enpaku(早稲田大学演劇博物館)が
“新派はアヴァンギャルドだった説”
~「新派 SHIMPA ——アヴァンギャル
ド演劇の水脈」開催中

enpaku(エンパク)の通称で親しまれている早稲田大学演劇博物館が、秋季企画展「新派 SHIMPA ——アヴァンギャルド演劇の水脈」を、2021年10月11日から開催している(~2022年1月23日まで)。
水谷八重子(二代目)、波乃久里子、喜多村緑郎(二代目)、河合雪之丞らの奮闘により、現在進行形でその存在が演劇ファンに広く認知されている「新派」。しかし、それがどのような演劇なのか?その歴史は?と問われれば、日本演劇史によほど詳しい人くらいしか正確には答えられないであろう。
起源は、明治21年(1888年)大阪の新町座で角藤定憲(すどうさだのり)が旗揚げした「大日本壮士改良演劇会」なる壮士芝居(自由民権思想のプロパガンダを目的とした演劇)まで遡れると「劇団新派」の公式サイト https://www.shochiku.co.jp/shinpa/ には記されている。その後の複雑な展開は同サイトの説明を読んでいただくとして、当初(明治30年代後半)「新派」とは、「旧派」(歌舞伎)に対する、(壮士芝居~書生芝居の流れを汲む)新しい演劇潮流の一群を指す言葉だった。しかし時を経て、太平洋戦争敗戦翌年の1946年(昭和21年)に複数の「新派」劇団が合併して「劇団新派」が生まれると、現在に至るまで、その劇団を指す語にもなった。ちなみに、「旧劇」(歌舞伎)に対して、西欧近代演劇をベースとして始まった「新劇」は、言うまでもなく「新派」とは全く異なる流れである。
山口定雄一座「恋のピストル」 錦絵(明治33年)
初代水谷八重子主演「ハムレット」(昭和8年、明治座)

「新派」は、「旧派」(歌舞伎)に対抗しつつも、その影響を色濃く受けながら独自の写実芸を確立していった演劇だった。とりわけ男女の色恋――ことに女性の情や業を濃やかに描き、時代や社会の変化のなかで葛藤する人間を描いて庶民の心性に訴えてきた。泉鏡花に象徴されるような花柳界の物語が多いとか、さらに現代では、新橋演舞場や三越劇場といったご婦人方好みの劇場で上演される“歌舞伎寄りの現代劇”、というイメージが定着してきたといってもよいだろう。
伊藤晴雨 稿本『芝居に現はれたる女の責場』より 泉鏡花作『夜叉ヶ池』
山川秀峰手描き 花柳章太郎使用「不如帰」衣裳(昭和11年)
だが、新派には、それだけにとどまらない豊かな鉱脈がある、というのが今回の展示企画「新派 SHIMPA ——アヴァンギャルド演劇の水脈」の主張なのだ。まさかまさかの、斬新で衝撃的な企画である。
伊井蓉峰、喜多村緑郎(初代)、花柳章太郎、水谷八重子(初代)をはじめとする名優たちや、幾多の名作に彩られ、、百三十余年もの命脈を保ちつづけてきた「新派」だが、その歴史を紐解けば、奇を衒ったイロモノやキワモノが横溢しているという。最新の科学技術を用い、趣向を凝らした先鋭的な舞台があった。ときにスキャンダラスな側面をも前景化し、同時代の風俗や世相、文化を貪欲に取り入れた舞台もあった。後世からみればまるで異なるジャンルかと見紛う演目群がひとつの興行に並んでいた。女方と女優が共存するという、独特な美学に基く様式も確立された。近年では、映画監督の山田洋次の参画、江戸川乱歩や横溝正史の探偵小説の劇化により、新たなフェーズに入った感がある。
多様性に富んだプログラム! 五月興行「新派大合同ポスター」(昭和30年、明治座)
『黒蜥蜴』(2017年)(左)黒蜥蜴:河合雪之丞、(右)明智小五郎:喜多村緑郎 (c)︎松竹
今回enpakuは、その膨大な収蔵資料などによって、私たちの全く知らない「新派」のアヴァンギャルドな異貌を浮かび上がらせる。本展を見てから、改めて劇団新派の公演を観にいけば、その印象もガラリと変わるだろう。さらに、明治から大正・昭和・平成・令和へと続いてきた新派史に触れて、そのスリリングな変遷に興奮を抑えられなくなるかもしれない。
本展の構成は次のとおり。
[第1章] 明治演劇のアヴァンギャルド
[第2章] 多彩な劇世界をめぐる
[第3章] 新派と映画
[第4章] 目眩く衣裳の魅力
[第5章] 戦後新派の脈動
[第6章] 新派の現在地
出品数は、錦絵:23点、ポスター:25点、着物:20点、その他番付・舞台装置図など:約130点。うち館蔵品は約180点、総計約200点、会期中展示替えが予定されている。
また、展覧会図録も販売中である。本図録では、明治期生まれの新しい演劇のスタイルである「新派」について、当館の収蔵資料を中心に紹介する。新奇な舞台の一場面を描いた錦絵、洋画家の玉置照信による舞台装置画、絵師の落合芳麿が手がけた新感覚の番付、昭和モダニズムの時代を体現するポスター、画家たちが意匠を凝らした舞台衣裳などを多数収録。当代の新派を代表する女優(水谷八重子、波乃久里子)や演出家、評論家によるインタビューやエッセイ、多彩な切り口の論考を通して、新派におけるアヴァンギャルド的なるものを徹底的に炙り出していく。
詳しくは、enpaku特設サイト https://www.waseda.jp/enpaku/ex/14477/ 参照。
太田雅光『現代舞台芸花(4)』「お蝶夫人水谷八重子丈」(昭和29年頃)

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