【HAN-KUN インタビュー】
自分の中で決めつけていた概念を
ぶち壊すチャンスにもなった
カバーさせてもらって思うのは、
“名曲ってすげぇな!”ってこと
78年作品の「オリビアを聴きながら」からボーナストラックの20年作品「I LOVE」まで揃っていますからね。基本的にはリリース順に曲が並んでいて、時代が移り変わっていくように聴けるし、それがすごく自然で気持ち良かったです。
“Juke Box Man”と名づけているように、70年代から順に並べていって、それがプレイリストになるというのはすごく考えたし、そこに一番時間がかかりました。“そんなの誰も気にしねぇよ!”と言われたらそれまでなんですけど(苦笑)、そこが自分の楽しめた部分でもあったし、細かく言うと90年代だけ厚みを増していたりするんですが、いい流れができたと思っています。
全曲揃って、完成してみての感想はいかがですか?
カバーさせてもらっていつも思うのは、“名曲ってすげぇな!”ってことですね。“このサビいいな”と思っていた曲を実際に歌ってみたら“ここのラインと歌詞のハマり、すげぇいいじゃん!?”と気づいたり。それをレゲエにトランスレートすると、頭の中で想像していたよりハマりが良かったりもして。文化やルールは違えど、音楽ってひとつだっていうのを改めて感じたし、まだまだ垣根を越えてやっていけるとも思いましたね。先日も仕事でオーケストラの方たちとやらせていただいたんですよ。僕も触れてこなかった世界だし、向こうも僕のことなんか知らないと思うけど、クラッシックのフィールドでやらせてもらった時、音楽ですごくフランクに接してくれたし、とても興味を持ってくださって。“こんな音楽のエキスパートの方たちもいろんなことを吸収しようとしてるんだ”という場面に出会った時、音楽って結局はひとつなんだなと実感しましたね。カバーをやることは勉強でもあるけど、自分の中で決めつけてしまった概念をぶち壊すチャンスにもなりました。
確かに曲名だけ見て“この曲を歌うんだ!?”と驚きがあったけど、聴いてみたらばっちりハマっていて。例えば、「バンザイ~好きでよかった~」はウルフルズの醸し出すいなたさが良かったりするんですけど、軽快なアレンジが全然違う魅力を引き出していたり、「LA・LA・LA LOVE SONG」も原曲の良さを残しながら、まったく違った解釈で表現されていたので、すごく面白かったし、刺激的でした。
「LA・LA・LA LOVE SONG」はブラックミュージックが背景にある曲だから、現在のトレンドで消化したいと思ったんです。
「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」も現代風のアレンジで曲の印象が全然違っていたし、歌声や歌詞が胸に迫ってきて泣きそうになりましたよ。
当時も大好きな曲だったんですが、すごく現在に合っているなってめちゃくちゃ感じましたね。《たまにはこうして肩を並べて飲んで》に“あ~、できていないよな”と思ったり、《ほんの少しだけ/立ち止まってみたいよ》のフレーズがめっちゃ染みたり。色褪せないどころか、あまりに現在とハマっているリリックにすごいと思ったし、僕もレコーディングしながらちょっと泣きそうになりましたよ。本当は必要ないんだけど、最初のサビの前に今の時代を描いたリリックを少し足したりしました。
いや、この曲も「元気を出して」もですけど、原曲に入れているオリジナルフレーズにすごいリスペクトを感じたんです。原曲をしっかり受け止めた上で“俺はこう感じた”というアンサーが入ることで、他のカバーにない愛とリスペクトを感じました。
嬉しいですね。まさに自分なりの解釈と尊敬の念を込めて“しっかり聴き込ませていただきました。自分の体に入れさせてもらいました。これでどうですか?”というのが、楽曲を通じてご本人に伝わればいいなと思っています。
しっかり伝わると思います! あと、今回は女性シンガーの楽曲が多いのですが、HAN-KUNの武器である高音域を活かしているところに、僕はすごく男の色気を感じました。
それが色気につながるかは分からないですけど、特に女性の曲を歌う時に考えたのは、原曲キーで歌えたとしても、それを正解ととらえないということでした。僕もだいぶ大人なんで、張りきって高音を歌っているところにカッコ良さを感じられなくて。無理しないで、肩の力を抜いて語りかけるくらいのキーで歌いたいという想いがはありましたね。本当にいいと思うからこそ、自分の一番いい声の位置で、同じ曲でも現在の自分の歌で向き合うというのを提案できたらいいんじゃないかと。
はい! だからこそ、MISIAの「つつみ込むように…」や一青窈の「ハナミズキ」など、個性あふれる素晴らしいシンガーたちのカバーは歌い方を真似たり、そこに寄せるのでなく、ちゃんとHAN-KUNの魅力が引き出されたものになっています。そんな中、個人的に驚いたのが「奏(かなで)」で。選曲も意外でしたが、まさに肩の力が抜けた素に近い歌声がすごく新鮮に聴こえました。
オリジナルの制作で録ってるような、自分で聴いて鳴りがいいと思うキーよりも下げて歌っているんですよ。そこで新鮮さを感じていただけたのかな?
