メリー 新しくも揺るぎない“らしさ
”を放つ、新体制初のアルバム『Str
ip』に込めたバンドの覚悟

メリーが4年ぶりのフルアルバム『Strip』を11月3日にリリースする。メンバー脱退後、4人体制となって初のアルバムとなる今作は、メンバーの新たな覚悟から生まれた作品だといえる。新しくも揺るぎないメリーらしさを放つ『Strip』はいかにして生まれたのか? メンバーを代表してボーカルのガラに話を聞いた。
最初は“遺唱”っていうタイトルにしてたんです。4人になって、これが最後のアルバムになるかもしれないくらいの勢いで挑む意味も込めて。
――前作のオリジナルフルアルバム『エムオロギー』(2017年9月6日発売)からは4年ぶり、バンド名をカタカナ表記に変えてのミニアルバム『for Japanese sheeple』(2019年4月17日発売)からは2年ぶり。そして、2020年9月の日比谷野外音楽堂のライブにてギターの健一くんが脱退してから、今作『Strip』は4人体制として初のアルバムになるよね。やはり、5人から4人になったメリーを意識した作品作りになったと感じている?
むしろ、そこしか意識していなかったですね。今までとは違うものを作り上げなくちゃ、今までとは違うメリーを届けなくちゃっていうプレッシャーが大きかったです。
――それで、タイトルに『Strip』と? 全てを脱ぎ捨てるという意味も込めて?
最初は違ったんですよ、タイトル。遺書の“遺”に“唱える”と書いて“遺唱”っていうタイトルにしてたんです。4人になって、これが最後のアルバムになるかもしれないくらいの勢いで挑む意味も込めて。これが遺作になってもいいっていうくらいの作品を作ろうって決めて。でも、それって、聴いてもらう側からしたら、ちょっと重過ぎるんじゃないかなって話にもなって。そこからタイトルをもう一度見直していく中で、“Strip”っていう単語が上がって。もうそれしかないなって思ったんです。全てを脱ぎ捨てるという意味ももちろん、4人になって裸一貫でゼロから向き合うという意味も含め。俺らはもう何も隠すものもないから。何処を見られてもいいです、っていう意思表示ですね。産まれたままの姿って、裸じゃないですか。本当にそれくらい新たな気持ちというところをぶつけたかったんです。
――なるほど。1曲目に置かれている「S.trip theater」には、Sの後にピリオドが来てるよね。“S”と“trip”としても読めるよね。そこにも意味が?
そう。“S”というのは、今回のアルバムの曲たちを指していて、“trip”は、この曲たちを聴いて非日常の世界にトリップして欲しいなっていう意味を込めたんです。
――ダブルミーニングってことね。「S.trip theater」は、アルバムの導入として最高のオープニングを担っているよね。インダストリアルかつ多国籍。中でもアジア感が強いイメージ。
今回、結生(Gt)くんがすごく頑張ったところでもあったと思いますね。“今までのメリーじゃないんだけど、メリーらしさ”を自分の中で求めていて、結生くんに“どっかでメリーなんだけど、でもメリーじゃないものを作って欲しい”って言ってたので。曲作り期間が1年間あったので、その中でいろんなタイプの曲を作って、これじゃない、あれじゃない、そうじゃない、って言い合いながら形にしていく中で、「psychedelic division」ができたんです。「psychedelic division」ができて、あ、これが今求めてるメリーかなって思った。
――「psychedelic division」が最初にできたの?
