【LACCO TOWER インタビュー】
今の俺らが使う“青春”っていう
言葉はちょっと味がある
先が見えない中でも
未来に向けた一枚になった
「口紅」は特に独特な世界観ですよね。
松川
曲ができてきた時、“あぁ、真ちゃん壊れたな”と思いました(笑)。なので、歌詞はいろんなものを放り出して“どうしよう?”となっているような女性の姿を書こうと。
曲が引き寄せた歌詞だったんですね。
「独白」もLACCO TOWERならではだと思いました。
松川
これはコロナ真っただ中に作ったもので…本当にどうなるか分かんない、誰も答えを持っていない頃に。まぁ、今も分かんないですけど、それが歌詞に如実に出ましたね。オンラインで人前に出る機会はありましたが、それでもある程度は違う自分で出なきゃいけないじゃないですか。元気がなくても元気を出さなきゃいけないし。それがね、しんどいなっていう時期があったんです。だけど、誰にも言えないので、独りで告白する。そこからこの「独白」を書いたんですよね。
ちなみにですけど、この前に入っているのが「閃光」ですが、それはコロナ禍の前に作った曲ですか?
これはザスパクサツ群馬の2020年公式応援ソングだからというところも大きいと思いますが、シンガロングしたくなる、みんなの歌じゃないですか。そのあとに「独白」がくるという流れが時代をとらえていると思いました。
細川
最初と真ん中と出口は、僕の中では決まっていたんです。その間をどうするかっていう。それこそ「閃光」はみんなで歌えるように未来を見据えた、本当にポジティブな曲なんですけど、「独白」で歌っているのは自分の内面っていう。それは歌詞だけではなく、演奏にもそれが如実に出ていて。そうなった時にどういう曲順がいいのかって考えると、時代も含めてストーリーを作っていかなければ、ちぐはぐになってしまうと思っていました。
もうひとつ楽曲にフォーカスすると、「渦巻」も面白くて。サビのメロディーもリズムも、あらゆるところにポイントがありますよね。
松川
これは後半にできた楽曲で。アルバムのバランスについて話していて、もっとザクザクくるのが欲しいとなって持ってきてもらったんです。確かサビのメロディーを僕が作っていって、それ以外を真一がつけてくれたっていう。
だから、ドラマチックな展開が生まれているんですね。サビのメロディーが生まれたきっかけは覚えていますか?
松川
つげ義春が好きなんで、漫画を読んでいた時期でしたね。ちょっとダークっていうか、ファンタジーなんだけどリアルっていうか、白に黒を多めに混ぜたマーブル模様な世界観を出したくて、「ねじ式」からヒントを得てタイトルも“渦巻”にしたんです。
細川
タイトルに引っ張られるアレンジも多くて。「渦巻」も渦に巻き込まれるけれど、最終的には外に出ていくイメージで、前奏と後奏のピアノをつけているんです。
作詞者だけではなく、メンバーみんなが言葉からイマジネーションを膨らませているんですね。あと、タイトルで印象的だったのは「雪」で。ついに“雪”というキラーワードを掲げた楽曲を作ったかと思いました。
松川
このタイミングだからこそ書けましたね。基本的に僕はこういう言葉を使いたくないタイプの人間なので。でも、「青春」で始まって「雪」で終わるベタベタな感じも、今まで出してきたものがあるからこそ歌えるかなって。一周回ってシンプルなほうが伝わりやすいっていうのもあるし。「青春」の歌詞にもありますけど、何もない薄っぺらい人が言うシンプルな言葉と、いろいろ重ねてきて分厚い何かが見えるシンプルな言葉とは違う気がしていて。我々が後者だって偉そうなことを言うつもりはないんですが、間違いなく年数は重ねてきたので、だからこそ言える言葉なのかなっていう気はしています。
とはいえ、歌詞や曲に関しては今まで躊躇していたテーマだからこそ熟考したんじゃないんですか?
