【Taichi Ro インタビュー】
自然に出てくる
等身大の言葉で歌いたい
ニューヨークのブックオフで
たまたま古内東子の存在を知った
Taichi Roさんは海外の音楽からの影響が大きい一方、日本語で歌っていますよね。
英語はしゃべれるし、昔は英詞の曲もたくさん作ったけど、今は自分の中から自然に出てきて、ありのままを伝えられる等身大の言葉で歌いたいんですよね。あまり気張らずに。激しく歌い上げるのは僕には合わない。キーを無理に上げずにやさしい声で歌って、ハーモニーや音圧で調整する感じかな? そうすればプロダクションで十分いいものが作れると経験を重ねて分かってきたんです。「キスくらい」も最初は“キー、低っ!”とか思っていましたが、徐々に張らないヴォーカルがしっくりきて今のスタイルになりました。この歌い方はリッチさんが見出してくれたんです。
気張りたくない感じは歌や歌詞だけじゃなく、サウンドにも表われていると思いました。
あっ、本当ですか? そう言ってもらえると嬉しいです。オーストラリアにいる友人は日本の曲をほとんど知らないから、そういったニュアンスがあまり伝わらなかったりするので。こうしてインタビューで“こう聴こえる”みたいな感想をいただけるのがとても新鮮ですね。
Taichi Roさんから甘く儚い曲調が生まれてくる理由は何が大きいですか?
オーストラリアに来てからは、ほとんど日本人に会っていないし、恋愛に関しても何ひとつ進んでいないから、こういった儚さが生まれるのかもしれないです。曲を作っていると、自ずと大切な人たちが頭に浮かんでくるというか…リード曲の「Tuesday」にしろ、表題曲の「Time」にしろ、今回のEPは昔のことを思い出しながら作った曲が多いですね。次の作品では、もう少し明るいトーンにトライしてみたい気持ちもあります。あとは、僕が古内東子さんをすごく好きなのが要因かなと。
古内さんの音楽に惹かれたきっかけは?
ニューヨークにいた頃に知って好きになったんです。ゴードン・チェンバースというグラミー賞も受賞したソングライターがいるんですけど、その人に“作曲の勉強をさせてください”とFacebookでメッセージを送って、3回くらいレッスンを受けたんですよ。彼はトラックなしの状態から歌詞の書き方を教える、つまり韻を踏みながら言葉を並べていい流れを作るという考えを持っていて。そこで“日本のミュージシャンでは誰が好きなの?”って話になったんですけど、僕は邦楽がほとんど分からないじゃないですか。
子供の頃から洋楽を中心に聴いていたから。
そうそう(笑)。なので、ニューヨークのブックオフで邦楽のCDを買い漁ったんです。そうしたらたまたま古内東子さんのアルバムがあったという。最初に聴いた時は“なんじゃこれ!?”と思いましたね。ゴードンが話していた言葉の並びもしっかりされていて、さらりと聴ける美しさがあって、ものすごく衝撃を受けました。そこからめっちゃハマって、今に至るまでずっと好きなアーティストです。
唯一無二の存在感がある方ですよね。
いろんな邦楽アーティストをチェックしてみたものの、僕がハマったのは東子さんだけで、たぶん自分と感性が似ているんだと思います。ヒップホップやR&Bをかじった日本のミュージシャンって、カッコつけたイメージがあったのであまり得意じゃなかったんですよ。英語とか自分の育ってきた国とは違う言葉を使っていると等身大に聴こえなくて、背伸びした印象があって。でも、東子さんの音楽は自然体だし、日本語で素敵なムードを纏っていてとても洗練されているんです。
EPに収録されている古内さんのカバー「一度だけ」はTaichi Roさんの世界観とすごく馴染んでいて、もはやオリジナルのようでした。
だいぶマニアックな選曲なんですけど、先に仕上がっていた「キスくらい」にも合うと思ったんですよね。《たった一度だけのキスでも》という歌詞があるし、自分のヴォーカルとの相性も良くて、何よりこの曲が入っているアルバム(2000年に発表された『Dark ocean』)が僕は大好きで、それこそ最初にニューヨークのブックオフで出会った作品なんです。サウンドプロダクションも面白くて、よく耳を傾けてみると相当コアなR&Bに聴こえるし。
実際、古内さんは海外のミュージシャンとも制作されていますしね。マイケル・コリーナとか、ロジャー・ニコルズとか。
うんうん。確か『Dark ocean』は日本のミュージシャンと作っていたけど、このアルバムを聴いていると東子さんが当時意識していた曲やプロデューサーが全部頭に浮かんでくるんですよ。“あー、分かる分かる!”みたいな良さがあって。素晴らしいプロダクションチームと仕事をされてきたんだなと思います。
そんな思い入れ深いカバーも収録された1st EP『Time』が出来上がってみていかがですか?
たぶんこの先いつ聴いても、僕が過ごしていたボンダイビーチの雰囲気を思い出せる一枚になったはずです。歌い方やコーラス、楽器のアプローチをたっぷり試せて、どういう言葉選びとかテンポ感が自分に合うのかも分かったし、やっとスタートラインに立てました。少しでも多くの人に知っていただけたら嬉しいです。
Taichi Roさんが今後やってみたいことは?
もっといろんな方と曲を作ってみたいし、ライヴもやってみたい。最近また帰りたくなってきたので定期的に帰れるチャンスがあればいいなと思ってます。今回のEP『Time』をきっかけにコラボを望んでくれるアーティストが出てきてくれたら嬉しいですね。まだ僕も自分の5パーセントくらいの要素しか見せられていないので、これからも期待していてください!
取材:田山雄士
・・・
EP『Time』2021年10月29日配信リリース
Touch It
タイチロー:沖縄県浦添市出身、現在オーストラリアに在住中のシンガーソングライター。物心がついた時から米軍基地のライヴに通い、洋楽から多大な影響を受けて中学生でDJを始める。2018年11月からアーティスト活動を開始。楽曲は“Modern J-POP”をテーマにしており、サウンドメイクにR&Bやヒップホップのテイストを織り込みながらも、親しみやすいメロディーが特徴的。Spotifyをはじめとする音楽ストリーミングサービスの公式プレイリストに入るなど、徐々注目を集めている。Soundbetterを通じ、海外アーティスト、エンジニア、プロデューサーと制作したEP『Time』を21年10月に配信リリースした。
Taichi Ro 楽曲配信ページ
「Tuesday」MV
「Time」lyric Video
「Easy Love」MV