松原みきのデビュー作
『POCKET PARK』は、
今、世界から注目を集める
日本独自のAOR
独自のAORサウンドを展開
また、M5「His Woman」とM9「Trouble Maker」はAORはAORでもロック成分強め。M5は芳野藤丸の作曲編曲で、そうくれば演奏はもちろんSHŌGUNだ。基本的にはポップなナンバーではあるが、ディスコティックなリズム、芳野藤丸らしいギターに加えて、ブラスとストリングスが豪華に配されていて、何とも景気のいい感じ。サビメロがM1以上にいなたいというか、和風、昭和歌謡っぽい印象でもあって、他にはない独特な空気感がある。M9は完全にハードロック。フロアタムを多用していると思われるドラミングからちょっとグラムロックっぽい匂いもする。厚め(熱め?)のギターサウンドに関係してか、サビでは他の曲では見せない圧しが強めのヴォーカリゼーションを見せているのも注目ポイントだろうか。彼女の歌い方には変な癖がないと前述したが、決して無個性ではないことはこの辺が証明していると思う。
M10「Mind Game」やM11「偽りのない日々」がユーミンライクと言おうか、親しみやすメロディーで締め括っているのも面白いところだが、個人的に最も面白く聴いたのはM6「Manhattan Wind」。“Manhattan”をタイトルに持ってきた辺り、如何にAORを意識していたかがうかがえるところだが、そのサウンドは本作中、最も挑戦的ではないかと思う代物だ。エモーショナルなブラスセクションが彩るファンク~ソウル系ナンバー。まずサビの転調が相当興味深い。こればかりは聴いていただくしかないかと思うが、“おっ!?”と思うほどキーが上がっている。併せて、コード感も面白い。誤解を恐れずに言えば、ちょっと妙な感じすらある。ちょっと暗めだったり、そうかと思えばアッパーだったり、類型的ではない響きが歌メロに付随している。歌もサビ後半ではややセクシーな表情を見せるなど、ひと口にAORと言っても、さまざまなアプローチがあることを改めて知るところであった。この辺りは、まさにニューミュージックと言えるのではないかと思う。Rainychのカバーで「真夜中のドア〜」を知った人も多いだろうし、そこから翻ってオリジナルを聴いたというリスナーも少なくないと思うが、少しでも興味を持った人はアルバム『POCKET PARK』も是非、聴いてみてほしい。「真夜中のドア〜」がリリースから40年以上経ってもその輝きを失わなかった理由は本作にも遺されていると思う。
TEXT:帆苅智之