特別展『縄文2021-東京に生きた縄文
人-』鑑賞レビュー 石器、土器、土
偶……、圧倒的な数の考古資料で“東
京の縄文人”のリアルに迫る

江戸東京の歴史を振り返る礎として、その源流となる東京の縄文人に光をあてた特別展『縄文2021-東京に生きた縄文人-』が、10月9日(土)から12月5日(日)まで、東京・両国の江戸東京博物館で開催されている。1万年以上続いた縄文時代において、人々の生活はどう行われ、どんな変遷を辿ってきたのか。本展では最新の調査成果と1000点以上の貴重な歴史資料を通じて、現在の東京を中心とした古代の人々の暮らしと文化を紹介している。ここでは実際の会場の様子とともに本展の見どころを紹介していこう。
35年ぶりとなる“東京”をテーマにした大規模な縄文展
今年7月、青森県の三内丸山遺跡をはじめとする「北海道・北東北の縄文遺跡群」がユネスコの世界文化遺産に登録され、ますます人々の興味を集めている縄文ブーム。そんな中で開催される本展は、まさに縄文文化への理解を深める絶好の機会ともいえる。
会場風景
最新の研究では縄文時代は今から1万6千年以上前に始まり、1万4千年近くにわたって続いたとされている。さらに、その時代は縄文土器の変化に合わせて、草創期・早期・前期・中期・後期・晩期という6つの時代区分に大きく分類される。言うまでもなく、とてつもなく長い期間であり、その中で気候の変化などにより人々の暮らしも少しずつ移り変わっている。本展では“東京”という地域にフォーカスをあて、こうした縄文と暮らしを再現模型や映像も交えながら解りやすく紹介している。なお、東京という地域をテーマにした大規模な縄文展は昭和61年(1986)に銀座のソニービルで開催されて以来35年ぶりのことだという。
会場内にはいたるところに“発掘隊”による解説が
本展は「プロローグ」「第1章 東京の縄文遺跡発掘史」「第2章 縄文時代の東京を考える」「第3章 縄文人の暮らし」「第4章 考古学の未来」「エピローグ」という6章立てで構成されている。なお、この日は見ることができなかったが、10月19日(火)から11月14日(日)までは『縄文のビーナス』、11月16日(火)から12月5日(日)までは『仮面の女神』という、長野県茅野市が保管する2点の国宝が展示される予定だ。
《多摩ニュータウンのビーナス》(土偶) 多摩ニュータウンNo.471遺跡出土 縄文時代中期 東京都教育委員会蔵
会場に入ってまず初めに来場者を迎えてくれるのは、《多摩ニュータウンのビーナス》と呼ばれる一点の土偶だ。今から約5380〜5320年前に作られたとされるこの土偶は、この時代の土偶の中でも傑作とされるもので、古代の人々の高い造形技術が観察できる。
「近代科学による日本考古学のあけぼの」となった大森貝塚
「第1章 東京の縄文遺跡発掘史」では、これまで3800か所以上が確認されている東京都内の縄文遺跡から8遺跡をピックアップし、それぞれの遺物とともに紹介している。一言に東京といっても、西側の山地、丘陵部、台地、東側の低地、沿岸部、さらには伊豆諸島や小笠原諸島のような島嶼部もあるなど、多彩な地形を擁しており、このいずれの地形からも縄文遺跡が見つかっている。遺跡ごと分かれた展示には、発掘の歴史やそれぞれの地理的条件から推測される縄文人の暮らしぶりなどが紹介されている。
「大森貝塚」の展示
8か所の遺跡の中で最初に紹介されているのは「大森貝塚」だ。教科書にも載っている大森貝塚は、東京都品川区から大田区にまたがる縄文時代後期から晩期の貝塚である。発見したのは明治政府のお雇い外国人として東京大学の初代動物学教授に就任したエドワード・モース。明治10年(1877)に来日したモースは、汽車で横浜から新橋へ向かう途中に大森近辺で貝塚らしき場所を発見。それから本格的な発掘調査を行い、近代科学による日本の考古学研究の始まりの地となった。
本展の中で明治時代に発掘された出土品はここの展示のみ。それぞれにモースが記録用に描いた実測図が添えられて展示されている。実物と実測図を見比べると動物学者だったモースが精緻な描写力も持ち合わせていたことが分かる。
「第1章 東京の縄文遺跡発掘史」の展示風景
日暮里延命院貝塚、落合遺跡、駒木野遺跡など、その他の遺跡は大森貝塚ほどの知名度はないが、東京に住む人にとっては、自分に身近な場所にも縄文時代の記憶が残っていることを知り、感銘を受ける空間だ。また、縄文時代と結びつけて考えたことがほとんどない東京において、これだけ立派な土器の数々が発掘されているということにも驚かされるはず。
圧倒的物量の展示で“東京の縄文人”の暮らしに迫る
「第2章 縄文時代の東京を考える」では、まずはじめに死者の弔い方の移り変わりに迫る葬墓制研究についての展示がある。ここでは新宿区加賀町二丁目遺跡で発見された縄文人骨をもとにした「縄文人の顔」の復顔も見られる。
「墓と縄文人」の展示
その後の展示では30メートルはあろうかという長いスペースを使い、石器や土器、狩猟道具などの移り変わりを詳しい解説とともに時系列で紹介している。打製石器の作り方を映像とともに紹介している展示もあれば、縄文土器の用途と文様の変遷を紹介する展示もある。ズラリと並べられた圧倒的な物量に驚くが、そこにはひとつとして同じものはなく、それぞれにオンリーワンの輝きを感じる。約1万4千年の進化を辿って鑑賞する体験は時代絵巻を見るかのような感覚でもある。
「土器の機能と美の変化」の展示