いや、1番最初にできたのは、「愛なんて所詮幻想で都合のいいものなのに」でしたね。最初は4人になったこともあり、ルーツであるビートバンドを追求しようと思って、ビートが際立つバンドサウンドを目指してたところがあったんです。昔のBOØWY風にしようと思って、そっちの方向性で作ってたんです。結生くんもそこでギターシンセとかを取り入れるようになって。でも、なんか今までのメリーにあるといえばあるよな……みたいな感じになって。でも、サビのフレーズは今までにメリーにない感じだから、そこだけは最後まで残そうって話し合いながら、試行錯誤して作っていったんです。
――曲作りの中に、常に“今までのメリー”というものを意識してしまっていたということだよね。
そう。そこにすごく囚われていて。すごく無理しちゃってたと思うんです。なかなか客観的に見れなかった。選曲会のときに、会社の人たちにもいろいろと聴いてもらったんだけど、“いいんだけど、メリーっぽくないな”とか“メリーがやってるのが想像できない”っていう声もあって。その辺りの曲はボツにしたんですけど。
――なるほど。でも、その試行錯誤、手探り、があった中で、新たなメリーを見つけていったと感じられる楽曲たちだなと思ったけどね。「愛なんて所詮幻想で都合のいいものなのに」の中には、セリフやチェロとかも入っていて、今までのメリーにもありそうな世界観ではあるけど、でも、やっぱりそこに新しいと感じさせるものはあったからね。当然、5人から4人になることで、サウンドの変化があるわけだけど、そこはどんな風に考えていた?
4人になったことで、もう1本のギターはどうする? とか、音圧はどうカバーしていく? とか、そういったところではなくて、結生くん的には、曲がどうやったら良くなるかっていう“純粋に曲が良くなるところに力を注ぎたい”っていう想いが強かったので、ピアノを入れてみたり、コーラスにこだわってみたりっていう方向に力を入れてましたね。それと同時に、何よりも、この4人でこの曲達をライブでやったときにどう表現していけるかっていうところにこだわってましたね。つまり、ライブで音を届けたときに、より聴き手に情景を伝えるために、ピアノやコーラスを入れることを積極的に選んでいた、と言った方が伝わりやすいのかな。
ガラ
――なるほどね。そういう考えがあって今の完成形が生まれていることを知ると、「ブルームーン」とかは、本当にいろんな試行錯誤を経て、そこに辿り着いている気がするね。
「ブルームーン」も本当にいろいろと試した中でこの形に落ち着いた感がありましたね。結生くんがこの曲を持ってきて、最初はバンドでやってみようって試みたんですけど、結果、バンドを取っ払おうってことになったんです。それで、全部打ち込みになったんです。
――「ブルームーン」は、中華的な空気感と、一昔前のチープなデジタル感と、Bメロのシティポップ特有の浮遊感の融合に新たなメリーを感じたけど。
うんうん。「ブルームーン」の原型は結構前からあったんですけど、それと同じタイミングで、ネロ(Dr)が“こういう曲をガラが歌ったらハマると思うんだよね”って「遠い昔の恋愛ソング」を持って来たんですよ。そこから、“じゃあ、こういうの振り切ってやってみるか”って話しになり、「ブルームーン」を全打ち込みでやることにしたんです。ライブでやるときはどうしようかっていうのは、まだ自分たち的にも見えていなかったりするので、楽しみなとこでもありますね。
――今、時代的にシティポップが再注目されているけど、女性目線や昭和感が漂う歌詞とかは、ずっとメリーが歌って来たところでもあって、メリーならではのシティポップになってるなと。「遠い昔の恋愛ソング」は、ちょっとフュージョンっぽい感じもあり。
「ブルームーン」とか「遠い昔の恋愛ソング」は、敢えて、分かりやすく狙った感じを出したくて、タイトルに“遠い昔の”って付けたりしたんです。乗っかったんじゃなくて、“敢えて狙って作ってます”ってとこを言うために(笑)。
