『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA
2021』アジアのアーティスト130組が
集う国際アートフェア、実会場の様子
をレポート

10月16日(土)・17日(日)の2日間、国際アートフェア『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2021』が、グランフロント大阪 北館 B2Fのナレッジキャピタル コングレコンベンションセンターにて行われた。大阪でアジアのアーティストの「UNKNOWN(未知の才能)」に出会えるとして人気を博し、初回の2015年から年々規模を拡大してきた。昨年は世界的パンデミックの影響を受け、初のオンラインで実施。7回目の開催となる今年は、オンライン(10月9日(土)・10日(日))と実会場を組み合わせた、ハイブリッドアートフェアとなった。イープラスも長年協賛企業として、多くのアーティストに出会ってきたが、今年はどんな出会いがあったのか、注目のグランプリを獲得したのは誰なのか。フェアの模様をレポートしよう。
『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2021』
オンラインと実会場、あわせて約130組のアーティストが出展
『UNKNOWN ASIA』の特徴は、アーティスト主体のアートフェアであること。各ブースでアーティストが自ら作品をプレゼンテーションし、来場者との交流が生まれることで、作品を知ってもらうだけでなく、作品の購入や仕事にもつなげてゆく。もはや若手アーティストの登竜門と言っても過言ではない。アーティストの間でも口コミが広がり、アジア各国からの参加も増加している。そして、最新アートに触れられる場所でアーティストの生の話が聞けるとあって、毎年多くのアートファンが会場に訪れる。
『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2021』
もう一つの特徴は、審査員・レビュアー制度。協賛企業だけでなく、アートやデザイン業界に関わる人々、約200名にのぼる審査員・レビュアーがそれぞれアーティストに投票、個人賞を授与することで、より多くのアーティストが評価される仕組みとなっている。一般の来場者による投票から選ばれる「オーディエンス賞」も設けられており、出展者と来場者、双方向のコミュニケーションが実現している。
今年は新型コロナウイルスの影響も相まって、海外アーティストのリアル参加は難しい部分もあったが、オンラインと実会場、あわせて約130組のアーティストが出展。実会場では約100組が参加した。
全国の18ギャラリーが出展
ギャラリーブース
また、今回初めてギャラリーブースが登場。FM802・FM COCOLOのアートプロジェクトdigmeoutがプロデュースするアートギャラリーで『UNKNOWN ASIA』主催のDMOARTSや、福岡のTAGSTÅ GALLERYなど、全国から18ギャラリーが参加した。
TEZUKAYAMA GALLERYのブース
大阪・南堀江のTEZUKAYAMA GALLERYは、ディレクターの松尾良一が過去に『UNKNOWN ASIA』で「審査員賞」を授与した國久真有と村田奈生子、コラボレーションアーティストの安田知司の作品を出展。
TEZUKAYAMA GALLERYのブース
國久真有(2017年に松尾良一賞受賞)は、自分を支持体にして、腕のストロークが届く範囲で半円を描き、幾重にも重ねるスタイルのアーティスト。人体の動きを可視化させて、観る者とコネクションを作り出す。
TEZUKAYAMA GALLERYのブース
村田奈生子(2019年に松尾良一賞受賞)は、モノトーンの雑誌や誰かが撮った写真を一度手元でコラージュし、それをキャンバスに絵画として描き起こす。コラージュは過去のものであり、キャンバスの絵は描写中に形が変わることから「今」を表現する。
安田知司は個人ブースでも出展。ギャラリーブースの登場で、個性豊かな作家に出会える機会がさらに増えることになるだろう。続いては、SPICEが注目したアーティストを紹介しよう。
絵画、写真、立体物、書、様々なジャンルのアートが集まる
●星谷モモ●
星谷モモ
平成元年生まれで、8歳の頃から油絵を描いている星谷モモ。遠くから見ると一見コラージュのようだが、写実的な鉛筆画とアクリル、オイルパステルの組み合わせで、可愛らしくもメッセージ性のある作品をつくる。
星谷モモのブース
大きなテーマは「生きていること」、すなわち、感情や五感があるということ。「自分が描く時の感情も大事にしているし、絵の中の人の感情も出したい。見た人にも何か感じてほしい」と語った。
●中谷大知●
中谷大知
一級建築士として設計事務所を運営する中谷大知は、『UNKNOWN ASIA 2019』に参加したことからアーティストとしてのキャリアをスタートさせた。普段は仕事で図面を描くことが多く、その反動で、きっちりした線から逃げ出すように自由な線を描くという活動スタイルが、そのまま作品のコンセプトになっている。事務所でデスクワークをしながら、仕事の合間にパステルやクレヨンで感覚のままに描くことで、色と形の重なりの多様性を追求している。
中谷大知のブース
「インテリアが好きなので、空間の中にあっても圧迫感がなく、風通しの良い作品を選んでいます。勢いとイメージを大事に描いています」と話してくれた。カラフルで軽やかなパステル画は、観る者の心を弾ませてくれる。
●辻野清和●
辻野清和
参加歴は2018年から数えて4回目。digmeout所属アーティストの辻野清和は、元々15年間会社員をしていたが、『UNKNOWN ASIA』に参加したことで刺激を受け、アートの世界で生きたいと一念発起で転身。その後、『UNKNOWN ASIA』がキッカケで依頼を受けることが増え、イラストレーターとして活動することができていると、笑顔で話す。