「縄文石器の移り変わり」の展示

また、この章の一角には、東京では自給自足できなかったものを手に入れるための交易ルートに関する展示もある。なかでも新潟の糸魚川で生産され都内54か所へ運ばれたヒスイの集合展示は必見だ。
「ヒスイロードとコハク」の展示
「第3章 縄文人の暮らし」では、縄文人たちの暮らしぶりをよりリアルに感じられる展示が行われている。ここではまず長さ6メートル前後の大きな2艘の丸木舟に目を奪われる。
《丸木舟》 縄文時代中期 北区中里遺跡出土 東京都指定有形文化財 北区飛鳥山博物館蔵
“東京”に着目する上で、本章では都内で大規模な集落跡が見つかっている環状集落と沿岸部を中心に数多く見つかっている貝塚にフォーカス。展示室の中心には多摩ニュータウンNo.107遺跡をモデルとした「縄文時代中期の環状集落」と西ヶ原貝塚を再現した「ムラ貝塚」の2つの再現模型があり、その周囲には人々の営みに関するものが「祭祀」「生業」「服飾」などのテーマごとに展示されている。
「ハマ貝塚(中里貝塚)」の展示
貝塚では、魚類や貝類、土器や石器のような食事に関するものだけでなく人骨が発見されることもあったといい、展示の中では、胎児や新生児の遺体を埋葬したという土器棺も見られる。
《環状集落再現模型(1/20)》
「丘陵部での暮らし」の展示
環状集落の再現展示では、墓地でもあった広場を中心に住居が作られた集落の様子が、人々の営みとともに生き生きと再現されている。ここまで見てきたものを思い出しながら、縄文人の暮らしを想像してみてはいかがだろう。
「東京の縄文土偶100」の展示
また、土偶ファンの心を萌えさせるのは、東京都内で縄文時代中期から晩期に作られたとされる土偶を集めた「東京の縄文土偶100」の展示だ。ミニチュアのようにずらっと並んだ土偶はそれぞれに形や表情が異なり、何とも言葉に尽くし難いかわいらしさ。
その後は「第4章 考古学の未来」と「エピローグ 保存文化財の保護と活用」のパネル展示へと続き、全体の締めくくりとして先に紹介した国宝《縄文のビーナス》《仮面の女神》の展示が待っている。
国宝を待つ展示スペース
本展は一部の展示品を除き写真の撮影OK(ただし、フラッシュ撮影、動画の撮影は禁止)。会場入り口前のパブリックスペースには、ローマの「真実の口」を模した「丘陵人の顔のモニュメント」の記念撮影スポットがあるので、ぜひ思い出の一枚を残してみては。特別展『縄文2021-東京に生きた縄文人-』は、10月9日(土)から12月5日(日)まで東京・両国の江戸東京博物館で開催中。

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