なるほど。あと、90年代厚めの選曲ですが、J-POP全盛期の90年代はJ-POPとはどんなつき合い方をしていたんですか?
まだ10代で人生の初体験だらけだった時代なので、そんな初体験のテーマソングだった曲が山ほどありますね。聴くとその時につき合っていた子を思い出すとか、どこかに行ったことを思い出すとか、自然とBGMになっていた曲が多かった気がします。中2くらいからブラックミュージックを聴き始めて、J-POPからは少し離れていた時期もあったけど、今よりもっとテレビや街から音楽が流れていたから自然と耳に入っていたし、自分から聴かなくても身近にあったのが90年代のJ-POPだったと思いますね。
あの頃のヒット曲って、CDを買っていなくてもサビくらいは歌えますもんね。今の子たちはヘッドホンの中から音楽が鳴ってる印象ですけど、当時は街で音楽が鳴っていたし。聴いたことのない音楽たちが心を豊かにしてくれましたよね。
本当にそうですね。今は膨大な音楽の中から自分で掘ることができて、それはそれですごくいい環境だと思うんですけど、知らない誰かの好みの曲がふと耳に入ってきて、“すげぇいいじゃん!?”と思って調べてみるって経験もすごく良かったと思います。
初回盤に収録されている最新のヒット曲に挑戦したボーナストラックのOfficial髭男dismの「I LOVE...」についてもうかがいたいのですが、今の若い子たちのセンスや才能に触れてみての感想はいかがでしたか?
単純にすごく上手だと思いました(笑)。あと、オケとか隅々まで聴くと、特に髭男は構成とか作りがめちゃくちゃ面白くて。一曲で4曲分くらい楽しめるし、すごく勉強になりました。レゲエやヒップホップは1ループの美学みたいな音楽だけど、J-POPには構成力の魅力があるんですよね。髭男はその両方を兼ね備えてるし、別ジャンルも吸収して新しいカルチャーとして成熟してる感があって、リリックのポイントの打ち方にしても“ここがキャッチーさにつながってるのかな?”とか思ったり、曲を解体して分析しながら聴かせてもらったので勉強になりましたよ。こんな機会がないとそんな聴き方はしないですからね。
そんな今作に収録されたカバー楽曲たち、さらに『UNCHAINED』も現場で完成させなきゃいけないという使命はありますが、これらのカバー曲をライヴで披露する機会は考えていたりするんですか?
ざっくりなんですけど、“来年開催決定!”というすごく長いスパンで話しています(笑)。なので、いつになるか分からないですけど、来年中に必ずやります。できれば2部構成で、1部が『UNCHAINED』で、2部が『Musical Ambassador』みたいなツアーをやれたらいいなと考えていて。一気にバイブスをつなげるツアーをやりたいと思っているので楽しみにしていてください。
取材:フジジュン
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アルバム『Musical Ambassador II ~Juke Box Man~』2021年11月3日発売
Virgin Music
- 【初回盤】(CD+DVD)
- TYCT-69212
- ¥4,620(税込)
- 【通常盤】(CD)
- TYCT-60182
- ¥2,750(税込)
ハンクン:湘南乃風メンバー、Voice Magician。マイク一本で自己表現していくダンスホールレゲエDee Jayでハードコアな掛け合いもできてサビも歌える、自分だけのスタイルを極めようとメッセージする歌い手。また、RUB-A-DUB(ラバダブ)と呼ばれるダンスホール特有のフリースタイルも得意としている。08年7月に待望のソロ1stアルバム『VOICE MAGICIAN』をリリースした。HAN-KUN オフィシャルHP
「元気を出して」
リモートセッションビデオ
「Story」Acoustic Ver.
「I LOVE...」
「Story」
「バンザイ ~好きでよかった~」
「元気を出して」