――なるほど(笑)。狙った感はサウンド面だけじゃなく、タイトルも歌詞もね。この曲も昭和感の研究はどれくらいしたのか? って思うくらい歌詞の中のワードにこだわりを感じる。《小麦色に灼けた》っていう表現も聞かないもんね、昨今。
そうそう(笑)。
――「ブルームーン」の《せめて水くらいかけてやりたかったわ》っていうのも、かなり時代を感じさせるしね。
ですね(笑)。意識せずとも昭和な感じにはなるんですけど、この2曲では敢えて更に追求してる感はありますからね。「遠い昔の恋愛ソング」は、とくにかな。
――「遠い昔の恋愛ソング」で特徴的なのは、展開の多さだよね。1回目の間奏から後の展開も印象的だけど、更に2回目の間奏からの展開も意外な展開で、とにかく最後まで気が抜けない。
ネロの作る曲って感じがしますよね。なんで転調してるのか、理由が分からないっていう展開ですからね(笑)。本当に難しかった。ネロの作る曲って、いつもメロディが詰まっていたり、息継ぎする場所が考えられてなかったり、メロディが行ったり来たりするんですよ。基本、歌う人のことを考えてない(笑)。そういう意味でネロっぽいんだけど(笑)、でも、メロディとか雰囲気とかは、珍しさを感じましたね。
――歌うのが難しそうな曲だよね。《小麦色に灼けた》のところと、《ルームナンバー「1314」》の歌い出しの部分の難しさは半端なかったんじゃないかなと。
そう! 本当に難しかった。これがドラムをやってる人の感覚なのかな? って思っちゃいましたね、今回改めて。結生くんとは全く違ったメロディラインだし、展開だし。でも、この曲に関しては、ネロのこだわりも強くて、“このメロディを歌ってほしい”って言って来たんで、歌いづらいところも基本は直さず、頑張って歌いましたね。
結生
初めて“絶対”なんて無いんだなって感じたし、改めて人間同士がやっていることには、いろんなことが起こるんだなって思ったんですよね。
――「煙草」もネロ曲だよね。3拍子の哀愁感が、たまらなくメリーを感じる。
個人的に3拍子って好きなんです。最初にこの曲を聴いてイメージしたのは、やっぱり恋愛・別れっていうところだったんですけど、恋愛の歌詞ばっかりになるのもなぁと思い、ちょっと視点を変えて、たばこと灰皿ってセットだよなぁってとこに目を付けて、そこから膨らませていったんです。今回、歌詞を書いていく上でこだわったところでもあったんですけど、哀しいならとことん哀しい、とか、もうどうしようもない感じを歌詞にしてやろうってところだったんです。
――今まで以上に焦点を絞った書き方をしたんだね。これはガラにとっては褒め言葉になると思うんだけど、ガラの書く歌詞って、壮大な景色ではないよね。すごく狭い世界をとことん歌ってる気がする。映画で例えるなら、全国ロードショーじゃなく、単館映画。
すごく分かる。モノクロ映画とか、昔の古い映画みたいなね。そういう世界観は自分的にもすごく好きだし、そうなっちゃうんですよね、どうしても。広くは歌えない。でも、今回全部の歌詞を書き終えて読み返してみたら、自分では無意識だったんだけど、“夢”っていうキーワードがいっぱい出てきてて。夢なんて持ったって、今の時代叶え辛いし、って思ってるし、歌詞の中では“夢なんてみてたって叶わないよ”って歌っていたりもするんですけど。20年目の再スタートという地点に立たされた今、なんか新たにバンドを始めた頃みたいに夢を見れてる気がするんです。自分の歌詞を見て、“あ、俺、まだ夢追ってるんだな”って思ったんですよね。なんだかんだ冷めたことを思ったり言ったりしてても、まだどっかで夢を追いかけてんだなって、今回改めて自分の気持ちに気付いたとこもあったりしたんです。「Bremen」の歌詞にはそういう気持ちがすごく出てる気がする。
――「Bremen」も、強さと儚さとドラマティックさが共存しているメリーらしさを感じる1曲だよね。