辻野清和のブース
今回の作品のテーマは「身近なありがたみ」。ご飯を食べることはそれだけで幸せであることなど、身近の大切な人をモデルとし、傍にある小さなありがたみを忘れずにいたいという気持ちを絵で表現した。シズル感のあるダイナミックな筆致ながら、優しい色遣いで受け入れられやすい雰囲気を出していた。今後は「心の持ち方で見え方はいくらでも変わる」というマインドを盛り込んで描いていきたいとのこと。
●竹本英樹●
竹本英樹
元北海道テレビのチーフディレクターの経歴も持つ竹本英樹は、今回が『UNKNOWN ASIA』初参加。今は懐かしい8ミリカメラを使用して写真を撮影する。動画用カメラと映画フィルムで撮影後、ポジフィルムを観て作品にするコマを決定。そのコマを35ミリのネガフィルムで接写し直し、暗室でプリントするという複雑な工程を経て完成する。
竹本英樹のブース
質感が映画的に見えるのは、動画のフィルムだから。また、粒子の荒さが絵画的にもなる。写る風景はどこかノスタルジーを感じさせ、昔の記憶を脳内で再生する時の映像のようだ。竹本も「観る人の記憶や意識の中とつながれるのではないかと思い、この表現を10年近く続けています。シカゴの風景が伊豆のようだと言われたり、パリの展示では逆に日本の風景が懐かしいと言われたりします」と話した。
●オクノブユキ●
オクノブユキ
本業がプロダクトデザイナーで、写真も撮り、絵も描くオクノブユキ。女性がクラシック楽器を演奏する4枚の絵画は、楽器の形を極力なくした中で音を感じる表現ができないかと模索して生まれた新作シリーズ。元々はクロッキー帳で原画を描いていたが、大きくなったらカッコ良いのではと思い、大きいサイズで描き始めたそうだ。
オクノブユキのブース
油性ダーマトグラフ(オイル色鉛筆)の太さが足りず、古くなった芯を集めて溶かし、自作で太いダーマトを作ったという苦労もありながら描かれた作品は、繊細で優雅、かつ絵の中から音楽が聴こえてきそうなほどの躍動感を感じさせる。
グランプリ、イープラス賞は安田知司
安田知司
10月15日(金)に行われたVIPプレビューを経て、翌日の16日(土)、オンラインにて各賞の受賞者が発表された。グランプリ、そしてイープラス賞を獲得したのは安田知司だ。
安田知司の絵画は、絵の具の集積で作られた正方形のキューブが並べられている。近くで観ると表面の凹凸や絵の具の物質感が目に入り、何が描かれているのかわからない。しかし絵画から離れるにつれ、次第にグラデーションになり図像が見え始めるという、ギャップのある作品。
この技法を使うようになってから4年。キッカケはネットサーフィンをしている時に、気に入ったある画像をクリックして拡大したら、想像と違う画像が出てきたこと。その違和感を絵でどのように表現すればいいかと考えて行き着いたそうだ。「モチーフの選び方は人物であることと、モザイク化した時に画面の色の構成が美しいかどうか。油絵の具で肌の質感や変化を描きたいんです」と彼は語る。計算されながらもどこか温かみを感じさせる作風が、観る者の興味を引きつける。
安田知司のブース
イープラスは2015年から東京・渋谷最大級のカフェ、eplus LIVING ROOM CAFE&DININGを運営している。「アーティストが友人を招きもてなすLIVING ROOM」というコンセプトで生まれた、食事、カフェ、バー、音楽、アートを融合した新たなライブレストランで、アートを楽しむギャラリーエリアでは約1ヶ月単位の会期で、年間を通して展示が行われている。毎年イープラス賞に選ばれたアーティストをはじめ、『UNKNOWN ASIA』で出会った数組のアーティストと展示を行うのが恒例となりつつある。
イープラスの橋本行秀代表取締役会長は、イープラス賞の選定基準について「カフェは広い空間なので、特に入り口には大型作品が映えます。だから大きさのバリエーションを出せる人、うちのカフェの空間に合う人、そういう視点で選んでいます。今回選んだ方も、遠くから見て映えるかどうかを意識しています。でも逆に言うと、大きい作品は売れない。買うのと観るのはかなり違う。そういう組み合わせがうまく表現できるアーティストさんなら、お互いの良いところを引き出せます」と語る。
スマホでかざすとより図像がわかりやすい
イープラス賞の安田知司については、「今回も、遠くから見て映えるかどうかを意識して選びました。遠くからじゃないとはっきり見えず、近づくとこうなっているんだ! と感じる作品なので、うちの空間にとても合っている。インパクトも与えられる」と述べた。
さらにオクノブユキ、竹本英樹、オンラインで参加したYUIHALFについても橋本会長の評価は高く、今後展示の話を進めていきたいと意気込んだ。
「アートは素人ですが、好きだなと思います。アーティストは作品を展示する場所を探しているけれど、場所を借りるのは高いので広い空間で展示できる機会はそう多いものではありません。アーティストの中にも、うちでやりたいと言ってくれる人がいてくれる。アーティストとカフェ双方がWin-Winの関係を築いているので、この取り組みは意義深いと思っています」と語った。
『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2021』
来年はどんなアジアのアーティストに出会えるのか。どんな作品が私たち1人1人の心に残るのか。今後も関西からアートシーンを盛り上げていくイベントとして注目し続けたい。なお、『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2021』のアーカイブや各受賞者はHPで見ることができる。
取材・文・撮影=ERI KUBOTA

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