松川
そうですねえ、確かに。僕、シンプルに書こうと思っても書けないんですよ。一番音が上がる時に何の母音を使おうかまで考えているんですけど、そう考えたことが気づかれないようにスッと入っていくように努力していますね。当たり前の言葉を使うように努力しているというか。
あとは、松川さんの歌に説得力が出てきたからこそ歌えることかなとも思いました。
松川
ありがとうございます。生きてくると自分の嫌いなところもある意味好きにならざるを得なくなったりするじゃないですか。嫌いなところに対して、どう自分が好きになるかだと思うんです。違う人にはなれないので。隣の芝生は青く見えるんですけど、それでも自分の良くないところをどう好きになっていくか…年をとっていくことの利点ってそこだけだと思うし。ようやく僕も自分をちょっと好きになれてきたからこそ歌えたのかもしれないです。
細川さん、「雪」に関してはどうでしょうか?
細川
これ、初期に作ったんです。暴露話みたいになっちゃうんですけど、夏にアルバムを出すスパンが続いていて、それをやめたかったんですよ。一回違う線路に飛び込んでみたくて、ケイスケに冬の曲を作りたいって言って、このアルバムを作り始めたっていう。それで「雪」が出来上がったんですけど、そのあとにコロナ禍になってしまったという。
“青春”というテーマの前に、“冬”というテーマがあったんですね。
細川
はい。それで思い入れもあるから、この曲は最後にしたかったんです。
塩﨑さん、このアルバムはどんな一枚に仕上がったと思いますか?
塩﨑
自分たちがやることはライヴと音楽を作ることだと思っているので、その片方ができない間は集中して制作をしていた…自分たちを振り返りもしたし、新しい曲をどうしようかっていう話もしたし、先が見えない中でも未来に向けた一枚になったと思います。さっきの話じゃないですけど、今まで“雪”という言葉も避けていたんです。“霙”はあるけど、“雪”はない。
ちょっと捻ってきた。
塩﨑
そう。でも、タイトルを“雪”にして、渾身の冬曲にするっていう気持ちで作ったのを覚えていますね。イントロのベースも何十パターンも考えて、“これ、どう?”って大介に聞きながら作っていきましたし。本当にいいものができたと思います。
細川
この期間、一番制作を楽しんでいたのは啓示だと思う。何度も“楽しい”と言っていたので。もちろん僕も楽しかったんですけど、音楽ができる幸せを啓示は体感しているな、いいなって思いました。
“楽しい”ってシンプルだけど何より大事なモチベーションですよね。では、このあとのバンドの展開はどうなっていきそうですか?
松川
久しぶりの全国ツアーが控えています。しかも、今回はライヴハウスばっかりです。
それはあえてですか?
松川
そうですね。今回は全体的なバランスというよりは、ここの人にはこういうことを世話になったとか、こういう思い入れがあるから行きたいっていう話をして場所を決めていきました。泣く泣く次の機会にってなった会場もあるんですけど、まずは恩返しというか、20周年の“青春”ということで、我々が生まれたライヴハウスを回らせていただこうと思っています。
取材:高橋美穂
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アルバム『青春』2021年12月8日発売
TRIAD/日本コロムビア
『LIVE TOUR 2022 「青春旅行」』
1/15(土) 群馬・高崎clubFLEEZ
1/23(日) 東京・渋谷CYCLONE
1/29(土) 広島・CAVE-BE
1/30(日) 福岡・Queblick
2/05(土) 京都・京都MUSE
2/06(日) 兵庫・神戸 太陽と虎
2/12(土) 茨城・水戸LIGHT HOUSE
2/20(日) 愛知・名古屋APOLLO BASE
3/12(土) 大阪・LIVE SQUARE 2nd LINE
3/18(金) 宮城・仙台RIPPLE
3/19(土) 岩手・盛岡CLUBCHANGE WAVE
3/27(日) 東京・渋谷TSUTAYA O-Crest
ラッコタワー:日本語の美しさを叙情的リリックで表現し、どこか懐かしく切なくさせるメロディー、またその世界とは裏腹な激情的ライヴパフォーマンスで、自ら“狂想演奏家”と名乗り活動。自身主催のロックフェス『I ROCKS』を2014年から開催している。復活したレーベル『TRIAD』と契約し、15年6月にアルバム『非幸福論』でメジャーデビューを果たし、20年に5周年を迎えた。LACCO TOWER オフィシャルHP
「化物」MV