陸役の鈴鹿央士

陸役の鈴鹿央士

【インタビュー】映画『かそけきサン
カヨウ』鈴鹿央士「この映画は悪役が
いないことがポイントです」

 高校生の陽(志田彩良)は、幼い頃に母が家を出たため、父の直(井浦新)と二人暮らしをしていた。だが、父が再婚し、義母となった美子(菊池亜希子)とその連れ子で4歳のひなたとの新たな暮らしが始まる。陽は、新生活への戸惑いを、同じ美術部に所属する陸に打ち明けるが…。窪美澄の同名短編小説を今泉力哉監督が映画化した『かそけきサンカヨウ』が、10月15日からテアトル新宿ほか全国公開される。本作で、陸を演じた鈴鹿央士に、映画への思いや、共演の志田の印象、今泉監督の演出法などについて聞いた。
-陸は、この映画のもう一人の主人公ともいえるような重要な役でしたが、演じてみて自分自身と共通する部分はありましたか。
 この映画に出てくる人は、皆優しくて、きれいな心を持った人たちで、悪い人が一人もいません。陸もその一人で、周りの環境が変わっていく中で、家族や恋愛のことで壁にぶつかったときに、周囲の人に背中を押されながらも、ちゃんと自分で乗り越えようとします。誰かに当たったりもしないし、優し過ぎるところがあります。なので、あまり自分と共通するところはないぐらい、きれいな心の人という感じでした。僕も本当はそこまで行きたいんですけど(笑)、まだまだ足りないと思います。
-ご自身もついこの間まで高校生でしたが、陸に共感できるところはありましたか。
 陸が陽に対して「好きって何なんだろう」と考えるところがありますが、僕もそういうことはよく思います。相手が「好き」と言ってくれて、確かに自分も「好き」だけど、でも、相手が思っている「好き」とは違うかもしれないとか。両思いはなかなか難しいとか。そんなふうに考えるところは、自分とも共通するのかなと思います。
-陸は、陽ともう一人の同級生・沙樹(中井友望)との間で揺れ動きますが、その点についてはどう感じましたか。
 男女の友情が成立するのかという感覚の問題だと思いますが、沙樹に対しては、友だちとして居心地がよかったんだろうなと思いました。三角関係みたいに見えないこともないのですが、ちょっと危なっかしいところがあってもいいのかなという思いはありました。後半で、陽とちょっと距離を置いて、沙樹と過ごす時間が増える場面がありますが、あまりどろどろしないように、どちらかに矢印が向いているようには見えなくするのが面白いのかなと思いました。
-陸は、とても素直だけれど、時折幼く見えたりもします。穏やかな口調で、静かなたたずまいがあり、優しくていい子だけど優柔不断な面もある。そうした複雑な役を演じる上で、何か心掛けたことはありましたか。
 僕は、初めて台本を読んだときに、「あー、こういう人なんだ」と直感的に感じる方です。現場に入ってからはいろいろなことが起こるので、その直感に、「このシーンの前にはこういうことがあった」とか、「今はこういう思いでいる」とかを加えていきます。今回は、陸は、陽のことも、家族のことも、自分自身のことも、いろんなことを考えながら生きている人ということを中心に置いてやっていました。
-今泉力哉監督は「全体が重くなり過ぎないように鈴鹿さんを配した。志田さんとのバランスも良かった」と語っていますが、その言葉を聞いてどう思いますか。
 (陽の義母役の)菊池(亜希子)さんとのシーンで、「あまり重くならないように」と言われたので、結果的にいいバランスになったのならよかったと思います。志田さんとは、お互いに人見知りなので、この映画の撮影のときはあまりしゃべっていません。でも、そういう雰囲気だったからこそ、がっつり恋愛関係というわけではない陸と陽という役にも合っていたと思うので、ちょうどいい距離感だったのかなと思います。この映画は、(再共演したドラマ)「ドラゴン桜」よりも、半年ぐらい前に撮ったので、今やったら、もう少し距離が近い感じになると思います。
-では、志田さんの印象は変化しましたか。
 最初は何をしゃべったらいいのか分からない感じでした。5人の同級生グルーブの中で、遠藤(雄斗)くんとはすぐに仲良くなれましたが、女性陣とはどうしゃべったらいいんだろうと…。志田さんは、優しいし、自立している方という印象はありましたが、2人だけのシーンのときも、何をしゃべったらいいんだろうとずっと思っていました(笑)。
-陸が、母(西田尚美)の意外な告白を聞く食卓のシーンが印象的でした。
 よく、「演技を超える瞬間がある」と聞きますが、あのシーンはまさにそんな感じでした。(母親役の)西田さんから、自分が生まれたときのことを聞いている間に、その情景が浮かんできて、「本当にこの人から生まれてきたんだ」という感覚になって…。今でもあのときのことは忘れられません。これは大切な経験になると思いました。それから、これは今泉さんのやり方ですが、あのシーンは最初から最後まで通しで撮ったので、すごくやりやすかったです。
-今泉監督の演出法で印象に残ったことはありましたか。
 現場で生まれたものをすごく大切にしてくださる方です。動きを細かく指示する監督もいますが、今泉さんは結構自由にやらせてくださるので、やっていて楽しいし、一緒に作っているという感覚もより強くなるので、俳優を信頼してくれていると感じることができます。一緒に考えてくださるし、聞いたことにもきちんと答えてくださるので、すごくありがたいです。めちゃめちゃすてきな監督さんです。
-そういう雰囲気が映画にも出ていますね。
 そうですね。今泉組は本当にすてきな組なので、ぜひまた出てみたいと思います。
-では、最後に映画の見どころと、観客に一言お願いします。
 この映画は、二つの家族が、それぞれが持つ事情の中で苦悩しながらも頑張って、いい方向に進んでいく様子を描いています。映画やドラマは、人それぞれにいろいろな見方があっていいと思いますが、この映画は、一人一人の登場人物を大切に描いているので、自分の目線、親の目線など、どんな立場から見ても共感できるところがあると思います。それから、悪役が大切な映画もありますが、この映画は悪役がいないことがポイントです。
(取材・文・写真/田中雄二)

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