「Bremen」は、アルバムを作り始めて初期の段階であった曲だったんです。最初はもっとダークめな曲だったんですけど、結生くんがすごく気に入ってて、どうしてもアルバムに入れたいって言っていたので、何処にどうやって落ち着かせようか、って思いながらアレンジを重ねて、今の形になったんです。最初に結生くんからこの曲を聴かせてもらったときの俺が受けた印象は、“砂漠”だったんです。景色も変わらず、目的地も見えない砂漠をとぼとぼと歩いている感じがして。なんか、その感じが自分と重なって。音的になんか差し込みたいねって話になって、女性コーラスを入れてみようかってことになり、綺麗なコーラスじゃなくて、険しい道を歩む、苦しみの伴うような歪(いびつ)なコーラスがいいっていうリクエストを出して、結生くんが入れてくれたんです。
――女性コーラスが入っていることによって、ドラマティックさが増しているよね。
そうですね、随分印象が変わったと思います。歌詞は、最初に聴いたときの砂漠をとぼとぼ歩いている感じが自分の人生と重なったところもあったので、“自分たちが20年歩いて来た道のりとこれからの道”っていうのを歌詞に落とし込めないかなって考えたんです。そのときに、『ブレーメンの音楽隊』の物語がふと頭に浮かんできたんです。自分が“コイツとバンドやりたい!”と思って、必死に口説いて今のメンバーを集めた、メリーを作ったときの最初の光景と、そこからいろんなことがあって、今があることと、今からこの先に進んでいく感じと、『ブレーメンの音楽隊』の物語がはまって。そこで、自分の中でストーリーが出来上がっていったんです。
――マーチングドラムが印象的な「Bremen」は、よりみんなで進んでいくストーリーをイメージさせるよね。
うん。すごく素直に吐き出せた気がするというか。
――でも、そういう素直に吐き出された想いこそ、聴き手の胸を打つんだと思う。それに、“自分たちが20年歩いて来た道のりとこれからの道”を歌詞にしたいと思わせる出来事が重なったからね。健一くんの脱退はもちろんのこと、ガラもバンドとしてはライバルであり仲間であり、個人的にも腐れ縁でもあり大切な友達であるMUCCからSATOち(Dr)が脱退すると聞かされたときは、自分のことのように受け止めたと思うからね。MUCCにも仲間に宛てて書かれた「TONIGHT」や「パノラマ」という楽曲があって、その曲の景色の中にはガラもいる。メリーの「Bremen」も、その位置に来る楽曲になるのかもしれないね。
うん。バンドにとってもすごく大事な曲というかね。本当に今回、逹瑯(Vo)、ミヤくん(Gt)、YUKKE(Ba)SATOちっていう4人での最後のライブを水戸で観たとき、すごく強くそれを感じた。SATOちの脱退を逹瑯から聞いたときは、自分たちのことのようにショックだったし、健一くんのときもそうだったけど、崩れるはずがないって思っていた山が崩れた現実を受け止めきれない自分がいたのは確かで。お互い20年以上やってきたバンドからメンバーが抜けるなんて、考えたこともなかった。このままずっと、お互いに、始めたときのままやり続けていくんだと思ってた。でも、健一くんが抜け、SATOちが抜けることになって、初めて“絶対”なんて無いんだなって感じたし、改めて人間同士がやっていることには、いろんなことが起こるんだなって思ったんですよね。
――そうだね。“絶対”なんて無い。信じられないこと、想像もしていなかったことが起こるのが人生だよね。
本当にそう。自分たち自身もメンバーの脱退もあって塞ぎ込んでいたし、そういう意味では、今回の曲作り、アルバム制作というのは、自分を奮い立たせてくれるキッカケだったなと、この時間に改めて感謝してます。本当にバンドっていいなって思えたので。
――すごく大きなターニングポイントになったし、メリーというバンドにとってすごく重要なアルバムになったね。今回、テツ(Ba)くんは曲書いてないの?
