松原みきのデビュー作
『POCKET PARK』は、
今、世界から注目を集める
日本独自のAOR

名うてのミュージシャンがバックアップ

ただ、今回、「真夜中のドア〜」を含むアルバム『POCKET PARK』を聴いてみて、これがかなりの力作であり、アルバム自体、なかなかの佳作であることははっきりと理解した。オープニングはM1「真夜中のドア〜」が飾っている。シングルと異なるバージョンとのことで、イントロでコーラスが前に出ているようではあるが、印象はそう大きく変わらない。ちゃんとした…というと語弊があるが、かなりしっかりとしたAORだ。ハイハットの刻み。キラキラしたエレピ。ギターのカッティング。うねるベースライン。イントロから耳に飛び込んでくる躍動感のあるサウンドが、最後まで途切れることなく続いていく。間奏ではサックスが、アウトロではギターが踊っている。クレジットを見ると、松原正樹(Gu)、後藤次利(Ba)、林 立夫(Dr)、Jake H. Concepcion(Sax)ら、錚々たる名前が名を連ねている。元PARACHUTE、元ティン・パン・アレーを含む、日本のロックシーン、フュージョンシーンを代表する名うてのミュージシャンが彼女のバックを支えていたのだ。今となっては(個人的には…と前置きするが)歌のメロディーに若干のいなたさを感じなくもないし、ストリングスが少しばかりしつこい気がしないでもないけれど、バンドサウンドはそれを補って余りあるほどに洗練されているのは当然とも言える。

言うまでもなく、歌の主旋律は秀逸。とりわけ展開がお見事であると思う。いわゆるJ-POP構造で、落ち着いたAメロから始まり、Bメロで徐々に盛り上がっていきつつ、サビで突き抜ける。突き抜けると言っても、スパッとどこまでも昇っていくような感じではなく、抑制の効いた感じが大人っぽさを与えているように感じる。これはどなたかも指摘されていたことだけれども、サビの《Stay With Me》が英語であることも効いている。否応にも歌にキャッチーさを与えているし、それが結果的にRainychのカバーにつながったのではないかと想像することもできるだろう。また、歌メロ以外にも、例えば、1番と2番とのブリッジで奏でられるメロディーであったり、前述した間奏でのサックスやアウトロでのギター、さらには随所で聴こえてくるコーラスが、いずれもしっかりとメロディアスなため、歌は2番までで2番のサビは2回廻しとシンプルな構成ながら、聴き手を飽きさせない作りになっていることも見逃せない(聴き逃せない)。その辺も「真夜中のドア〜」がワールドワイドに注目を集めるポイントだったかもしれない。

あと、これは筆者が2000年代以降のいわゆるコンテンポラリーR&Bの歌唱に慣れすぎたからかもしれないのだが、彼女の歌い方に変な癖がないことにも好感を持った。アウトロ近くに少しアドリブっぽい箇所があるが、フェイクとかはほとんどない。歌はうまいし、圧しも効いている。若干、滑舌が悪い感じがしなくもないが、それは個性の範疇だろう。無個性とは言わないけれど、(これもまた失礼な言い方になってしまうかもしれないが)余人をもって代えがたい歌声ではない気はする。でも、そこがいいのだと思う。このメロディーとサウンドで、仮に歌声がとてもソウルフルで迫力のあるものだったとしたら、「真夜中のドア〜」の世界観はこうなってはいなかったはず。シングルがリリースされた時、松原みきは20歳だったと考えると、このくらいの温度が丁度いいように思う。そして、その彼女の歌唱もまた、「真夜中のドア〜」を世界的に広めることになった要因ではないかと想像する。

OKMusic編集部

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