金森穣×東京バレエ団『かぐや姫』第
1幕まもなく世界初演、公開リハーサ
ル&囲み取材レポート

東京バレエ団(芸術監督:斎藤友佳理)が、2021年11月6日(土)、7日(日)東京文化会館にて上演されるトリプル・ビルで、金森穣の演出振付による『かぐや姫』第1幕を世界初演する。2019年の勅使川原三郎『雲のなごり』に続く、日本人振付家とのコラボレーションだ。
金森はモーリス・ベジャール(1927~2007)が創設したバレエ学校ルードラに学び、イリ・キリアン(1947~)が芸術監督を務めていた時代のネザーランド・ダンス・シアターII(NDTII)を皮切りに欧州の名門舞踊団でダンサー、振付家として活躍した。帰国後の2004年以降、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督およびNoism Company Niigata(Noism)芸術監督を務め、新潟を拠点に国際的な創造活動を展開している。
ベジャール、キリアンら20世紀の巨匠振付家の信頼が厚い東京バレエ団が、鬼才・金森に新作を委嘱し、日本からの創作を手に世界へと打って出る――。『かぐや姫』は全3幕の全幕バレエとして構想され、このたびの第1幕初演に引き続き数年がかりで制作される話題作である。
東京バレエ団『かぐや姫』第1幕リハーサル photo:Shoko Matsuhashi
『かぐや姫』は、日本人になじみ深い「竹取物語」に取材している。金森はNoismにおいて抽象的な作品のみならず物語性を踏まえた劇的舞踊シリーズを創作し海外でも上演したが、それらと同様に台本を金森が手がける物語バレエである。
金森はNoism創設後初めて外部で新作を演出振付する舞踊団が、師のベジャールが愛した東京バレエ団であることに「縁を感じている」(3月の記者会見)と話していた。2021年3月、8月に行われたリハーサルを経て、10月末から仕上げの稽古に入り、いよいよ初演を迎える。
10月27日(水)東京バレエ団スタジオにて報道陣に向けて公開リハーサルが行われた。公演日が迫り、金森、演出助手の井関佐和子の指導には熱が入っている。全編クロード・ドビュッシーの音楽で構成されるグランド・バレエの序章の"さわり"をお伝えしよう。
東京バレエ団『かぐや姫』第1幕リハーサル 手前は飯田宗孝 photo:Shoko Matsuhashi
プロローグに登場するのは山村に独りで暮らす翁。東京バレエ団団長である飯田宗孝が演じるこの翁が竹取に出かけることから物語は始まる。
翁は竹やぶに向かうが、この竹やぶは夜明けの海から上がってきた緑の精である。24人の女性群舞がポワントを着用し、すっくと立って竹やぶを表す場面にぐいぐい惹きこまれた。
翁は光る竹を見つけ、その中いる小さなかぐや姫と出会う。かぐや姫が大きくなり、やがて観客の前に姿を表す場面は金森マジックと称したい鮮やかな演出が施されるので、ぜひ、ご自身の目でご覧いただきたい。
足立真里亜 photo:Shoko Matsuhashi
この日、かぐや姫を踊ったのは新進気鋭の足立真里亜。やんちゃでピュアな少女の雰囲気がよく出ていて、目も生き生きとしている。
彼女と出会うのが、原作には登場しない道児(どうじ)。村の童の兄貴分という設定で、村人のためにひたすら働いている。それを端正な踊り際立つ貴公子である秋元康臣が朴訥と演じるのが実に新鮮だった。
月明りの下、かぐや姫と道児が惹かれ合うパ・ド・ドゥは素敵だ。あどけないかぐや姫にそっと寄り添う道児。ふたりの感情の移ろいが、重心の低い姿勢から高々としたリフトへの繊細かつ大胆な変化を通して描き出され嘆息した。
足立真理亜、秋元康臣 photo:Shoko Matsuhashi
だが、愛し合う2人を目にした翁は……。その後、劇的な展開が訪れ、第2幕への期待が否が上にも高まる。翁と関わる黒衣(くろこ)は、金森いわく能の後見のような存在で「翁の影、闇の部分みたいなもの。物語をつかさどる謎の存在」(リハーサル後の囲み取材)だという。
秋元康臣(中央) photo:Shoko Matsuhashi
通しで観る機会を得て、ドビュッシーの音楽が巧みに用いられていることを実感した。金森は「音色、情感はもちろんなんですけれど、色彩が見えるような音楽がドビュッシーの特徴だと思っています。ドビュッシーのあまたあるさまざまな音色のパレットから『かぐや姫』に適切な、各シーンに適切な曲を選んで創っています」(囲み取材)と語っている。
指導する金森穣(中央)と井関佐和子(右) photo:Shoko Matsuhashi
物語の随所に寓意も秘められているようだが、バレエ=舞踊劇として味わい深く楽しめる。この日登場したかぐや姫の足立、道児の秋元はセカンド・キャスト(11月7日出演)。初日(11月6日)は、かぐや姫:秋山瑛、道児:柄本弾。金森は秋山と足立を「似ているなと思ったけれど、稽古をすればするほど違う」と感じるそうで、「それは物語バレエの醍醐味、バレエの醍醐味。大きな物語構造は変わらないんだけど、主役が変わることによって、捉え方が違うというか作品に新しい感情が加わったり、新しい視座が加わったりします。両キャスト観ていただきたいですね。わがままなお願いです(笑)」(囲み取材)と自信たっぷりにアピールした。
足立真里亜(右)を指導する金森穣(中央) photo:Shoko Matsuhashi
同時上演は、ベジャールの『中国の不思議な役人』(音楽:バルトーク)とキリアンの『ドリーム・タイム』(音楽:武満徹)。前者は、バルトークのパントマイム劇とフリッツ・ラング監督のフィルム・ノワール『M』に想を得た異色作。後者は、オーストラリア先住民族アボリジニの祭りに想を得た幻想美にあふれた佳作である。
金森穣 photo:Shoko Matsuhashi
囲み取材の際、師である2人の名作と並んでの上演について問われた金森は、感慨深そうな表情を浮かべた。「お客様がこのプログラムをご覧になるのは自分にとって凄くうれしいことです。「金森はこの感じを受け継いだのかな」とか、そういうふうにみてもらえるのがうれしい年齢になりました(笑)。20代の頃は「俺だ!」って感じで、あえて背を向けてみたりとかも当然ありましたけれど。得たものに対しての有難みもあります。こんな運命ないんじゃないですかね?本当にありがたく思っています」と語り、高揚する気持ちを隠せない様子だった。
金森穣 photo:Shoko Matsuhashi
なお、『かぐや姫』第1幕は、東京で初演を迎えた後、11月20日(土)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉にて昼・夜2回上演される(同時上演は『ドリーム・タイム』)。
金森穣✕東京バレエ団が世界展開を見据えて挑む一大プロジェクトの船出に注目が高まる。
【動画】東京バレエ団×金森穣「かぐや姫」(第1幕)世界初演ーリハーサル映像 The Tokyo Ballet world premiere KAGUYAHIME - Act 1 rehearsal
取材・文=高橋森彦

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