そう。今回は俺と結生くんが中心になってやり取りして基盤を作っていってた感じで。そこにネロが“こんなのどうかな?”って、ちょくちょく持って来てくれていたから。ネロはいろいろと余計なことを考えず自由に書いて来てくれてた感じだったから、ちょうどいいエッセンスになっているというか、いいバランスになったんじゃないかな? って思いますね。俺と結生くんはやっぱり、今回4人になって初めてっていうプレッシャーがあった中で、ネロは良くも悪くも、余計なプレッシャーを抱えることなく、自由に、今やりたいと思う曲を作ってくれてた気がするから。
――そこは確実に良いバランスになっていただろうね。
うん。今回、いろんなものがゴチャゴチャに混ざった感じの音でサイケデリックっていうものを表現したかったのもあったので、本当にいいバランスだったなって、並べてみて改めて思いましたね。
――なるほどね。ネロ曲で言うなら、さっきガラは「遠い昔の恋愛ソング」がネロっぽいって言ってたけど、個人的には、ネロのプレイスタイルが惜しみ無く炸裂してるという意味では、「erotica」かなって思ったんだよね。ネロらしい手数と勢いと熱さを感じる特攻曲だなと。
うんうん(笑)。たしかに、「erotica」はネロ全開かもしれないですね(笑)。でも、これは、今までのメリーがやったことがある感じだったというか。最初に聴いたとき、“なんか、似た曲あったよね”っていう感じだったので、ずっと手を加えながら完成に導いた曲でしたね。
――楽器隊のリレーションがすごくテンポ良くて“見せ場”でもあると感じたよ。
たしかに、そこはライブでの見せ場でもありますね。
――歌詞はすごくガラっぽい。なんかね、すごく哀しいというか。すごく刹那的で哀しい。《ようこそいらっしゃい!》《派手に踊るから》っていうところがとくに。ガラやメリーの現実の生き様と重なるんだよね。ガムシャラ過ぎて哀しくなる。捨て身でステージに立ってる感じというか、自分が幸せになったら哀しい唄が歌えなくなるって、本気で思っている感じというか。
思ってますね、確実に(笑)。 でも、そうなのかもなぁ。この曲というか、この歌詞というか、本当に生き様そのままのかもしれない。この曲を作り終えたとき、ライブの1曲目は絶対にこの曲だなって思ったんですよね。
テツ
無理に違う方向で曲を作ったら、無理してる感じが曲に正直に出ちゃうから。メリーで在り続けながら変化とか進化させるのが、すごく難しかった。
――全体像というか、このアルバムでライブをやる景色が見えた感じがした?
そう。今回のアルバムって、1曲1曲見ていくとバラバラなんだけど、俺の中ではめちゃくちゃコンセプチュアルにできたんですよね。ストーリーを追って作っていけたというか。メリーという架空の都市なのか、街なのか。そこにストリップ小屋があって、その中に入ったら、この曲をやっていて、パーティーが繰り広げられているっていう映像がリアルに頭の中に浮かんだんです。この曲ができたときに、それが本当にハッキリと自分の中で掴めた感覚でした。
――それって、まさに今回のアルバムのジャケットのイメージだよね。
そうですそうです。いなたいんだけど、近未来というか、とにかくいろんなものがグチャグチャな感じ。
――うんうん。個人的に、アルバムジャケットのイメージを色濃く感じたのは、「rat-a-tat-tat」だったかな。生粋のメリー曲だと感じたよ。けど、アラビア音階にちょっと新しさを感じたりもした。
まさに、結生くんがアラビア音階で曲を作ってきたので、ちょっと面白い歌詞を乗っけてみよっかなって思って出来上がった曲でしたね。ライブを意識した歌詞でもあります。
――猟奇的なお祭りソングだよね。丸尾末広感満載の。ガラど真ん中な歌詞だなと思ったよ。
そうっすね。「不均衡キネマ」っていう曲がメリーの中にあるんだけど、この曲は、“不均衡キネマ第二章”っていうイメージで作ったんです。
――そうだね。見世物小屋的な感じも「不均衡キネマ」っぽい。
