Lucky Kilimanjaroが“今という瞬間
”を踊ることは、未知なる未来へと突
き進む意志ゆえの行為

現在、全国ツアー『Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "21 Dancers"』を開催中のLucky Kilimanjaro。ツアーファイナルである11月25日のZepp DiverCity公演、そして、追加公演として発表された12月10日の新木場STUDIO COAST公演という終着点に向けて、目下、全国各地を踊らせていることだろう。「21」という数字がツアータイトルに冠されていることの切実さは、10年後に掘り返されるのではなく、今この時代を共に生きる人々にこそ理解されるべきだ。Lucky Kilimanjaroはこの2021年という時代の混沌に対して、「踊る」という行為でアプローチしてみせる。リズムとは時間である。Lucky Kilimanjaroは、先の見えない「今という瞬間」を、勇敢に、快楽的に、踊ってみせる。誰も「今」に留まれないことを知りながら。一瞬先で変貌する私やあなたを想像しながら。彼らは、踊る。それは現実逃避のための行為ではなく、むしろこの現実を生きるため。踊ることは、すなわち未知なる未来へと突き進む意志ゆえの行為である。
3月にフルアルバム『DAILY BOP』をリリースし、その後も、7月にシングル『踊りの合図』、10月には配信シングル『楽園』をリリース……と、充実した作品を立て続けに投下し続けてきた2021年のLucky Kilimanjaro。新譜が出るたびに、その鮮烈で刺激的な音の重なりと躍動によって聴き手を楽しませてきた彼らの好調ぶりは、ライブという現場にも如実に反映されていることだろう。
Lucky Kilimanjaro  撮影=田中聖太郎
今でもありありと思い出すのは、今年4月に開催され、その後、映像作品化もされた日比谷野外大音楽堂でのバンド初のワンマンライブ『YAON DANCERS』での景色。今でも、あの日、夜の闇の中で瞬いた様々な色の音と光が見える。当日は生憎の雨に見舞われたが、「雨が降るなら踊ればいいじゃない」という『DAILY BOP』収録曲のタイトルをそのまま有言実行するかのように、彼らは土砂降りの雨の野音を、「命が踊る場所」としての甘美なダンスフロアに変えてみせた。あの日、Lucky Kilimanjaroは、なにか大仰なメッセージを音楽以外の言葉で伝えたり、わざとらしくドラマチックな演出をしようとはしなかった。そこにあったのは、ひとえに、波のようになだらかな起伏を持って続いていく、音楽、音楽、音楽――。彼らが伝えたのは「体験」それ自体だった。意味なんて理解できなくても、音と自分の肉体が、あの日の夜の生き方を教えてくれた。台本通りの予定調和ではなく、その瞬間、その場で音楽と人が呼応することによって生まれる、空間全体の自然発生的なカタルシスが素晴らしいライブだった。
あの日の野音で、心身ともに洗われるような多幸感と祝祭感に溢れる空間が生み出された要因を考えてみれば、ひとつ挙げられるのは、『DAILY BOP』の収録曲がより深い「リズム」の探求の果てに生み出されていたことだろう。近年は「世界中の毎日をおどらせる」というキャッチフレーズを掲げてきたLucky Kilimanjaroにとって、自分たちの音楽が「バンドミュージック」であると同時に「ダンスミュージック」であることは重要なポイントであり続けていたが、『DAILY BOP』において、彼らの探求はとても魅惑的な形で結晶化されていた。音と詩情が、体と心が、リズムと共に動き出しながら、瞬間、また次の瞬間……と、連綿と続いていく「今」を彩っていく。ただ快楽的なだけではなく、特に言葉の面において、この時代を生きることの苦しみや不安、痛みや生活のリアルも抱きながら、それでもLucky Kilimanjaroの音楽は力強く、優しく、揺れ動きながら鳴り響く。そのグルーヴの中に、今まさに変わりゆくすべてを受け入れながら。人が集まって踊るという行為にも触れがたくなったコロナ以降、簡単に身動きが取れなくなったこの時代に鳴らされるダンスミュージックとして、Lucky Kilimanjaroの奏でる「動く音楽」は、とても理想的なもののように思えた。
Lucky Kilimanjaro  撮影=田中聖太郎
開催中の全国ツアー『21 Dancers』では、さらに進化したパフォーマンスが体感できることだろう。聞くところによると、このツアーではライブ中に一切MCはなく、曲がノンストップで演奏される、野音から更に研ぎ澄まされた音楽空間が生み出されているという。それに、『DAILY BOP』以降の新曲たちを見てみても期待値は増すばかりだ。ハウスとボサノバ、それに黒澤明監督の映画『七人の侍』の世界観までもごった煮して生まれたという闇鍋的1曲「踊りの合図」は、見事なダンスアンセムだ。聴くたびに、泣き笑いの生命力が体の奥底から湧き上がってくる。この命を、この悲しみを、この滑稽で愛おしい人生を、徹底的に笑い飛ばしてやれ! そんな気分になる。同曲のカップリング「あついきもち」は、柔らかくポップなグルーヴ感に、シンプルで切実な歌詞が絡み合って、胸に染み入る。わかち合うこと、語り合おうとすること――彼らの音楽に根底的にある姿勢が、素朴な祈りのように響く。そして「楽園」は、あのメロウなサウンドが解き放たれた瞬間に、ライブ会場の空気が一変する様子が目に浮かぶ。じんわりと広がる静謐な熱狂。距離はあっても伝わる体温。この曲を聴けば、どこまでもロマンチックな気分で踊れるに違いない。
不安も、恐れも、そう簡単には消えない。それでも、この2021年という時代に、切実に「今」を生きようとする人たちに、私はLucky Kilimanjaroの音楽を心から勧めたい。その音楽は刹那を彩り、きっと美しい記憶となって、あなたが次の一瞬に踏み出す一歩に、そっと力を与えてくれるだろう。

文=天野史彬

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