
山内
まず、12月14日にEX THEATER ROPPONGIで今回のシングルのリリースライヴをやります。忘年会じゃないですけど、待ってくれている方たちのために一年の締め括りとして、バンドから感謝の気持ちも含め、ワンマンというかたちで応えたいと思って。来年は3人それぞれに面白いニュースをいっぱい届けて、バンドの活動につなげていけたらいいですね。次のアルバムに向けて、曲作りも進めているんですよ。リリースがいつになるのかはまだ決めてないんですけど、『I Love You』、そして今回のシングルときて、さらに腰を据えて、音楽作りに取り組んでいこうと考えています。
取材:山口智男
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シングル「君を見つけてしまったから/音の庭」2021年11月24日発売
Sony Music Associated Records
- 【初回生産限定盤】(CD+Blu-ray)
- AICL-4160
- ¥2,420(税込)
- 【通常盤】(CD)
- AICL-4162
- ¥1,320(税込)
『フジファブリック シングルリリースライブ』
12/14(火) 東京・EX THEATER ROPPONGI
フジファブリック:2000年、志村正彦を中心に結成。09年に志村が急逝し、11年夏より山内総一郎(Vo&Gu)、金澤ダイスケ(Key)、加藤慎一(Ba)のメンバー3人体制にて新たに始動。奇想天外な曲から心を打つ曲まで幅広い音楽性が魅力の個性派ロックバンド。「銀河」、「茜色の夕日」、「若者のすべて」などの代表曲を送り出し、『モテキ』TVドラマ版主題歌、映画版オープニングテーマとして連続起用された。数多くのアニメ主題歌も担当。18年には映画『ここは退屈迎えに来て』主題歌、そして劇伴を担当。19年にデビュー15周年を迎えアルバム2作を発表。同年10月に大阪城ホール単独公演を大成功させた。21年3月に11thアルバム『I Love You』を発表。23年には4本のツアーを開催した。24年4月にデビュー20周年を迎えるが、目前となる2月に12thアルバム『PORTRAIT』をリリースする。フジファブリック オフィシャルHP
「君を見つけてしまったから」MV
「LOVE YOU / SHINY DAYS」
Official live clip