そう。まさに。今作のアートワークそのものですね。さっきもライブのイメージとして頭に浮かんだって話をしたけど、それこそが今回のアートワークのテーマでもあり、表現したかったのは、“サイケデリック”だったんです。『Strip』というワードもあったので、俺の裸の写真を使いつつ、遊んでもらったんです。俺からデザイナーさんに具体的に、“架空の都市に「メリー」っていうストリップ小屋があって、そこにみんなが入って来て、いろんな物語が繰り広げられていく”っていうイメージにしたいってリクエストしたんです。
通常盤
初回限定盤
――バーレスクじゃなくて、ストリップなんだね。
そう。これは裏話なんですけど、通常盤のジャケットの「花園」っていう電飾の下に、最初電飾で「Burlesque(バーレスク)」っていう文字が入ってたんですよ。でも、やっぱBurlesqueではなくて、取ってもらったんです。言葉だと説明し辛いんですけど、未来なんだけどレトロな感じというか。漫画で例えると、『コブラ』みたいな感じ。80年代に、まさに2021年の現代のことを描いてたみたいな、ちょっとSFを感じさせる世界観が欲くて。未来なんだけど、アナログを感じさせる世界観にしたかったんです。それもあって、初回盤だけでも、俺が写真で被っている網タイツを実際にジャケットに被せたいっていう案も出してみたんですけど、物理的に無理って却下されましたけど、やってみたかったんですよね、今の時代だからこそのアナログ感。と、その網タイツを破る快感を味わってもらいたかったというか。そこの快感の奥にある物語を聴いて欲しかったんですけどね。ダメでした(笑)。でも、“CDを買う”楽しみって、そういうところにあったと思うんですよね。実際にCDを買わないと楽しめない遊びがそこにあったら、買いたくなるんじゃないかなって。でも、現実的ではないんですよね、そこは。けど、そういうパッケージも含めて、作品として聴いてもらいたいっていう気持ちが、アートワークには込められています。
――まさに「rat-a-tat-tat」は、いろんなものが混ざってる感じがするよね。ガラが言う通り今作のアートワークそのもの。
うん。多国籍な感じとか、混沌とした世界とか、エログロとか、メリーが20年前に掲げたコンセプトは、やっぱりバンドの根底にあり続けているんだなって、この曲を作っているときに改めて感じた感覚がありましたね。これこそがメリーだって再確認したというか。
――そういうのって、無意識に滲み出るものだよね。
うん。20年間このバンドでやってきたみんなの想いとか、経験とか、いろんなものが曲を作ると出てくるなぁって思ったというか。無理に違う方向で曲を作ったら、その無理してる感じが曲に正直に出ちゃうんですよ。だからこそ難しかった。無理なく、メリーで在り続けながら変化とか進化させるのが、すごく難しかった。
――塩梅というかね。その難しさはすごく分かる気がする。いままで積み上げて来たメリーも自分たちであるからね。そこは否定する必要性はないし。“メリーで在り続けながら変化とか進化させる”というのは、すごく難しかっただろうなって思う。
そうですね。すごく苦戦したところだったかな、そこが一番。でも、結果的に、そんなアートワークのイメージとアルバムとして作り上げた世界観をしっかりとリンクさせることができたんじゃないかなって思ってますね。
ネロ
アルバムを通して“今”を描きたかった。“今”が過去になったときに、そのときに戻れるような、振り返れる曲を作りたかった。
――そうだね。しかし、今作は、いろんなタイミングがあった中でのアルバム制作だったから、いつもとは気持ち的に向き合い方が違ったから、そこが音作りにも変化を与えていったって感じがするね。
