松原みきのデビュー作
『POCKET PARK』は、
今、世界から注目を集める
日本独自のAOR

独自のAORサウンドを展開

いつの頃からかシングル曲はアルバム2曲目という不文律があるけど、この頃はそうじゃなかったのね…とも思ったりするが、それはさておき──M1「真夜中のドア〜」から始まる『POCKET PARK』は、いい意味でそのオープニングのイメージから大きくは変わらない。とても良質なAORアルバムである。どの曲も日本っぽさを残しつつ、名うての演奏陣の確かな演奏をもとに大人の鑑賞に堪えうるポップスに仕上げてある印象だ。細かく見てみると、当時はニューミュージックと呼ばれていたこともうなずけるというか、アレンジ面で意欲的な部分もあって、そこが興味深くもある。例えば、M2~M4でのラテン要素。M2「It's So Creamy」ではサンバ(Bメロのリズムはモロにそれ)、M3「Cryin'」は全体にカリプソっぽいし、M4「That's All」はボサノヴァタッチ。この3曲とも演奏は、かつて大橋純子のバックバンドを務めていた“美乃家セントラル・ステイション”のメンバーが担当しており、その辺での個性が出た結果なのかもしれない。いずれもタイプは異なるものの、スウィートさであったり艶めかしさであったり、AORの都会っぽさだけでなく、体温のようなものを注入している感じがある。

また、M5「His Woman」とM9「Trouble Maker」はAORはAORでもロック成分強め。M5は芳野藤丸の作曲編曲で、そうくれば演奏はもちろんSHŌGUNだ。基本的にはポップなナンバーではあるが、ディスコティックなリズム、芳野藤丸らしいギターに加えて、ブラスとストリングスが豪華に配されていて、何とも景気のいい感じ。サビメロがM1以上にいなたいというか、和風、昭和歌謡っぽい印象でもあって、他にはない独特な空気感がある。M9は完全にハードロック。フロアタムを多用していると思われるドラミングからちょっとグラムロックっぽい匂いもする。厚め(熱め?)のギターサウンドに関係してか、サビでは他の曲では見せない圧しが強めのヴォーカリゼーションを見せているのも注目ポイントだろうか。彼女の歌い方には変な癖がないと前述したが、決して無個性ではないことはこの辺が証明していると思う。

M10「Mind Game」やM11「偽りのない日々」がユーミンライクと言おうか、親しみやすメロディーで締め括っているのも面白いところだが、個人的に最も面白く聴いたのはM6「Manhattan Wind」。“Manhattan”をタイトルに持ってきた辺り、如何にAORを意識していたかがうかがえるところだが、そのサウンドは本作中、最も挑戦的ではないかと思う代物だ。エモーショナルなブラスセクションが彩るファンク~ソウル系ナンバー。まずサビの転調が相当興味深い。こればかりは聴いていただくしかないかと思うが、“おっ!?”と思うほどキーが上がっている。併せて、コード感も面白い。誤解を恐れずに言えば、ちょっと妙な感じすらある。ちょっと暗めだったり、そうかと思えばアッパーだったり、類型的ではない響きが歌メロに付随している。歌もサビ後半ではややセクシーな表情を見せるなど、ひと口にAORと言っても、さまざまなアプローチがあることを改めて知るところであった。この辺りは、まさにニューミュージックと言えるのではないかと思う。Rainychのカバーで「真夜中のドア〜」を知った人も多いだろうし、そこから翻ってオリジナルを聴いたというリスナーも少なくないと思うが、少しでも興味を持った人はアルバム『POCKET PARK』も是非、聴いてみてほしい。「真夜中のドア〜」がリリースから40年以上経ってもその輝きを失わなかった理由は本作にも遺されていると思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『POCKET PARK』1980年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.真夜中のドア〜Stay With Me
    • 2.It's So Creamy
    • 3.Cryin'
    • 4.That's All
    • 5.His Woman
    • 6.Manhattan Wind
    • 7.愛はエネルギー
    • 8.そうして私が
    • 9.Trouble Maker
    • 10.Mind Game
    • 11.偽りのない日々
『POCKET PARK』('80)/松原みき

OKMusic編集部

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