そうですね。アルバムの中身が出来上がっていった流れで言うと、1曲目の「S.trip theater」には歌詞がなく物語の導入として。本格的にストーリーが描かれていくのが2曲目の「psychedelic division」からで、「psychedelic division」では最初と最後のシャウトに1番伝えたいこと、言いたいことが詰め込んであるんだけど、イメージ的には、最上階で胡座かいて笑っている人を俺は下から見上げている、みたいな感じなんです。アルバム最後の「Mechanical words」では、世界の全てが機械仕掛けで誰かに動かされていて、成るように成るみたいになっている、という解釈で皮肉ってまとめられたんじゃないかなと思ってますね。今、コロナ禍で自分たちも思う様に動けないとか、メンバーが1人抜けたとか、そいういう中でまた1から頑張っていかないといけないとか、先の見えない不安な中でもがいている感じは、このアルバムを通して出せたのかなって思っているんです。このアルバムが時を経て古くなったとしても、聴き返したときに“あぁ、この時代こうだったよな”って思い出せる様な、このときしか作れなかった、このときだからこそ残せたって思えるものを作りたかったんです。リアルに“今”が出ちゃってていいのかなって。
――あ、それは聴いていてすごく感じた部分だった。「ニューロマンティック【NOISE CORE】」の歌詞を目で見ながら聴いたとき、《マスク越し》というワードが“今”を感じたんだよね。生きる上でマスクが必須となっている今、 《マスク越し》という言葉がとてもリアルに響いてきて。
そうなんです! 《マスク越し》っていうのは、まさに“今”をリアルに描くために選んだワードだったんですよ! もしかしたら、こんな時代じゃなかったら、仮面の様にスッポリと被る覆面を想像したかもしれないけど、今の時代《マスク越し》って聞いたら、リアルに不織布のマスクを想像するでしょ。それくらい今を象徴するものになっている。だからこそ、そんな“今”をリアルに描きたかったんです。今しか残せないものを残したかった。
――ちゃんとそれが伝わったということだよね。
伝わってくれたのだとしたら、すごく嬉しいですね。
――そんな想いは一貫してあったんだろうね、今回の曲作りの中で。「Bremen」の歌詞の話とも繋がってるし。
うん、本当に全部やっぱり気持ちは繋がってるんだと思いますね。
――《マスク越し》っていうワードが強く印象に残る「ニューロマンティック【NOISE CORE】」は、メロディの無いノイズが前面に押し出された攻め曲だけど、その中で、恐怖を感じる叫びを想像させられる。他とは違うガラの歌い方もすごく印象的な1曲で。
うんうん。本当にその通りですね。本当にアルバムを通して“今”を描きたかったし、昔のことを“今だから言える”っていう感じを出したかったんです。“今”が過去になったときに、そのときに戻れるような、振り返れる曲を作りたかった。それは「Bremen」も同じでしたね。
――“今しか残せないものを残したい”という想いは、アルバム全体のテーマでもあったということ?
もちろん、いろいろなことが重なった節目でもあったから、現実を見つめるという意味では、それもありましたし、もともとアルバムのテーマとしては“愛”でしたね。それって、自分たちがやったことのないことでもあったんです。“愛ってなんなんだろう?”っていうところから動き出したんです。メンバーと向き合って、“メンバーそれぞれにとって愛って何?”っていうところを話し合ったりとかもしたんです。それぞれ違っていて。その話を聞きながら、人それぞれに愛って違うんだなって思いながら、曲も歌詞も書いていきましたね。
――それぞれが何を愛と想うと答えたのか聞いてもいい?
結生くんは自画像って言ってて。自画像って、自分のことをよく分かってて、すごく自分のことを好きじゃなくちゃ描けないんじゃないかな? って思うって。
――アーティストっぽい答えだね。さすがだな。愛と聞いてその答えはなかなか出てこないと思う。凡人である私からしたら、むしろ自画像とか客観視しないと描けないと思うからね。
あ~、たしかにね。独特の感性なのかもね。普通だったら自画像なんて描かないもんね。テツさんは、両親だったり家族って言ってた。“両親に何かあったら、俺、名古屋に帰るもんなぁ”って。若干、そこは、“え? そしたらバンドどうすんの?”って思ったりもしたけど(笑)、まぁ、そこまで現実的な答えというより、愛=何? っていう議題だから、そこはちょっと置いといて(笑)。テツさんとしては、両親が居て、家族という場所があったからこそ自分というものが存在して、今、ここに立ててるって思うからって言ってましたね。ネロはドラムって言ってた。
――ガラは?
俺はバンドって言いましたね。
――すごいね。みんなそれぞれすごく性格が出てる。テツくんが家族とか両親って言ったのは、自身が怪我をしたりしたときに名古屋に帰っていたから、そのあたりもすごく関係がありそうな気がするし。ネロくんがバンドではなくドラムって言ったのもすごく納得できるというか。もちろん、ドラム=バンドなんだろうけど、そこで“バンド”じゃなく“ドラム”って言ったところがネロくんっぽいし、逆に“唄”ではなく“バンド”って言ったガラも、すごくガラらしい。ガラの場合、唄も自身の人生も“バンド”だから、そういう意味でもガラっぽいよね。
本当にそうかも。今、こうして改めて口に出して、メンバーの答えを振り返ってみると、たしかにそれぞれすごく“らしい”答えを出してるなって思う。みんなそれぞれが、バンドという人生を20年もやれるとは思っていなかったけど、こうして今も続けられていて。そんな状況の中で予期せぬ出来事が突き付けられている“今”を、ちゃんと受け止めて、改めて見つめ直して、自分たちがこの先に残していかないといけないもの、やるべき意味ってなんなんだろうな? って、いろいろと考えちゃったんですよね。“愛”を“バンド”って答えたのもそう。いつも以上にそう考えてた自分がいて。本当に4人なったことをすごく意識し過ぎちゃって。新しいことしなくちゃ、何か作り出さなくちゃっていう焦りもあったと思うから。「ニューロマンティック【NOISE CORE】」の歌い方には、そんな想いがより強く出たんだと思いますね。
ガラ
観に来てくれたお客さんが、日常を忘れて、非日常の空間でどれだけ楽しんでくれるか。今、自分たちが出せる力の精一杯で頑張ります。
――さっき、少し触れていたアルバム最後の「Mechanical words」にも、その想いは強く感じられるよね。歌詞にも強さを感じるし、メロディは和を感じさせるところがメリーっぽさを醸し出しているし、サウンド面においては、このアルバムの全ての要素を集結させたイメージになってるなと感じる。
ですね。「Mechanical words」は、機械の音と、なんかちょっと不協和音っぽい音が混在してて。今の世界を表してる感じもして。アルバムの中では、この曲が一番最後にできたんです。他全てが出揃った段階で、なんかもう一つ物足りない感じがしている中で、結生くんがこの曲を持って来てくれたんです。
――まさしく、今作の最後を締めくくるに値する存在感だよね。掛け合いのボーカルはガラ?
そうです。掛け合いの部分は何度も声色と歌い方を変えて録り直して試したんです。もっとエフェクティブに加工したものもあったんだけど、やっぱり違うな、ってやり直して。コーラスには結生くんにも入ってもらったんですけどね。その部分は、いつかコロナの規制が無くなって、来てくれてるお客さんたちが声を出せるようになったら、一緒に歌えたらいいなという願いも込めて。今回いろんな想いがある中でアルバムを作り上げてみて、やっぱり俺たちって、曲を作るのも歌詞を書くのも、ライブをするためだったんだよなって、改めて感じさせられたりもしたんです。曲を作って、みんなの前に立って演奏して、一緒に熱くなってっていう、そういうところの虜になっちゃってるんだろうなって思ったんです。20年もバンドやってるとね、正直足を止めたくなることもあるし、挫けそうになることもある。でも、やっぱりライブでみんなに会うと、やってて良かったって思えるし、自分の居場所は此処だって再認識できる。なんかね、バンドってそれの繰り返しなんだと思う。本当に楽しいことなんて一瞬で。辛いことの方が多いからね。その一瞬のために頑張れる。その一瞬っていうのがライブなんだけど、それがそれだけ大きな力なんだって思うと、すごいことだなって思いますよね。
――そうだね。4人体制での新たなライブは11月7日(日) 恵比寿LIQUIDROOM 、28日(日) 名古屋E.L.L、12月11日(土) 大阪CLUBPARTITAで観れることになるんだよね。
そうです。健一くんの脱退ライブだった2020年の9月の日比谷野外音楽堂のライブ以来、初の有観客ライブになります。4人で立つ初めてのツアーになります。照明とか演出、自分たち自身で、どれだけ『Strip』というアルバムを表現できるかっていうところになってくると思うので、観に来てくれたお客さんが、日常を忘れて、非日常の空間でどれだけ楽しんでくれるか、っていうところを頑張って考えて作っていけたらと思ってます。サウンド面は結生くんに任せてあるので、俺は視覚面でどれだけ楽しませてあげられるかを考えていけたらと思ってます。コロナもまだおさまっていなくて、何もかもが不安定な時期ではありますが、周年でもあり、4人でのスタートの一発目のツアーになるので、是非、多くの人たちに目撃してもらえたらと思います。今、自分たちが出せる力の精一杯で頑張ります。
取材・文=武市尚子

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